2020.12.22
新時代の評価制度!話題のノーレイティングの概要・メリットとは?
従来とは異なる人事評価制度として、ノーレイティングという制度があります。先進的な企業が取り入れていることもあり、話題として聞いたことがある人もいるでしょう。企業の人事を担当している人には、ぜひ知っておいてもらいたい制度です。今回は、ノーレイティングの概要からメリット・デメリット、導入事例までを紹介していきます。
目次
ノーレイティングとは?
ノーレイティングとは、企業における人事評価の方法の1つです。従来、期末や年度末の人事評価は一般的に社員をランクや階級で分け、それに伴う数字やアルファベットなどを使って行われてきました。このランク付けをレイティングといい、ランク付けなしで評価する新しい方法のことをノーレイティングといいます。
ランク付けせずにどう評価するのかと疑問を持つ人も多いでしょう。ノーレイティングでは、業績をその都度上司のフィードバックによって評価する形をとることが多く、その際は1on1面談とよばれる1対1の面談を実施したうえで行われます。評価に加えて育成という視点も組み込まれているのが特徴です。面談は上司と部下の間で定期的に実施され、形式にこだわらず、なるべく円滑で自然なコミュニケーションが交わされます。
これを繰り返し行うことで、上司と部下の間でお互いに信頼度が増し強固な関係が構築されることになります。上司と部下の関係が浅いと、上司が部下に率直に注意できなくて悩んだり、部下が上司に相談しにくくて伝えるべきことが伝えられにくかったりする場合があるでしょう。ノーレイティングに伴い1on1面談を導入することで、こういった問題が解決しやすくなります。
レイティングが考案された背景
従来の人事評価モデルとして有名なものの1つに、アメリカのゼネラル・エレクトリック社が開発した「9ブロック」という方法があります。これは導入当時の人事評価制度を刷新した考え方で、社員にランク付けを行い評価する制度です。レビューは年に一度の頻度で行われます。
また、ピーター・ドラッカーが考案した「MBO(目標管理制度)」も従来の人事評価制度として知られています。これは、個々の社員に自分で目標を設定させ、その進捗状況や達成成果などを主体的に管理していく考え方で、レビューは半年から1年に1回の頻度で行われます。原則として評価は目標を100%達成したかどうかで判断されるため、未達の場合は評価が下がる仕組みです。
これらの従来の人事評価システムは多くの日本企業でも取り入れられ、グローバル化やIT化が今日のように進むまでは経営において大きな成果をもたらしていました。しかし、グローバリズムやITの発展はビジネスサイクルの短期化や競争の激化をもたらし、「アジャイル化」という新たな経営課題を企業に突きつけています。アジャイルは「俊敏な、すばやい」という意味で、経営陣は正確性を保ちながらも意思決定のスピードが求められるようになったということです。
こうした背景より、年に一度や半年に1回のレビューに固執せず、月に数回実施する1on1面談やコーチングなどを通して評価を行うノーレイティングという評価手法が生み出されました。
従来型のレイティングとは?
レイティングとは、社員をカテゴリーによって分類したり、ランクを付けて表したりする人事評価制度のことです。レイティングは年度ごとに行われるのが一般的で、ここで決定されるランクやカテゴリーに基づいて給与や賞与が決まります。
もともとはアメリカの企業が取り入れていた制度で、日本の企業には20年ほど前から導入され普及してきました。成果に重きをおく成果主義の評価体制が日本でも注目された際に、アメリカの方法に倣って採用されてきました。今日では、一般的な人事評価方法として用いられています。
レイティングの問題点
レイティングの問題点①社員のパフォーマンス低下
従来のレイティングによる人事評価では、前提としてそれぞれのランクにどれくらいの従業員がいるべきかという目安がありました。そのうえで従業員を評価するので、中間レベルの「B評価」や「C評価」の人数が多くなるように設定されがちです。このため、社員の多くは自分から働きかけてもなかなか上位のランクに入れてもらえることができなかったり、企業から自分への期待値を感じられなかったりし、やる気やパフォーマンスが下がってしまいます。
この評価制度では、既成の概念にとらわれない新プロジェクトの企画者や新規ビジネスのリーダー、特定の分野に特化した研究者など、目立った人材がなかなかレイティングでよい評価を得られにくいという欠点があります。画一的な評価基準をベースにして相対的に評価が行われるため、革新的なアイデアや行動力が評価されません。優れた社員は、適切に能力や成果を評価されないことに不満をもつことになり、結果的にパフォーマンスの低下につながってしまうのです。
レイティングの問題点②環境への適応力
従来型のレイティング方式では、企業側が管理の仕方や方向性を間違えてしまうと、組織全体がよくない方向に進んでしまうことがあります。以前に比べて、グローバル化やIT化の影響で環境が刻々と変化する社会になりました。こうした変化に富んだ環境では、社員一人ひとりの仕事の目標や行動内容の変更にも臨機応変に対応することが求められます。
一般的に、レイティングによる評価制度では年度末や期末などの節目に過去の成果や行動を振り返りながら行われます。現状への評価ではなく過去の結果を振り返るため、すでに環境の変化とのずれが生じる場合があります。リアルタイムでのフィードバックではないため、改善点などの即時的なアドバイスがしにくく、社員の成長に結びつきにくいという点がネックとなるのです。
ノーレイティングのメリット
ノーレイティングのメリット①評価への納得感
ノーレイティングでは、1on1面談を取り入れて上司と部下がより多い頻度で対話します。その過程で、リアルタイムに現状に即した目標設定や評価が可能になります。実際の状況を反映しながら、現在の自分のレベルに合った目標を相談しながら決定することができるため、行動に移しやすかったり頑張っている点が評価されやすかったりするのです。そのため、社員の評価に対する満足度の向上につながります。
また、上司からの一方的な評価で片付けられるのではなく、面談の中で内容をすり合わせて行われるため、上司と部下の双方が納得できる評価になりやすいのもメリットです。半期や一年といった特定の期間で行う面談よりも、日々の業務の中で面談を繰り返すなかで上司と部下のコミュニケーションが密に取れます。思ったことをすぐに確認したり改善したりできるため、お互いにとって良い結果がでやすくなるのです。
ノーレイティングのメリット②モチベーションアップ
従来型のレイティングのデメリットの中には、画一的な評価基準の中で社員のモチベーションが下がってしまうという点がありました。ノーレイティングでは、組織の中で決められた枠組みの中で相対的な評価をするのではなく、リアルタイムで個人の目標設定やその軌道修正、評価をおこなっていきます。目標設定やフィードバックの面談を繰り返す中で、自発的に意見を述べて目標に取り入れることもできるでしょう。
上司からのこうした細かいフォローアップにより、社員はもっと能力を高めて成長したいと思ったり、会社に貢献したいと願ったりするようになります。やる気や向上心が高まると、業務への責任感や生産性も高まるでしょう。また、会社からの押し付けではなく自発的に目標をもって働ける環境は、社員が定着しやすくなる効果も期待できます。
ノーレイティングのメリット③環境の変化に適応しやすい
グローバリズムやIT化の影響で、ビジネスを取り巻く環境の変化は速いスピードで変化しています。企業は柔軟に環境の変化に対応できる体制をもって競争に挑む必要がありますが、従来のレイティングで評価を続けていると変化に追いつけない状況でした。業務目標や行動計画などは、状況に応じて軌道修正したり変更したりする必要があります。
半年や一年に一度の面談で振り返るだけだと、既に目標を達成した当時の状況と現状が大きくかけ離れている場合も出てきます。評価自体が形式的・便宜的なものになってしまうと、組織としても意味がなく、社員の士気も下がります。ノーレイティングでは、月に数回の頻度で部下一人ひとりと面談を設けるため、環境の変化によって生じたズレや矛盾をタイムリーに修正し、目標を常に意義のあるものにすることができます。相互に話し合いをするため、上司にとっても盲点となっていた変化に気付く機会となることもあるでしょう。こうして予期していなかった社会や経済状況の変化、技術の進歩などをとらえて臨機応変に対応し、社員が即戦力として活躍できる組織を実現できるのです。
ノーレイティングのデメリット
ノーレイティングのデメリット①定期的な面談が必要
ノーレイティングのデメリットとしては、従来の評価方法に比べて面談の頻度が多いことが挙げられます。頻繁に部下と1対1で対話するため、上司は多くの時間を確保する必要があります。部下の少ない上司には問題ありませんが、多い部署の場合は大変です。複数名の部下を抱える上司には負担が大きくなり、本来の業務に支障が出たり時間コストが膨大になってしまったりするでしょう。上司は通常の業務で既に多忙なケースが多く、どうやって時間をやりくりするか頭を悩ませてしまうことがあります。
コミュニケーションが増えてより密接な関係を築けるというメリットの反面、そのために確保すべき時間が多いのは事実です。大所帯の部門長や出張の多い職種の場合、現実的には時間を割くのが不可能という場合も出てきてしまうでしょう。忙しさのあまり、面談が形式的なもので終わってしまうとノーレイティングの方式で評価する意味がなくなってしまいます。
ノーレイティングのデメリット②上司のマネジメント力が必要
従来のレイティング方式では、会社で統一されたフォーマットや事前に指示される明確な判断基準、評価項目などがあり、上司の評価作業は比較的容易に行われてきました。しかし、ノーレイティングでは、明確な指示や基準は設定されません。判断基準や要素は上司に委ねられるところが多く、高い管理能力が必要とされます。裁量をもって評価することに慣れていないと、正当な評価が行えなかったり評価に多くの時間を要してしまったりします。
また、面談を通して部下との信頼関係が出来上がっていないと、部下から評価に対しての妥当性などにおいて不満が生じることがあります。部下との信頼関係の構築も含めて、上司として高度なマネジメント能力がないとノーレイティングの実用は難しいでしょう。
ノーレイティングのデメリット③混乱してしまう可能性
従来のレイティング方式では、一度目標や行動計画を設定してしまえば変更がないため、社員の目標や目指すべき姿、行動内容が常に明確でした。ノーレイティングでは、上司と部下が頻繁に対話を重ねて、環境の変化にあった目標や計画に修正していきます。そのため、部下の中には目標や課題をはっきりと認識できず、現場で混乱してしまう人が出てくる可能性があります。
こうした状況を防ぐためにも、グループとしてミーティングやメールで目標を共有し、日々の業務の中でお互いに情報交換しあうなどの工夫が必要です。面談の際には、個人の状況と対応力に合わせた目標設定と実績を確認する必要があるでしょう。
ノーレイティングを導入している企業の例
日本ではまだ聞きなれないノーレイティングという用語ですが、グローバルな視点でみると既に取り入れ実践している企業が増えてきています。例えば、アメリカのゼネラル・エレクトリックを筆頭に、アクセンチュア、アドビ、IBM、GAP、ゴールドマン・サックス、デロイト、マイクロソフトなどの大手企業が導入しているのはよく知られています。
コンサルティング会社のアクセンチュアの導入例をみてみると、オリジナルのパフォーマンス・アチーブメントという評価制度を実施しています。社員が自発的にキャリアに合わせた目標を設定し、会社がその目標をサポートするというスタイルです。
また、マイクロソフトでは、通常の業務に加えて2週間に1度の頻度で上司と面談できる体制を構築し、より密な連携を実現しようと試みています。
報酬や昇進の決め方は?
ノーレイティングでは従来のような年次での評価は行われません。その代わりに、頻繁に行われる面談で上司が部下の行動進捗や達成度などを理解することができます。給与や賞与などの報酬は、上司が与えられた原資をもとに部下に配分していく方針が多くの企業で採用されています。仕事への貢献度や成果に応じて決められるため、部下が自分の評価を実感しやすく、報酬に満足することが多いでしょう。
昇進は、新たなステップに必要とされる能力やリーダーシップが備わっているかを総合的に確認して決定されます。この点では、ノーレイティングで行われていた方式と変わりません。1年に1度「タレントレビュー」と呼ばれる面談を設けて、管理職と人事が社員のキャリアパスや昇進の有無などを決定するケースもあります。
変化の激しい時代に適した評価制度
ノーレイティングの人事評価体制は、企業を取り巻く環境の変化が激しい現代に適した仕組みです。特徴やメリット・デメリット、導入事例によって、ノーレイティングへの理解が深まったでしょうか。技術革新やグローバル化によって社会や経済環境は刻々と変化しており、リアルタイムな評価が必要とされています。変化に対応できる評価制度として、ノーレイティングの導入を検討してみましょう。