仮想子育てママ奮闘記による、仕事と育児の両立の見える化

「女性活躍社会をめざす」と高らかに宣言しておきながら、今回(2018年10月)の組閣では女性閣僚がわずかに1名、欧米先進国と比べるまでもなく女性活躍社会とは言い難い状況が続いているわが国。その証拠?に首相官邸のHPの「すべての女性が輝く社会づくり」は平成29年11月16日から、ほぼ1年間更新すらされていません。

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ここに政府の「スローガンは掲出したものの、その後の手が打てていない」状況が見えている気がします。とはいえ、政府の取り組みは「スローガン倒れ」の様相を呈していても、各企業では女性の活躍を念頭に、様々な取り組みを進めています。

2018年9月12日の日経MJ紙に「仕事と両立 簡単じゃない」という記事が掲載されていました。キリンが今年2月から全社展開している「なりキリン・ママパパ」という取組み。社員が1か月間ママパパになりきって、時間に制約のある働き方を体験する、というもので、実証実験では男女や年齢、結婚の有無、部署を問わず100名が体験して、様々な効果があったそう。

(キリンのニュースリリースはこちら)
https://www.kirin.co.jp/company/news/2018/0201_02.html

この「なりキリンママ・パパ」をキリン社員ではない日経MJ紙の記者が体験した「体験記」が非常にリアルで、また実際には子育て経験のない「仮想ママ」だったが故に思わず本音が出た部分もありとても興味深いものでした。

なりキリン・ママパパの概要:
想定:子供は保育園に通う2歳児(男女の別や名前はママ・パパが決める)
   パートナーとは同居、実家によるサポートはない、フルタイム勤務
スタートの前に:
職場の仲間に「仮想お母さん(お父さん)になる」こととルールを告知
ルール:
1)    定時出社、定時退社
2)    パートナーサポート制度(週に1回、パートナーの全面的な引き受けがあり、残業や業務上必要な会食への参加が可能)
3)    保育園からの呼び出し(子供の発熱連絡の電話)が突然来る。指示は「お迎え(即時退社)」もしくは「翌日看病(翌日勤務不可)」。月に一度だが、指示通りに行動できなければ、できるまで電話がかかる
4)    シッター制度(保育園への送迎が予定通りにできず、残業せざるを得ない場合などは外部のシッターを利用したと仮定して、費用を計上する/記者の場合、この費用全額は同僚との会食費用として拠出)

記者の奮闘ポイント(抜粋):
・ベビーシッター探し(年齢・経験・特技、その他何を基準に決めればよいのか?)
・突然の会食の誘い(つい「はい」と言ってしまい、シッター制度を利用)
・以前から予定されていた会食(パートナー制度を利用)
・突然の電話が「キリン保育園」から。どうにも仕事の調整ができず『別の日にトライしますから』とキリン保育園(キリンの人事部)に泣きつく
・出張前で忙しいのに「キリン保育園」から呼び出しが
・取材先で先方の予定が押していてどうしても残業に。帰社する電車の中でメールの下書きを作成
・1か月間に支払ったシッター代、45,360円(時給1,440円なので31.5時間相当)

記者の素朴な疑問:
・何故パートナー制度が週に1回なのか?
 →キリンの人事部の社内ヒヤリングでは「週1やってくれたらいい方」
・突然「キリン保育園」から呼び出しが来るので、取材などのアポイントが入れにくい
 →子育て中の仲間は皆、そんな思いをしているのか?
・周囲からは「別に困ったことは無かった」と言われた
 →業務が個人に紐づいているせい?自分はこんなに大変なのに・・・


「なりキリン・ママパパ」が見える化したこと:
今回の体験で記者が感じたこと、わかったことをまとめてみました。

◇仕事の進め方に工夫が必要
 時間に余裕が無い
 とにかく「できることは何でも前倒し」
 朝の出勤時に電車の中で「今日やること」を整理
 それでも想定外の事は発生するので、時間単位(~時までにやること)で整理しておく
 外出先からの移動中にもメールの下書きなどを作成
◇パートナーや周囲のサポートが絶対に必要
 切実に「必要」と感じたのは、パートナーと周囲のサポート
 どうしても仕事の段取りが調整できず、シッターに頼ったことも
 仕事を自宅に持ち帰って土日に働いたことも
◇仕事の種類によっては、一人の働き方が変わっても周囲には影響しない
 個人に紐づいた仕事が多いと、その人が時間の制約でばたばたしていても周囲はその
事実を理解(認識)できない
◇定時退社は可能だ
 午後5時(この会社の定時)に帰宅することができる、ことが認知された
 後輩に「定時に帰れるんですね(帰っても良いんですね)」と言われた
◇コミュニケーションが生まれる
 定時をすぎて仕事をしていると「帰らなくて良いの」と聞かれ、ちょっとした会話が
 子育て中の部下を持ったことのない上司の意識が変わった

<まとめ>
働く女性にとって(本来は男性にとっても)「妊娠・出産・育児」と仕事との両立は、本当に深刻で重大な問題です。女性活躍社会になるには、この問題は避けて通れないとも言えます。私が過去に働いていた仏系外資の本社(@パリ)の女性陣は、出産後、早い人では2か月ほどで復職していました。日本では長い人は2年近く休職すると聞いて「何故?」と聞かれ、「待機児童」という言葉の説明に苦労したものです。
フランスでは女性を取り巻く環境が、子育てをしながら仕事をすることを「あたりまえのこと」として捉えているからできることで、心底うらやましいと思ったものです。もちろんベビーシッターや日本でいうところの「保育ママ」への支払いは発生しますが、それらの「ヘルプ」がみつかる、場合によっては出産前からヘルプに入ってもらうことも可能ということでした。

今回の「なりキリン・ママパパ奮戦記」が明らかに(見える化)したことの中には、個人のレベルで工夫できることも、会社や社会(制度)が対応しなければならないこともありました。その中で一番大事なことは「まず、本当の意味で知る(認識する)こと」ではないかと思いました。

私たちは「子育てワーキングマザーは大変だ」ということは、知識として知っています。保育園が見つからないとか急に子供が体調を崩すとか、「聞いて知っている」ことは数多くあります。ただ、実体験として「保育園のお迎え時間を気にしながら仕事をした」ことはないので、その緊張感やストレス、想定外の出来事などに振り回される日々は、あくまでも想像するしかありません。

この「なりキリン・ママパパ」、たった1か月の期間限定の取組みなので、実際に子育て中のママ社員からは甘いという声もあったそうです。とはいえ、ママパパ社員として働くことの実体験は会社としても個人としても得るものは多いのだと思います。

今回の記事を読みながらこんなことができたら、と考えたアイデアがあります。もうすでに実施している企業はあるかもしれませんが、シッター制度ならぬ「ヘルパー制度」です。

例えばママ社員が直面する「子供が急病」という保育園からの緊急コールや、保育園(幼稚園)でインフルエンザが流行ってしまい子供が預けられないという事件(?)。それにより会社では「誰かがその仕事をカバーする」必要が生じます。
一度や二度であれば周囲も「しかたがない」で代わりを務めても、度重なると「何故私(私たち)だけが・・・」という不満につながり、何となくぎくしゃくしてしまう。「そもそも私たちだって自分の仕事があるのに、何でママ社員のカバーもしなくちゃならないんですか?私の仕事は誰かがカバーしてくれるんですか?」というような周囲の不満、それがママ社員の居づらさに繋がる。いわゆる「あるある」ネタです。ここに上司の無理解や配慮を欠いた発言(お互い様なんだからさぁ・・・というような)が加わると、部門の崩壊にすらつながりません。

そこで「ヘルパー制度」です。例えば急なお迎えなどで仕事を切り上げざるをえなかった場合、周囲の「その仕事を代わってくれる人」に「ヘルパー代」を払う。実際にはヘルパー代は「その時間分、相手の仕事をヘルプすることで支払う」というものです。
もちろんヘルパー代を支払う場合は通常の業務にプラスして「誰かの仕事を手伝う」ことになりますので、その日はパートナーにお迎えなどをお願いし、できれば「たまには軽く食事も」などと周囲とのコミュニケーションも図りたいところです。
ママ社員がどうしても孤立してしまうのは、日経MJの記者も書いていましたが、とにかく「仕事と子供のことで余裕が無い」からなのでしょう。それらの問題を解消する手立てとして様々な「ヘルパー制度」を拡充することは、仕事とプライベートが両立しやすい環境作りにつながるのではないでしょうか?(育児に関して言えばパパの育児参加も図れますし)そして、育児だけではなく「介護」「看護」の場面でもヘルパー制度は有効だと思います。

もう一つ、ママ社員の壁には「上司の無理解」もあるといわれています。上司が「子供のいる家庭の父親」だったとしても、子育てを経験していなければ独身男性と同じメンタリティ、もしくはママの苦労を全く理解していない暴君パパかもしれません。この「なりキリン・ママパパ」制度、実は一番体験すべきは、上司、それも子供はいるけれども子育て未経験のパパなのかもしれません。

女性活躍社会の実現には働く女性をとりまく環境の整備とともに、周囲の「男性」の理解と協力が不可欠であるということを、政府のHPに大きく記してもらいたいと思いました。(その前に、HP更新しましょうね)

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