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2021.7.26

人事戦略の効果的な進め方とは?注目される背景や戦略人事の4つの機能を解説

適材適所に人材を配置し、企業の生産性を高めていく「戦略人事」という考え方が注目されています。終身雇用制度の維持が難しくなり、多様な働き方が普及しはじめている今だからこそ、ヒトという経営資源を戦略的に活用することが企業の生き残り戦略としても重要です。

この記事では人事戦略が注目される背景や、戦略人事の4つの機能、そして近年注目を浴びているHRBPとは何かを解説します。人事戦略の進め方や課題についても理解を深めていきましょう。

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人事戦略とは

人事戦略とは、採用活動や人事制度の運用といったオペレーション面の改革を通じて、部署単位・従業員単位で業務の生産性を高めていく施策です。

例えば、コストをおさえながら優れた人材を確保するためにリファラル採用を併用する、または社員研修の企画・運営の手間を省くために研修を外部委託するなどがあげられます。

業績の見込みや経費の予算面では経営とかかわりがあるものの、具体的な経営戦略とはわけて人事戦略独自の取り組みを行います。企業風土にあう人材を採用・育成し、行動規範に沿って業務を進めていくため、経営ビジョンへの理解も必要になります。

目先の採用活動や労務手続きの作業にあたるだけではなく、最終的なゴールを会社全体の業績向上ととらえて取り組むのが人事戦略のポイントです。

人事戦略の目的

人事戦略の大きな目的が生産性の向上です。従業員が1時間働いて生み出す成果(労働生産性)が明確になることで、事業戦略や事業計画にもつながっていきます。

また、成果を実感できるようになると、従業員満足度(ES)も向上し、さらなる生産性向上が期待できるでしょう。仕事や会社に満足している従業員は、長期にわたって働きたいと考える傾向にあり、そのような人材が働いている企業は企業としての魅力も高まります。

このように、人事戦略の目的である「生産性向上」に向き合うことで、従業員満足度のアップや組織活性化、定着率の向上や商品・サービスの質アップなど、さまざまなメリットがあると考えられます。

人事戦略が注目される背景

人事戦略が注目される背景の一つとして、労働人口の低下が挙げられます。少子高齢化にともなって労働人口が減っている中、各企業では少ない人員で利益確保を目指しているのが現状です。終身雇用制度を前提とする企業はありますが、転職市場は変化を続けており、条件の優れた企業に人材が集中しやすい傾向がある点も忘れてはいけません。

そのため、従業員の企業への帰属意識を高め、長く働き続けられる環境整備が人事戦略として求められています。今ある限られた人的資産を有効活用し、いかに生産性向上できるのか、企業の魅力を引き出し好サイクルを回せるかという観点から、人事戦略が注目されています。

戦略人事とは?

人事戦略と類似した言葉に「戦略人事」があります。人事戦略と戦略人事は前後を逆にしただけですが、言葉の発祥や意味合いはやや異なります。

戦略人事とは、従来の人事戦略に経営戦略を連動させて、生産性だけでなく企業そのものの価値を高めるマネジメント手法です。1990年代にアメリカの経済学者、デイブ・ウルリッチ氏が提唱した考え方で、戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)と呼ばれることもあります。

戦略人事の考え方では、経営層と人事部がビジネスパートナーとして相互に協力し、企業の経営目標を目指します。欧米諸国では導入が進んでいますが、国内で戦略人事を導入する企業はまだ少数です。しかし、「VUCAの時代」と呼ばれるように、経営環境や市場動向を見通せない今、人事部も経営志向を持ちながら企業変革のリーダーシップを取っていくことが求められています。

今までの人事部や人事戦略との違い

今までの人事部と、戦略人事の違いは「経営への関与の有無」にあります。

人事部は就業規則をもとに従業員を管理しており、ルールで想定していない問題が生じた場合には、前例を重視しながら対応していました。人員配置も各部署で決定し、人事部は社内全体に決定事項を周知したり、異動対象者の手続きを行ったりする事務執行機関の役割でした。

しかし戦略人事の場合は、経営層と連携して、先々の課題を想定しながら人員配置や教育研修計画を提案型で勧めます。将来の変化を見据えて、戦略的に人事施策を推進していくスタンスは、従来の人事部と大きく異なる点です。

戦略人事のもとでは、人事部が主体となって従業員それぞれの能力や働き方を考慮し、経営にひもづいた異動・採用計画を行います。複数ある部署のうちの一つではなく、企業全体の成長を主導する役割を担うのが戦略人事なのです。

戦略人事の4つの機能

前述したウルリッチは、従来の人事部門から戦略人事への変革を遂げるには4つの機能が必要だとも提唱しています。戦略人事の4つの機能について、詳しく説明します。

①HRビジネスパートナー(HRBP)

HRビジネスパートナー(HRBP※)とは、経営層や組織の部門長と緊密に連携しながら人事戦略の立案や採用計画・教育研修計画などを企画推進していく役割の人物です。

戦略人事におけるリーダーシップをとる存在であると同時に、現場の業務を熟知したうえで、経営資源の一つである「ヒト」の活用を促す、経営層に近い存在でもあります。

一方で、同じ会社で働くメンバーとして従業員の相談相手になる場面もあり、経営層と現場をつなぐ一面も持っています。なお、HRBPを戦略人事の推進機関そのものとする考え方もみられますが、経営層などの関係者への働きかけを行う人物が必ず存在することから、厳密に言えば異なります。

※HRBP=「Human Resource Business Partner」の略語

②センター・オブ・エクセレンス(CoE)

センター・オブ・エクセレンス(CoE)とは、専門性の高い人材を配置して知識・ノウハウなど必要なリソースを集約した拠点という意味で、ビジネス全般で用いられる言葉です。

戦略人事に置き換えると、採用活動や人員配置・評価制度、あるいは給与体系・労務管理に関する高い専門性を持つ人材を集結させて、人事に関するあらゆるデータをとりまとめる機能と言い換えることができます。

センター・オブ・エクセレンスは人事制度の具体的な設計・見直しにも携わります。情報を集約・分析して人事戦略を効果的に推進するために、人事管理システムやタレントマネジメントシステムなどのHRTechを活用する企業も増加しています。

※CoE=「Center of Excellence」の略語

③オペレーション部門(OPs)

オペレーション部門(OPs)とは、勤怠管理や給与計算など従業員の賃金支払いに関連する業務や、入社手続き・退社手続きや労務管理といった勤務関連の実務を担う部門です。戦略人事の遂行をサポートする存在でもあり、業務の正確さが求められます。

期限が定められた業務も多く、企業と従業員との信頼関係を保ち続けるためにも効率的に取り組まなければなりません。採用業務では応募者や求人メディア・人材紹介会社などの対応をする場面があり、会社の顔となる意識を持つことも求められます。

※OPs=「Operations」の略語

④組織開発(OD)と人材開発(TD)

組織開発(OD)とは、企業理念や経営方針を社員と共有して、組織全体で目標達成に取り組む風土をつくる取り組みです。組織内の課題や問題点を洗い出し、当事者同士で組織改善に取り組む場面もあります。

人と人との相互作用を引き出したり、経営環境・市場の変化への順応を促したりするなど、組織開発で得られる効果はさまざまです。

また、人材開発(TD)とは、組織として従業員一人ひとりのキャリアアップを支援し、適材適所への配置を通じて経営戦略の実現を目指します。従業員の能力を見える化するだけでなく、客観性の高い人事評価への道筋を示します。従業員にとっては仕事を通じて成長できている実感につながり、モチベーション向上や退職率低下という効果も期待できるでしょう。

なお、組織づくりと同時に人づくりにも取り組むのが、戦略人事の特徴です。

※「OD」=Organization Development、「TD」=Talent Developmentの略語

人事戦略にまつわる間違い・課題

人事戦略は経営戦略と密接に関連しているため、間違った方向性で人事戦略を推進してしまうと従業員・組織の成長にとって逆効果になってしまいます。

人事戦略を推進する人材の経験値が足りない場合も、戦略人事の効果が薄れてしまうでしょう。人事戦略がうまくいかない具体的な理由について説明します。

①人事戦略・経営戦略を理解していない

人事戦略を推進するためには経営層との連携が欠かせませんが、人事と経営は別物だと考える経営者が少なくないのが現状です。人事部門においても管理業務や採用活動などで多忙なために、会社全体を俯瞰して人事戦略を考える時間を取れないというケースもみられます。

確かに、欠員がなく業務が円滑に回っていれば問題ないという考え方もあります。しかし、適正な人数で高い生産性を実現するためには、今いる従業員のエンゲージメントを高めつつ、個々の能力をより高める環境を整備することが大切です。

「ヒト」は会社経営に欠かせない資源だと認識し、経営戦略と人事戦略の方向性を相互確認すると、人事と経営の融合を目指しやすいです。

②人事戦略にふさわしい人材が不足

人事戦略を遂行しようとしても、人事に関する豊かな専門性を持つ人材が不足していれば、人事戦略の効果が薄れてしまいます。中小企業では総務部が人事部門の業務を兼ねているケースも多く、人事戦略に専念できない状況もあるようです。

人材不足を今すぐ解決するのは難しいですが、社外の人事コンサルタントの指導を受けるなど、戦略人事に関する知識の底上げを図るのも効果的でしょう。また、人事管理システムやタレントマネジメントシステムの分析機能で得られた情報を、人事戦略の策定に活用することも一つの方法です。

人事戦略を進めるステップ

人事戦略を効果的に進めるには、HRBPを中心として、経営層や現場の部門長を巻き込んでいくことが大切です。人事戦略を進める具体的なステップと、現状分析に有効な手法について解説します。

①経営理念・MVV・存在意義などの確立

人事戦略は経営戦略と連動しているため、企業の経営理念を熟知することが人事戦略を進めるための第一歩です。経営理念では企業の存在意義が明確化されており、社会的使命や従業員の行動指針(ミッション)も示されています。

経営理念が実現した姿を具体化したものがビジョンです。目指すべき状態が明確になることで、従業員が企業の価値観(バリュー)を大切にしながら業務を進められるようになります。

経営理念や経営層の考え方を「クレド」に落とし込み、企業の存在意義とともに従業員全体へ共有すると、人事戦略に対する理解も深まるでしょう。

②HRBPを置きミッションを伝える

戦略人事をスムーズに遂行するためには、HRBPを置いて経営層と人事部・他部署にミッションを伝えるようにします。経営者が直接ミッションを伝えると従業員の心に響きますが、現場と連携して具体的な人事戦略を作り上げていくためには、専任のHRBPを置くほうが効果的でしょう。

ただし、HRBPは現場からの声を積極的に吸い上げて、なおかつ経営者との緊密なコミュニケーションが必須です。

ミッションが明確になれば、組織のあるべき姿や求める人材の定義も設定しやすくなります。構築された人事戦略に納得すれば、行動の変革も期待できるでしょう。

③課題抽出・人事計画の立案

ミッションが決まったら、組織や従業員の現状を把握して、人事・経営に関する課題を抽出します。多様な視点から情報を得るために、マンパワーに依存せずにタレントマネジメントシステムや人事情報システムを活用すると効果的です。

人事戦略を円滑に遂行できるよう、人事部そのものの課題も洗い出し、必要に応じて組織体制の変更も検討しましょう。

得られた情報や課題を分析し、中長期的な採用方針や人材育成・組織開発の目標を定め、具体的な行動計画を立てていきます。「従業員がモチベーションを保ちながら働き、最大のパフォーマンスを発揮できる」状態を目標とするとよいでしょう。

④人事戦略の実施とPDCAサイクルの継続

人材育成・組織開発などの具体的な行動計画に沿って、人事戦略を推進していきます。経営状況を俯瞰しながら、PDCAを回し続けることが組織・従業員の質を高めていくためには重要です。

Plan課題の抽出人事戦略を遂行するうえで必要な人材を定義
Do人材の採用・配置適材適所で人材を活用
Check人事評価・フィードバック人事評価の結果を待遇に反映、必要に応じてフィードバックを行い能力開発のきっかけを提供
Act能力開発社内外の教育研修プログラムを活用してスキル向上

短期間で結果は現れないので、現場の意見を取り入れながら継続して目標達成に取り組むことが大切です。

人事戦略に有効なフレームワーク

組織・従業員の課題を抽出して人事戦略に反映させるためには、フレームワークの活用が有効です。

例えばSWOT分析では、目標や課題を強み・弱み(内部要因)と機会・脅威(外部要因)に分けてそれぞれ分析し、客観的な視点で改善策を見つけていきます。

TOWNS分析もSWOT分析と同様に、強み・弱みと機会・脅威4つの視点から分析しますが、強みを機会に、弱みを脅威にそれぞれ結びつけて課題の解決策を具体化していくのが特徴です。

その他にも資源配分のバランスを検討する「PPM分析」や、政治・経済・社会・技術の外部環境から分析する「PEST分析」などもあるので、企業の課題に応じてフレームワークを使い分けるとよいでしょう。

まとめ

従来の人事部は、採用活動や職場環境の維持といった手続き関係が主な仕事でした。しかし、労働人口の減少や市場の多様化にともない、少ない人数で企業の生産性を高める必要性から人事戦略が重視されるようになりました。

現場の声を取り入れてスムーズに人事戦略を遂行するためには、経営層と現場の橋渡し役としてHRBPを任命すると効果的です。幅広い指標から人事課題を洗い出すために、タレントマネジメントシステムなどのHRTechを活用するのもよいでしょう。

タレントマネジメントシステムについては、次の記事もあわせてご確認ください。

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