2020.04.20

企業における権限委譲の本質とは?実施例と効果を上げる方法

企業における権限委譲の本質とは?実施例と効果を上げる方法

企業において、生産性だけではなく人材育成にも有益とされるのが権限委譲です。権限委譲にはどのような意味があり、なぜ実施したほうがよいといわれているのでしょうか。ここでは、権限委譲についてメリットとデメリットを伝えながら理解を深めて、実施をするときにより効果を上げるためには、まず社内で何からはじめていくべきかについて解説していきます。

企業において権限委譲とはどのようなことを指すのか

権限委譲とは、個人が主体的に活躍できるようにパワーを与えるという意味の「エンパワーメント」と同じ意味で用いられることが多い言葉です。20世紀のアメリカでは、市民運動や先住民運動などの社会改革運動の高まりがありました。その中で、提唱されてきた考え方がエンパワーメントです。抑圧されている集団や不利な立場にある集団に力を持たせて、本来人間が持っているはずの能力や個性を発揮できる社会していく意味で使われた言葉です。その根底には、「個人が主体的に活躍できるように力を与え、社会の発展に活かそう」という考え方がありました。

企業においての権限委譲やエンパワーメントは、上司が持っている業務権限の一部を部下に与えることです。権限を与えることで、与えられた部下には自らの裁量で仕事をしてもらう考え方を含みます。権限委譲は、委譲された社員の自律性を高めて、さらに組織全体のパフォーマンスを向上させることを目的とした取り組みなのです。あくまでも、人材を育てることを目的に行われるものであり、部下に仕事を丸投げすることではありません。

権限委譲やエンパワーメントは、仕事を委任して権限を委譲するという意味を持つ「デレゲーション」と同じ意味で使用されることもあります。デレゲーションという言葉は、もともと「遠い場所に代表を派遣する」という意味です。遠い場所に赴く人に仕事を任せるには、権限を持たせる必要もあるということになります。

混同しやすい権限委譲と権限移譲の違い

「権限委譲」と似た言葉に、「権限移譲」があります。この2つの言葉は、字に書くとよく似ているだけではなく、声に出して読むとまったく同じです。しかし、2つの言葉の意味には、根本的な違いがあるのです。2つの違いを理解するためには、「委譲」と「移譲」の違いを押さえておくことがポイントとなります。「委譲」とは、立場が上のものから下のものへと行われる行為です。これに対し、「移譲」は、対等な立場の人間同士の間で行われます。つまり、権限委譲が上司から部下に対して行われるのに対し、権限移譲は、他部門や同僚などに対して行われるのです。このときに、権限にともなう責任がどうなるかに注目することが、大切になります。

権限委譲では、部下に権限を譲りますが仕事の責任は上司がそのまま持ち続けます。部下には、自分自身の裁量で思うように仕事をさせますが、最終的な責任は上司が持つのです。これに対し、権限移譲では責任も含めて仕事のすべてを引き渡してしまう点に大きな違いがあります。権限移譲は、単に仕事を引き渡してしまう行為でしかありません。しかし、権限委譲は、「裁量を持たせることによって人材を育てる」という目的があるのです。部下を成長させる道を作るために仕事を任せる以上、その仕事の責任は上司が持つ必要があります。

権限委譲の必要性が高まっている理由

さまざまな企業の間で権限委譲の必要性が高まっている背景には、どのような理由があるのでしょうか。ひとつには、少子化の影響があります。若い世代の人口が減少することで、企業が人材を確保することが困難になることは明らかです。これまでは、優秀な社員の中から管理職となる人間を選抜すればよかったのかもしれません。しかし、人材不足が続けば、管理職となる優秀な人材が現れるのを待っていることはできないのです。何よりも、若手社員の育成が急務となるため、権限委譲が必要になります。

また、かつて一般社員は決まった仕事をこなしているだけでよかった時代もあったでしょう。しかし、もはやそれだけでは生産性が上がる時代ではありません。高いレベルの顧客満足度を獲得するためには、顧客に対してスピーディーな対応をすることが重要になります。現場で問題が起こったとき、従来どおりに上司のうかがいを立ててから実行する形だと、遅いのです。権限委譲を行うことで、現場の社員の裁量で顧客に対応をすることができ、結果として顧客満足度を上げることにつながります。企業間の競争においてスピードが重要な要素となっている中、権限委譲はなくてはならないものとなっているのです。

権限委譲を実施するメリット

権限委譲を行うことで、組織全体としてはどのようなメリットがあるのでしょうか。まず、管理職である上司は仕事を部下に任せることで、自身の工数を大幅に減少させることができます。すると、上司は経営戦略や新たなプロジェクトなど、本来取り組むべきより上位の仕事に専念できるようになるのです。そのため、組織全体の生産性が上がります。また、部下に権限を持たせることで何かクレームがあった際にも、現場で解決できるシーンが増えます。上司に指示や判断を仰いだ場合と同じ解決策であったとしても、スピーディーな分だけ顧客満足度の底上げができるのです。

商談の場においても、現場の判断でスピード感のある対応をすることができ、企業の競争力が高まります。権限委譲を実施することで、個々の社員の能力や才能が開花することが期待でき、それだけでも組織全体としては大きなメリットであるといえるでしょう。開花された社員一人ひとりの能力や才能をデータベース化することで、組織の適正な人材配置が見えやすくなる点もメリットです。結果として、組織内のリソースを最大限に活用することができ、生産性を向上させることができます。

権限を委譲された社員にとっては、どのようなメリットがあるでしょうか。自分の立場なら本来は、できない仕事を任されることで部下の責任感とモチベーションはアップします。自分の能力よりも高いレベルの仕事をすることになるので、その過程で試行錯誤をしながらも、大きな成長を遂げることができるでしょう。また、上司がどのような考えで指示や判断を行ってきたのかを深く考えるきっかけにもなるため、その結果マネジメント能力が身につくことも期待できます。

権限委譲を実施するデメリット

権限委譲を実施することで、メリットだけではなくデメリットも起こりえます。権限委譲には、組織全体としてどのようなデメリットがあるのでしょうか。権限を与えられた部下が業務についたときは、経験が不足している状態です。重要な場面で、判断を誤ってしまうことも考えられるため、報告・連絡・相談をおろそかにすると部下の判断によって、大きなミスや利益の損失につながるリスクもあります。また、権限委譲によって、個々の判断に委ねることが多くなるため、個人がそれぞれに好き勝手な判断をしてしまうと、組織が本来目指すべきビジョンやミッションから、ずれが生じてしまう可能性がある点もデメリットです。

組織の一体感や目標を守るためには、判断の基準を理解させ、統一しておく必要があります。権限を委譲する社員の選定も重要です。自分の裁量で仕事を進めることに向いていない社員や、その仕事をこなす能力が伴っていない社員もいます。そのような社員に権限を委譲すると、業務が回らなくなる可能性もあるので注意が必要です。本来は、権限委譲によって生産性が上がることが期待できるのですが、社員の選定によっては、逆に生産性が下がることもあります。

権限委譲をされた社員にとっては、どのようなデメリットがあるでしょうか。権限を与えられると責任が大きくなるため、必要以上にプレッシャーを感じる社員もでてきます。また、慣れていない業務を行うことになるため、失敗をすることもあるでしょう。そのときに、モチベーションの低下が大きくなってしまう可能性もあります。自分の裁量で仕事を行うことへのプレッシャーから、組織全体のためではなく自分の保身や業績だけに目を向ける社員もいるでしょう。そのために、組織のチームワークが乱れてしまうというリスクもあります。

権限委譲の実施例

1.星野リゾート

星野リゾートでは、フラットな組織文化を作るために権限移譲を積極的に取り入れています。権限移譲の実施に際しては、アメリカの作家ケン・ブランチャードのエンパワーメント理論を導入しているのが特徴です。この理論のステップに従うことで、自由な発言を奨励し、役職にかかわらず自由に意見が交換できるフラットな組織を作ることに成功しています。マネージャーや支配人は立候補によって選ばれ、キャリアに関係なく誰でも挑戦できる環境ができているため、社員のモチベーションや責任感だけでなくチームワークを高めることにも成功しているのです。

その結果、離職率が低下しただけではなく若手が積極的にチャレンジできる職場として、人材が自然と集まりやすい企業文化が醸成されています。

2.ザ・リッツ・カールトン

ザ・リッツ・カールトンでは、ホテル業にとって最優先である顧客満足を第一に、権限移譲を行っています。具体的には、「上司の判断がなくても行動できる」「他のセクションの業務を手伝うときには、自分の業務を離れることができる」「すべての従業員に、1日の決済権として2000ドルを与える」の3つです。スタッフ全員が、1日に2000ドルの予算を使えば大変なことになってしまいます。実際に導入した結果は、ほとんどの問題がお金を使うことなく、迅速に解決されているのです。

スタッフ一人ひとりが権限を与えられたことによって、プライドを持って主体的に仕事に取り組んだことが原因といえるでしょう。そのことで、大きく顧客満足度を向上させることにつながっています。

3.ミスミグループ本社

機械加工製品の販売などを行う一部上場企業のミスミグループ本社でも、権限移譲を実施しています。その内容は、年齢やキャリアにかかわらず、裁量権のある仕事にチャレンジできる手挙げ昇格制度の導入です。少人数のチームそれぞれに、「開発・生産・販売」までの機能を持たせることで、会社の中に独立した小会社が複数あるような仕組みを生んでいます。その結果、チーム同士の競争や社員の起業家精神を高めることにつながっているのです。

権限委譲を正しく機能させるためのポイント

権限委譲の取り組みは、上司や管理者層だけではなく社内全体で方針として共有する必要があります。なぜなら、業務に不慣れな部下が仕事を進めるうえで周りの人の協力や場合によっては予算なども必要になるからです。これらの準備を部下自身で行うのは困難であるため、上司が環境を整えてあげなくてはいけません。また、権限を委譲する側が仕事の切り分けを行う必要もあります。どこからどこまで部下が自分で判断をしてよいのか、裁量を与える範囲を明確にしておかないと部下が混乱してしまうでしょう。

権限を委譲する上司と委譲される部下との間で、信頼関係を構築することも重要です。そのためには、権限委譲をしても最終的な責任は上司にあることを部下にしっかりと伝えなくてはいけません。また、部下からは定期的な報告を受け、求められればアドバイスを行うことも大切です。権限を与えられた部下は、不慣れな業務を遂行します。そのため、細かい失敗やミスはつきものだと割り切って、途中で口出しをしたり失敗をとがめたりしてはいけません。逆に、権限委譲は業務改善や効率化の役目も果たすため、定期的なフォローや評価はきちんと行う必要があります。

権限委譲の実施で失敗しないために注意すべきこと

権限委譲を効果的に実施するためには、注意すべき点があります。そもそも、権限委譲を行うには、委譲される社員にスキルや能力が備わっていることが前提です。権限委譲を実施する前に、社員にスキルや能力を身に付けさせるための社内教育のあり方から見直さなければいけない場合もあります。また、権限委譲をしたからといって責任は上司にあることも忘れてはいけません。部下がどのようなことを行っているかを把握しておくため、仕事が見える化された社内環境を整備しておくことが必要です。

権限委譲は、仕事の丸投げにつながるリスクもあります。せっかくの権限委譲が上司による仕事の丸投げで終わってしまわないように、権限を委譲する側の上司の教育体制も会社として整備しておくことが必要です。また、権限を委譲されたからといって、なんでも自由に行ってよいわけではありません。してはいけないこと、守るべきことのルールは明確にしておかないと、会社の理念とズレが生じてしまう可能性があります。

権限委譲を実施するなら環境を整えることからはじめよう

権限委譲を効果的に実施すれば企業の人材育成の面や、顧客にとっても大きなメリットがあります。しかし、失敗するリスクがあることも事実です。そのため、権限委譲を実施する前には、社内の人材状況を把握しなくてはいけません。さらに、部署やチームの抱える課題や進捗状況を、見える化できる環境を整えることも大切です。

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