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2020.8.13

コンピテンシーとは?意味や活用ポイント・注意点を解説

人事評価や採用に携わっている人なら「コンピテンシー」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。コンピテンシーとはどのようなものなので、どういった場面で活用するとよいのでしょうか。この記事では、コンピテンシーの具体的な活用方法や期待できる成果、成功させるためのポイントや注意点などを具体的に解説します。

「コンピテンシー」とは?

コンピテンシーとは、成果や好業績を生みだす行動特性のことです。能力や成果だけを評価するのではなく、どのように、なぜ成果を生みだせたのかというプロセスを理解し、思考や行動の型を評価することが関係しています。

例えば、ひときわ営業成績の良い営業マンがいるとしましょう。その人がほかの営業マンよりも数字を上げ、より大きな成果を生みだせているのはなぜでしょうか。もしかすると、ほかの営業マンよりもリスクをいとわない挑戦心が強く、顧客のニーズに合わせて対応する柔軟性や思いやりを持っているからかもしれません。この成果につながる理由(考え方や行動パターン)こそが、行動特性(コンピテンシー)なのです。

コンピテンシーは、ハイパフォーマーの行動特性を理解して評価するのに役立ちます。客観的な分析や評価により、本人も気づいていない能力や特性に気づく場合もあるでしょう。その結果、さらに業績を伸ばすヒントが見つかるかもしれません。

コンピテンシーを社内で共有することで、会社全体の業績アップが期待できます。成果につながる考え方や行動をみんなで実践することで、一人ひとりの能力をさらに引き出すことが可能だからです。このようにして、一人のハイパフォーマーに頼るのではなく、組織全体として成果を上げられる環境が整っていくでしょう。

スキルとの違い

コンピテンシーと比較されることの多い言葉に「スキル」があります。コンピテンシーとスキルの違いについて疑問に思った方も多いのではないでしょうか。

スキルとは、社員が持つ専門的な能力・技能のことです。例えば、会計や語学など特定の専門分野に関する高度な知識、プログラミング能力、営業力などを指します。一方、コンピテンシーが指すのは、スキルの発揮につながる考え方や行動パターンです。

スキルとコンピテンシーとの違いは、スキルが「能力や技能そのもの」を指すのに対し、コンピテンシーは「能力や技能を発揮するための力」であると理解することができるでしょう。

コンピテンシーの歴史・注目される背景

コンピテンシーの基になったのは、アメリカ・ハーバード大学の心理学者、D.C.マクレランド教授による調査・研究です。学歴や知能レベルが同程度の外交官に業績格差がつく理由を調査したところ、好業績の外交官には共通の行動特性があることが明らかになりました。

例えば、異文化に対する感受性に優れていることや環境対応能力が高いこと、相手にかかわらず人間性を尊重する姿勢があることや人的ネットワークの構築が得意であることなどです。つまり、業績の差は学歴や知能レベルにではなく行動特性にあったのです。

企業で成果主義が導入されるようになり、社員の業績や能力を客観的に評価することが求められるようになるにつれ、コンピテンシーはますます注目されるようになりました。また、競争の激化や人手不足など、状況やニーズが目まぐるしく変わっていく社会において、企業が安定して発展していくためには、企業全体の生産性を向上させることが重要です。その観点からも、コンピテンシーは社員一人ひとりの能力を向上させ、企業として業績を上げるために役立つ指針として注目を集めてきました。

コンピテンシーを活かせる3つの場面

コンピテンシーは、「採用・面接」「人材育成・教育/能力開発」「人事評価項目」の3つの場面で活用できます。いずれも企業の業績向上に欠かせない大切な分野です。

それぞれの場面ごとに、コンピテンシーがどのように活用できるか見ていきましょう。

1.採用・面接

採用・面接の場面において、コンピテンシーは、採用基準を設定する際の指標の一つとして活用することができます。

採用面接では、学歴や職歴などを確認することで、どの程度の知識やスキルを持っているかをある程度確認できます。しかし、それらの能力を自社で本当に活かせるか、将来性や自社に適した人間性があるかを正確に見極めるのは難しいかもしれません。

そこで、自社で活躍している社員のコンピテンシーをもとに採用基準を作成することが役立ちます。実際に自社に合った行動特性を持っている社員をモデルにすることで、応募者が入社後に自社で活躍できるか人材かどうか見極めやすくなるでしょう。

面接ではこれまでの実績に加えて「なぜその行動をとったか」という理由を掘り下げて質問し、応募者の本質やどのような行動特性を持っているかを確認しましょう。採用面接時のコンピテンシーの活用は、採用後のミスマッチを防いだり、人事配置を事前に考えたりするのにも役立ちます。

2.人材育成・教育/能力開発

人材育成・教育/能力開発の場面では、コンピテンシー研修の開催が効果的です。コンピテンシー研修とは、ハイパフォーマーの行動特性に着目し、どのような思考・行動をすれば高い成果につながるのかをテーマにした研修のことです。

まず社内のハイパフォーマーの行動特性をもとにしたコンピテンシーのモデル(コンピテンシーモデル)を社員に伝えます。次に、社員一人ひとりがコンピテンシーモデルに沿った目標を設定します。

社員自らが目標を設定することにより、積極的かつ自発的な行動をとれるように促すことができます。社員がやるべきことが明確になれば、人材育成の効率も上がるでしょう。

実際に成果が出れば社員のモチベーションや満足度も上がり、顧客満足度や業績アップだけでなく、離職率の低下などにもつながるはずです。

3.人事評価項目

コンピテンシーは、人事評価項目としても活用できます。人事評価には、個人が設定した目標の達成度により評価を行う目標管理制度(MBO)や、複数の評価者が評価を行う360度評価といったさまざまな制度がありますが、コンピテンシー評価もその一つです。

コンピテンシー評価では、コンピテンシーモデルをもとに企業が評価項目、評価基準を設定し、社員自らがコンピテンシーモデルに近づくための目標設定を行います。評価の際は、社員が目標に沿った思考・行動をし、成果が出せたかを評価します。

評価基準がはっきりしており、客観的な評価ができるため「評価する人によって結果がかわる」「不公平」などの不満が出にくいのが特徴です。適正な評価は、社員のモチベーションアップや人材マネジメントにも役立ちます。

コンピテンシーの5段階レベル

コンピテンシーのレベルには5段階あり、社員や面接の応募者がどの段階にいるかを評価するのに役立ちます。

【コンピテンシーの5段階レベル】

レベル1:受動行動
レベル2:通常行動
レベル3:能動行動
レベル4:創造行動
レベル5:パラダイム転換行動

最も低いレベル1は「受動行動」で受け身の状態です。レベル1は指示がなければ業務が進められない状態です。

レベル2は「通常行動」で、一般的な社員はこのレベルに当てはまります。最低限の業務をこなしますが、ミスがないようにしっかり取り組む姿勢があります。

レベル3の「能動行動」は、スキルアップのための勉強に取り組むなど、明確な目的を持ち、ルールの中でできることを自主的に考えて行える状態です。

レベル4の「創造行動」はもう一歩進み、状況を良くするための工夫をします。既存のシステムや考え方に縛られずに新しい提案をして、企業の生産性の向上に貢献できるでしょう。

レベル5の「パラダイム転換行動」は、周囲も巻き込んで斬新なアイデアの導入や大きな改革を実現できる状態です。

レベルは高ければ高いほど望ましいですが、実際の組織においては、すべての社員にレベル5を期待するのは現実的ではないでしょう。自社の現状や経営ビジョンをふまえ、どのレベルの人材がどの程度必要か、どのレベルから採用に値するかを前もって考えておくことが大切です。

コンピテンシーモデルの意味

コンピテンシーモデルとは、職務ごとに定義された行動特性で、定型モデルはありません。職種や部署、組織の目標などによって求められる成果が異なるからです。そのため、それぞれの組織や役割に合った具体的なコンピテンシーモデルを作成し、それに基づいて評価することが必要です。

例えば、WHO(世界保健機関)は、各コンピテンシー基準の定義とともに、適切な行動と不適切な行動を明確にして評価を行っています。コミュニケーションや自己管理、成果実現に向けた活動など、一般的に当てはまる基準に加え、保健の専門家として手本や模範となる行動に関する基準も定められています。

また、管理者としてほかのスタッフを導き、組織全体の向上を図ることに関する評価基準も明確です。

コンピテンシーモデル作成の5ステップ

コンピテンシーモデルの作成方法は、次の5つのステップに分けられます。

【コンピテンシーモデルの作成ステップ】

  1. ハイパフォーマーの行動特性データを収集する
  2. コンピテンシー項目を抽出する
  3. 評価項目を選定する
  4. コンピテンシーのレベル分けをする
  5. テストして調整をする

自社に合ったコンピテンシーモデルを作成するためには、コンピテンシーの活用目的を明確化した上で、それぞれのステップを疎かにしないことが大切です。

コンピテンシーモデルの作成方法を、順を追って解説します。

1.ハイパフォーマーの行動特性データを収集する

まずは社内で高い成果を上げている社員をモデルに設定し、その社員に対する調査・インタビューを実施して行動特性データを収集します。仕事に取り組む上で意識していることやモチベーション、行動や決断の際にどんなことを考えているかなど、さまざまなヒアリングを行いましょう。

同時に、ハイパフォーマーの周囲の社員にも普段の仕事ぶりについてヒアリングし、本人が気づいていない行動特性データも収集します。一般的にコンピテンシーモデルは職種・役割ごとに作成する必要があるため、行動特性データの収集も職種・役割ごとに実施しましょう。

2.コンピテンシー項目を抽出する

ハイパフォーマーの行動特性データが収集できたら、収集したデータをもとにコンピテンシー項目を抽出します。具体的には、一般社員との違いや成果につながっているポイントを見つけ出しながら、ハイパフォーマーの思考や行動にはどのような共通項があるのかを分析していきます。

項目を抽出する手間や時間を省き、網羅性を担保するためには、一般的なコンピテンシー項目が体系化されたものをモデルケースとして活用するのも良いでしょう。一例として、WHOによる「WHOグローバル・コンピテンシー・モデル」や、世界的にも広く知られている「コンピテンシー・ディクショナリー」などが挙げられます。

3.評価項目を選定する

次に、抽出したコンピテンシー項目を精査し、評価項目の選定を行います。コンピテンシーモデルは、企業理念と合致していなければなりません。このため、抽出した項目を企業のミッション(果たすべき使命)・ビジョン(実現したい未来)・バリュー(社会へ提供する価値)と照らし合わせ、マッチしない内容や必要のない内容があれば除外します。

また、評価項目は多すぎると運用に時間や労力がかかりすぎるため、コンピテンシー項目の中でもより成果へつながりやすいものを中心に選定しましょう。

4.コンピテンシーのレベル分けをする

評価項目に取り入れるコンピテンシー項目が選定できたら、次は、それぞれのコンピテンシー項目のレベル分けを行います。レベルは、3〜5段階を設定するのが一般的です。

レベル分けを行うことで、評価の対象者がどの程度コンピテンシーを満たしているかがわかりやすくなるため、モデル化したコンピテンシー項目が人事評価や採用の場面でより活用しやすくなります。各項目の達成度や習熟度について、レベルごとに明確な基準を明記することが、公正かつ客観的な評価に導くポイントです。

5.テストして調整をする

最後に、作成したコンピテンシーモデルが適切かどうか、評価項目のテストを行います。実際に自社で高い成果を上げている社員を、作成したコンピテンシーモデルに基づいて評価してみると良いでしょう。高い評価が出れば、評価基準が適正であると判断できます。

併せて、一般的な社員に対してもテストを行い、高い成果を上げている社員よりも高評価にならないかチェックします。テストは複数回、複数人に対して行い、評価にズレが生じる場合には適宜コンピテンシーモデルの調整を行いましょう。

コンピテンシーモデルを適切に作り上げて機能させるポイント

コンピテンシーモデルを作る際は、実在の社員をモデルにすると良いでしょう。自社のハイパフォーマーの行動特性を分析することで、より自社の状況や時代に合った現実的なモデルを作成しやすくなります。また、社員もモデルや結果をイメージしやすくなります。ハイパフォーマーの思考や行動パターンを正確に把握し、ほかの社員がどのように再現できるかを考えてください。

モデルにできるハイパフォーマーがいなければ、架空の社員をモデルにすることも可能です。企業理念や事業内容に沿って、理想の人物像を設計しましょう。ただし、理想を追求しすぎないように注意が必要です。実在の社員と架空の社員の混合型モデルを作成すれば、モデルになっているハイパフォーマーも利益を得られるはずです。

コンピテンシー・ディクショナリーを参考にするのもおすすめ

コンピテンシーのモデル化が難しい場合は「コンピテンシー・ディクショナリー」を参考にすると良いでしょう。「達成・行動」「援助・対人支援」「インパクト・対人影響力」「管理領域」「知的領域」「個人の効果性」の6領域、20項目に分類されています。

自社の目標を明確にしたうえで、自社に有用な評価項目を選定しましょう。そして、自社の実態や業務内容に合わせて具体的な行動例や目標数値を考えます。
その後、コンピテンシーモデルを社員一人ひとりに浸透させます。採用面接の質問をこれに沿ったものにしたり、社員の目標設定に活用したりすると良いでしょう。しっかりと現場で運用されているかについて、定期的に確認することも大切です。

コンピテンシーの様々な活かし方

コンピテンシーは、人事評価や採用面接、人材育成など様々な場面で活用が可能です。ここでは3つの活用場面と方法について解説します。

コンピテンシー評価の方法

コンピテンシーを活用した評価では、ただ「プロセスをこなしたか」ではなく「プロセスを経て特定の成果を作れたか」を評価するため、評価者によるブレを小さくするのに役立ちます。年齢や性別などによる偏見や好み、相性に左右されにくくなるでしょう。また、基準が明確であるため、社員が納得しやすいのもメリットです。コンピテンシーを目標設定に組み込むことで、社員自身の行動目標が明確になり、より努力しやすくなります。

さらに、努力が成果や目に見える評価につながることで、社員のモチベーションも上がるでしょう。評価項目を定期的に見直し、成果があった行動を新たな評価項目として加えていくことも大切です。人事担当者だけでなく、社員自身や同僚、上司も評価に参加できるようにし、評価を多方面から行うのも良いアイデアです。

コンピテンシー面接の方法

通常、面接では面接官の主観で評価が行われるため、評価にばらつきが出てしまう可能性があります。また、短時間では実際の能力や人間性を判断するのが難しいと感じる場合もあるかもしれません。面接官と現場の認識にズレがあり、採用後のミスマッチが生じてしまうケースもあるため、コンピテンシーを活用して面接官による意見の相違を防ぐことも重要です。

コンピテンシー面接では、応募者が「会社にふさわしい行動特性を持っているか」を評価します。応募者がアピールする実績や活動について、意思決定の背後にあるものや、なぜそうしたのかなど、動機や思考を探る質問をしてみてください。

「なぜそうしたのですか」や「その経験をどのようにいかしたいですか」など、具体的な質問項目を事前に考え、面接官同士で共有しておくと良いでしょう。5段階評価のどの程度なら採用するかなど、評価レベルも共有しておくと合理的です。

コンピテンシーを活用した人材育成の方法

教育研修を行う際には、あらかじめ作成したコンピテンシーモデルを社員に示して「ハイパフォーマーになるためにはどのように考え、行動すればよいのか」を理解させるようにしましょう。しかし、ハイパフォーマーの行動をただ真似するだけで同じ成果を出せるわけではありません。効果のある行動に至った背景や目的、動機など、目に見えない部分を正しく理解することが重要です。そのようにして、成果の出る行動につながる「思考パターン」を身につけられるようにすることで、それぞれの社員が状況や顧客に合わせて柔軟に行動することが可能になるでしょう。

コンピテンシー評価を活用して弱点を見極め、それに応じたアプローチ法を考えることも大切です。知識や能力があるものの、なかなか成果に結びつかない社員は特にコンピテンシーを活用した人材育成で、より能力を発揮できるようになる可能性が高いでしょう。

コンピテンシーの課題や注意点

コンピテンシーの活用は企業の業績向上に役立ちますが、課題もあります。まず、評価者に大きな負荷がかかることです。コンピテンシーモデルは具体的で実際的であるほど効果がありますが、部署や職位などによって内容が異なるため、作成が難しく時間がかかります。

各分野においてどのような行動や思考が成果につながるかを見極めるためには、社員一人ひとりへのヒアリングが必要でしょう。特に、ハイパフォーマーへの丁寧なヒアリングは欠かせません。また、現場だけでなく経営者側の意見も取り入れる必要があります。

さらに、コンピテンシーの進捗管理や分析などに工数がかかる点も注意が必要です。分析結果に応じて次の目標のレベルを上げたり、成果が出なかった理由を考えたりする手間がかかります。社会のニーズやビジネスモデルの変化、新しいアイデアなどに合わせて、コンピテンシーモデルに修正を加えていくことも重要であり、コンピテンシーは導入後にも運用面の負担が大きいことを覚えておきましょう。

加えて、コンピテンシーは「目的」ではなく、あくまでも効率の良い人材育成や適正な人材評価を可能にして業績を向上させるための「指標」であることも忘れないでください。

コンピテンシーで全体の成果アップを図ろう

ハイパフォーマー個人に頼るのではなく、社員一人ひとりのスキルを向上させ、会社全体の成長を目指せるのがコンピテンシーです。ハイパフォーマーの成果の理由を思考や行動パターンのレベルで分析し、評価基準や人材教育、採用に活用しましょう。導入は簡単ではありませんが、時間と根気をかけて導入する価値はあるはずです。自社に合ったコンピテンシーモデルを作成して、会社全体の成果アップを目指すのはいかがでしょうか。

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