ドラマ「とと姉ちゃん」にみる組織の理想像

著者はNHK連続テレビ小説を見続けています。広島の尾道を舞台にした「てっぱん」以来ほぼ5年、すっかりこの15分ドラマシリーズのファンです。この中で今回の「とと姉ちゃん」には理想的な組織の姿というものがシンプルに描かれているように思います。

まずこのドラマのいいところは、1話が15分間であること。CMもなく短いので、ちょっとした息抜きに見るのにはぴったりの時間と言えます。それも、脚本やドラマの構成が非常によく作られているのも特徴です。それぞれのシリーズの出来について異論は様々あるものの、15分の間で小さな話がだいたい簡潔する仕組みになっているのです。かつ次の展開への布石も巧妙に仕掛けられており、ついつい次を見ずにはいられない。常に視聴率20%前後を推移しているドラマシリーズというのは他局では見られないのではないかと思います。

さて、ドラマの魅力はこれだけではありません。
特に最近の「マッサン」「あさが来た」や今回の「とと姉ちゃん」は、フィクションといえども実在の人物を元にしたストーリーになっており、過去の日本の一端をうかがい知ることができるのです。

とと姉ちゃんの場合、「暮らしの手帖」の創業者、大橋鎭子(しずこ)氏がモデルになっています。彼女が会社を立ち上げるのが戦後まもなくの昭和20年代。この頃日本には食事や生活品など多くの物資が足りず、ましてや女性が会社の社長になることがきわめて珍しい時代です。この中で、特に困っている女性の生活向上の手助けをしたいという思いのもと、様々な生活情報を掲載する雑誌「暮らしの手帖」を作ります。布地がない時代でもおしゃれをしたい女性のために、着物の生地を使って簡単に洋装を作る方法を考え出したり、食物が足りないが小麦粉が支給されていたことで小麦粉を使った簡単な料理(ホットケーキなど)を紹介したり、料理方法を連続写真の形で分かりやすく掲載したり、我々が現在恩恵を被っている生活の知恵がこの雑誌には盛り込まれていたようです。

このドラマでは大橋氏は小橋常子として描かれています。彼女を中心に展開するドラマで「組織」目線で考えると、いくつかポイントになる特徴があります。


▲顧客目線
常子がもともと会社を興したのは、周囲の環境をよくよく観察し、世の中では何が求められているのかを考え続けた結果です。顧客と対話し、顧客を観察し、顧客のそばに常に寄り添っている姿は非常に印象的です。とことん「顧客が何を欲しているのか」と考える姿勢、それを社員に伝え、どう形にするのかを熟慮する姿はマーケティングの原点といってもいいと思います。


▲経営者の思いの強さ
会社を興したのは彼女が考える「いま必要なビジネス」という視点があったからこそ。この強い思いが徹底的に貫かれているからこそ、様々な障害にもなんとか乗り越えて成長をする原動力になっています。この思いはほぼぶれることなく何年も社員や顧客を含め伝わっているからこそ強い会社になっていくのだと思います。創業者や経営者のこの「強い思い」というのはなによりも組織にとって本質的に重要な要素なのだと感じます。


▲仕事と家庭の一体化
高度成長時代の前期についての描写であるものの、猛烈サラリーマンが描かれているわけではありません。常子は忙しいながらも時間のやりくりをきちんとしながらプライベートもきちんとこなしています。仕事のメリハリがきいているのもあるとは思いますが、なにより「仕事」と「私生活」が一体化しているように思います。これは私自身のテーマでもあります。仕事の種類にもよるとは思いますが、ある時間を過ぎたら仕事は終わり、というのはこの世の中あまりフィットしないのではないかと思うのです。むしろ、必要なときにはどこでもいつでも仕事をして、そうでないときにはプライベートも楽しむ。「ワークライフバランス」という考え方は私にはあまりしっくりこなく、むしろ「ワークライフシナジー」が私の考える理想のスタイルです。仕事と家庭どっちをとるか、ということではどっちかが犠牲になりかねない。そうではなくどっちもとる方法もあるだろうし、そういう時間や生活の仕方を模索することがあってもいいと思うのです。

つらつらと書いてきましたが、これは所詮ドラマですから、極端にかつ最後はハッピーエンドという形で描かれていることは否めません。こんなことは現実にはあり得ないと一蹴するのは簡単です。ただ、それでも自分の組織や社会がこういう姿だったらなあという理想的な姿を現していることは確かです。ドラマの展開を楽しみながら、自分の組織や周囲と対比してみて、何かヒントになることはないか、と探ってみるのも楽しいものです。 

著者情報

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諸橋峰雄 | Neo Morohashi, Ph.D.
取締役、CYDAS Europe準備室長 | Managing Director, CYDAS Europe Pre-Opening Office

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