アルゴリズムと人的資本の評価

私はビジネス・ブレークスルー大学で教鞭をとっており、「アルゴリズム論」という授業を教えています。この大学では、学長の大前研一氏の強い思いもあり、ITやロジカルシンキングなどに相当量の科目数が費やされています。

経営学部の学生にアルゴリズムを教えるというのは、一見すると違和感があります。私が学生だったときの「アルゴリズム」という授業は、ソートや検索アルゴリズムなどを使って、計算量をどう考えるかという授業でした。プログラムを実際に書き、アルゴリズムの違いによってどう違うのか、計算可能かどうか、といった数学的な要素がきわめて強かったように思います。アルゴリズムはプログラムと結びつけられて語られることが多いですが、その本質は「論理」と「制御」の手続きといって良いと思います。もっと簡単に言うと「計算可能なものを計算する手続き」ということです。

明確な論理と制御が定義できればそれはプログラム上に乗るので、この親和性は高いと言えます。が、最古のアルゴリズムとして知られているアルゴリズムが紀元前300年ごろに作られたユークリッド互除法と言われているように、コンピュータやプログラムとは切り離されて考えるべきものです。

私の教えている授業でも、コンピュータだけではない世の中にあるアルゴリズムについて説明をしながら、もっとアルゴリズムというものを身近に感じてもらえるよう工夫をしています。


ここまで書いてきたアルゴリズム、最近採用の分野で面白い研究結果が報告されました(注)。米国のNational Bureau of Economic Researchという組織が、15企業、30万人を対象に、採用プロセスについてあるアルゴリズムを使って評価をしました。スキル、パーソナリティ、認知能力、職業へのフィットなどに関する一連の質問を投げ、それをもとにアルゴリズムでポテンシャル別に3つのレベル(緑、黄、赤)に分類。実際には人間がマニュアルで採用しているのですが、アルゴリズムの結果と在職期間を比較しています。


この結果、緑人材は黄人材より平均12日長く在職し、黄人材は赤人材より平均17日長く在職したことが分かりました。生産性についても調べており、必ずしも人間がマニュアルで採用した人材のほうがいい人材を雇用できたという統計的有意差は得られていません。この報告では、人間はこういうアルゴリズムの有効性が示されているにもかかわらず、人間の持つ「(認知)バイアス」や「自信過剰」からミスを起こすことがあるとしています。


今回の研究は、データ入力やコールセンターなど、比較的業務内容としてはシンプルなものに限定されており、スキルや経験などを標準化しやすいということはあると思います。これをそのままハイスキル人材や経営層など複雑な業務を担うような人材に当てはめるのは無理があるかもしれません。


それでも、こういう結果は見逃せないものです。


つまり、人的資本に関する評価について、データやアルゴリズムが妥当な結果を出しうるということだからです。「人事は人だから、直接顔を合わせるのが大事。なのでシステムやツールなどいらない」とも言えない状況になる時代はまもなく来るのではないかと思います。採用だけでなく、人事評価や関連する意志決定をするうえで、アルゴリズムやシステムの支援を借りることで質の高い結論を導けると考えます。


アルゴリズムがタレントマネジメント(採用、育成、評価など)にどう活かせるか、今後も世界の動向をウォッチしていきたいと思います。

(注)Machines Are Better Than Humans at Hiring the Best Employees, Bloomberg, Nov 17, 2015


Photo credit: Akash k / Visualhunt / CC BY-ND

著者情報

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諸橋峰雄 | Neo Morohashi, Ph.D.
執行役員 コーポレート戦略部 部長 | Head of Corporate Strategy, CYDAS Inc.

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