働きがいを応援するメディア

2020.1.22

長時間労働が発生する要因や違法となる基準は?長時間労働をなくす対策とは

企業が頭を悩ませる課題の一つに「長時間労働」があります。以前から過労死の原因になるとして問題視されていた長時間労働ですが、働き方改革の流れを受けて、いよいよ企業にも具体的な対応が迫られることになりました。そこで、本記事では「長時間労働とは何時間以上の労働を指すのか」という基本的なことから、長時間労働を招いてしまう原因やその対策を紹介していきます。

長時間労働の現状

「長時間労働」というワードが取り沙汰されるようになって久しいですが、具体的に「どのくらい働けば長時間労働になるのか」については知らない人も多いでしょう。それもそのはずで、実は、何時間以上働くと長時間労働になる、という明確な決まりはないのです。ただし、日本では労働基準法によって労働時間の上限を設けています。この時間を基準として、日々の労働時間が大幅に超えている場合は、長時間労働とみなすことができるでしょう。日本ではこの長時間労働が蔓延しており、過労死や生産力の低下の原因になるとして、社会問題に発展しています。また、2015年には、電通の女性社員が長時間労働を理由に過労自殺をするというショッキングなニュースが話題になりました。この事態をきっかけに長時間労働が社会的にも注目されることとなり、日本では働き方改革とともに社会全体として長時間労働の対策を講じる動きがあります。

労働基準法で定められている基本

労働基準法の32条では、法定労働時間は「1日8時間以上、週40時間以下」と定められています。原則として、企業はこの法定労働時間を守らなくてはいけません。ただし、例外として、企業と従業員の同意に基づいて「36協定」を締結した場合は、法定労働時間以上の労働が認められる仕組みになっています。ただし、36協定は労働時間の上限を伸ばすための措置であって、無制限に従業員を働かせるための仕組みではありません。36協定を結んだ場合の一般的な残業の上限時間は、「月45時間以下」です。繁忙期や一時的な人手不足などの特別な事情があってこの時間も超えてしまう場合は、特別条項をつけることによってさらに上限時間の延長が可能です。しかしながら、あくまで特別な事情が認められた場合の一時的な措置であるため、長時間労働を常態化するためのものではありません。

過労死ライン

「過労死ライン」というのは、健康障害のリスクが高まるとされる時間外労働の時間を指しています。仕事におけるストレスが原因で死亡した場合は、業務上の過労死や過労自殺とみなされて、労働災害保険からお金を受け取ることができます。ただし、その死亡原因が本当に仕事に起因していたかどうかは一概には判断できないため、労働災害認定における基準として、厚生労働省によって過労死ラインが設定されたのでした。具体的には、「発症前1カ月間におおむね100時間」「発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たりおおむね80時間」を超えた場合、仕事と死亡との因果関係が認められる可能性が高いとされています。ただし、これらはあくまでも目安であって、基準を満たしていたからといって確実に因果関係が認められるわけではありません。

長時間労働の原因

長時間労働を招く原因は2つあります。

1.労働環境の管理不足

1つ目は、「労働環境の管理不足」です。長時間労働が常態化している多くの企業では、中間管理職などの会社の幹部が長時間労働を黙認している実態があります。特に、残業が美徳とされる古い体質の企業では、部下からも長時間労働に対する問題提起がされないため、質の悪い労働環境が見直されないまま続いているケースも少なくありません。長時間労働は上司のマネジメント不足が原因で起こることも珍しくないため、上司の立場にせよ部下の立場にせよ、従業員側から会社側に問題提起をして、全体として改善しようという姿勢が求められるでしょう。

2.人手不足

2つ目の原因は「人手不足」です。長時間労働が発生する原因として、仕事量と人手がうまくマッチしていないことが挙げられます。作業量に対して明らかに人手が足りていない場合、一人一人に割り振られる仕事量の割合が大きくなるため、必然的に残業が余儀なくされてしまいます。結果として、長時間労働が常態化してしまうのです。こうした企業では、長時間労働の辛さからさらに人材離れが進み、ますます一人あたりの負担が増えてしまう悪循環に陥るケースも少なくありません。一時的な人手不足であれば乗り切れるかもしれませんが、慢性的に人が足りない場合は注意が必要です。長時間労働はあくまでも付け焼刃の対策なので、人員の確保や業務の効率化を優先し、まずは健全な経営ができるよう立て直しをはかる必要があるでしょう。

長時間労働が慢性化するとどうなるか

長時間労働の慢性化は、従業員にとっても企業にとっても悪い影響を及ぼす危険があります。まず、従業員は睡眠不足や業務上のストレスから疲労が蓄積されて、心身共に不調をきたすようになります。脳疾患や心臓病のリスクが高まるほか、最悪の場合は過労死や過労自殺などの痛ましい事件につながる恐れもあるでしょう。一方、企業にとっても、長時間労働が原因で従業員のパフォーマンスが下がることによって、生産性の低下や業績の悪化を引き起こす可能性があります。また、企業にとって必要不可欠な優秀な人材が、クリーンな職場を求めて離れてしまう恐れもあります。長時間労働が慢性化していると思ったら、ただちに改善のための策を講じ、行動に移す必要があるでしょう。

長時間労働が違法になるケースとは

日本は欧米諸国に比べて長時間労働が問題視される傾向があります。そのため、政府としても長時間労働を抑制するための対策を講じています。従業員の無知を逆手にとって悪質な手法で残業させる企業も存在するため、場合によっては企業が違法となるケースもあるのです。たとえば、長時間働かせているにも関わらず残業代を支払わないケースや、みなし残業代として本来支払うべき残業代をごまかしているケースは違法性があります。みなし残業代制自体に違法性はありませんが、みなし残業時間を超えて残業をした場合、企業は従業員に対して超過分の残業代を追加で支払う必要があるのです。また、管理職は基本給が高くなる代わりに残業代が出ないことが多いですが、役職という名目を悪用して残業代を支払わないケースでも、違法性が問われる可能性は十分にあります。

長時間労働をなくすメリット

長時間労働をなくすメリットは2つあります。

1.業務の効率化

1つ目のメリットは、「業務の効率化」を図れる点です。「残業がなくなる=決められた時間内に仕事を完了する」という意識が従業員のなかに芽生えるため、従業員は業務のやり方や時間配分を見直したり、工夫したりするようになります。
これまで残業ありきの惰性で業務を行っていた場合は、制限時間ができたことで業務に対する集中力や緊張感がアップし、結果として生産性の向上につながることが期待できるでしょう。「いかに残業をしないか」という問題意識が身に付くので、従業員のスキルアップにもつながります。また、慢性化していた長時間労働をなくすことで、今まで残業代として支払っていた人件費などのコストをカットすることも可能です。

2.従業員のモチベーションアップ

2つ目のメリットは、「従業員のモチベーションアップ」につながる点です。残業が少なくなることで、従業員の余暇時間が大きくなることが期待できます。余暇時間というのは、簡単にいえば、睡眠や食事、家事の時間などを差し引いた「自由時間」のことです。残業が常態化している企業では、従業員が余暇時間を持てないケースも少なくありません。それどころか、なかには睡眠や食事の時間さえ削って働いている人もいます。健康的な睡眠や食事に加えて、十分な余暇時間をとれることで心身共にストレスをためにくくなるため、仕事の集中力にも好影響をもたらしてくれます。従業員の働き方に対する満足度が上がることで離職率も低下し、人材不足の解消につながることもあるでしょう。

働き方改革で会社も変革を求められている

社会問題にまで発展している長時間労働問題を解決するための動きの一つが、政府主導の「働き方改革」です。政府が定めた「働き方改革関連法」は、2019年4月からより厳格なルールが適用されています。ただし、中小企業の場合は2020年からの適用を予定しています。この法律では、時間外労働は「月に45時間、年に360時間以内」が基本です。36協定の特別事項を定める場合であっても、「年に720時間以内、2~6カ月間の平均で80時間以内、月に100時間未満」という厳格なルールに加えて、「月45時間を超えられるのは年間6回まで」と定められました。働き方改革関連法が施行される前は、基準以上の時間外労働をしても罰則らしい罰則がなく、それが長時間労働が横行する一つの原因になっていました。しかし、働き方改革関連法では基準を守れない企業に対しては罰則の規定を設けて、ルールの遵守を厳格化しているのです。

長時間労働をなくす対策

1.労働時間の適正な把握

時間外労働をなくすための大前提として、企業は従業員の労働実態を正しく把握する必要があります。実は、従業員一人一人の残業時間を把握していない企業は意外と少なくありません。そのため、全体として長時間労働が蔓延してしまったり、特定の従業員に大きな負担がかかっていることに気付かなかったりするのです。そのため、まずはそれぞれの従業員に対して、どれくらい残業をしているのか、給与は正しく支払われているのかを確認する必要があります。そのうえで、法律と照らし合わせて違法性がないかをチェックしましょう。規定の残業時間をオーバーしている場合には、人手を増やしたり、仕事量を調整したりといった、適正な労働時間に抑えるための早急な対策が求められます。

2.裁量労働制やフレックスタイムの導入

時代の変化に伴って、さまざまな働き方がうまれました。長時間労働をなくす対策としては、こうした働き方を従業員が選択できるようにする、というのも一つの手段です。たとえば、柔軟に働く時間を選べる「裁量労働制」や「フレックスタイム」、あるいは自宅や遠隔地での仕事が可能になる「テレワーク」などを導入することによって、日々の仕事量や忙しさに応じて自分で就業時間を判断できるようになります。ただし、こうした制度を開始するためには十分な準備が必要なため、導入のリスクなども踏まえたうえでよく検討する必要があるでしょう。また、企業側は従業員の労働時間やその実態をよく把握しておかなければいけません。

3.給与制度の見直し

長時間労働をなくすためには、「給与制度の見直し」も大切です。多くの企業では、たくさん働けば働くほど給料が得られるという制度になっています。そのため、生活できるだけの収入を得るために自ら残業を望む従業員もいます。残業削減によって給与が下がると生活に直結してしまうため、成果主義を採用するなどして、残業に頼らない給与制度を再設計することが重要です。それが残業を善としない風土づくりにもつながります。また、従業員の過労死やストレスの蓄積を防ぐためには、給与面以外にも従業員に対して適切な福利厚生を用意したり、有給休暇を取りやすい雰囲気をつくることも大切でしょう。

長時間労働をなくす具体事例

1.残業の事前申請

企業側が強いているイメージの強い残業ですが、なかには、従業員自ら本来であれば必要のない残業をしているケースもあります。たとえば、効率的に行えば就業時間内に終わる仕事量であっても、残業ありきになっているせいでだらだら仕事をしたり、「どうしたら効率的にできるか」という思考を放棄していたりするパターンもあります。また、上司へのアピールや残業代を稼ぐためというケースもあるでしょう。このように、従業員個人の裁量で行われている残業に関しては、「残業の事前申請」が効果的です。この場合、従業員は事前にその日の残業の必要性について提示し、上司はその内容に応じて残業の可否を判断するという流れです。これによって、残業の習慣化が防げます。また、残業を人事評価に取り入れることで、「残業=悪」という風土をつくることができるでしょう。管理職に残業を管理させるのも効果的です。

2.顧客を巻き込んだ変革

残業や長時間労働は、従業員個人で対策するには根深い問題です。そのため、会社が一丸となって解決していくべき問題といえるでしょう。その際、社内だけで取り組むのではなく、顧客や取引先などの社外に対して取り組みを公表するのも効果的です。企業が主体となって顧客や取引先に配慮を促すことで、社外に対しても残業削減の取り組みを理解してもらうことができます。

生産性向上のために長時間労働を抑制しよう!

長時間労働は従業員のモチベーションの低下や生産性を下げる原因になるだけでなく、時代の変化や働き方改革によってより厳しくチェックされつつあります。働き方改革関連法に違反した場合は罰則もありえるため、企業は早急な対策が求められています。長時間労働を改善することによって生産性の向上を図り、より快適で働きやすい会社を目指しましょう。

Category

労務管理

Keyword

Keywordキーワード