働きがいを応援するメディア

2019.7.18

みなし残業は適法なのか?知っておくべき仕組みや注意点

定例業務として事務作業に負担を与えやすい残業代の計算などを効率化する手段として、みなし残業の導入を検討する企業が増えています。ただし、実際に導入する際には、みなし残業についてきちんと理解しておくことが必要です。事前の正しい理解が、従業員とのトラブルや法律違反などを防ぐことにもつながります。そこで、この記事では、みなし残業の条件や仕組み、残業代を支給する必要がある場合などについて詳しく解説します。

みなし残業とは?

みなし残業とは、残業を一定時間行ったとみなして、従業員に賃金を支払う制度です。実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ決められている一定時間分の残業代を、賃金や手当のなかに含ませて支払います。事前に決められた残業時間に、実際の労働時間が満たなかった場合でも、原則として残業代に変わりはありません。たとえば、実際には30時間残業していない場合でも、みなし残業に関する契約において「月30時間の残業を含む」と設定されていることで支払われる手当はみなし残業です。
また、月の基本給が26万円であった場合、通常であれば残業をすると26万円に残業代が上乗せされた給与が支給されます。しかし、「月給26万円に固定残業代として20時間分にあたる4万円を含む」といったみなし残業の取り決めが事前に定められていたら、残業をしても20時間以内であれば26万円のみの支払いが基本です。このように、みなし残業は、実際の労働に関わらず一定の金額で固定して支払われる残業代であることから「固定残業制度」や「定額残業制度」ともいわれています。

みなし残業が適法となる条件

みなし残業は一定の条件を満たしていないと違法とみなされることがあるため注意が必要です。みなし残業が適法となる条件の1つ目として、基本給と残業代の設定に明確な区別があることが挙げられます。そもそも、基本給とは、その名のとおり給与の基本の部分となる賃金のことです。一般的に、支給される給与には、通勤手当や住宅手当など各種手当が含まれています。基本給とはそれらの手当を除いた賃金です。
一方、残業代は、給与支給の際に基本給に加えられる手当の1つです。通常の労働時間の賃金にあたる基本給と時間外の割増賃金にあたる残業代とは、あくまでも別の賃金となるため、みなし残業を導入する際にもその違いを明確にしておくことは重要となります。たとえば、採用の募集要項や雇用契約書などで「みなし残業手当30時間分を含む」といった記載を加えるだけでは、実際にみなし残業がいくらであるかがわからないため正しい記載とはいえません。30時間分のみなし残業手当の固定金額を明記することも求められます。
次に、2つ目の条件となるのが、みなし残業を従業員に明示し承諾を得ていることです。みなし残業は重要な労働条件であり、労働条件は労働者本人に明らかにしなければいけないと労働基準法にも定められています。みなし残業が労働条件に含まれていることを従業員に明らかにしていることを具体的に示すためには、あらかじめ就業規則に記載するか、個別の労働契約に明記することが必要です。さらに、3つ目として、みなし残業について明記されている就業規則は、すべての従業員に周知されていなければいけません。そもそも、労働基準法では、事業主に対して就業規則の周知義務が課されています。就業規則は作成するだけでは十分な効力は発することはできず、すべての従業員に公表することで初めて効果が発揮されるものです。

みなし残業の仕組みとは?みなし残業時間と実労働時間

みなし残業を採用している企業は従業員に対して、決められた一定時間の範囲内における次の3つの賃金については支給しないことが一般的です。具体的に3つの賃金とは、「週40時間を超える割増賃金」「深夜割増賃金」「休日割増賃金」となります。労働基準法では、1日に8時間、1週間に40時間までを法定労働時間と定め、それを超える労働は時間外労働です。法律では、時間外労働があった際には残業代の支払いをすることが義務付けられています。加えて、時間外労働への賃金は割増賃金を支払うことが必要です。また、同じく、夜10時から朝5時までの深夜の時間帯や休日の労働に対しても、通常の労働とは異なる心身への負担があるとし、割増賃金を課すことが労働基準法で定められています。ただし、みなし残業時間として定めている一定の時間分に関してはこれらの割増賃金の支払いを必ずしも必要としません。
しかし、注意しなければいけないのは、みなし残業時間とされている一定時間分を過ぎた労働が行われた場合です。一定時間を過ぎた残業時間に対しては、会社側が従業員へ残業代を支払わなければいけないとされています。また、実労働時間が、みなし時間に満たなかった場合も気を付けなければいけません。実際に残業していない場合であっても、あらかじめ、みなし時間として定めた時間が優先となり、みなし残業代として決めていた金額の全額を支払うことが必要です。

みなし残業は法律上は「みなし労働時間制」

「みなし残業」という言葉は一般的には多く使用されてはいるものの、法律上には存在していません。法律のうえでは「みなし労働時間制」といいます。そもそも、みなし労働時間制とは、会社側が従業員の労働時間を正しく把握することが難しく、労働時間を算定することが困難である場合に向けて用意された制度です。従業員の労働時間の算定をせずに、一定時間労働したとみなすことができるようにされています。そのため、制度の対象となる業務は、たとえば、1日の多くを社外で過ごすような外回りがメインとなる営業職です。ほかにも、具体的にどのように仕事を進めるかについて従業員本人に裁量を任せているような業務も対象となります。
一方、社外で大半を過ごすような業務であっても、みなし労働時間制の対象外となるケースもあるため注意が必要です。たとえば、通常、指揮を執る管理者が一緒に行動していない場合でも、代わりに業務の指示を与える人がいる場合には、労働時間を把握することができるため制度を適用することはできません。また、一緒に行動していなくても常時業務に対する指示を受けられる状態であれば、労働時間を管理することは可能とみなされます。さらに、社外業務に従事する時間について事前に具体的な指示を受け、その通り実行した場合にも、労働時間の算定は可能となるため対象外です。

みなし労働時間制の3つの種類

みなし労働時間制は大きく3つのタイプに分けられます。具体的には、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」「専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制」「企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制」の3種類です。まず、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」とは、社外で働いていることで労働時間を把握できないため、あらかじめ定めた一定時間を労働時間とみなすことができる制度をいいます。次に、「専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制」とは、法律で指定されている専門業務を対象とした制度です。一定の業務を遂行するための流れや時間配分などについて裁量を委ねられた従業員の労働時間を一定の時間にみなすことができます。
最後に、「企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制」とは、企画業務などにおいて業務の遂行における裁量を任された従業員の労働時間を一定の時間にみなすことを可能としている制度です。3つのうち、専門業務型裁量労働と企画業務型裁量労働は、ともに裁量を従業員に委ねていることで労働時間が把握できない状態となっているため、裁量労働制に該当します。

事業場外みなし労働の適用基準とは?

事業場外みなし労働の適用の判断基準になるのは、業務を行う主となる場所です。業務の全部あるいは一部が社外で行われているかどうかがポイントとなります。また、業務のすべてを社外で行った場合にはすべてがみなし労働時間制の対象となりますが、労働時間の一部以外は社内で仕事をしている場合だと社内での労働はみなし労働時間制の対象外です。
また、みなし労働時間の算定は、雇用契約を結んでいるのであれば労働する義務のある所定労働時間分を労働したとみなす方法で行うのが原則です。所定労働時間とは会社ごとに定めた就業規則などに記載されている始業時刻から終業時刻までの時間で、休憩時間を除いた労働時間を指します。ただし、通常、業務を遂行するために必要とされる時間によって算定するケースがあることも知っておきましょう。客観的に判断しても、所定労働時間を超えなければ業務の遂行が難しくなると見込まれる場合などがこれに該当します。さらに、業務遂行に必要とされる時間ではあるもの、決定的に判断することが難しい場合であれば、労使協定で定めた時間を労働時間とみなします。

専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制とは?

専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、研究開発などの専門性を持った19の業務です。省令で定められている業務が5つ、厚生労働大臣が指定している業務は14あります。指定されている19の業務はいずれも、業務を遂行させるための工程や方法、時間の配分などについて、従業員自身で決断し進めていくことが一般的です。これらの業務では、通常であれば使用者が従業員に対して具体的に指示することはありません。また、従業員の働きぶりを時間で判断することは難しいため、評価は結果で判断されます。判断できない労働時間は、専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制により、あらかじめ決めた一定の時間でみなされることが認められています。
専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制は、使用者と従業員との間で口約束するだけでは成立しません。労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。制度の対象となる業務や、業務に必要となる労働時間などを協定すると、対象となる業務に実際に従事している場合に限り、労働者は協定で決めた時間を労働したものとみなされます。

企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制とは?

企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制も専門業務型のケースと同じく、使用者が従業員に具体的な指示を出さず、業務の遂行方法や時間配分などの裁量権を委ねている場合が対象となります。ただし、企画業務型と専門業務型では対象となる業務がまったく違うため注意が必要です。専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制の対象は専門業務として指定されている19の業務を行う労働者とされています。一方、企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは事業の運営に関わる、企画や立案、調査並びに分析といった業務に従事した事務系の従業員です。
また、企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制を採用するためには、労使委員会を設置することが必須となります。さらに、労使委員会によって出された裁量労働についての決議は所轄の労働基準監督署長に届け出なければいけません。そして、その業務に従事する従業員は、決議後に届け出た当該業務や業務に必要な時間などの内容通りに、労働時間がみなされることとなります。

みなし労働時間制対象外の企業のみなし残業は違法か?

みなし労働時間制は、原則、事業外労働や裁量労働に対して導入される制度です。そのため、事業外労働や裁量労働を行っていない企業がみなし残業をすると違法とみなされるのではないかと疑問に思う人もいます。結論としては、みなし労働時間制の対象外となる企業がみなし残業制を採用していても、必ず違法となるわけではありません。当然ながら、どのような企業や業務であっても自由にみなし残業を行えるなどということはありませんが、その企業が定めている就業規則が労働基準法にきちんと即してさえいれば問題ないとされています。就業規則には規律や労働条件など職場のルールが記載されますが、労働基準法で決められている事項を守っている限り、企業が自由に内容を定めることが可能です。
実際に、過去の裁判では、みなし労働時間制対象外の企業でありながら、一定に定めた残業代が、労働基準法で定められた割増賃金の額以上であったため、違法とはならないという判決が出た例もあります。

みなし残業のメリットとデメリットを企業と従業員ごとに紹介

みなし残業には、企業と従業員それぞれにメリットとデメリットがあります。まず、企業側にとってメリットとなるのが、残業代を計算する負担が軽減される点です。みなし残業制度で定められている時間の範囲内となる残業であれば、個々で別途残業代が発生することがないため、算定業務が不要となります。一方、従業員側のメリットとなるのが、収入の安定です。通常であれば残業時間の増減によって毎月の収入は変動しますが、みなし残業制度の場合には、残業時間がたとえ少ない月でも一定の給料が支給されます。
対して、企業側のデメリットとなるのが、従業員が残業していない場合でも一定の残業代を支払わなければいけないことです。就業規則に定められているみなし残業時間より実際の残業時間が少なくても、決められている残業代を支払う必要が生じます。一方、従業員にとっては、就業規則で定められたみなし時間内だと通常であれば受け取れるはずの賃金を受け取ることができない点がデメリットです。深夜残業や休日出勤をした場合でも、その分の割増賃金は支払われません。

みなし残業制であっても残業代を請求できるケース

企業はみなし残業制を採用すれば基本的には残業代を支払う必要がないという理解をしていると、従業員との間でトラブルが生じる可能性もあるため注意しなければいけません。残業した時間によっては、従業員が残業代を請求できるケースもあるからです。みなし残業制では、あらかじめ想定し定めていたみなし残業の時間を超えた労働であるか否かによって、残業代が別途発生するかが異なってきます。たとえば、みなし残業について就業規定などで「20時間分の残業代を含む」と記載されている場合の例を見てみましょう。このケースでは、実際の1カ月の残業時間が20時間以内である限り、従業員は残業代を会社に請求することは通常であれば不可能となります。そもそも、就業の条件として従業員も同意しているみなし残業の適用内となっているからです。
しかし、1カ月の間に実際に残業した時間が20時間を超えた場合には、超えた時間の分だけ従業員は会社に残業代を請求することができます。たとえば、21時間残業したのであれば1時間分、35時間残業したら15時間分の残業代は、別途会社が従業員に支払うことが求められるのです。

みなし残業制の残業代の計算方法

みなし残業で設定している残業時間を実際の残業時間が超えたことによって、残業代が発生した場合の計算方法について紹介します。まず、最初に行う計算が、基礎時給の算出です。基礎時給とは、月給を1時間あたりの給料に換算した金額をいいます。基礎時給は(月給-手当-みなし残業代)÷(月平均所定労働時間)という計算式によって算出可能です。給与として受け取る金額にはさまざまな手当てが含まれていることが一般的ですが、基礎時給を計算する際には、除かなければいけない手当があります。たとえば、家族手当や通勤手当、住宅手当、賞与手当などは基礎時給の計算で含めることができない手当です。しかし、役職手当や営業手当、地域手当などは計算に入れることができます。
基礎時給がわかったら、次は本来従業員が受けるべき残業代の計算を行います。本来の残業代は、基礎時給×割増率×残業時間で算出可能です。割増率は、残業したときの状況や会社の規模などによって1.25~1.6倍の間で変わってきます。そして、最後に、本来の残業代からみなし残業代を引いて出た差額が、みなし残業制の残業代です。

みなし残業時間に上限はあるのか?

みなし残業時間の上限についてのルールは、36協定で定められている基準と同じになっています。36協定は、「サブロクキョウテイ」と読み、労働基準法第36条によるものであることから付けられた通称です。正しくは「時間外・休日労働に関する協定届」といいます。労働基準法第36条では、労働者が法定労働時間を超えて働いたり、休日労働をしたりする場合には労働組合と会社との間で書面による協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届けることが定めです。そして、36協定では、具体的に、原則として1カ月間なら45時間、年間だと360時間が上限であると定められています。
ただし、対象となる期間が3カ月を超え、なおかつ労働時間の調整が1年単位である変形労働時間制の場合には上限時間が異なってきます。この場合の残業時間の上限は1カ月で42時間、年間だと320時間です。また、原則定められている上限時間の45時間を1カ月で超えてしまった場合でも、特例とみなされるケースがあります。あらかじめ想定していなかった業務をこなさなければいけなくなったり、繁忙期であったりなど通常外の業務によって上限を超えてしまっても、6カ月までなら上限を超えることは可能です。ただし、事前に労使協定を結んでおくことが条件となります。

みなし残業は法律を厳守して適正に運用しよう!

みなし残業とは、あらかじめ残業時間をみなしておき、みなしておいた一定の残業時間に応じた残業代を賃金や手当のなかに含ませて従業員に支払う制度です。みなし労働時間制は、法律上だと、企業に対して対象条件が課せられています。しかし、実際には、労働基準法をきちんと守った就業規則がありさえすれば、原則としてどの企業でも導入することは可能です。みなし労働時間制は、正しく採用すれば、企業にとって負担となりやすい残業代の計算が楽になるといったメリットを持った制度となっています。また、雇用する労働者にとっても残業の有無や時間に左右されず安定した収入を得られる魅力あるシステムです。
ただし、適正に運用するためには、法律を守って活用することが必須となります。きちんと運用するには、まずは、みなし残業について正しく理解することが基本です。さらに、実際にみなし残業を導入する場合には、定められた時間を超える労働があった際、それに応じた残業代を確実に従業員へ支給することが大切となります。

Category

労務管理

Keyword

Keywordキーワード