成功体験は必要? Yes, but...

8月20日(月)の日経MJ紙に偶然でしょうが興味深い、共通するテーマの記事が2本掲載されました。一つは「『黒の吉野家』白紙からの出発」というもの、もう一つは「JR岡崎駅前のヘアサロンが『自己流捨て新境地開く』」というものでした。

『黒の吉野家』のケース牛丼の吉野家が来年の創業120周年を前に、新たな挑戦を続けている。というリードで始まる記事では、伝統のレイアウトを白紙にして見直した実験店「黒吉野家」や相次ぐキャンペーンなどが紹介されています。
吉野家といえばU字型カウンターが基本の「うまい、やすい、はやい」牛丼店のイメージが強く、一号店(10月に閉店予定:1947年開店)である築地店は時間に追われる市場関係者のために作られたといわれています。その吉野家の新スタンダードを模索しているのが「黒吉野家」。

新形態のセルフ店:(記事掲載時点では22店舗)

店舗の外観から従来とは一線を画し、おなじみのオレンジベースの看板も黒を基調にしたシックなものになり、一見するとカフェのよう。入店するとカウンターにメニューが広げられ、そこで注文と精算を済ませ、料理を自分でテーブルに運ぶ「キャッシュ&キャリー」のセルフ方式。
奥のテーブル席は白を基調にした内装で観葉植物の緑も目に入る。テーブル席は広く家族連れがゆっくり食事をとれる大きさに。2016年の恵比寿店を皮切りに全国に22店舗展開している。
客席を広くするために厨房の面積を1割小さくし、改装後に常連客の足が遠のいたこともあったが、新たな客層(親子連れやOL層)の流入で売上は13~15%伸張。店員が「お茶を出す・注文を聞く・精算する」フルサービスをやめ移動距離を3割短縮。その労力を新メニューに振分けた。揚げ物も提供できるようになり「カニ爪コロから丼」などの新メニューも。内装の変更に新店並みの改装費用が必要になった店もあるが、客数増や新メニューによる客単価上昇などで、投資の回収は予定より早くなる予定。来期からは年100店、全1,200店のうち半数をセルフ店に改装する計画という。

U字型店舗での改革:(600店舗以上)新店舗の展開以外にも従来のU字型店でも

・タブレットの導入
>カウンター席よりも移動距離の長いテーブル席でも効率よく注文を受けられる
>実験店では来店客の7割がタブレットで注文をしている

・U字型カウンターを「くの字」がつながるギザギザの形状に
>向かい側の客と視線を合わせずに食事ができ、横幅も5センチ広く
>自分の空間を感じられゆっくりと食事ができるようになった、と好評
>席数は2席減っても1割近い増収の店も

・一汁三菜朝膳の販売
>既存メニューに野菜の副菜を組み合わせ、バランスの取れた朝食のメッセージ
>客単価の向上にもつながるこれらの改革の元になったのは「既存店舗の分析」。改革案を出すには「タブーはなし。まっさらな状態から」スタートしているそうだ。

牛丼の吉野家といえば「うまい、やすい、はやい」、主な客層はサラリーマンの男性というイメージで、吉野家を敬遠しがちな女性客からは「女性一人では入りにくい」「どうやって注文すれば良いのかわからない」などの声があがっていた。そこで意識したのが「カフェ」。女性や子供連れでも入りやすい店を目指したそうだ。

5年後には「そういえば昔は狭い席で牛丼をかきこんでいた」と言われるようになりたい、と語るのは、この改革の先頭に立つ吉野家ホールディングスの河村泰貴社長。


『JR岡崎駅前のヘアサロン』のケースこのヘアサロンでは、他店との差別化を図ったものの思ったような売り上げ増につながらなかったところから、抜本的な改革の必要性を感じ「深夜営業」にトライ。平日に限って閉店時刻を従来の午後6時から深夜0時に変更。

顧客の反応:

・土日に家族サービスをする常連の父親客に喜ばれる
>会社帰りに立ち寄れるため、土日の休みは家族サービスやその他の用事ができる
>身だしなみを気にする世代に特に好評

・想定外の女性客
>「ヘアサロンでシャンプーとブローを済ませ、後は家に帰ってメイクを落としてお風呂に入って寝るだけ、このラクチンさが良い」と好評

・忙しい人が多いせいか物販の営業も好調
>ドラッグストアなどが閉店してしまった時間帯でも、シャンプーなどが購入できる営業時間を変えることで、売上は1.4倍に。

このヘアサロンのオーナーは「深夜営業でお客様の質が悪くなるのでは?」「自分の体調が維持できるのか」などの不安があり、一度は深夜営業を断念しかけたそうです。が「売上げが伸びないということは、今までのとは違うことにチャレンジしなければ」と思い切ってトライしてみたそうです。


吉野家もヘアサロンも一度は「成功」を体験しています。成功がずっと右肩上がりで続けば問題はありません、が、どこかで成長が止まったり右肩下がりになったり。その危機を乗り越えるための施策を考える時に障害になるのが「成功体験」。タイトルに書いたように、企業の成長に「成功体験」は必要ですが(Yes)、それがマイナスに作用することもあるのです(but..)。

「うちの会社はこれでうまくいってきたのだから、そんなに思いきったことをしなくても何とかなりますよ。」と思った瞬間から、成功体験が足かせになります。成功したことは事実だとしても、今、何か課題があり売上げや収益に陰りが出ているのだとしたら、吉野家が取り組んだように「タブーなし(成功体験にとらわれない)」の意識が不可欠です。何か課題がみつかったら、過去のことは一度「置いておいて(成功体験を忘れるということではなく、それはそれとして)」新たなチャレンジに取り組む。それがまた新たな成功体験に繋がるのです。成功体験はプラスにも作用しますが、実はマイナスに作用する時の方が影響力が大きいものだ、ということを覚えておいてください。

吉野家の牛丼は私にとっても一度は食べてみたいものではありましたが、女性には敷居が高く、外から見ていても常連風の男性客が、肩の触れ合うような状態で黙々と牛丼をかきこんでいる、そこに一人で入る勇気(?)はとてもありませんでした。この記事を読んで、昔、同僚(男性)に頼んで連れていってもらったことが懐かしく思い出されましたが、2~3年のうちには吉野家の牛丼が女性客でも入りやすいおしゃれなファストフードの扱いになるのかもしれません。
黒吉野家、一度行ってみたいと思います。


Photo by Arthur Aldyrkhanov on Unsplashp

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青栁伸子
コンサルティングチーム ディレクター

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