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2020.2.17

嘱託社員を採用するのはどんなとき?企業にとってのメリットとデメリット

多くの企業には定年が定められていますが、定年後も引き続き活躍してもらうために「嘱託社員」として再雇用するケースも珍しくありません。ただ、嘱託職員について正しく理解できているか自信がないという人も多いでしょう。今回は、嘱託社員に関する基礎知識をはじめ、雇用することで企業が得るメリット・デメリット、再雇用の注意点など気になるポイントについて解説していきます。

嘱託社員とは

「嘱託」は仕事を依頼するとの意味をもつ言葉であり、その人のもつ知識やスキルなどを見込まれ、特定の仕事を任された社員のことを「嘱託社員」と呼ぶことが多いです。

ただし、嘱託社員は法律によって定められた雇用形態ではなく、具体的にどのような仕事を任せるかについて明確な定義はありません。嘱託社員を雇用するか、どのような仕事を任せるかは企業に一任されており、実際には企業と本人との間の契約によって決められるケースがほとんどです。

嘱託社員と契約社員の違い

働く期間を決めたうえで企業と雇用契約を結ぶと聞くと、「契約社員と何が違うのか」と疑問に感じる人も多いでしょう。たしかに、法律上では雇用形態として「嘱託社員」という区分は存在しておらず、有期労働契約を結んで働くという点は契約社員と同じです。

また、嘱託社員は「時短勤務が認められる」「給与が高い・安い」などのイメージを持たれることも多いですが、実際には契約によって仕事内容や労働条件が決まるという点でも契約社員と変わりありません。このような背景から、嘱託社員という呼び名はあくまでも契約社員の別名であり、契約社員のうちの一部を慣例的に嘱託社員と呼ぶことが多いというのが実情です。

慣例にしたがい、退職後に再雇用した社員かどうかを見分けるために呼び名を変えているともいえます。つまり、嘱託社員と契約社員の違いは単なる呼び方の問題であるケースがほとんどというわけです。仕事内容や労働条件は各自の契約によって決められるため、嘱託社員と契約社員のどちらになるかによって有利・不利が発生するわけではありません。

嘱託社員と正社員の違い

嘱託社員と同じく、正社員という法律上の定義はありませんが、厚生労働省の見解などを踏まえると、一般的には「雇用期限がない直接雇用で、所定労働時間がフルタイムである」といった条件を満たす場合に、正社員とみなされます。

正社員は原則として無期雇用ですが、嘱託社員は有期雇用であるという違いがあります。日本企業では、正社員には終身雇用が適用されていますが、嘱託社員は契約社員と同様に、長期契約の保障はなく、同じ職場で長く働けるとは限りません。

嘱託社員の中には、正社員と同じような仕事や権限を任されるケースもありますが、比率はさほど多くなく、多くの場合嘱託社員の方が正社員に比べて職責が少ない傾向にあります。労働時間や雇用期間などの契約条件次第では、社会保険に加入できますが、ボーナスや給与において正社員との差が見られます。

嘱託社員に対して退職金が支給されないケースも多いので、嘱託社員としての雇用契約を結ぶ際に、福利厚生などについて詳しく確認することが大切です。

嘱託社員とパートとの違い

パート(パートタイマー)は、嘱託社員と同じく、労働時間が短い非正規雇用の労働者を指します。育児や介護といった家庭の事情などにより、正社員よりも1週間当たりの所定労働時間が短い人が、パート社員として契約するケースが一般的です。

パートと嘱託社員は、呼び名は異なりますが、厚生労働省が示す「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」という条件に該当する場合、パートタイム労働法の対象となる「パートタイム労働者」として認識されます。

なお、アルバイトについてもパートと違いはほとんどなく、企業によって定義が異なり、一定のルールのもと呼び方を変えています。ただ、アルバイトやパートは時給制で、嘱託社員は月給制での契約が主流です。

嘱託社員のケース

嘱託社員には大きく分けて「定年後に再雇用する」ケースと、「特別なスキルを提供してもらう」ケースの2種類があります。ただし、どちらのケースでも正社員のように雇用が保証されているわけではありません。働く期間なども各自契約によって決められており、必要に応じて契約を延長することもあります。なお、期間だけでなく勤務時間についても臨機応変な対応が可能で、正社員のようにフルタイムで働くこともあれば、短時間のみ勤務することもあるなど、嘱託社員や企業の都合に合わせて契約できるので効率的です。

1.定年退職した従業員を再雇用する

嘱託社員のうち、まずは「定年後に再雇用する」ケースを詳しく見ていきましょう。多くの企業では、社員が一定の年齢に達したタイミングをもって、雇用契約を終える制度を採用しています。これがいわゆる「定年退職」であり、通常であれば定年退職した社員はその後、企業と関わることはほとんどありません。個人的に後輩や元同僚と付き合いを続けることもあるでしょうが、企業と社員としての関係性は失われます。ところが、場合によっては企業が定年を迎えた社員と新たな契約を交わし、非正規雇用の労働者として再雇用するケースもあるのです。このようにして迎え入れられた社員が、主に「嘱託社員」と呼ばれることになります。
社員にとっては、退職金を受け取り一度辞めた会社で、再び働き続ける形になるというわけです。嘱託社員との契約は「有期労働契約」にあたることが多く、あらかじめ半年や1年というように勤務する期間を決めてから働き始めるケースがほとんどでしょう。再雇用後に担当する仕事についても、退職前の仕事を続けることもあれば、まったく別の仕事を任されることもあるなど、契約によって内容が異なることも珍しくありません。これまで通りの仕事をすると思い込んで嘱託社員になる人もいるので、違う仕事をしてもらったり、勤務時間が変わったりする場合は契約前にしっかりと話し合っておきましょう。

2.特別なスキルを提供してもらう

嘱託社員という呼び名が用いられるケースのうち、次は「特別なスキルを提供してもらう」場合について見てみましょう。企業が事業運営をしていくうえで、場合によっては特別なスキルをもつ人材が必要になることもあります。たとえば、医師や弁護士などは特定の資格や専門知識がなければ務まらず、資格のない一般的な社員が担当できる仕事ではありません。このため、専門技術が必要になった場合はスキルをもつ専門家と契約して仕事を依頼する必要があり、このような依頼のやり方を「嘱託」もしくは「嘱託契約」と呼ぶことがあります。
嘱託社員の一部という位置づけになるケースも多いですが、医師や弁護士などに仕事を依頼する際は「請負契約」というスタイルになるのが一般的です。請負契約は労働契約とは異なるため、嘱託の医師や弁護士などに労働基準法が適用されることはありません。このため、実際には社員という扱いはされない場合がほとんどです。一般的に嘱託社員という呼び方を用いるときは、特別なスキルを提供してもらうケースではなく、定年後に再雇用した社員を指すケースが多いでしょう。

嘱託社員の労働条件・保険

嘱託社員の労働時間や給与などの労働条件は、勤務先企業や本人の希望によって異なります。また、労働条件によって加入しなければならない保険も変わります。ここでは、企業における嘱託社員の一般的な待遇について解説します。

労働時間

嘱託社員は、正社員よりも柔軟に労働時間を設定できる場合が多いでしょう。正社員は原則としてフルタイム勤務ですが、育児や介護といった家庭の事情がある場合など、希望を聞き入れてもらえる可能性があります。ただし、企業の都合やルールによって異なるため、契約時に労働時間を必ず確認しておくことが大切です。

仕事量や職責などによっては、正社員と同じく残業が発生するケースもありますが、原則として残業分の時間外労働賃金が追加で支払われます。ただ、一定時間分の残業代をあらかじめ固定給与に含める「みなし残業制度」が採用されている場合は、みなし残業分の時間をこえた時点から残業代が発生します。

有給休暇

嘱託社員も、正社員同様に有給休暇の取得が可能です。労働基準法第39条にて「企業は労働者に有給休暇を与える義務がある」と定められており、6ヶ月以上継続的に勤務し、労働日数の8割以上勤務している場合は、有給休暇取得の対象となります。

嘱託社員では、所定労働日数や雇入れ日から起算した継続勤務期間によって日数が計算され、入社6ヶ月以降から付与されます。定年後の再雇用の場合も有給休暇の権利がありますが、有給休暇の付与日数は勤務時間や日数によって変わるため注意が必要です。

退職金

嘱託社員でも、企業によっては退職金をもらうことが可能ではありますが、実際には退職金は支払われないケースが多く見られます。というのも、就業規則上などで退職金を支給する旨を明記していても、嘱託社員に対して退職金を支払う必要はないとされているからです。

就業規則上に退職金規定がある場合でも、就業規則の委任規定とは別に嘱託規定を設け「退職金は不支給」などと明記することで、企業は嘱託社員の退職金を不支給とすることができます。

給与・ボーナス・賞与

嘱託社員の給与とボーナスは、基本的に仕事内容と職責などによって決まります。多くの場合、嘱託社員は労働時間や業務内容が異なるため、正社員よりも給与が低いケースが一般的です。

再雇用による嘱託社員契約の場合、業務内容や労働時間などの変化に伴って、給与や賞与も減少する場合が多く見られます。ただ、定年退職前と同じ責務を担っていて、労働条件も変わらない場合は、同等の待遇を受ける必要がある点に注意が必要です。

また、ボーナスに関して嘱託社員は支給対象外とされることが多いですが、実際にボーナスが支給されるかどうかは、企業によって異なります。ボーナスの有無は通常、就業規則に書かれているので、契約前に労働条件について確認しておきましょう。

社会保険

嘱託社員は、一定の条件を満たせば社会保険の加入が可能です。勤務先が社会保険の適用事務所で、なおかつ以下のような条件を満たしている必要があります。

短時間労働者を除く被保険者の総数が常時100人を超える事業所の場合

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 勤務期間が2ヶ月以上の見込み
  • 学生ではない

上記要件を満たしていない場合は、基本的に国民健康保険に加入することになります。

労働保険

労働保険とは「労災保険」と「雇用保険」を合わせた名称で、一部の特定事業所を除き、企業と雇用契約を結んでいる人は加入義務があります。労働保険は、勤務中や通勤中に負傷があった場合に給付の受け取りが可能です。雇用保険は、何らかの事情で働けなくなった場合に、失業給付を受け取れます。

定年退職後、1日も空けずに嘱託社員として再雇用される場合は、手続き不要で継続して労働保険に加入できます。ただし、1週間の労働時間が30時間未満の短時間勤務の場合、雇用保険の種別変更手続きが必要です。

嘱託社員を採用するメリット

企業が嘱託社員を採用する場合、新たな人材を募集するケースと比べてさまざまなメリットが期待できるでしょう。たとえば、嘱託社員は基本的に定年退職した社員を再雇用するため、その人物について詳しく知っているという点は大きなメリットになります。その人がこれまでどのような業務を経験してきたのか、どの程度の能力をもっているのかといった情報を人事部などで組織的に把握していれば、再雇用した後も能力を発揮してもらいやすいでしょう。自社の仕事を通して培ってきた知識やスキル、人脈などを引き続き活用してもらえるため、ゼロから新しい人材を育てる場合と比べてはるかに高い生産性も実現できます。
また、通常は再雇用時に給与や勤務時間などの労働条件見直したうえで契約を結ぶため、人件費を抑えながら労働力を確保できる点も魅力です。採用や教育にかかるコストもほとんどないため、企業にとって非常に効率の良い雇用契約だといえるでしょう。

嘱託社員を採用するデメリット

さまざまなメリットが期待できる嘱託社員の採用ですが、一方でデメリットもあるため注意が必要です。まず、嘱託社員は基本的に有期労働契約であるため、契約期間が終わるたびに更新しなければならない点はデメリットといえます。更新手続きにかかる事務的な手間に加え、更新時に労働条件などの交渉が必要になるケースもあるでしょう。また、有能な人物に嘱託社員として長く活躍してもらうためには、嘱託社員だからといって仕事を制限するのではなく、モチベーションや仕事のしやすさなどにも配慮しなければなりません。
たとえば、定年退職前に管理職であった人物を嘱託社員として再雇用する場合、再雇用後はかつての部下が上司になることも多いです。かつての部下からあれこれ指示されたり、注意されたりすることに不満を抱いてしまう場合もあるので、適切なフォローをしたほうが良いでしょう。嘱託社員にこれまでの管理職とは異なる役職を与える制度を新設したり、加齢による体力の衰えに対応した勤務時間にしたりするなどの対策が考えられます。どのような配慮を行うかは企業次第ですが、高い生産性を発揮してもらうためにもきめ細やかな対処をすることが大切です。

嘱託社員と福利厚生

一般的な社員に対しては、企業が独自に設けている福利厚生制度の利用が認められています。制度の内容は企業によりさまざまですが、家賃補助や社員食堂、特別休暇など社員にとってメリットの大きい福利厚生も多いです。この福利厚生制度について、嘱託社員にも利用を認めるかどうか悩む企業経営者も多いのではないでしょうか。2019年9月時点では、嘱託社員に対して正社員と同様に福利厚生の利用を認める契約にしなければならないと、法律上で決まっているわけではありません。福利厚生制度の適用を嘱託社員にも認めるかどうかは、各企業の契約内容次第ということになります。
ただし、2020年4月には、働き方改革に関連して「同一労働同一賃金」が施行される予定になっているため注意が必要です。同一労働同一賃金が施行された後は、嘱託社員の待遇について、正社員との間に不合理な差を設けることが禁じられます。このため、嘱託社員に福利厚生制度の適用を認めていなかった場合は、新たに適用を認めるなどの対応が必要になるでしょう。

嘱託社員との契約満了の注意点

嘱託社員は、働く期間があらかじめ決められた労働契約を交わします。このため、基本的には契約期間が終わるたびに、契約更新と契約満了のどちらを選ぶか決める必要があります。やむを得ない事由がない限り、契約で定められた期間が終わる前に解雇することは原則として認められないので注意しましょう。また、有期労働契約は契約時に定められた期限をもって自動的に契約満了となりますが、過去に3回以上更新している場合や、1年を超えて継続勤務している場合については、契約満了するためのルールも設けられています。期限の30日前までに予告しておかなければ、定められた期間が終わっても契約満了することができないのです。
つまり、期限まで30日を切ってから「今回は更新しません」と伝えても契約満了は認められず、基本的には更新するしかありません。更新しないことを決めている場合は、できるだけ早くその旨を伝えるようにしましょう。さらに、過去の更新実態などから考えて契約を更新することが合理的と考えられる場合においても、自動的に契約満了とはできないと労働契約法で定められています。このケースでも、30日前までに更新しない旨を明確に伝えておくことが大切です。

働き手のニーズに応えるためにも嘱託社員という選択肢を

嘱託社員の採用は、能力の高い社員にできる限り長く活躍してもらうための効果的な方法です。社員のスキルを日ごろから組織的に把握している企業であるほど、再雇用後も能力を存分に発揮してもらいながら生産性を高めていくことができるでしょう。働き方改革が進む日本において、今後ますます多様化するであろう働き方へのニーズに対応するためにも、施策の一つとして積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

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