2020.04.15

育児短時間勤務とは?整備に必要な手続きや導入事例を紹介

育児短時間勤務とは?整備に必要な手続きや導入事例を紹介

仕事と育児を両立しやすい労働環境を実現するため、2009年の育児・介護休業法改正により、育児短時間勤務の導入が義務付けられました。育児短時間勤務は、すべての事業主に義務化された制度で従業員から申請された場合、短時間勤務や所定外労働の制限などの措置を講じなければいけません。今回は、育児短時間勤務の概要や導入事例、課題や対処法など、育児短時間勤務制度を導入するにあたり知っておくべき基礎知識を紹介します。

育児短時間勤務とは

育児短時間勤務とは、3歳未満の子どもを養育する従業員が希望した場合、勤務時間を短縮できる制度です。2009年に行われた育児・介護休業法改正により、就業規則に育児短時間勤務の規定を設けることが義務付けられました。企業は、従業員が希望した場合、原則として1日の勤務時間を6時間とする措置を行わなければいけません。法改正前の育児短時間勤務は、選択的措置義務の一つでした。選択的措置義務とは、育児・介護休業法により定められている制度です。

事業主は、要介護状態の家族を介護している従業員に対して、労働時間の短縮措置かフレックスタイム制度、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、介護サービス費用助成のいずれかの措置をとらなければいけません。2017年の法改正後は、雇用形態に関係なく育児短時間勤務が適用するなど、利用条件の緩和が行われています。

育児短時間勤務制度の利用状況

国立社会保障・人口問題研究所が2015年に実施した「第15回出生動向基本調査」によると、1977~2015年までの40年間において子どもを持つ妻の就業率は上昇傾向にあります。さらに、結婚前後の就業状態も変化しているため、結婚退職は減少傾向にあり結婚後も就業を継続するケースが7割以上です。2018年に厚生労働省が実施した「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、短時間勤務制度を利用している、または利用経験があるという労働者は全体の38.5%でした。

短時間勤務制度を利用した労働者のうち、業務内容や責任は変わらないまま業務量が減少したと答えたのは37.9%、業務量は変化しなかったと答えたのは40.5%です。特に、短時間勤務制度を利用した女性の満足度は高く、正社員もパートタイマーやアルバイトなどの非正規雇用従業員も満足度は8割弱という結果でした。

育児短時間勤務の対象者

育児短時間勤務の対象者となる労働者には、5つの条件があります、1つ目は3歳未満の子を養育していること、2つ目は1日の所定労働時間が6時間以上であることです。3つ目に、日々雇用される労働者ではないことが挙げられます。日々雇用とは、1日単位で雇用契約が結ばれる労働者のことです。4つ目は、短時間勤務制度の適用期間中に育児休業を取得していないこと、5つ目は労使協定により適用除外とされる労働者ではないことが条件となります。

労使協定とは、事業主と労働者の間で結ばれる協定のことです。労働基準法や育児・介護休業法などの法律により定められている規定も、労使協定に適用を除外する旨が記載されていれば、義務や罰則が免除されます。育児短時間勤務の適用除外とされる労働者の条件は、「雇用期間が1年に満たない」「1週間の所定労働日数が2日以下」ということです。さらに、業務の性質や実施体制を考慮したうえで、短時間勤務制度に向かないと判断される労働者も適用除外とされます。ただし、企業は短時間勤務を講じるのが難しい業務に従事する労働者に対して、代替措置を講じなければいけません。

育児短時間勤務の導入方法

育児短時間勤務制度を導入する際は、まず短時間勤務の措置を就業規則に記載し、従業員に周知を行うことが大切です。就業規則を変更する際は、労働者の過半数が加入している労働組合か、労働者の過半数を代表する者に意見を聞きます。さらに、育児短時間勤務を申請する時期を設定することも忘れてはいけません。申請期限は企業により異なりますが、短時間勤務が適用される数週間から1カ月前が一般的です。変更後は、労働組合または代表者の意見書と就業規則を所轄の労働基準監督署長まで提出しましょう。

なお、就業規則の見直しや整備と同時に、申請方法や手続きのフローを整えることも重要です。変更後の就業規則の内容や手続きの流れは、従業員の目に触れる場所に掲示するだけではなく、しっかりと説明やアナウンスを行います。制度の対象となる従業員はもちろん、部署や役職を問わず社内全体に説明すれば、ハラスメント対策にもつながるでしょう。しかし、せっかく育児短時間勤務制度を取り入れても、勤務状況や給与への不満が生じてしまっては意味がありません。従業員の意見を反映したうえで、より利用しやすい制度作りに努めることが大切です。

育児短時間勤務の給与や社会保険

育児・介護休業法では、短時間勤務制度などの措置は義務化されているものの、短縮された時間に対する賃金の保証については規定されていません。原則として、企業には時短部分の賃金を支払う義務はないとされています。育児短時間勤務制度を導入する際は、就業規則に適用期間中の賃金や算出方法、減額についてのルールを明記しましょう。万が一、賃金に関する規定があいまいなまま制度を導入してしまうと、労使双方にとって利用しづらい状況になってしまうため注意が必要です。

なお、社会保険料は毎月の給与を基準として金額が決定するため、給与が減ると社会保険料も減額されます。しかし、減額される社会保険料はごくわずかで、短時間勤務を希望することで待遇が悪くなったと感じる従業員も多いです。そこで、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すれば、毎月の社会保険料が下がり、給与と社会保険料のバランスをとりやすくなります。また、標準報酬月額が下がると給付される年金の金額も下がり、将来の生活に不安を感じるという人もいるでしょう。そのような場合は、養育機関の従前標準報酬月額のみなし措置を受けることにより、将来の年金額が減ることを回避できます。

育児短時間勤務導入におけるメリット

育児短時間勤務を導入すると、従業員と企業の双方にメリットが生じます。まず、従業員にとってのメリットは、出産を機に退職をする必要がなくなるという点です。継続雇用が保証されることにより、出産後も安定した収入が確保できます。さらに、出産をしてもキャリアを諦めることなく、継続的なキャリア形成ができるため、キャリアアップを希望する従業員にとって、キャリアを維持できることは大きなメリットにつながるでしょう。また、企業にとってのメリットは、経験や実績、スキルのある従業員を確保できることです。

優秀な人材の退職を防ぎ、従業員の定着率を上げることができます。継続雇用が実現すれば、より労働意欲の高い人材が集まりやすくなり、業務の効率化や生産性の向上も期待できるでしょう。

育児短時間勤務導入におけるデメリット

育児短時間勤務制度には、メリットだけではなくデメリットもあります。まず、従業員側のデメリットは管理者やフルタイム労働者への負担が大きくなってしまうという点です。時短勤務が適用される従業員の業務は、フルタイム勤務の労働者に引き継がれます。そのため、社内での不公平感が生じやすく、業務の配分やバランスを見直すなどの配慮が欠かせません。また、フルタイム勤務の従業員が短時間勤務制度を利用する場合、「給与や賞与が減額される」というデメリットも想定されます。

一方、企業側のデメリットとして労働力の不足が挙げられます。万が一、不足分の労働力を社内で補えない場合は、人材を雇ったり、リモートワークなど柔軟な働き方を導入したりするなどの対策をとらなければいけません。いずれの方法もコストや時間かかるため、結果として企業の負担が増えてしまいます。

モデルケース:トヨタ

実際に育児短時間勤務制度を導入する企業も増えつつあります。トヨタ自動車も育児支援制度を積極的にとり入れている企業の一つです。トヨタ自動車では、男性、女性を問わず、ライフプランに合わせたキャリア形成を支援しています。たとえば、トヨタ自動車の育児短時間勤務制度は、出産前から小学校卒業まで適用可能です。適用期間は1カ月単位で、1日の所定労働時間を4時間、6時間、7時間のいずれかから選択できます。介護のための短時間勤務を希望する場合も同じく、3通りの労働時間を選べる決まりです。

なお、要介護状態の家族一人につき3年以内の期間、短時間勤務が適用されます。さらに、産前休暇の2カ月以上前から休職できる妊娠期休職制度や、妻の出産時に夫が最長3日まで特別休暇が付与される出産時特別休暇も魅力です。また、子どもが小学校を卒業するまで通算2~3年分の休暇を取得できる育児休職制度など、子どもを持つ従業員の労働環境を支援する制度が充実しているのも特徴といえます。

モデルケース:ソニー

ソニーでは男性、女性の双方に向けて、ライフプランに合わせたキャリア形成を支援する制度が充実しています。もちろん、育児短時間勤務制度も出産前から小学校卒業まで利用可能です。そのほかにも、より柔軟な働き方を実現する育児フレキシブル勤務や育児期フレックスタイム勤務をはじめ、子どもを持つ従業員の労働環境を支援する制度が充実しています。

たとえば、年次有給休暇を時間単位で使用したり、積立休暇を活用したりすれば、子どもが体調を崩したときにも無理なく対応が可能です。ベビーシッター費の補助も受けられます。ソニーは支援制度を利用しやすい風土を作るための取り組みにも積極的です。実際に育児に取り組んでいる女性社員とパートナーを対象に、仕事と家庭生活の両立について考える「Working Parent's Meeting」や、従業員の家族を対象に職場見学会を行う「ファミリーデー」などのイベントを開催しています。

モデルケース:全日空

全日空では、育児・看護休暇や短日数勤務制度、短時間勤務制度など、さまざまな育児支援制度を設けています。たとえば、全日空の育児短時間勤務は子どもが9歳になるまでの期間、1日の所定労働時間を5~6時間まで短縮できる制度です。また、育児短日数勤務を利用すれば、勤務日数を約5割、約7割、約8割のいずれかから選択できます。月により変動はありますが、月間の勤務日数を10~16日程度まで減らすことも可能です。

家庭の状況に合わせて年度ごとに勤務日数を選べるため、金曜日だけ勤務日を少なくするといった使い方もできるでしょう。さらに、未就学児を持つ従業員に対し看護が必要な場合に取得できる休暇を年5日まで付与する「育児看護日」という制度も実施しています。その他にも、柔軟な働き方を実現するテレワーク制度やフレックス制度、半日有給など、働き方改革に対応したさまざまな制度を導入している企業です。

モデルケース:サントリー

サントリーでは、子どもが中学校に進学するまでの期間中、1日2時間まで労働時間を短縮できる育児短時間勤務を採用しています。特定不妊治療を行う家庭に対して、最長1年の休職と最大30万円の補助が行われる妊治療サポートを導入するなど、少子化対策にも積極的です。また、共働き家庭に向けて1日1700円の費用補助が付与されるベビーシッター利用補助を実施しています。

さらに、子どもの年齢や事由に関係なく、フレックス勤務やテレワーク勤務といった柔軟な働き方が可能です。育児短時間勤務の利用者やテレワーク勤務の従業員は年々増加傾向にあり、仕事と家庭生活が両立しやすい職場環境が整っています。勤続3年以上の退職者のうち、退職時に登録した従業員を再雇用の対象とするジョブリターン制度を導入しているのも大きな特徴です。

育児短時間勤務の課題と対応

厚生労働省が実施した「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業」では、育児短時間勤務制度に対する満足度も調査されています。制度を利用した労働者のうち、内容や待遇が「不満」または「どちらとも言えない」と答えたのは全体の2割程度です。実際に育児短時間勤務を導入したとしても、すべての従業員の希望をかなえることは難しいでしょう。「働く場所や仕事があるのか」という復職者の不安や上司の無理解から、育児短時間勤務制度を利用した途端に適正な労働力として認識されなくなってしまうケースも考えられます。

育児短時間勤務制度を職場に浸透させるためには、まずは同僚や上司などの理解を求め、時短勤務を実践しやすい職場環境を整えることが重要です。また、上司は従業員が置かれた状況を理解したうえで、マネジメントを行う能力も求められます。さらに、育児短時間勤務を利用する従業員の評価や処遇、キャリアマネジメントまで考えた制度設計も必要です。

育児短時間勤務を整備して優秀な人材を確保しよう

育児短時間勤務制度を導入する際は、制度を利用する従業員や、周囲の従業員の感じ方について十分な配慮が必要です。制度を正しく運用できなかったり、従業員の能力を正当に評価できなかったりすると、従業員の間に不安や不信感が生じてしまいます。結果として、退職する従業員が増えてしまう可能性もあるのです。優秀な人材の確保するためにも、就業規則や職場環境を整備し、従業員が利用しやすい制度を構築しましょう。

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