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2020.2.25

生産性向上とは?測定方法やメリット・取り組み方を紹介

日本の労働生産性が国際的に低下する中、企業が持続的に成長していく方法として生産性向上が注目されています。人手不足や働き方改革への対応も求められており、生産性向上は重要な経営課題の一つです。国でも各種助成金・補助金を用意して、生産性を高める企業を支援しています。しかし、生産性の確認方法や業務の見直し方がわからないという方も多いのではないでしょうか。

この記事では生産性の指標を測定する方法や生産性向上への取り組み方、企業が得られる生産性向上のメリットについて紹介します。

生産性向上とは

生産性向上とは、企業が経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を最大限に活用して収益を増やしたり、商品・サービスの価値などの成果を高めたりする取り組みです。言いかえると、少ないインプット(経営資源)でアウトプット(成果)の最大化を目指す施策といえます。

生産性は以下の計算式で表現できます。値が大きいほど仕事の効率が良い状態です。

生産性=アウトプット÷インプット

例えば、10時間で200万円分の商品を生産した場合は生産性は20(200÷10=20)です。しかし、生産にかかる時間を8時間に短縮できれば生産性は25(200÷8=25)に向上します。

また、生産時間の短縮に加えて、商品の改良などで価値を240万円分に高められた場合は、生産性は30(240÷8=30)に高まります。つまり、商品の生産やサービスの提供にかかる時間を短縮したり、同じ時間で成果物の価値を高めたりすることで、生産性を向上できるのです。

業務効率化との違い

業務効率化は、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」を減らして、業務のスピードアップとコスト削減を目指す取り組みです。取り組みの結果がすぐに生産性の向上に反映されるとは限りませんが、業務プロセスの改善によって業務に余力が生み出されます。

企業努力として、社内の教育研修を充実させて従業員個人のスキルを高めたり、業務をオートメーション化して人手による作業を減らしたりする企業も多いでしょう。近年では、オフィスワークの定型業務をシステム化するだけでなく、操作そのものを自動化するRPAツールを導入する企業も出てきました。

こうした努力で生産に投入する資源(インプット)を少なくすると、生産性が向上していきます。ただし、商品・サービスの付加価値を高めても生産性は向上するため、業務を効率化することで必ずしも生産性向上を実現できるとは限らない点にも留意が必要です。業務の効率化は、あくまでも生産性を向上させる手段の一つと考えるのがよいでしょう。

生産性向上の目的

手当たり次第に生産性向上に取り組んでも、高い効果は期待できません。どのような目的で企業の生産性を高めたいのかを明確にしておくことが大切です。多くの企業で経営課題として位置づけられている、人手不足への対応と、国際的な競争力強化の2つの視点から生産性向上の目的について考えてみましょう。

労働力人口の減少に対応するため

日本の総人口は年々減少しており、少子高齢化も進んでいるため労働力人口も少なくなる見通しです。転職する人や副業・フリーランスといった柔軟な働き方を選ぶ人も増えていることから、人手不足に悩む企業は今後増えていくでしょう。既に、一部の中小企業では人手不足により、倒産やM&Aの選択を余儀なくされています。

企業が持続的に成長するためには、少ない労働力の中でも従来どおりのアウトプットを出し続けること、または高い成果を上げていくことが求められます。そのため、生産性を向上させる施策が求められているのです。

国際的な競争力をつけるため

日本の時間当たり労働生産性はOECDに加盟している37カ国中21位と低迷しています(※1)。また、生産性を含むビジネス効率性の順位は2015年から大幅に順位が下がっており(※2)、日本の国際的な競争力の低下が浮き彫りになっています。一方、良質なインフラや熟練した労働力といった、生産性を向上させるポテンシャルは高い傾向です。

グローバルにビジネスを展開する企業にとって、労働生産性の高い国との競争に生き残るためには生産性の向上が必須といえます。国内だけでビジネスを展開する企業も外資系企業との競争にさらされる可能性があるため、生産性向上の対策を講じておく必要があります。

※1 公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」

※2 国際経営開発研究所(IMD)「世界競争力年鑑2020」

3つの生産性の指標と計算式

生産性を数字で見える化しておくと、生産性の変化が一目でわかります。生産性の指標はさまざまですが、働く人のパフォーマンスを確認したい場合は「労働生産性」という指標を使うのが一般的です。技術革新や業務効率化を加味した指標である「全要素生産性(TFP)」が用いられることもあります。生産性を表す3つの指標と、それぞれの計算式を紹介します。

付加価値労働生産性

付加価値労働生産性とは、労働者1人あたりが生み出した付加価値の高さを表す指標です。チームあるいは会社全体が1時間で生み出した付加価値も算出できます。付加価値は粗利と同じ意味で、売上高(生産額)から仕入額や材料費などの原価を引いた額です。

付加価値労働生産性は以下の計算式で算出できます。

・1人あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷労働者数

・1時間あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷(労働者数×労働時間)

付加価値は生産の成果として人件費はもちろん、出資者への配当・資本の増強にも当てられるため、生産性を測定する一般的な指標として用いられます。

物的労働生産性

物的労働生産性とは、労働者1人あたりが生産・販売した商品の量、または提供したサービスの量を算出する指標です。1時間あたりの生産性も算出でき、市場の価値にとらわれずに作業効率を純粋に把握できます。売上額を指標にしたい場合は、生産量を金額に置き換えます。

物的労働生産性は以下の計算式で算出できます。

・1人あたりの物的労働生産性=生産量÷労働者数

・1時間あたりの物的労働生産性=生産量÷(労働者数×労働時間)

算出された指標は、設備投資の必要性や品質管理の判断基準としても用いられます。

全要素生産性(TFP)

全要素生産性(TFP)とは付加価値労働生産性に加え、ITをはじめとする技術の進歩や、労働者のスキル向上といった質的な成長要因を考慮した指標です。算出するにはコブ=ダグラス型生産関数などを用いた複雑な計算が伴いますが、生産性の伸び率を把握できます。労働分配率や資本分配率を加味した上で、経済成長の指標としても用いられます。

生産性とモチベーションの関係性

従業員のモチベーションの変化も、生産性に影響を与える要因の一つです。人間関係や職場環境が良好だとモチベーションが高まり、チーム全体で目標を達成する意識も芽生えて生産性も向上します。反対に,

周囲との関係性や職場環境が悪ければ、十分に能力が発揮できないばかりかモチベーションも低くなり、結果的に生産性も悪化するでしょう。

個人のスキルや経験も、チームや企業の生産性に影響する場合もあります。そのため、社内教育によって従業員のスキルアップを図るだけでなく、従業員を適材適所へ配置することもモチベーション維持や生産性向上の観点で重要です。従業員のモチベーションが高く保たれていれば、後述する生産性向上の取り組みもスムーズに進められます。

また、同じ従業員でも体調やプライベートの事情などが原因で生産性が変化する場合もあります。上司・リーダーが従業員とこまめにコミュニケーションを取ることで、モチベーションへの影響が軽減され、生産性のむらも抑えられるでしょう。

生産性向上のメリット

生産性の向上が実現できれば、企業の収益が増加するだけでなくさまざまなメリットが生まれます。ここでは生産性向上で企業が得られる3つのメリットについて解説します。

人手不足に対応できる

生産性を向上させると、同じ仕事を短時間で完了できるため、欠員が生じたとしても業務への支障が少なくなります。仮に退職者が出たとしても、残ったメンバーの負担が大きくなる事態を回避でき、モチベーションへの影響も少なくなるでしょう。既存のメンバーで業務を回せれば、欠員補充を急いで無理な採用活動を行うリスクも軽減できるかもしれません。

また、生産性が向上することで、残業時間の削減や年次有給休暇の取得促進といった働き方改革にもつながります。ワークライフバランスが充実して従業員満足度が高まった結果、退職率を抑えられるのもメリットです。

競争力の向上につながる

高い生産性を実現できれば商品・サービスの質を高める余力が生まれ、国際的な競争力の向上につなげられます。他社には真似のできない機能を商品に追加したり、充実したサービスを提供したりする差別化戦略を推進することで、国内の競合他社との競争でも優位に立てるでしょう。

その結果、価格競争に巻き込まれずに、高収益化を実現できる可能性も生まれます。新たな商品・サービスを生み出して、企業の知名度・ブランド力を高めることも可能です。

コスト削減ができる

生産性が高まると、従来より短時間で成果が出せるようになるため、コストの削減につながります。時間外労働が減れば、従業員に支払う残業手当・休日出勤手当や光熱費も抑えられ、企業の収益が高まります。

さらに、削減できたコストを従業員の昇給・賞与として分配すれば、モチベーション向上にもつながるでしょう。最新の機器類を導入することで更なる生産性向上のチャンスが生まれるなど、コスト削減と生産性向上は密接な関係にあるといえます。

生産性向上の取り組み

生産性向上の取り組みは、現在行っている業務内容の見直しと、従業員の能力開発を軸に進めていくのが一般的です。国でも補助金・助成金制度を設けて、生産性向上に取り組む企業を支援しています。生産性向上の取り組み方について、詳しく解説します。

業務を可視化し課題を抽出する

現在の業務を洗い出して見える化した上で、解決すべき課題を整理することが生産性向上に取り組むための第一歩です。

・業務の流れや所要時間

・従業員の能力・意欲

・従業員ごとのパフォーマンス状態

・業務効率化のボトルネック

・従業員の不足スキル

上記などを現場で確認したり、関係者にインタビューしたりして分析していきましょう。

業務の全体像が明らかになったら、コア業務とノンコア業務に分類します。コア業務は企業経営に欠かせない基幹的な業務で、収益を確保するために人員をはじめとする経営資源を十分に注ぎ込む必要があります。一方、ノンコア業務は、コア業務をサポートする業務である程度パターン化されているのが特徴です。システム化やアウトソーシングを進めやすい領域ともいえます。

経営層で完結せずに現場全員の意見を聞くことが、多くの視点で業務を精査するためには大切です。

無駄な業務を省く

コア業務・ノンコア業務の分類と現状の課題整理ができたら、効率化できる業務と無駄な業務に分類します。

付加価値を高めて生産性を向上させるためには、アウトプット(成果)を最大化するため無駄な仕事を省くのが効果的です。

無駄な仕事とは、不必要な承認作業や慣習で続いてきた業務など、実際に作業を実施しても付加価値を生み出さない業務のことをいいます。無駄な仕事はインプット(経営資源)を浪費し、生産性を下げてしまう原因となり得ます。たとえ効率化を進めたとしても結果は変わらないので、「しなくてもいい仕事」と割り切りましょう。

一方で、何も生産していないように見えても、廃止してはいけない業務がある点に注意が必要です。人事・経理といった間接部門(バックオフィス)やマネジメント業務は付加価値を生み出しませんが、企業を運営する上では欠かせません。給与計算・勤怠管理や目標管理・人事評価など、システム化できる業務は効率化することをおすすめします。何が無駄で、何が必要なのかは、個別によく検討したうえで判断する必要があります。

仕組み化をして業務効率化する

生産性を向上させるためには、生産性を下げている業務に着目して問題点を取り除く必要があります。特に、ミスなどに伴う仕事のやり直し(手戻り)は、生産性を大幅に下げる原因となるので注意しましょう。手戻りを減らすためにはミスの発生を減らす工夫だけでなく、早い段階でミスに気づく仕組みを作るのも効果的です。ミスに気づく仕組みを作るためには、業務のプロセスを細かく分析してミスが発生する業務やタイミングなどを見極める必要があります。

業務プロセスを分析して改良を続けるPDCAサイクルが継続していけば、生産性向上で生まれた余力を新しい業務に振り分け、さらに生産性を高められるという好循環が生まれます。生産性を定期的に測定して、改善の成果を数値で確認する習慣を付けるのがポイントです。仮にミスが発生した場合は結果について批判するのではなく、再発防止などの改善に向けた学習の機会にできる企業文化を育てていけば、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。

テクノロジーやツールで自動化する

必ずしも人が対応しなくてもよい業務は、ITツールやテクノロジーを駆使して自動化すると生産性向上につながります。

例えば、誰でも行えるような単純作業や手順が定型化されたルーティンワークなどは、ソフトウェアやシステムを活用して自動化・省力化できるかどうかを検討してみるとよいでしょう。自動化や省力化によって生み出される付加価値を維持したまま、別の業務に余力を振り向けることが可能になります。なお、パソコンで実施している定型業務の手順をロボットで自動化する「RPAツール」も販売されています。

一方、業務上のコミュニケーションは必ず人が行わなければ意味がありません。電話や電子メールでの連絡をチャットツールや社内SNSに切り替えれば、スピーディーに情報が伝わるだけでなく、関係者との情報共有も促進されます。その結果、本質的なコミュニケーションに集中できるようになるかもしれません。

業務の無駄を省いた後は、本当に必要な業務だけが残ります。効率化を進めることで生産性が向上する業務なので、業務の進め方や人手の配分を十分に考えるようにしましょう。また、業務効率は従業員ごとの能力によって大きく変わるため、個人のスキルアップを図ることはもちろん、人材を適材適所に配置することも有効な施策となるでしょう。

人材育成をする

企業全体の生産性を高めるには、人材育成が欠かせません。高い生産性を発揮できる環境は従業員一人ひとり異なるため、能力や希望に応じてスキルアップの場を設けることが大切です。個人がスキルアップすると作業の効率や精度が高まり、チーム全体のパフォーマンスにも反映されるでしょう。

キャリアアップに関する考え方や将来の理想像について話し合いながら育成計画を立てれば、自己実現と同時に生産性向上も実現できます。

適材適所に人材を配置する

生産性を向上させるには、適材適所の人材配置が必須です。従業員の能力が発揮できれば仕事へのモチベーションが向上するだけでなく、さらに高い成果を出そうと挑戦する気持ちが芽生えます。周囲のメンバーも刺激され、チーム全体の生産性向上にもつながるでしょう。人材配置を検討する際は、従業員のデータを分析しながら最適な配置をシミュレーションできる、タレントマネジメントシステムを活用するのも一つの方法です。

働き方改革とリンクさせて取り組む

働き方改革関連法の施行に伴い、2020年4月以降は残業時間が基本的に年間360時間以内、特別な事情がある場合でも年間720時間以内に規制されています。また、一部の例外を除いて年に5日間は従業員に有給休暇を取得させる義務があるほか、2022年4月からは妊娠・出産を届け出た従業員に対し育児休業の取得の働きかけも義務化されます。そのため、働き方改革とあわせた生産性向上の取り組みが企業にとっては急務です。

単純に労働時間を短縮したり有給休暇の取得率を高めたりするだけでは、生み出される付加価値が少なくなってしまいます。選択型週休3日制の導入に向けた議論も始まっており、限られた人員で従来以上の成果を出すことが求められているのが実情です。育児・介護休業では、従業員が勤務しない期間が長くなるため、業務の効率化などを進めておかないと企業運営に支障をきたす恐れもあります。

生み出す付加価値を保ったまま残業時間を減らし、さらに多様な働き方に対応するためには、生産性向上が必要不可欠です。厚生労働省も「生産性向上事例集」を公開するなど、生産性向上の必要性を訴えています。働き方改革への対応と生産性向上をうまくリンクさせて、企業全体で取り組んでいくとよいでしょう。

生産性を向上させて競争力のある企業を目指そう

国際的な競争力を高めながら企業が持続的に成長していくためには、生産性向上が必要不可欠です。今後は労働力人口が減少するため、人手不足の対策としても生産性向上は注目されています。

生産性は、労働者の数や粗利の額などから簡単に測定できるため、成果が一目でわかります。適材適所の人材配置はもちろん、業務の効率化や自動化を進めることで生産性の向上が実現するでしょう。定期的に業務の流れを改善するのも効果的です。生産性向上への取り組みを積極的に行い、企業の価値と競争力を高めていきましょう。

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