ピープルアナリティクスのいま

少し前になりますが、ロンドンで開催されたPeople Analyticsという会議に出席してきました。
これは人材データをどう組織開発や経営に活かすかというテーマの会議で、主に事業会社、ITベンダー、サービスベンダーが参加していました。
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はっきり言って、この領域はタレントマネジメントの世界でもまだまだ発展途上です。

いまこの世界で実際に活用できているケースがどれだけあるか。
たとえば、よく議論されているのがFlying Risk(離職リスク)を予測するというもの。様々な要因をデータとして取り入れ、モデル化して分析した結果、離職リスクが高い人材があぶり出されてきます。そのスタッフに事前に働きかけて辞めないような施策を打っていく、という話はよく聞きます。いくつか成功例はあるでしょうが、まだそれでも人材評価や目標管理などの領域を含め決して多くはないというのが私の印象です。

なぜか。

これは会議の中でも聞かれた話ですが、「アナリティクスを経営の言葉に翻訳できる人がいない」ことと「必要なデータが揃いにくい」ことがあるように思います。
アナリティクスの分野は数学などのエキスパートたちが揃っていることが多く、モデリングやデータ処理には抜群の能力を発揮できます。がそれがいざビジネスへのインパクトやリスクという話になると話す次元が異なるのです。人事や経営陣が明確に理解できない。

ではどうするか。

まず、経営側が人事領域におけるデータ駆動型分析のメリット、限界を理解できるようにすることです。これまで人事や一部の社員の間でのみ暗黙知だった情報をデータとして見える化することで得られる恩恵は大きなものです。いきなり複雑な分析をしなくても十分にこれまで得られなかった洞察が得られる可能性があります。一方で、データで全てを語れるわけではないということにも注意が必要です。人の行動や評価はきわめて複雑なものであり、データがあればすべての意思決定や情報が得られるわけではありません。私にとっては、データおよびデータ分析はあくまでも意思決定の補助ツールとしての位置づけです。それをもとに仮説を強固なものにするか、棄却するか、といったことが精度を高くできるということです。すべての回答が得られると思わないことが肝要です。最近buzzword的にでてきている「HR Tech(HRテック)」や「AI(人工知能)」といった言葉に反応している経営者は多いと思います。これは手段であって、本来は人事が担う役割のあるべき姿や目的が先に議論される必要があります。それを解決する手段としてAI(といっても世の中でAIと謳っているうち結構な数がAIではなく単なる統計処理だったりします)やその他のツールがあるのです。

もう一つは、データ分析する側がもっと経営を理解してコミュニケーションをとるようにすることです。データ分析は分析家にとってはおそらく情報の宝庫です。先日も、あるデータアナリティクスの専門家の話をしていた際、人事データの可能性について大変興奮している様子が伝わってきました。「データがあれば何かしら情報はでてくる」というお話もされていました。専門家が気をつけなければいけないのは、情報がビジネスにとってどういう意味、価値を持つのかを理解したほうがよいということです。単に「これ出ました」「こういう傾向があります」「こういうリスクあります」というだけではビジネスをやっている人には理解できない可能性があります。その結果どういうビジネスにとってどうインパクトがあるのか、その情報が意味するところをビジネスの観点で明瞭かつ分かりやすく伝えられることが分析結果の価値を上げることにつながります。分析は伝わって初めて価値がでるものだという意識を持って成果物を出すべきなのだと考えます。

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先日、東京で行われた日本最大級の人事系展示会HR EXPOに参加してきました。弊社サイダスも会場では最大規模のブースを展示し、お陰様で昨年の来場者をはるかに凌ぐ数の方にブースにおいでいただきました。私も「HR Techとグローバルトレンド」と題して、MCのアメリカ人の方と計6回に渡って対談セミナーを行いました。ただ、私の話や見せ方がいまいちだったせいもあると思いますが、まだまだ海外のトレンドに対する興味が全体的に低いという気がしています。世界での動きは思ったよりも速いのです。これに乗り遅れると、気づいたら日本のベンダーがHR Techやピープルアナリティクスの世界からいなくなる懸念すらあります。

日本発のHR Techプロバイダとしていちはやく世界進出を始めているサイダスですが、今後も積極的に日本に情報をお伝えし、日本の多くの仲間とこの業界を盛り上げていきたいと思います。 

著者情報

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諸橋峰雄 | Neo Morohashi, Ph.D.
取締役、CYDAS Europe準備室長 | Managing Director, CYDAS Europe Pre-Opening Office

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