HRテクノロジーの覚醒

HRとIT。この2つの要素は切ってもきれない、むしろその関係や必要性は強まる一方です。

なぜか。一言でいうと、従来の人事の世界が大きく変わろうとしているからです。大きな変化は「IT技術の成熟」と「HRの役割の進化」ということが言えます。

まず前者について。たとえばITの基幹技術ともいえるクラウド関連の技術はガートナーの提唱するハイプサイクル(注1)では過度の期待感が通り過ぎた段階です。技術的に成熟度・信頼度の高いものが提供できるようになってきていると言えます。

クラウドのような技術が信頼できるようになることで、企業はコストを下げるために従来のオンプレミス型(企業内に物理的にサーバなどITプラットフォームを整備するスタイル)からクラウド型に移行するようになってきます。ベンダーにとっては、クラウド型でサービスを提供するようになると製品開発サイクルが圧倒的に早くなり、1ヶ月単位での製品アップデートということも珍しくありません。技術が成熟して組織が投資しだすと、周囲の企業も続くようになり、これが正の循環を生む仕掛けです。

一方のHRの役割の進化というのは、ビジネスの世界におけるHRの重要性が認識されてきていることに起因します。たとえば、あなたの組織で人事担当の役員やトップマネジメントの影響力はどれぐらいでしょうか。正確な数字は分かりませんが、CEO+CFO、またはCEO+COOという組み合わせが多くの場合特に影響力をもっているのではないでしょうか。つまり、その中にCHRO(Chief Human Resources Officer)という存在が欠けている、あるいは重視されていない。

人のあらゆる組織内での活動(採用、配置、育成、評価、昇進、異動など)は当然ながら組織のさまざまな面で大きなインパクトを持ちます。労働力をコストとして考えると人の存在は財務面と密接に関わっており、人事と財務は本来密に関わっていないといけません。一方、経営そのものにおいては企業戦略に沿った形で活動をするために必要な人材を採用、育成(注2)していく必要があり、どう戦略と実行可能人材を整合させるかという別の課題も存在します。つまり、本来HRはもっと経営の中核を担う機能であり、単にサポート機能として動くだけでは足りないわけです。この認識がHR業界では特にここ最近盛んに行われるようになってきています。このあたりの議論はこのレポートによくまとまっていますのでご興味があれば読んでみてください(注3)。

こうしてみてくると、この「ITの成熟」と「HRの進化」がちょうどいいタイミングで交わる時期に来ているとも言えます。このHRの進化を支えるうえで必要なのがITです。当たり前ですが、人や組織に関わる情報は膨大かつ日々変化しています。これらを適切な粒度で捉え、適切に分析したうえで経営に活かすためにはITの力なくしては成り立ちません。
ちょうど先月PwCがHRテクノロジーに関する調査レポートを出していました(注4)。この中で特筆すべきはその浸透スピードです。昨年23%の企業がすでにクラウド型ツールをCore HR(HRの中核機能)として導入していたのに対し、今年は44%の企業が導入しており、かつ3年以内に導入しようと考えている企業が30%もいるということです。つまり、ざっくり世界の3/4がこの3年で人材マネジメントツールをクラウドベースで導入するのです。一概にツールを単に導入すればいいというわけではありませんが、確実にこの利用価値は高まってくるでしょうし、個人レベルからチーム、部門、全社レベルまでどうパフォーマンスを出していくのか、ツールが果たす役割は大きいです。特に個人的に影響が大きいと考えて分野は「ピープルアナリティクス(ワークフォースアナリティクスとも言ったりします)」と「組織デザイン」です。今もまさにPeople Analyticsの会議に出席するためにロンドンにいます。このPeople Analyticsは単に過去のデータを分析するだけではなく、未来をPredictする(予測する)世界に入りつつあります。ただし万能ではないので過度な期待は禁物ですが。

正直、こちら欧州にいると日本は世界の中で若干出遅れている感はあります。世界ではHR Techという名で一つの分野を築きつつあります。欧米ではこれに関連した会議も複数行われており、先日もロンドンで行われた会議に参加してきました。規模がそこまで大きくなかったということもありますが、残念ながら日本企業で参加していたのは片手で数える程度の数です。

弊社の大西がブログ(注5)で書いていましたが、HR Tech、人材マネジメントツールの導入に組織のサイズは関係ありません。マネジメント側でどこまでこの重要性を認識できるかです。HR+ITの組み合わせであなたの組織で何ができるのか、少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

注1)ガートナーのハイプサイクルhttps://www.gartner.co.jp/press/html/pr20150827-01.html)
注2)「育成」という単語は個人的にはあまり好きではありません。組織は本来、人を育てるのではなく、人が組織という箱を使って育つのであって、その意味では組織は育成環境を作るというほうがいいと考えます。
注3)"People before Strategy: A New role of the CHRO" Harvard Business Review, 2015 Jul-Aug http://bit.ly/1HaxEFh
注4)PwC "The HR Technology Survey 2015" http://pwc.to/21f9eXx
注5)サイダスブログ「小さな組織にタレントマネジメントはいらない?」 http://www.cydas.com/blog/404/

著者情報

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諸橋峰雄 | Neo Morohashi, Ph.D.
取締役、CYDAS Europe準備室長 | Managing Director, CYDAS Europe Pre-Opening Office

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