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2019.8.13

コアコンピタンスを確立する方法!概要と事例

近年注目されているコアコンピタンスですが、どういう意味かよくわからない人が多いです。企業が安定した経営を実現するためには、コアコンピタンスを確立する必要になります。しっかりとコアコンピタンスを確立した企業こそ、絶えず市場から求められる企業です。
この記事では、コアコンピタンスの概要や事例、確立する方法などについて解説し、コアコンピタンスについての理解を深めます。

コアコンピタンスとは?自社の核となる技術や特色

コアコンピタンスとは、技術や特色などその会社の経営の核を表した用語です。会社で多くの事業を維持・成長させていくためには、コアコンピタンスに対する知識の有無が非常に大切になります。そもそもコアコンピタンスは、『コアコンピタンス経営』という経営学者のゲイリー・ハメル氏と元米ミシガン大学ロス経営大学院教授のC・K・プラハラード氏によって提唱された概念です。『コアコンピタンス経営』におけるコアコンピタンスは、他社が提供できない商品やサービスなどを自社だけが市場にもたらせる、独自スキルの集合体を意味しています。
もっと簡単にコアコンピタンスを説明するなら、自社ならではの強みを指します。この場合における強みは、会社が抱える事業ひとつひとつが持つ特定の機能にある強みです。自社のコアコンピタンスを適切に見極められると、設備投資のタイミングを逃さずに実施できたり、商品やサービスが陳腐化する前に対策を打てたりします。一度コアコンピタンスを定義して満足するのではなく、絶えずコアコンピタンスを再定義して更新することが事業経営を成功させるためには必要不可欠です。

3つの条件を満たすコアコンピタンス

コアコンピタンスを考えるうえで、顧客に利益をもたらす能力、他社から模倣されにくい能力、複数の商品や分野に応用できる能力の3つの有無がポイントになります。この3条件をすべて満たした自社能力がコアコンピタンスです。

顧客に利益をもたらす能力

会社だけでなく、提供する商品やサービスが顧客にとっても何らかの利益を感じられるものでなければいけません。顧客に利益をもたらす能力の有無は、販売数やリピート数などから把握できます。

他社から模倣されにくい能力

自社が提供する商品やサービスが他社に簡単に真似されるなら、その技術は自社の武器にならず、将来性もありません。競合者は常に市場を分析し、自社に応用できないか日々考えています。どれだけ新しいものでも他社に模倣されてしまえば、市場での優位性はすぐに失墜します。手に入れることが難しい力ではありますが、一度確立すればコアコンピタンスの大きな核になるのが他社から模倣されにくい能力です。

複数の商品や分野に応用できる能力

多分野に応用できる技術である必要があります。例えば、顧客満足が高く、他社からの模倣困難性が高い技術を自社だけが持っていて、その技術を使ってある商品を作り続けるとどうなるでしょうか。あるタイミングで市場からその商品の需要がなくなれば、会社はコアコンピタンスの技術の使いどころを失います。自社の核となる技術や特色がなくなるのは、会社にとって大きな痛手です。よって、一つの商品や分野だけでなく、複数に応用できる能力であることが重要です。
以上の3つの条件を照らし合わしながら自社の核を見極めましょう。

コアコンピタンスを見極める5つのポイント

コアコンピタンスを見極めるうえで、移動可能性(Transferability)、模倣可能性(Imitability)、希少性(Scarcity)、代替可能性(Substitutability)、耐久性(Durability)の5つが重要なポイントです。この5つの視点か自社の商品やサービス、得意な分野などが自社経営の核としてふさわしいのかを判定して、コアコンピタンスを定義づけます。

移動可能性(Transferability)

移動可能性は、特製の分野や製品・サービスだけではなく、他の製品や分野に柔軟に応用ができるか否かで評価します。自社の持つ技術を幅広くいろいろな製品などに展開できると、さらなる事業拡大の可能性が見いだせます。汎用性の高い技術は他社にとっては脅威です。応用の幅があるほど、市場に絶えず素晴らしい商品やサービスを市場に提供し続けられます。

模倣可能性(Imitability)

模倣可能性は、自社の製品などを他社が真似できるかという視点で評価します。せっかく自社ならではのスキルがあっても、他社に簡単に模倣されると市場での優位性はすぐに失われます。模倣可能性が低いほど市場での競争優位性を長く保てます。自社ならではのスキルをそのまま使うのではなく、いかに真似されない工夫ができるかが大切です。

希少性(Scarcity)

希少性は、他にない希少価値があるかどうかという視点で自社の製品などを評価します。希少性が高いほど、自社にとって強い武器になります。市場において、技術や特性が持つ珍しさは評価の対象です。

代替可能性(Substitutability)

代替可能性は、自社の製品などが他で置き換えられないものあるかという視点で評価します。代替可能性が高いほど自社の商品やサービスが特異で、市場からの注目を集められるかに関わってきます。ユーザーにとって唯一無二であることが大切です。

耐久性(Durability)

耐久性は、競争優位性を長く維持できるかという視点で自社の製品などを評価します。市場で一度ヒットしてもその勢いが継続できなければ、すぐに陳腐化します。常に新発見が生まれる時代なので、製品やサービスなどの耐久性は低くなりやすい傾向です。こうした背景がある中で高い耐久性を持つ製品やサービスを自社の核にできるのは非常に貴重です。

コンピテンシーの概念とは?

コンピテンシーとは、判定基準と相対的に判定した際に一定の水準を満たしている、または超えているものです。もっと簡単に説明すると、与えられた業務をこなす力が高い人たちに共通する行動の特徴がコンピテンシーです。米ハーバード大学の心理学者D.C.マクレランド教授によって生まれたコンピテンシーは、日本でも近年注目を集めていて、就職採用活動などに活用されています。
ただし、ある技術や知識、ブランド力がコンピテンシーになるか評価する際は、市場調査で正しく分析し、判定基準を設定する必要があります。技術や知識、ブランド力が一般的なものでなければそれを評価基準にするのは不適切なので、入念な市場調査が必要です。
コアコンピタンスとコンピテンシーは響きが似ているため、意味を混同されやすい言葉ですが、それぞれが表す内容は大きく異なっています。コアコンピタンスは自社の核となる技術や特色、コンピテンシーは人物の業務を遂行するうえで共通する行動の特性なので、きちんと区別して使い分けてください。

ケイパビリティの概念とは?

ケイパビリティにもコンピテンシー同様に「能力」という意味がありますが、その他に「才能」「性能」「手腕」「素質」「将来性」「戦闘能力」など多くの意味を兼ね備えています。コンピテンシーよりもケイパビリティのほうが能力に含まれるものの幅が広いのが特徴です。また、ケイパビリティの能力にコンピテンシーのような具体的な評価基準がありません。自社にとって評価すべき何らかの力があれば、それをケイパビリティと認識できます。よって、ケイパビリティとは「何かを実現し、遂行するために必要な環境や力」だと言えます。
具体的には、海外市場とのつながりや敏感に市場の情報を収集する力などがケイパビリティです。特にバリューチェーンにおいては、市場に広く通用する組織能力を意味しています。
コアコンピタンスとケイパビリティの意味の違いを理解していない人が多いですが、明確に違います。ケイパビリティの中で、自社の経営の核になりうる能力がコアコンピタンスです。

複数のケイパビリティで構成されるコアコンピタンス

コアコンピタンスは複数のケイパビリティで構成されています。会社は経営の核であるコアコンピタンスを支柱に、いくつものコンピタンス(コンピテンシー)が存在することで成り立っています。また、コンピタンスは成果物の一つです。これを形成する素材としてたくさんのケイパビリティが存在しています。
つまり、ケイパビリティの集合体がコアコンピタンスだと言えます。多くのケイパビリティの中で、自社の経営に核にできる強いものがコアコンピタンスです。コアコンピタンスを形成したり維持したりするには、社員や技術力などのさまざまなケイパビリティの存在が非常に大切です。ケイパビリティなくしてコアコンピタンスは確立できません。
コアコンピタンスとケイパビリティの意味は異なります。しかし、お互いに密接な関わりがある言葉だとわかったことでしょう。ケイパビリティの中で特異なものがコアコンピタンスとして抽出されます。もちろん、コアコンピタンスになりえなかった他のケイパビリティは不要ではありません。どちらかだけが必要というわけではなく、どちらも経営をするうえで非常に大切です。

コアコンピタンス経営の進め方

コアコンピタンス経営の進め方について説明します。大まかな流れは、長期的なビジョンを確立してコアコンピタンスを抽出し、条件を照らし合わせて妥当性を判断します。

会社の長期的なビジョンを具体的に持つ

コアコンピタンスの形成は長い時間が必要です。一般的には5~10年、場合によってはそれ以上の時間がかかるケースがあるので念頭に置いておきましょう。コアコンピタンス経営は即効性のある経営手法ではありません。自社の核を定めるにはそれ相応の時間がかかります。これを踏まえたうえで会社の具体的なビジョンを形成してください。

自社ならではの強みであるコアコンピタンスを確立する

会社の長期的なビジョンをしっかり定めて、将来の姿を具体的に考えながら、理想の未来を実現するために必要なケイパビリティを高めていきます。時間がかかるかもしれませんが、少しずつ自社の経営の核になるコンピタンスに発展させていきましょう。このプロセスを順調にこなせれば、自社のケイパビリティの中からコアコンピタンスを確立できます。コアコンピタンスの選定は、今後の自社の経営に大きく関わる重要な作業の一つです。焦って判断するのではなく、時間をかけて慎重に行いましょう。

抽出した複数のコンピタンスに定義の3条件を照らし合わせて選定する

先に説明した、顧客に利益をもたらす能力、他社から模倣されにくい能力、複数の商品や分野に応用できる能力の条件に確立したコアコンピタンスが該当するか否か判断します。3つの条件をより高水準でクリアしたものをコアコンピタンスにするといいでしょう。

コアコンピタンスの活用事例

1.ホンダ

コアコンピタンスの活用事例の1つ目として、ホンダの事例について説明します。
1960年代後半頃から自動車の排気ガスが問題視されるようになり、1970年に大気浄化法改正法(マスキー法)が施行されました。これにより、販売する自動車はとても厳しい基準に合格したものしか販売できなくなりました。世界の自動車メーカーが反発する中、ホンダは低公害のエンジンを開発して世界を驚かせます。
そのころホンダは他の自動車メーカーに遅れをとっていましたが、この窮地をチャンスにとらえてアプローチしたことが大きな転換となり、今では世界に認められる自動車メーカーになりました。ホンダはその後このエンジン技術を応用して、さまざまな大きさのエンジンや用途に合わせて高性能な製品を作るコアコンピタンスを確立しました。これによってホンダは自動車だけでなく、オートバイや除雪機など幅広い製品を手がけるようになりました。
これは、ホンダが持っていた技術に複数の商品や分野に応用できる能力があったから成功した事例です。低公害のエンジンを開発しただけで終わらずに、別の分野でも生かした点が市場での優位性を獲得できた要因です。

2.ソニー

コアコンピタンスの活用事例の2つ目として、ソニーのコアコンピタンスの事例を説明します。ウォークマンで有名なソニーですが、以前は販売する電化製品はどれも重くて大きすぎると、家庭用として購入する人は少ない状況でした。販売価格も高く、国会などで速記記録の補助として使われていた国産テープレコーダーは、16万円もしました。高価すぎる機械は一般家庭で購入することはできず、思うように売り上げが伸びなかったのです。
そうした中、ソニー創業者であり当時の社長である井深大社長の口癖「テープレコーダーをもっと小さくできないか」という思いが社内全体に浸透し、そこから機械の小型化を目指すコアコンピタンスが確立されました。こうして誕生した商品が、重さわずか390gの音楽再生プレイヤーであるウォークマンです。当時の日本にとって軽くて小さいウォークマンの希少性は絶大なるものでした。現代では軽い機械が一般的ですが、軽量化の波を生んだのはソニーだと言えます。

3.シャープ

コアコンピタンスの活用事例の3つ目として、シャープの事例について説明します。実はシャープは元々、主にシャープペンシルを製造していた会社です。始まりはシャープペンシルでしたがコンピュータや家電事業に関わっていく中で、電卓から液晶パネルを製造することになりました。シャープペンシルの製造から打って変わっての製造ではありましたが、液晶パネルの将来性を感じ取ったシャープは疑う事無く何度も研究を重ねて突き進むことで、コアコンピタンスの確立を見事に果たしました。
現在では、シャープペンシルのイメージよりも優れた液晶パネルを作る会社としてシャープは世界に知られています。コアコンピタンスは自社が持つ技術を発展させて確立する方法だけでなく、新しい市場に参入して確立することもできます。時には大胆な意思決定が必要だと痛感させられる事例です。電卓液晶パネルを作成した技術を他の複数の商品や分野に応用できる能力が功を奏して、コアコンピタンスが得られたと言えます。

4.富士フィルム

コアコンピタンスの活用事例の4つ目として、富士フィルムの事例について説明します。携帯電話やデジタルカメラで写真を撮る人が増えたことで、カメラフィルムを製造する富士フィルムは売り上げが急速に減少しました。この市場の変化に富士フィルムはのまれることなく、迅速に舵を切って美容・医療業界に参入しました。
まったく違う業界に参入したように感じますが、フィルムと美容・医療には共通する技術が2つあります。それがマイクロレベルの精密技術と高品質なコラーゲンを作る技術です。コラーゲンは人の肌や骨などを作るタンパク質の一つで、美容や医療の業界で重要視されていると知る人は多いですが、実はフィルムにも使用されています。カメラフィルムに使われるコラーゲンは食用のものと比較してとても純度が高く、劣化にも強い性質を持っています。富士フィルムはすでにこの技術を持っていたので、フィルム市場から美容、医療など全く違う分野に応用することに成功しました。
自社のコアコンピタンスの移動可能性に気づき、勇気をもって新しい業界に挑戦できた点が富士フィルムの評価すべきところです。

安定した利益に直結するコアコンピタンスの確立!

コアコンピタンス経営とは、経営資源を生かし、育てるという経営手法です。この経営手法を導入するうえでの注意点は、すぐに効果が得られるわけではないことです。自社のコアコンピタンスになりうるものがあれば比較的短い期間で効果が得られる可能性はあります。しかし、ケイパビリティの中にコアコンピタンスがない場合は、より一層時間が必要です。5~10年後を見据え、長期的な展望を持って自社の経営を行う必要があります。
コアコンピタンスを確立することによって、企業の安定した利益に繋がります。重要なのは、一度確立されたコアコンピタンスを定期的に見直すことです。技術革新などいろいろな要因で市場からのニーズはすごいスピードで変化します。その変化に気づかないで何も対応せずコアコンピタンスを貫くと、市場で長く優位性を保つことはできません。時間はかかりますが、コアコンピタンスの見直しは長期的な経営を考えると非常に重要な意味を持っています。近年注目を集めているコアコンピタンス経営をいち早く自社に導入してはいかがでしょうか。

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