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2018.8.7

電車の混雑率を紐解くーオフピーク運動と働きかた改革

7月17日に、国土交通省から「都市鉄道の混雑率調査結果」が公表されました。
エリア別の結果は、
東京圏:163%  大阪圏:125%  名古屋圏:131%
となっており、東京圏の混雑が大阪圏・名古屋圏を圧倒しています。ところで、この混雑率、何%だとどのくらいの混雑なのかご存知でしょうか?
一般社団法人 日本民営鉄道協会のHPによると
[100%]=定員乗車
座席につくか、吊り革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる
[150%]=肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める
[180%]=体が触れ合うが、新聞は折りたたむなど無理をすれば読める
[200%]=体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める
[250%]=電車が揺れるたびに、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない
となっています。また、この「混雑率」は「その路線の最混雑区間のピーク1時間に通過する利用者数を、その時間に運行される全列車の定員の合計で割って算出」しています。
例えば東京圏の山手線でみると、このようになっています。(平成29年の調査結果)

11両編成の山手線の1本あたりの輸送力は1,628人、1両あたり148人の計算です。定員148人、少ない!っと思われませんでしたか?
また、東京圏で唯一100%を下回った中央線緩行(各駅停車)のデータはこうです。

実際に山手線を通勤に使われている方の大半が「そんなもんじゃないよ~混雑率250%だよ!」と思われているのではないでしょうか?私自身の実感としても通勤時間帯の山手線で新聞が読めた試しはない、と断言できます。

混雑率の謎をとく

「国交省がデータを操作しているんじゃないの?」と思われた方のために、この何となく釈然としない「混雑率」のからくり?(謎?)をご説明しましょう。

1.雑率は1時間の平均値

最混雑時間といっても1時間ずっと混んでいるわけではない。
例えばほとんどの路線では最混雑時間の中に30分程度の「ピークのピーク」があり、この「ピークのピーク」以外はストレスを感じない程度の混雑、という状況も考えられます

2.混雑率は「列車種別」は考慮していない

特急・快速・各駅停車などの複数の種別が混在して運行されている場合、速い列車ほど混雑する。
例えば急行と各駅停車が交互に走っている路線で急行の混雑率が200%、各駅停車は100%だとすると、公表される結果は平均の150%。どちらにとっても違和感のある数値になります

3.混雑率は「1列車の平均」

混雑率は1列車単位で計算しているので「号車」の特性が考慮されていない。
例えば乗換えに便利な号車、エスカレーターに乗りやすい号車、駅出口に近い号車、女性専用車両の隣の号車などが混雑する傾向にありますが、その点は考慮されていません

4.混雑率は「行き先」は考慮していない

混雑率の計算にはその列車の行き先や始発かどうかなどは考慮されていない。
例えば東京メトロ(地下鉄)では、私鉄各線との相互乗入が盛んに行なわれていますが、その列車の行き先によって混雑率が変わります。また、乗入が無く自線内で折り返し運転をしている場合には、始発駅の混雑率は低くなる傾向があります

5.混雑率は「駅の構造」は考慮していない

駅の構造が混雑率に影響するが、その点は考慮されていない
3)の号車単位の混雑率にも関係しますが、例えばホームが屋外にあって屋根が無い駅では、天候(夏の日差しや雨・雪など)が混雑率に影響することがあります

6.混雑率には「遅延」の影響は考慮されていない

実際の混雑率(利用者の体感する混雑率)に一番影響する「遅延」が考慮されていない。
首都圏の列車が「ダイヤ通り」に運行できることはまず無いと言われています。特にピーク時間帯に何かの事情で遅延が発生すると、一挙に混雑率があがります。
例えば定員1,500人の列車が1時間に24本(2分30秒間隔)のダイヤで運行していて、計算上のピーク時の混雑率を150%と仮定します。(輸送力:1列車あたり2,250人)
ここで「信号点検」で5分の遅れが生じたとします。2本分の列車が走れなくなり、その分の利用者4,500人は他(後続)の列車に乗ることになります。この5分の遅れで混雑率は164%に上昇します。(2,250x24=54,000 54,000÷22÷1,500=163.6%)
遅延が5分で済めば良いのですが、10分になった場合の混雑率は180%、ここに号車の特性やピークのピークなどの要因が重なった場合、混雑率が250%に近い値に上昇することは想像に難くありません。

7.混雑率には「他路線からの振替輸送」の影響は考慮されていない

ある路線で長時間の「運転見合せ」や「運休」が生じた場合、代替路線への振替輸送が行われるが、その影響は考慮されていない。
例えば、上野―東京間の京浜東北線に人身事故等で長時間の運転見合わせが生じた場合、当然乗客は並走する山手線を利用します。この場合、山手線本来の乗客にほぼ同数の京浜東北線の乗客が加算されますので、混雑率は上昇します

痛勤から通勤へ:働きかた改革のために考えられること

JR各社、私鉄各社等の努力により、混雑率は目標値(主要31区間の平均150%、個別路線の混雑率180%以下)に向けて着実に減少しています。とはいえ、実際の混雑率が250%となるような時間帯・列車・号車があることも事実です。
この「混雑率200~250%になるような列車で1時間かかる痛勤」は、働く人の生産性に大きく影響します。出社するだけでぐったり、というような「痛勤」では、出社後すぐに質の高い仕事をすることなど不可能です。
鉄道各社では混雑率の「見える化」に通り組み、各社のHPなどで情報を提供しています。今後もこの取り組みが進むことを期待する一方、利用者側でも「賢いオフピーク」を考えてみてはどうでしょう。
前述のとおり、混雑率のピークには「ピークのピーク」があり、号車や行き先、始発かどうか、急行か各駅停車かなど、様々な「混雑要素」があります。また、冒頭でお見せした中央線緩行(各駅停車)のピーク時間が山手線とは少しずれているように、路線によってピークタイムが異なります。オフピーク運動というと「朝早起きすること」だけと思われがちですが、乗る号車を変える、混雑する時間帯の列車の行き先を調べる、部分的に各駅停車を利用するなど、無理のない範囲で少しでも快適に通勤できる方法を探してみてはいかがでしょうか。
また、大半の企業が「9:00~17:00」という就業時間を取っている(混雑率のピークタイムから想像できます)と思われる今、企業側が少しだけここに柔軟性を持たせることができれば、社員を「痛勤」から解放することでより生産性の高い仕事が可能になり、同時に社員の満足度も向上します。
社員の中には朝早く出社した方が良い人(出社したい人)、9:30出社ならば「痛勤」から逃れられる人、事情は様々あると思いますが、例えば
・社員の希望をアンケートで確認する
・お試し期間を設けて、出勤時刻に柔軟性(3パターンぐらい)を持たせてみる
・その結果をみて、会社の方向性を決める
といった段階的な運用を試してみることも、立派な「働きかた改革」です。
9時に出社しても痛勤疲れでぐったりしていて30分は仕事にならない社員と、9時30分に颯爽と出社してすぐにフル稼働する社員、どちらが組織にとって望ましい姿でしょうか?オフピーク運動による働き方改革、小さなことかもしれませんが効果は期待できると思います。
すでに「予測値」が発表されていますが、2020年夏のオリンピック・パラリンピックの期間、首都圏の公共交通は壊滅的なダメージを受ける(輸送力を大幅に超える乗客が殺到する)と想定されています。その直前になって慌てずに済むように、今からオフピークやテレワーク、サテライトオフィスなどの「働き方改革」にトライしてみることをお勧めします。
参考資料:国土交通省 報道発表資料 平成30年7月17日
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo04_hh_000068.html
Photo by David Hertle on Un

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