2023.2.17
ダニングクルーガー効果 とは?原因や対処法を確認
ダニングクルーガー効果 という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
簡単にいうと、実際の能力以上に自分を過大評価してしまうことです。適切な自己評価ができないと業務や周囲との関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、ダニングクルーガー効果の原因や影響について解説します。ダニングクルーガー効果のリスクに加えて、陥らないための対処法や意外なメリットもお伝えします。あわせて参考にしてみてください。
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目次
ダニングクルーガー効果 とは

ダニングクルーガー効果とは、正しい自己評価ができず、自分を過大評価してしまうことです。思い込みや先入観によって非合理的な判断をしてしまう「認知バイアス」のひとつで、誰もが陥る可能性があります。
ダニングクルーガー効果は一見してうぬぼれている状態に見えるため、本人の性格の問題だと考えてしまいがちです。しかし、認知のゆがみをそのままにしていると、会社員としての成長が見込めないかもしれません。実際の評価と自己評価に大きなギャップがあると、業務に支障が出る可能性もあります。
ダニングとクルーガーの実験
ダニングクルーガー効果は、心理学者であるデヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーの2人が行った実験により導き出された説です。
実験では大学生に対していくつかのテストを実施し、自分の成績がどの程度なのかを予想してもらいます。結果として、実際の成績が悪い学生ほど自分の成績を高く評価していました。対して、成績上位の学生たちは、実際の成績よりも低く予想しています。
この実験によって、自分の能力を客観視できていないと、自分自身に対する評価がゆがみやすいことが分かりました。これをダニングクルーガー効果と呼びます。2000年にイグノーベル賞の心理学賞を受賞したことで、世界中から注目されるようになりました。
ダニングクルーガー効果 の曲線

ダニングクルーガーの曲線は、自信と能力を表しています。縦軸が自信で、横軸が知識や経験といった能力です。
曲線を見ると、実際の能力が低い段階で、かなり自信を持っていることが分かります。これは、新たな知識を取り入れて「0→1」となったことで、全てを理解したと思い込んだ状態です。その後、能力が高まるにつれ、まだまだ学ぶことがあると気付き、自分の能力への自信を失ってしまいます。その後、適切な認識で能力を高めることで、正しく自己評価できるようになり自信も回復していきます。
少し学んだ段階で全てを理解した気になるダニングクルーガー効果に、心当たりがある方もいるのではないでしょうか。そこで終わってしまわなければ、正しい認識でこれから能力と自信を高めていけるでしょう。
ダニングクルーガー効果 の逆
ダニングクルーガー効果と逆の心理状態として、「インポスター症候群」があります。インポスター症候群は、周りからは高く評価されているにもかかわらず、自分を過小評価してしまうことです。
インポスター(impostor)は「詐欺師」を意味します。インポスター症候群に陥ると、成功を肯定できず「周りの助けがあったから成功できた」「運が良かっただけ」と思い込みます。自己評価が低いため、周りからの高評価に対し、周囲をだましていると考えてしまうのです。そこから、インポスター症候群という名前が付きました。
インポスター症候群は、一般的に男性より女性の方が陥りやすい傾向があります。女性の社会進出により、管理職への登用や昇進が増えたことに関連しているともいわれています。ダニングクルーガー効果と共に、気を付けたい状態だといえるでしょう。
ダニングクルーガー効果 の例

続いて、ダニングクルーガー効果のいくつかの例を紹介します。自己評価に対する認知のゆがみがあると、実際にどのような行動をとるのかを見てみましょう。
仕事
ダニングクルーガー効果に陥っていると、能力以上に自分を過大評価します。本人は自分を優秀だと思って仕事を受けますが、その思い込みが能力を超えているケースがあります。自己評価では「できる」と判断しても、実際の能力が及んでいません。納期に間に合わない、質が悪いなど、業務を処理しきれずに何らかの問題を起こしてしまいます。
また、自分を過大評価している人は、自信にあふれているため仕事ができそうに見えます。認知のゆがみがあると周りが認識できればよいのですが、それに気付かれないと多くの業務を任されるでしょう。その結果、失敗して挫折してしまう可能性もあります。
株式取引
株式取引を始めたばかりの初心者も、ダニングクルーガー効果に陥って損をしてしまいがちです。ダニングクルーガー効果に陥ると、株式投資の基本的な知識を得ただけで、株式取引の全てが分かった気になって短期で取引を繰り返します。特に、根拠のない自信から一銘柄に大金をかけてしまうようなら要注意です。
株式取引には多少のリスクがあります。確実な未来予測はできないため、これまでの統計や情報に基づいた判断が必要です。投資時期や銘柄を分散させてリスクを軽減することが、株式取引の成功の秘訣だといえるでしょう。それを実現するためには、自分の知識や能力を正しく評価することが重要です。
ダニングクルーガー効果 が与える影響

ダニングクルーガー効果は誰もが陥る可能性があります。ここからは、ダニングクルーガー効果に陥ったときに、どのような影響があるのかを見てみましょう。
自分を過大評価する
自分の能力以上に自分を評価するのが、ダニングクルーガー効果の特徴です。例としてお伝えした仕事や株式取引だけでなく、日常的なシーンでも影響があります。例えば、車の運転です。免許取得から3~5年が経過すると、運転に慣れたことから慎重さを欠き事故につながるケースが増えます。運転に対する慣れを運転技術の向上だと錯覚してしまい、実際の技術が伴っていない状態です。
能力以上のことをやろうとすると、失敗の可能性が高まります。ビジネスシーンで信頼を失ったり、交通事故につながったりする恐れがあるため注意しましょう。
勉強をしなくなる
自分の知識や経験が十分だと錯覚すると、学習意欲が低下してしまいます。これ以上学ぶことがないと思っている状態ですが、もちろんそんなことはありません。能力の高い人や、自分の能力を正しく認識できている人は、知識不足を感じて積極的に勉強するものです。その結果、知識量が不足していることや最新情報にアップデートできないことで、能力が高い人との差が広がってしまいます。
困難に対応できなくなる
ダニングクルーガー効果に陥ると、トラブル発生時に対応できなくなる危険性があります。人生には困難がつきものです。しかし、自己認識と現実の壁のギャップが大きいと、対応できずに打ちのめされることもあります。
自分の能力を高く見積もっている状態だと、多少の困難でも乗り越えられると考えがちです。しかし、実際には能力が不足しているためうまく対応できません。「できるはずなのに」と自己否定につながる可能性もあります。
コミュニケーションに問題が生じる
自己評価と実際の評価に差があるということは、自分と相手が見ている姿に差があるということです。例えば、2年目の社員に対する指導に、5年目のベテランのような対応をするといったミスマッチが起こります。話がかみ合わず、コミュニケーションにも問題が生じます。その結果、周りに距離を置かれて孤立してしまうかもしれません。
自分には高い能力があると思っているため、他者に高圧的な態度を取ったり上から目線で接したりしてしまいます。実際の能力が低い場合、偉そうな態度を取ったことでトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
他者の能力を正確に評価できない
認識のゆがみから自分を過大評価している場合、周囲や他者への評価も誤っている可能性があります。本来の自己評価は、他者からの評価や周囲の反応によって変わります。他者の評価と自分を比較することで、自分の正しい立ち位置を理解するのです。
しかし、自分自身を正しく評価できていないと、比較相手の評価もずれてしまいます。その結果、相手を低く見積もったり根拠がないのに高く評価したりしてしまいます。給与査定する立場の人がダニングクルーガー効果に陥っている場合、評価への不満が出てくる可能性もあるでしょう。
責任を他者へ押し付ける
自分が有能だと認識していると、トラブルが発生した際に責任を他者に押し付けてしまいます。自身の能力の低さや認識の甘さを把握できていないため、自分が悪いという思考にたどり着かないのです。自分に非があると分かる状態でも、「邪魔された」「足を引っ張られた」と責任転嫁してしまうでしょう。
トラブルは自己認識を改めるひとつのきっかけです。ダニングクルーガー効果に陥っていると、トラブル時の原因究明や自己分析が難しくなります。
成長の機会を失う
今の自分に満足すると、人は成長の機会を失ってしまいます。足りない部分を補ったり新たな知識を身に付けたりするには、今より上を目指そうとする向上心が欠かせません。現状のままで十分に優れていると思い込んでいたら、自分に足りない部分にも気付けないでしょう。
自己分析をして自分に足りない部分を把握することが、成長への第一歩です。もっと上を目指そうという気持ちは、学びや努力のきっかけにできます。現状維持のままでは、同期だけでなく後輩にも追い越される可能性があります。
騙されやすい
何の根拠もなく「自分は騙されない」と思っている人ほど、意外と騙されやすいものです。ダニングクルーガー効果に陥っている人は、自分の判断に自信を持っています。しかし、実際には相手の話が真実か見極める能力がありません。そのため、相手の話を鵜呑みにして騙されてしまうのです。
自分の能力を過信する人ほど「自分は大丈夫」と思い込んでいますが、場合によっては詐欺などの犯罪被害につながるため注意が必要です。
ダニングクルーガー効果 が発生する原因・陥りやすい人

ダニングクルーガー効果に陥りやすい人には、いくつかの特徴があります。どういった原因で発生するのかを知り、対策を考えてみましょう。
原因を把握できない
何か問題が起こった際に、原因の追究が不十分だとダニングクルーガー効果に陥りやすくなります。「失敗は成功の母」というように、成長するには失敗の原因追究が欠かせません。成功や失敗において、なぜそうなったのか考えることが改善や発展につながります。
自身にある問題の原因を把握できないと、失敗した理由を外的要因に求めてしまいます。自分以外に原因があると考えているうちは、自己評価が下がることはありません。ただし、成長のチャンスを失ってしまうため、現状よりも能力が上がることもないでしょう。その結果、自分の能力に対する認知がゆがんでしまうのです。
他者からのフィードバックを受け付けない
他者からのフィードバックや指摘を受ける機会が少ないと、自分に対する認知がゆがみやすくなります。フィードバックや指摘は学びの宝庫です。第三者の目線から見た評価は、自分を客観視するきっかけとなり、たくさんの気付きを与えてくれます。第三者の意見を聞く場が少ないと、自己評価を更新する機会がありません。その結果、ますます自己評価と実際の能力の差が開いてしまうでしょう。
フィードバックの機会が少ないだけなら、社内でそういう場を設けたり周囲がフォローしたりといった対策が取れます。しかし、すでにダニングクルーガー効果に陥っている人は、フィードバックを拒みやすくなります。必要に応じてフィードバックを受けられる仕組みを考えてみましょう。
他責傾向が強い
ささいなことであっても、日常的に他責の習慣が身についている人は注意が必要です。日頃から「自分に問題はない」と考えていると、問題が起こったときに十分な原因追及をしなくなってしまいます。それが繰り返されると、自分を客観視する能力が磨かれず、自分自身の課題や改善につながる気付きが得られません。
問題や失敗は自分を顧みるチャンスです。自分の言動を振り返って分析し、第三者視点で見たときにどうなのかを客観視してみましょう。自分自身を正しく評価できるようになれば、問題や失敗を糧に大きく成長できます。改善や解決に向けて行動できる人は、ダニングクルーガー効果に陥りにくいでしょう。
ダニングクルーガー効果 への対処法

ダニングクルーガー効果は心理現象のひとつで、誰にでも影響を受ける可能性があります。すでに陥っていたとしても、訓練次第で影響に打ち勝つことも可能です。ダニングクルーガー効果への対処法をいくつかお伝えしますので、事前対策をしつつ、成長のきっかけとしてください。
メタ認知力をつける
「メタ認知」とは、自分の認識を客観視することです。メタ(meta)には「高次の」「超越した」という意味があります。自身の認識をより高い次元から把握するだけでなく、自分自身を冷静にコントロールすることも含めて「メタ認知能力」と呼ばれます。
自身が認識していることとは、以下を指します。
- 感覚
- 思考
- 理解
- 記憶
- 判断
メタ認知能力が低いと、自分の能力を適切に判断するのは難しいでしょう。例えば、自分が得意だと思っている業務でも、実は必要以上に時間がかかっている可能性もあります。自分の能力が全体的にどの程度なのかは、他者と比較することでしか測れません。
そういった認識の改善には、まずはダニングクルーガー効果に陥っていると自覚する必要があります。上長と1対1で認知のゆがみについて話し合ったり、会社全体で認知バイアスについて研修したりといった対策が有効です。
関連記事:メタ認知とは?高い人・低い人の特徴や高めるためのトレーニング方法など詳しく解説
数値の明確化
目標や成果を数値化することも、ダニングクルーガー効果の対策として有効です。目標が数値で明確化されると、誰が見ても進捗や達成が分かります。例えば、成約件数10件が目標だった場合、結果が2件なら目標に届いていないのは一目瞭然です。数値なら誰が見ても同じ評価となるため、認知がゆがむ余地がありません。
目標や成果を曖昧に設定していると、達成したかどうかの客観的な判断は難しいでしょう。「頑張る」ことを目標にしていても、自分が思う頑張りと第三者が思う頑張りは違っている可能性があります。そうなると、自分と周りの評価にギャップが生まれます。
営業や企画はもちろん、バックオフィス業務でもコスト削減などで数値目標を立てることは可能です。まずは会社として、自他ともに適切に評価できる数値目標を立てるようにルール化しましょう。
人との交流を多く持つ
認知のゆがみを正すためには、他者と交流する機会を増やすことが大切です。人と接する機会が少ないと、自分の考えに固執してしまう危険性があります。他者との比較ができないため、自分の評価基準が全てとなりがちです。他者とのコミュニケーションによって新たな基準や視点を知り、自身の能力を正しく認識できるようになります。
会社でできる対策としては、メンター制度の導入がおすすめです。年齢の近い先輩社員をメンターとすることで、困ったときに相談しやすい体制が作れます。知識と経験のあるメンターの助言があれば、自分に対する認識を正せるでしょう。
フィードバックを受けられる環境づくり
他者からのフィードバックや指摘を苦手とする人は少なくありません。しかし、他者の意見を受け付けない姿勢が続くと、ダニングクルーガー効果に陥る可能性が高まります。
フィードバックを受けたいと思っても、会社でその機会がないことも考えられます。その場合は、評価制度や実施ルールを見直し、社内でのフィードバックを習慣化しましょう。業務報告には「成功・失敗した理由」を添え、上長がそれに対するフィードバックをするなど、業務の把握と振り返りができる仕組みづくりが重要です。
関連記事:フィードバックとは?ビジネスにおける意味や例文をわかりやすく解説
天狗になっている人にはチャレンジさせる
ダニングクルーガー効果に陥って天狗になっている人には、たくさんのチャレンジの場を提供してあげましょう。根拠のない自信だけでは、いつかは失敗してしまいます。失敗をきっかけに過大評価をやめ、適切な自己評価ができるようになるかもしれません。
また、失敗から立ち直って次に進むには成功体験が必要です。小さな業務からで構わないので、第三者が評価した今の能力で成功しそうな仕事を任せてみましょう。
失敗したらフィードバックする
ダニングクルーガー効果の対策としては、失敗を失敗のままで終わらせないことが大切です。失敗に対するフィードバックをして、良かった点と足りなかった点をしっかり説明しましょう。なぜ失敗したのかが分からないままだと、また同じことを繰り返してしまう可能性があります。自分に自信があったのかもしれませんが、まだまだ知識と経験が足りなかったことを自覚してもらいましょう。
ダニングクルーガー効果 のメリット

ダニングクルーガー効果にはメリットもあります。根拠がなくても、自分に自信があることに変わりはありません。自信を武器として新しいことに物おじせず挑戦できるのは、ダニングクルーガー効果のメリットだといえるでしょう。
同様に、会議やディスカッションの場では臆することなく発言できます。自分の能力を適切に把握していると、多くの人がいる場で発言することに引け目を感じる人もいます。しかし、ディスカッションの場では黙っているより発言する人のほうが重宝されるため、結果的に周囲からの評価につながります。
発言や行動に積極性が見られるのが、ダニングクルーガー効果のメリットです。積極性は、周囲に評価されるポイントのひとつです。自分に自信を持って行動するうちに、周りの評価が自身の過大評価に追いつく可能性もあります。
まとめ
ダニングクルーガー効果は、実際の能力以上に自分を過大評価してしまうことです。思い込みや先入観で錯覚してしまう認知バイアスのひとつで、誰しもが陥る可能性があります。
ダニングクルーガー効果に陥るとさまざまな影響があります。そのなかでも、困難に対応できなかったり責任転嫁したりして、成長の機会を失ってしまうことは大きなデメリットです。メタ認知能力を身に付けて、自分と他者を正しく評価できるようになることが何よりの対策となるでしょう。さまざまな経験でフィードバックを得て、根拠のない自信を確かな自信に変えていくことが大切です。
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