システム導入から3年 「WILL」を起点につくる自律的な成長の形
株式会社大分銀行は、1893年(明治26年)に創立した地方銀行です。以降130年にわたって、金融の力で地元大分を支えてきました。 2020年に「自律的な人財を育てる基盤を構築し、行員一人ひとりと向き合う人事施策を実現したい」という思いから、サイダスを導入。そこから約3年が経過した今、大分銀行ならではの人事施策のこれまでとこれからを、改めてインタビューしました。
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導入時のインタビューはこちら
→https://www.cydas.com/casestudies/oita-bank/
【インタビュー参加者】
猪股 高士
大分銀行 人財開発部 部長
2022年7月から現任。
萩原 義郎
人財開発部 人財育成グループ 人事役
採用・研修・自己啓発といった人財育成の施策を担当。
緒方 崇博
人財開発部 人財育成グループ 人事役補
萩原氏とともに、人財育成に関わる施策全般を担当。
行員へのサイダス浸透を図る。
三ツ股 慧
総合企画部 経営企画グループ 推進役補
人事戦略の枠組みとなるグランドデザインの策定を担当。
多様なキャリアパスを可能に、従来の銀行とは異なる方法で自律型人財を育成する
>サイダス導入の背景を、改めて教えてください。
萩原氏:
銀行業務は、時代の変化に伴って複雑性が増しており、これまでよりも多様なキャリアパスが創造され、高度な専門性や発想力が求められるようになってきています。だからこそ、組織として「行員のキャリア形成支援(なりたい自分を明確にする)」と「専門能力の開発支援(できることを増やす)」に注力していく必要がありました。
大分銀行は従前より経営戦略として「地域密着型金融」を掲げてきました。行員は「大分のために何かをしたい」という強い意思を持つ人ばかりですが、お客さまが求めている多彩なニーズに応じるためにはそれぞれの「自律」に基づく能力開発が不可欠です。画一的な受け身の育成メニューのみではうまくいかないという思いがありました。一人ひとりの「WILL」を起点に、キャリアを描き「あるべき姿」を目指していくことのできる育成環境をつくりたかったのです。
その環境を実現するためのツールとして、2020年、タレントマネジメントシステム「CYDAS (サイダス)」を導入しました。現時点においては評価・考課のほかにも「自己申告」「キャリアプラン」「能力チェック」「成長目標・成長プラン」「1on1ミーティング」など人財に纏わるデータの一元管理が図れており、必要な情報を随時蓄積している段階にあります。今後は集積されたデータをもとに「最適な人財ポートフォリオと適材適所の人財配置」の実現につなげていくために活用していく予定です。
>システムを導入して約3年、組織にはどんな変化がありましたか?
緒方氏:
一番の変化は、行員が自身のキャリアについて考え、行動する習慣ができたことでしょうか。
定期的な1on1やキャリアプランシートの記入によって、自身の「WILL」を見つめ直し、「見える化」する機会が生まれました。そしてその「WILL」の実現に向けたサポートを行うために、能力チェックをし、理想の自分と今の自分のギャップを定量的に把握できる仕組みや、ギャップを埋めるための研修制度も整備しました。
もちろんシステムを導入したら、全てがうまくいくわけではありません。研修コンテンツや人事制度といったソフト面の整備、行員の意識やシステムへの慣れなど、システムの整備と並行してクリアするべき課題があります。この3年は人事制度や組織風土にもアプローチでき、大分銀行らしい人事戦略が具体化された期間だったと思います。ただ、今後も挑戦したいことは無限大、人事の仕事には終わりがないですね。
>新しいシステムを導入する際「行員に対してどのように浸透させていくか」は、どの企業でも最初に悩む部分だと思います。導入以降、どんな取り組みをされてきましたか?
萩原氏:
そもそも人財開発部門が導入するシステムは、少なからず身構えられるものです。何かの監視ツールじゃないかと不信に思う人もいれば、蓄積された情報がどう使われるのか不安に思う人もいます。
だからこそ、前向きなコミュニケーションのターミナルとして、「サイダス」を活用してもらえるように意識しました。例えば、フィード機能では、単純に発令通知のみを載せるのではなく、部活動や研修の風景を掲載したり、「Mochibe(モチベ)」の機能ではサンクスカードの利用機会をつくって、システムへログインする機会を増やしたり。とにかく、人事が管理・監視するためのシステムではなくて「自律的成長のためにみんなが活用する「集いの場」にしていきたい!」という人財開発部の思いが伝わるよう努力してきました。
その結果、システムの導入時にあったような不安の声も、今ではほとんどありません。コミュニケーションツールとしての役割はまだまだですが、1on1やスキルチェックなど日々の業務のなかで、自然と利用されるシステムになっています。
キャリアについて考えることを、当たり前の文化に
>3年前のインタビューでは、システムを通じた「WILL」の見せる化についてお話しいただきました。現在、さらなる活用が進んでいる機能や施策について教えてください。
萩原氏:
1on1はサイダスの導入から1年が経過した2021年より始めた施策ですが、今では全行員が実施しており、当たり前の文化として定着しつつあります。先日も「普段の業務で話せないような自身の思いを、聞いてもらえる機会があるのは心強い」という若手の声を聞きました。
もともと、1on1経験のない行員ばかりで戸惑いの声が多く聞こえていましたが、サイダスの1on1機能を使うことで、「計画から面談・振り返りに至るまで」一連の流れをスムーズに遂行できるため、操作にも徐々に慣れてきており、今ではそれぞれが円滑なミーティングを実現できていると思います。
緒方氏:
大分銀行らしい活用をしている機能として「成長プランニング」があります。この機能は、「現業務の強化」ではなく行員一人ひとりのキャリアビジョンの実現に向けて高めたい・高めるべき能力を設定し、その能力向上に向けた自身の「成長目標・成長プラン」を立てるためのものです。
例えば、個人ローン専門の部署にいる行員が「キャリアビジョンとして法人営業にチャレンジしたい」と考えていた場合、法人営業に関する「成長目標」を立てます。目標を立てたら、能力チェックの結果から、法人営業に求められるスキルや能力とのギャップを把握。ギャップを埋めるために、具体的な成長プランを策定します。
ちなみに「成長プランニング」で立てる目標は人事評価における目標とは別で行うため、人事評価に直結しません。評価に関係する目標だと、どうしても達成可能な難易度設定になったり、自身の「WILL」とは遠い目標を立ててしまいがち。そこを完全に切り離すことで、「WILL」起点で目標を立てられるようにしています。
三ツ股氏:
今までも行内公募の仕組みはありましたが、そのポジションへの強い思いがある人だけでなく「なんとなく」や「異動が目的」といった消極的な理由で手をあげる人もいました。
一方「成長プランニング」の機能では、行員それぞれのキャリアビジョンの実現に向けた目標立てとしているので、「本気」で取り組んでいる行員が見える化されます。また、成長目標や能力チェックの結果はシステム上に蓄積されていくので、上司と部下が目線を合わせながら、長期的なキャリアプランを描けるようになりました。
「WILL」の見える化の先へ。企業内大学(愛称:D-Careerアカデミー)が実現する自律的な成長
萩原氏:
システム導入後の3年間で、自らのキャリアを考える文化が定着した一方で「このままの働き方でいいのだろうか」という焦りの声や、より多くの成長機会を求める声も聞くようになりました。
これからの人財開発部の役割は「思い描くキャリアは大分銀行で実現できる!」という安心感を持ってもらうことだと思います。「WILL」の見せる化ができても、そこに至るまでの見通しを立てることができなければモチベーションは上がりません。そこで人財開発部として推進しているのが「企業内大学(愛称:D-Careerアカデミー)」の取り組みです。
>企業内大学の取り組みについて、詳しく教えてください。
萩原氏:
これまでも複数の研修を用意していましたが、新入行員にはビジネス基礎を、管理職にはマネジメント研修をという風に、年次や職位に合わせて定型化された研修のみでした。こうした研修はもちろん重要ですが、受け身な行員も多く「WILL」を具体化するための学びとしては不十分でした。そこで、職位や年次に関係なく、自身の能力チェックの結果に基づいて適切な研修を選び、受講できる仕組みをつくりました。これが「企業内大学」です。
企業内大学の取り組みでは、システム上で能力チェックを実施し、見える化された能力レベルに応じて、研修を選ぶことができます。
本格稼働は2023年の4月から。昨年はトライアルの形で、法人営業のスキルとIT分野のスキルを中心に研修を企画しました。
例えば、エクセルの関数ひとつとっても、ベテラン社員だからできる/新入行員だからできないというわけではありません。自身の能力レベルに合わせて、受講したい研修を選べるようにしたので、新入行員と管理職が同じ研修を受ける場面も見られました。
緒方氏:
もちろん、まだ整備中の取り組みですし、レベルの定義とそこに合わせた研修コンテンツの作成はちょうど進行中。しかし、普段の研修と比較して受講者の満足度も高く、一人ひとりの自律的な学びにつながっていると感じます。
三ツ股氏:
これまでは、数年ごとに部署異動させオールラウンダーを育てる育成方針が一般的。一方で、多様化・高度化するニーズをとらえ、多様な価値を提供するソリューションを生み出すためには、専門性の高い人財を計画的に育てていく必要があります。しかしながら、専門性が高い業務は経験する機会が限られていました。「やってみたいかも」という「WILL」の芽を育てるためにも、短期間だけ他部署の業務に挑戦できる仕組みを企画しているところです。
これらは長期スパンの取り組みとなりますが、大分銀行の未来を担う「銀行業務としてコアな能力」と「一人ひとり特有の専門能力」を持ったハイブリッドバンカーを育てられるよう、サイダスさんとも共同しながら実現していきたいですね。
地域の持続可能性を高める価値創造カンパニーとして。人財開発部長の見据えるビジョン
猪股氏:
大分銀行では、チャレンジする風土を大切にしています。といっても組織風土とは、何か一つの施策で劇的に変化するものではありませんし、目先の利益にとらわれない長期的な目線が必須です。だからこそ、1on1や、キャリアドッグの仕組み、これから本格稼働を始める企業内大学など、様々な取り組みを通じて人事から組織全体を変えている最中です。
地方銀行の発展は常に地域とともにあります。大分銀行が大分の可能性を広げ、魅力的な資源や産業を耕していくことで大分を発展させ、共存共栄できる存在でありたいと思います。
幸い、大分銀行には地元への思いの強い人財が揃っています。彼ら、彼女らの「WILL」を育て、地域に還元し、それがいつしか大分銀行の利益に還ってくる、そんな循環をつくっていくために、人財開発部もチャレンジを続けます。