2020.03.30

キャリアアップ助成金とは?メリットとその申請方法について

キャリアアップ助成金とは?メリットとその申請方法について

「助成金」という言葉を耳にすると「申請手続きが難しそう」というイメージが持たれることが多く、多くの人に敬遠されがちです。しかし、実際に申請するときの手続きのハードルはそれほど高くはないという点はあまり知られていません。この記事では、多くの企業にとって導入検討の可能性があるキャリアアップ助成金を紹介し、そのメリットや申請方法などについて詳しく解説していきます。

キャリアアップ助成金とは

「キャリアアップ助成金」とは、非正規雇用労働者が雇用先でキャリアアップしていくことを推し進めるための仕組みです。非正規労働者とは具体的に、有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者として働いている人材のことを指しています。正社員と比較すると、非正規雇用労働者は処遇や地位などがあまり良くないのが一般的です。このような事実があることから、これまでは「一度非正規雇用労働者として働くと、キャリアアップは難しい」「いつ仕事がなくなるかわからない」というイメージが広く持たれていました。

正社員と非正規雇用労働者の格差を改善するためには、国としてあらゆる支援を行う必要があります。そのため、非正規雇用労働者を正社員化したり、処遇改善の取り組みを行ったりしている事業主については、国からキャリアアップ助成金が受給されるのです。キャリアアップのために行う企業の取り組みとしては、具体的に、正社員への転換や人材育成、賃金既定の改定、健康診断制度の導入などが挙げられます。キャリアアップ助成金は、これらの取り組みを行った会社を支援することで、非正規雇用労働者のキャリアアップ促進を目的とした制度といえるでしょう。

キャリアアップ助成金を受給するメリット

キャリアアップ助成金を受給すると、企業側に大きなメリットがあります。企業側がもらえるお金のなかには、「助成金」や「補助金」などと呼ばれるものがあります。これらのお金には、返済義務がありません。一般的に、企業側にお金がないときには借り入れをして、補填をしていきます。ただし、借りたお金は計画的に返済する必要があります。そのため、人材育成やキャリアアップなどの取り組みには、なかなか予算を割くことができないのが実情です。

キャリアアップ助成金の場合は、返済義務がない資金です。そのため、返済が必要な一般的な借り入れ金と比較すると、企業側には利用しやすいというメリットがあります。ただし、助成金・補助金を受給するためには、さまざまな手続きをしたうえで申請することが欠かせません。したがって、この作業にはある程度の手間や時間がかかります。しかしながら、キャリアアップ助成金に関しては、経済産業省管轄の補助金とは異なるため、内容が審査されるものではありません。複数の要件を満たせば確実に受け取ることができるのが、キャリアアップ助成金の特徴のひとつです。

また、この制度は、日本社会の課題である「働き方の多様化」をはじめとした社会の変化に対応しているものです。制度を上手く活用していくと、企業側が必要としている費用を国から受け取りながら、人材育成や人材確保などの取り組みを行うことが可能となります。これらのことからキャリアアップ助成金は、企業の成長にも通じる制度といえます。

キャリアアップ助成金の3つコース

キャリアアップ助成金には、「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」の3つのコースが用意されています。さらに、平成29年度からは「賃金既定等共通化コース」や「諸手当制度共通化コース」などが新たに加わり、全部で7つのコースとなりました。本記事では、従来の3つのコースを詳しく見ていきます。まず、正社員化コースは、派遣社員やアルバイトなど、有期契約労働者などを正規雇用に転換する際に助成金が下りるコースです。ほかに、派遣社員などを直接雇用したり、勤務地限定社員などのように多様な正社員に転換したりした際にも、このコースが適用されます。

次に、人材育成コースです。このコースでは、派遣社員・アルバイトなどの有期契約労働者に対して、業務上必要でキャリアアップにつながるような職業訓練を行った場合に助成されます。また、処遇改善コースは、有期契約労働者などの賃金既定を2%増額するなどした場合に助成金が下りるものです。ほかにも、健康診断制度の導入や、賃金既定等の共通化、週所定労働時間を延長し、社会保険の被保険者として加入できるようにした際に助成されます。これらのコースでは、それぞれ支給要件や申請の流れが異なるので、キャリアアップ助成金を申請するときにはどのコースが適切かについて検討することが大切です。

受給できる対象企業とその条件

キャリアアップ助成金は、すべての企業に対して支給されるものではありません。受給できる対象企業とその条件について把握しておき、申請のときなどに役立てていきましょう。キャリアアップ助成金に関しては、すべてのコースに共通して、以下に紹介する要件を満たしている事業主が「支給対象事業主」となります。まず、雇用保険に加入した事業主であることが挙げられます。次に、有期契約労働者のキャリアアップをはかる担当者である「キャリアアップ管理者」を置くことが条件です。キャリアアップ管理者は、事業所ごとにおくことが欠かせません。そのため、複数の事業所においてキャリアアップ管理者を兼任することはできないと覚えておきましょう。

また、コースの実施日までに「キャリアアップ計画」を作成・提出したうえで、所轄の労働局長から受給資格の認定を受けることも条件のひとつです。続いて、キャリアアップ計画期間内において、適切なキャリアアップの取り組みを実践することもポイントです。さらに、申請する企業は、対象となる労働者の名簿や出勤簿、賃金台帳などをしっかりと整備し、保管していることも求められます。加えて、助成金は中小企業事業主のほうが、大企業よりも多く助成されます。中小企業と大企業の区分は、資本金額と常時使用する従業員数で決められており、業種によって基準も変わってくるため、必ずチェックしておきましょう。

申請方法の概要と必要なもの

キャリアアップ助成金を申請するときには、いくつか用意しなければならないものがあります。まず、キャリアアップ助成金を申請する場合には「有期契約労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿った「キャリアアップ計画」の作成が求められます。キャリアアップ計画とは、労働者のキャリアアップに向けて、大まかな取り組みをあらかじめ記載した書類のことです。この書類には、対象者や目標、目標達成のために講じる措置、計画全体の流れなどを記載していきます。キャリアアップ計画を立てるときには労働者の意見が反映されたものでなければならないので、労働者の代表から意見を聞くなどの取り組みを行うことが大切です。

ただし、キャリアアップ計画は、あくまでも当初の予定です。そのため、その後の状況に合わせて就業規則を改定するなど、事業所ごとに柔軟な取り組みを実施していくことが求められます。万が一計画を変更するときには、管轄の労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出しなければなりません。当初の計画が何度も変わるのを防ぐためにも、計画を立てるときにはよく考えて、期間内に実施できるものであるかどうかをしっかりと検討する必要があります。そして、転換後6カ月の賃金の支払いを迎えたあとには、支給申請を行います。労働局またはハローワークの審査を経て、最終的に支給が決定されるというのが、キャリアアップ助成金申請の大まかな流れです。

正社員化コース_申請方法と支給額

正社員化コースを申請する場合、まずは実際に有期契約労働者の転換や直接雇用を行う日までに「キャリアアップ計画」を作成し、提出を行います。キャリアアップ計画は、転換・直接雇用の実施日の前までには必ず提出するようにしましょう。次に、就業規則や労働協約などには改訂後の内容を反映させて、就業規則を労働基準監督署に届け出ます。ただし、労働者が10人未満の事業所については、労働組合等の労働者代表者の署名及び押印による申立書があれば、労働基準監督署への届け出をしなくても構いません。労働組合等の労働者代表者とは、それぞれの事業所における事業主・有期契約労働者等を含めたすべての労働者の代表のことを指しています。

また、転換や直接雇用にあたって、就業規則等の転換制度に規定してある試験等を事前に実施していきます。そして、正規雇用等への転換・直接雇用の実施を行うという流れです。転換後の雇用契約書や労働条件通知書に関しては、対象となる労働者に交付しなければなりません。正社員化コースの場合は、転換前の6か月間の賃金と、転換後6カ月の賃金とを比較した場合、5%以上増額していることが申請の条件です。

さらに、転換後の6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内に管轄の労働局へ支給申請を行います。ここでいう賃金のなかには、時間外手当も含まれます。最後に、支給の決定です。このとき、申請内容に疑義があったり、審査に協力的でなかったりする場合は、助成金が支給されない可能性もあります。加えて、申請内容によっては審査に時間がかかることもあるので注意が必要です。

正社員化コースの助成金の支給額は、有期契約か無期契約かなどによっても異なるため、それぞれの違いを理解しておきましょう。ただし、【】内は生産性の向上が認められる場合の額、<>内は大企業の額とします。まず、有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換・直接雇用した場合、1人あたり57万円【72万円】、<42万7,500円【54万円】>です。次に、有期契約労働者等を無期雇用労働者に転換した場合は、1人あたり28万5,000円【36万円】、<21万3,750円【27万円】>となっています。さらに、無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合は、1人あたり28万5,000円【36万円】、<21万3,750円【27万円】>が助成されます。ただし、1年度につき、1事業所からは20人までしか支給申請ができないため、計画的な申請が望まれます。

人材育成コース_申請方法と支給額

人材育成コースのキャリアアップ助成金は、有期契約労働者に対して「一般職業訓練(Off-JT)」「有期実習型訓練」「中長期的キャリア形成訓練」という、3つの職業訓練を行った場合に受給できます。まず、一般職業訓練では、実施期間が1年以内のOff-JTを行う必要があります。「Off-JT」とは、職場から離れたところで、業務にまつわるスキルや知識を向上させるための訓練のことです。一般職業訓練のなかには、育児休業中訓練も含まれます。

次に、有期実習型訓練の場合は、ジョブカードを活用したOff-JTとOJTを組み合わせた3~6カ月の職業訓練です。この訓練は、一般的に正社員として働いた経験が少ない労働者に対して行われるものです。「OJT」とは職場内での訓練を指し、上司や先輩社員などから必要な知識やスキルを学んでいきます。また、中長期的キャリア形成訓練では、厚生労働大臣が専門的・実践的な教育訓練として指定した講座を受講するもので、Off-JTで行われます。

人材育成コースを申請する場合、まずは、キャリアアップ計画届の作成・提出をしましょう。次に、訓練計画届の作成・提出です。訓練計画届を作成するときには、正規雇用労働者等への転換が目的とはっきりとわかるような内容でなければ、「不備がある」と判断される恐れがあります。続けて、訓練受講者に対するキャリア・コンサルティングの実施し、その後訓練を実施していきます。訓練が終了したら、支給申請を行いましょう。支給申請は、職業訓練計画実施期間の終了した日の翌日から起算して2カ月以内とされています。申請が終わり審査に通ったら、助成金の支給が決定します。

人材育成コースの場合、支給額は企業の規模などによって異なるため、この点も押さえておきましょう。Off-JT分の支給額については、1人1時間当たり800円(大企業の場合は500円)の賃金助成があります。ただし、1時間あたりの助成時間数は1,200時間が限度となっているため注意が必要です。一方、OJTの支給額は、1人1時間あたり800円(大企業の場合は700円)の実施助成となっています。OJTに関しては、1人あたりの助成時間数680時間が限度です。

さらに、経費助成は1人あたりのOff-JTの訓練時間数に応じて金額が変わってきます。(以下、<>内は大企業の額とします。)一般職業訓練(育児休業中訓練を含む)、有期実習型訓練では、100時間未満は10万円<7万円>、100時間以上200時間未満なら20万円<15万円>、200時間以上になると30万円<20万円>の助成です。一方、中長期的キャリア形成訓練の場合は、100時間未満は15万円<10万円>、100時間以上200時間未満では30万円<20万円>、200時間以上となると50万円<30万円>と細かく定められています。ただし、人材育成コースは、平成30年4月1日をもってほかの助成金に統合されました。そのため、助成金の申請を検討しているなら、申請方法や条件などを事前にしっかりと確認しておきましょう。

処遇改善コース_申請方法と支給額

処遇改善コースを申請する場合、まずは、キャリアアップ計画を作成し、賃金既定等を増額改定する日までに提出します。次に、賃金改定等の増額改定の実施を行います。続いて、増額改定後の賃金に基づいて、6カ月分の賃金を支給し、支給申請を行いましょう。支給申請をする時期は、増額改定後6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して、2カ月以内と限られています。

また、処遇改善コースの場合も、対象となる労働者数などによって細かく異なります。(以下、<>内は大企業の額です。)まず、すべての有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定したケースです。対象労働者数が1⼈〜3⼈の場合は10万円<7.5万円>、4⼈〜6⼈は20万円<15万円>、7⼈〜10人では30万円<20万円>、11⼈〜100人になると1人あたりが3万円<2万円>となります。次に、一部の有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額したケースを見ていきましょう。このケースでは、対象労働者数が1⼈〜3⼈のときは5万円<3.5万円>、4⼈〜6⼈は10万円<7.5万円>、7⼈〜10人になると15万円<10万円>、11⼈〜100人では1人あたりが1.5万円<1万円>となります。

受給後に行う必要のあること

キャリアアップ助成金の申請をする際、必要となる書類の作成などができると安心してしまうということはよくあります。しかし、受給後にも行う必要があることは意外とたくさんあるので把握しておきましょう。まず、キャリアアップ助成金を申請するときには、キャリアアップ計画を作成します。このキヤリアアップ計画は、書類を提出した後でも届出をすれば変更することは可能です。しかし、実際に計画したことは、着実に実施することが欠かせません。キャリアアップ計画を行うためには、企業側が率先してスケジュール管理を徹底することが求められます。

万が一、立てた計画が正しく実施されない場合には、「不正受給」とみなされる場合もあります。キャリアアップ助成金は、要件を満たしていれば比較的容易に受け取ることができるものです。そのため、なかには意図的に不正受給をしようと考える人もいるのです。しかし、過去には虚偽の申請で助成金をだまし取ろうとして書類送検をされたケースもあります。不正受給を行った場合、事業主・事業所の名称や不正受給の金額・内容などが公表されます。このような事例があることから、「バレないだろう」という意識でキャリアアップ助成金を受け取ろうとするのは極めて危険な考えといえるでしょう。

キャリアアップ助成金の活用例

キャリアアップ助成金を申請しようかと検討しているのなら、実際の助成金制度の活用事例についても把握しておきましょう。まず、ある製造業の会社での事例です。ある製造業の会社では、トップの方針によって積極的な正社員転換が推進されました。この会社では、入社時から安全教育を行い、技能向上の促進に向けた教育訓練支援を展開したのです。このことにより、作業の質が向上するだけでなく、人材の定着率もアップしました。加えて、この会社では正社員転換実績をPRしていくことで、求人力も強化していったのです。

さらに、キャリアアップ助成金の活用によって、教育訓練支援を充実させたことで、将来を見すえたキャリア設計ができるようになったという点もポイントのひとつです。また、この会社では、契約社員の人事評価を定期的に実施し、それに応じた賃金の増額を行いました。賃金をアップさせることで、契約社員であっても仕事に対するモチベーションを向上させることが実現できました。次に、ある小売行の会社のキャリアアップ助成金の活用例です。この会社では、これまで契約社員として働いていた人を、順次正社員に転換していくことを積極的に行いました。契約社員が適切な訓練を受けることで正社員にキャリアアップしていくと、自ずとサービスの質も向上していきます。

会社側がこのような取り組みを積極的に行うことによって、「契約社員よりも正社員のほうが、能力が高い」などの一般的なイメージを壊し、本当に優秀な人材を戦力として活用することができるようになったのです。さらに、正社員への転換は、従業員のモチベーションアップにもつながります。たとえば、勤務できる期間が限られていたり、給与があまりにも少なかったりする場合、働く意欲が失われていったとしてもそれは仕方のないことです。多くの人を順次正社員に転換していくことで、人材の流出も防げるようになるのです。

キャリアアップ助成金を申請における注意点

キャリアアップ助成金を申請する際には、複数の注意点を把握しておきましょう。まず、キャリアアップ計画書などの内容によっては、審査に時間がかかることもあります。審査結果の連絡がくるまでには3~4カ月程度かかります。また、審査が通ったとしても実際に助成金が下りるまでにはさらに3~4カ月の時間がかかるのが一般的です。このように、支給申請を行ったらすぐに助成金を受け取れるというわけではないので、この点は注意しておくと良いでしょう。

次に、キャリアアップ助成金は、申請すればどのような企業でも受給できるものではありません。たとえば、支給要件と照らし合わせたとき、申請書・添付書類などのないように疑義がある場合や、事業主が審査に協力的ではない場合は、助成金が支給されないこともあります。また、万が一不正受給を行った場合、事業主は助成金の返還を求められることになります。

さらに、管轄の労働局に提出した支給申請書と添付書類の写しなどの書類は、申請したからといって破棄してはいけません。申請時に必要となった書類に関しては、支給が決定された時から5年間は保存しておきましょう。続いて、場合によっては、ふたつ以上の助成金が同時に申請されることもあります。ただし、キャリアアップ助成金の場合は、たとえ要件を満たしていたとしても、どちらか一方しか支給されないということも実際にはあります。

ほかに、キャリアアップ助成金については、支給・不支給決定、支給決定の取り消しなどで不服があった場合でも、行政不服審査法上の不服申し立てはできません。続いて、キャリアアップ助成金は、国の助成金制度のひとつです。そのため、助成金を受給した事業主については、会計検査の対象となる可能性があります。もし対象となったときには協力することが求められます。また、助成金制度に関しては、要件などが変更になる場合もあるため注意が必要です。取り組みを実施するときには、管轄の労働局やハローワークに問い合わせるなどして、最新の要件について確認しておくことが重要です。

キャリアアップ助成金を上手に活用しよう

会社によっては、「人材育成は大切だけれど、費用がないからできない」などの悩みを抱えているケースもあるでしょう。キャリアアップ助成金についての正しい知識を持つと、自社が目指す方針と重なることもあります。会社の成長のためには、適切な方法で人材を育てていくことが欠かせません。これをきっかけに、キャリアアップ助成金の申請を含めて、自社の人材活用のあり方を検討してみましょう。

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