いつの時代も適材適所

企業での人事を考えるとき、「適材適所」という言葉をよく耳にします。この言葉自体は英語に直接対応する熟語がなく、敢えて訳すとすれば”right persons in the right position"といったところでしょうか。

元をたどると、その語源は伝統的な日本家屋や寺社などの建築現場での木材の使い分けだということです(wikipedia)。すなわち、適材の「材」は、文字通り木材の材を意味していたのです。自然に恵まれている日本には多くの木材があり、それが目的や用途に応じて使い分けられていたことを考えれば、まさに文字通り日本は木材に関して適材適所を実行してきた歴史を持つのです。


翻って組織について考えるとどうでしょう。

組織での適材適所というと、人事異動の名目として適切な場所(ポジションや機能)に適切な人材を配置するという意味で使われると思います。日本の経済界の礎を築いた渋沢栄一が書いた「論語と算盤」にも既に「適材適所」の記載があります。現代語訳の文字を引用すると次の通りです。

「才能の向き、不向きを見抜いて、適材を適所に配置するということは、多少なりとも人を使う立場の人間が常に口にすることだ。そして同時に、常に心のなかでむずかしさを感じている事柄でもある。(注)」

渋沢であっても、すでに人材を抱えて活用することの難しさを感じていたということです。日本の旧来からの組織では、人事異動は組織運営の基本といってもいいと思います。数年ごとに部署や地域が変わりながら力をつけていく、これは長い目で見れば幅広い経験と知識を蓄積していけるため、ゼネラリストを育成する流れです。

ただ、この異動を中心に考えるとスペシャリストの育成が難しくなるデメリットもあります。せっかくある組織や機能部門で力をつけてきて向いている仕事だとしても、数年後に人事異動で違う部署に移ってしまっては本人の「適材適所」が実現できなくなってしまいます。これは結果的に組織としての「知識」の継続が難しくなることを意味します。つまり、人事異動=適材適所と考えることのリスクを十分理解しないといけません。海外の場合、人事異動で適材適所という考えはあまりありません。むしろ「転職」を基本に自分のスペシャリティを磨いていくというケースが多いように思います。このことで組織間の人材流動性も高まり、かつ機能ごとの力も強くなっていくのです。

適材適所を実現するうえでもう一つ重要な視点は「データの蓄積」ということです。各自の適性や知識を評価するうえで、職務経歴書は重要な参考情報ではありますが、これをデータとして分析に利用している組織がどれだけあるでしょうか。経営層や人事が仮に適材適所を実現しようとした場合、あるポジションへの適切な人材を社内で見つけようとしたとき、どの部署にどんな人材がいるのか、候補人材をどう比較するのか、こういったことができる組織はそう多くはありません。今の時代、このデータを集めて分析して可視化することが可能です。弊社のCYDAS.comも当然ながらこれを得意とした機能を持っています。

昔から常に問題になっている「適材適所」の問題。これを実現するための課題を理解したうえで、どうデータに基づいて実現していくか。今後の経営層と人事の新しい考え方が問われています。 
注)渋沢栄一「現代語訳 論語と算盤」(ちくま新書)

著者情報

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諸橋峰雄 | Neo Morohashi, Ph.D.
執行役員 コーポレート戦略部 部長 | Head of Corporate Strategy, CYDAS Inc.

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