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2019.12.2

年俸制とは何?導入するメリット・デメリットなどを徹底解説

企業における給与体系には、月給制や日給制のほかに、年棒制を採用することもできます。年俸制といえば、プロスポーツ選手や外資系企業の給与体系というイメージを持っている人もいるでしょう。しかし、一般的な企業でも年俸制を導入する事例が増えつつあります。そこで、この記事では年俸制の概要やメリット、デメリットなどを紹介します。

年棒制とは

年俸制とは1年単位で給与を算出する給与体系のことです。ただし、1年に1度しか給与が支払われないというわけではありません。1カ月単位に分割して支払う必要があると労働基準法第24条により定められています。年俸制の大きな特徴は、成果主義と相性が良いことです。個人の能力や成果が反映されやすいことから「成果主義賃金制度」とも呼ばれています。前年度の成績が考慮される場合もあれば、従業員ごとの役割や期待値を踏まえたうえで金額を設定する場合もあり、基準は会社によりさまざまです。
また、年俸額の決定方法は、企業の規模に左右される場合もあります。たとえば、大企業では賃金規定に記載されているルールや計算式に基づいて算出されることが多いです。一方、中小企業では経営者が従業員に金額を提示し、合意を得られれば年俸額が決定します。なお、年俸制を採用しても、労働時間を管理しなければならない点や、残業代を支払う必要があるという点は月給制と変わりません。2014年に厚生労働省により行われた「就労条件総合調査」によると、日本企業の9.5%が年棒制を採用しています。

年棒制と月給制・日給制との違い

年棒制と月給制は、どちらも月単位で支払いが行われます。最も大きな違いは、年俸制が1年間の収入を事前に把握できるのに対し、月給制は年間の総収入が未定という点です。月給制は企業の業績や社員の年齢、勤続年数などを考慮して毎月の基本給や諸手当が決定します。さらに、会社や個人の業績に応じたボーナスが支払われることもあり、1年間の収入が確定していません。業績不振の場合はボーナスが支払われないこともあります。しかし、年俸制なら事前に提示された金額は全額支払われるため、事業の業績に左右されることはありません。ただ、所得税、住民税といった税金や社会保険料など保険料の支払い金額に関しては、年俸をどのように受け取るかにより異なるため、年俸制と月給制どちらかの方が得になる、ということはありません。

なお、給与体系には年俸制と月給制のほか、日給制も存在します。日給制とは、1日単位で給与金額を決定し、出勤日数に乗じて給与が支給される制度です。

年棒制を採用している企業・職種とは?

年俸制を採用している企業は、外資系企業が多いです。なぜなら、海外では終身雇用制度が浸透しておらず、個人の成果に応じて報酬を決定するからです。成果を出すことさえできれば、勤続年数に関係なく昇進や昇給のチャンスが与えられますが、成果を上げられなければ収入が上がらないどころか、下がってしまうおそれもあるのです。日系企業では役員や管理職など、ある程度の地位に昇格した場合に年俸制が採用されることがあります。また、システムエンジニアやプログラマー、プロスポーツ選手など、専門性の高い職業や個人のスキルが要求される職種も、年俸制の場合が多いです。日系企業に年俸制が浸透し始めた背景には、「高度プロフェッショナル制度」の存在があります。
高度プロフェッショナル制度というのは、働き方改革により導入された制度の一つです。高度な専門知識やスキルを有し、かつ一定の年収を得ている従業員に対して適用されます。高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員には年間104日以上、かつ4週間につき4日以上の休日を与えなければいけません。また、労働基準法により定められた労働時間規制や、割増賃金の上限規定については適用外となります。高度プロフェッショナル制度の導入や、優秀な従業員を求める会社が増えつつあることから、今後も成果主義と相性が良い年俸制を採用する企業が現れる可能性が高いです。

年棒制のメリット

企業側

年俸制は企業と従業員の双方にメリットがある制度です。まず、企業側のメリットとして、経営計画が立てやすくなるという点が挙げられます。月給制の場合、業績の悪化などに伴い、人件費を見直さなければならないこともあるでしょう。その場合、人件費の年間計画や経営計画など、長期的な計画まで是正しなければいけません。しかし、年俸制を採用すれば、事前に年間の人件費を決定できます。また、年俸制は個人の成果や能力により給与額が決まるため、従業員のモチベーションや生産性の向上につながります。
年功賃金制度の場合、個人の業績よりも勤続年数や年齢が重視されるため、若手社員とベテランの社員の給与に大きな差が開いてしまうのが難点です。しかし、年俸制なら大きな成果を上げるほど給与に反映されるため、若手社員でもベテランと同等かそれ以上の給与が与えられる可能性があります。ベテランであっても成果を出せなければ給与額が下がることになってしまうので、自発的にモチベーションを上げ、成果を出そうと努力するでしょう。年齢や経歴に関係なく、全ての社員が企業に貢献することで、業績の向上も期待できます。

従業員側

年齢に関係なく高収入を狙える年俸制は、従業員にも大きなメリットをもたらします。年功賃金制度の会社では、新入社員がどれだけ頑張っても給与にはほとんど反映されず、成果を上げていないベテラン社員よりも給与が低くなってしまうというケースも多いです。たとえ仕事の内容や職場の人間関係に不満がなくても、適正な評価を受けられなければ、モチベーションの低下は避けられません。しかし、年俸制なら成果を上げることで翌年の給与額が大幅に上昇する可能性もあるため、評価を実感しやすく、業務にも真摯に取り組むことができます。
また、長期的な視点でライフプランを立てやすくなるのもメリットの一つです。たとえば、マイホームや自家用車を購入する際、長期間のローンを組む人もいるでしょう。月給制の場合、企業の業績不振により賞与カットや減給が行われたときに、ローンの返済に支障をきたすおそれがあり、正確な返済計画が立てにくいです。一方、年棒制なら、あらかじめ年間の給与額が決定しているため、長期的な返済計画が立てやすくなります。

年棒制のデメリット

企業側

年俸制にはメリットだけではなく、デメリットも存在します。まず、企業側のデメリットとして挙げられるのが、年度中に人件費を変更できないという点です。万が一、従業員が期待したほどの成果を上げられなかったり、ミスやトラブルにより大きな損害をもたらしたりした場合でも、年度始めに決定した年俸額を減らすことはできません。どのような事情があったとしても、企業側が年度中に給与を減らすと契約違反にあたります。そのため、従業員が予定通りの成果を上げられなければ、企業にとっての損失につながってしまうのです。年俸制を採用する場合は、従業員の動きをある程度想定したうえで、金額を決定しなければいけません。
また、年俸額に固定残業代や賞与を含める企業は、年俸制を適用する社員ひとりひとりに対して、明確な区分を周知する必要があります。残業代・賞与の規定を定めて、就業規則へ記すのも方法ではありますが、基準を統一した場合も内容を従業員に周知しなければいけないという点は変わりません。契約内容の確認を怠ると、後々「同意していない」と申し立てる従業員が現れる可能性があります。トラブルを避けるためにも、労働契約の設定にはある程度の手間と時間がかかることを覚悟しましょう。

従業員側

従業員側の主なデメリットは、成果を上げられなかった場合、翌年度の年俸額が減少する可能性があることです。毎年成果を残すことができれば、順調に給与額を上げていくこともできるでしょう。しかし、成果を残せない年が続くと、次第に給与額が減少してしまいます。しかも、必ずしも翌年以降から不調を挽回できるとは限りません。不調のまま1年が終わってしまうと、翌年も不調が続いてしまうのではないかとネガティブな思考に陥ってしまう人もいるでしょう。不安や焦りからなかなか成果を上げられず、成績不振が続いてしまうという悪循環になりかねません。
さらに、常に成果を求められることから、プレッシャーの大きさに耐えられず、かえって仕事に向かうモチベーションが下がってしまう可能性もあります。また、年俸制は個人の評価が反映されやすい制度ではあるものの、公平に評価されるかは企業次第です。たとえば、営業職なら顧客数や売上高から成果を把握しやすいため、数値に応じた評価基準を作ることができます。しかし、総務部や経理部など、部署によっては数値から成果を把握するのが難しいケースもあるため、客観的かつ正当な評価を行うのは簡単ではありません。評価を不当に感じた場合、仕事に対するモチベーションの低下につながるでしょう。

年棒制におけるボーナスの支払い方法

ボーナスの有無は企業ごとの就業規則や雇用契約書により異なりますが、年俸制を採用している会社でも、月給制と同様にボーナスが支払われることがあります。主な支払い方法は2通りです。1つ目の方法は、年俸とは別にボーナスが支給される方法で、年俸を12分割して毎月支給したうえで、別途ボーナスが支払われます。2つ目の方法は、年俸額にボーナスを含む方法です。月給を14分割したうえで、12回分を毎月支給し、2回分をボーナスとして支給します。どちらの方法で支払ったとしても、法律上は問題ありません。ただし、年俸制においてボーナスを支給する場合は、残業代の計算が複雑になるため注意しましょう。
臨時に支給される賃金と、ボーナスのように1カ月以上の期間をおいて支給される賃金は残業代に含める必要がないと労働基準法により定められています。しかし、残業代の計算から外せるのは、支給額が確定されていないボーナスです。事前に残業代が確定している場合、ボーナスとは見なされません。そのため、月給を14分割したうえでボーナスを支給する方法だと、残業代は月給だけではなく、月給とボーナスを足した金額を基準として計算する必要があります。

年棒制における残業代の扱いについて

年俸制で事前に給与額が決定していたとしても、残業代の支払いは労働基準法により義務付けられています。ただし、固定残業制を採用している企業であれば、あらかじめ決められた残業分の労働を行っても、改めて残業代を支払う必要はありません。たとえば、年俸に1カ月あたり30時間の時間外手当が含まれている場合は、30時間までの残業代が既に年棒に含まれているということです。ただし、残業時間が30時間を超えた場合は、追加で残業代を支払う必要があります。
なお、管理監督者や、事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されている従業員に対しても、割増賃金を支払う必要はありません。管理監督者とは、労働条件などが経営者と同様の立場にある者のことを指します。管理監督者は、働き方や職務の内容、行使できる権限によって判断されるため、肩書きはあっても一般社員と同じ業務を行っている場合は、管理監督者に該当しません。事業場外労働に関するみなし労働時間制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定められた時間だけ勤務したとみなす制度です。営業職や運送業など、社外で行動することが多く、正確な労働時間の把握が難しい仕事を行っている従業員に対して適用されます。

年棒制において欠勤控除はできる?

年俸制であっても、従業員の欠勤や遅刻などがあった場合は控除が可能です。基本的に、欠勤控除は就業規則などで定められた内容に基づいて算出します。そのため、年俸制を採用する場合は、欠勤控除の必要が生じる場合も考慮して、事前に就業規則を整備しておかなければいけません。控除の対象となるのは本給です。事業場外労働に関するみなし労働時間制を採用している場合は、毎月の支給額に本給と残業代が含まれているため、支給額から残業代を引いた金額から控除の金額を算出します。たとえば、毎月の支給額が30万円で、みなし残業代が5万円なら、本給は25万円です。この場合、25万円×欠勤日数÷月平均労働日数=欠勤控除で金額を求めることができます。

年棒制で退職・解雇が発生した場合の対応方法

基本的には、年俸制であってもその企業に退職金制度があれば、退職金は支払われることになります。しかし、年の途中で従業員が辞めてしまった場合は、基本的に働いていない期間の給与まで支払う必要はありません。年俸額に賞与が含まれる契約で、賞与支給日の前に退職した場合は、原則として働いた期間に応じて、賞与の割当分が支払われます。ただし、支給日の時点で在籍していない従業員には賞与を支払わない旨が契約書に記されている場合、割当分は支給されないので注意しましょう。
なお、自己都合による退職であれば、残存期間があっても給与は発生しません。ただし、経営上の理由などにより企業が従業員を中途解約した場合は、従業員から企業に対して残存期間の賃金を請求できます。中途解約により発生するリスクを回避するためにも、「解雇された場合に残存期間の賃金は支払わない」と就業規則に記載しておきましょう。なお、従業員が退職する理由が、企業にとって納得できないものである場合は、企業から従業員に対して損害賠償の請求が可能です。

年棒制を導入するときのポイント

年棒制を導入する際には、事前に就業規則の改定を行う必要があります。常時10人以上を雇用している企業は、必ず就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署まで届け出ましょう。就業規則の作成や届け出を怠った場合、労働基準法違反となり、罰則が適用される可能性があります。なお、年俸制であっても、従業員の欠勤や遅刻、早退には控除が適用される場合がほとんどです。導入後にトラブルが起きないようにするためにも、残業や欠勤、中途退職などがあった場合の対応について、明確な規定を定めておかなければいけません。就業規則の内容は必ず従業員に開示し、十分な説明を行います。
新しい給与体系を導入したり、一度決定した年俸額を変更したりする際は、労使間での合意が必要です。たとえば、年俸制で契約した従業員が、企業の求める成果をあげられなかったなど、年俸を減額せざるを得ない状況に直面することもあるでしょう。しかし、労使での合意がなく年俸を減額してしまうと、従業員に訴えられるおそれもあるので注意が必要です。年俸額を変更する際は、就業規則に定められた内容に従い、従業員に年俸額を変更する旨を通知します。年俸額を変更する必要が生じた際にトラブルが起きないよう、年俸額を決定する手続きの流れや評価基準などの制度についても、就業規則に定めておかなければいけません。
変更にあたり労使の合意が得られなかったときの手順や、年俸額や評価について納得できない点があった場合の不服申立手続についても記載しておくと良いでしょう。ただし、これらの制度を設ける際は、企業側の権利の乱用と見なされることがないよう、最新の注意を払わなければいけません。労働基準法第92条により、各企業で適用されている労働協約や法令に反した就業規則は、行政より変更を命じられることがあります。就業規則を定める際は労働基準法に照らし合わせたうえで、適切な内容かを判断しましょう。

年棒制を導入して経営計画をスムーズに行おう!

企業で年棒制を導入すると、経営計画を立てやすくなります。また、成果に応じた給与が発生するため、従業員のモチベーションアップも期待できるでしょう。ただし、年俸制を採用するにあたり、就業規則や制度の内容について、従業員への周知を徹底しなければいけません。年俸制ならではのメリットに魅力を感じた企業は、ぜひ導入を検討してみましょう。

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