2025.1.21
後継者不足を改善するサクセッションプランとは?定義・作成プロセスから成功する秘訣までわかりやすく解説
こんにちは!働きがいを応援するメディア「ピポラボ」を運営するサイダス編集部です。
今回は、重要なポストやポジションを担う人材を育成するための施策であり、長期的な企業存続にとって欠かせない「サクセッションプラン」について解説します。近年「人材」が企業の成長を左右する要素の一つとして重視されており、中でも事業の後継者の育成は、企業の持続的な発展に不可欠です。
本記事では、サクセッションプランの基本的な定義から、具体的な作成プロセス、成功させるためのポイントまで、体系的にわかりやすく解説していきます。「適切な後継者が育っていない…」という方も、この記事を読めば、「サクセッションプラン」について理解し、自社に合ったサクセッションプラン構築のヒントを得られるでしょう。
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目次
サクセッションプランとは?定義を解説
サクセッションプラン(Succession Plan)とは、日本語で「後継者育成計画」と訳され、経営戦略上の重要ポストが将来時点で欠けないように、候補者を前もって育成・選抜し、円滑な交代を実現することを指します。
サクセッションプランは、1950年代のアメリカで、創業者世代の引退に伴う事業継承問題への対策として、CEOクラスの後継者を計画的に育成する取り組みとして注目され始めました。日本では、東京証券取引所が2015年にコーポレート・ガバナンスコードを改訂し、取締役会の役割として「CEO等の後継者計画の監督」に関連する項目を設けたことで、サクセッションプランの重要性が高まりました。
近年では、CEOや経営層だけでなく、組織全体のあらゆるレベルの重要なポジションを対象としたサクセッションプランの必要性が高まっています。これは、人材不足や急速なビジネス環境の変化に対応し、組織の持続的な成長を確保するために、重要なポジションに就く人材を計画的に育成することが不可欠となっているためです。
それにより、2018年には国際標準化機構(ISO)が公開した人的資本の情報開示についてのガイドライン「ISO 30414」の11分類の1分類として「Succession planning」という項目も設けられています。
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サクセッションプランと「人材育成」「後任登用」の違い
サクセッションプランに関連する用語はいくつかありますが、ここでは「人材育成」「後任登用」について解説します。
サクセッションプランと人材育成の違い
サクセッションプランは、将来の事業展開や組織の変化を見据え、経営層だけでなく、組織全体の重要なポジションを担う人材を計画的に育成する取り組みです。一方、人材育成は、従業員全体のスキルアップや能力向上を目的とした幅広い取り組みを指し、主に人事部が推進するケースが多いです。
項目 | サクセッションプラン | 人材育成 |
目的 | 組織全体の重要ポストの 後継者を育成 | 従業員全体の スキルアップ、能力向上 |
対象 | 選定された後継者候補 | 従業員全体 |
期間 | 長期的な視点で計画・実施 | 短期的な視点で、必要に応じて実施 |
担当者 | 経営層 | 人事部 |
サクセッションプランと後任登用の違い
サクセッションプランと後任登用には明確な違いがあります。サクセッションプランは、企業の中長期的な成長を見据え、全社的な戦略として後継者を計画的に育成する取り組みです。一方、後任登用は、特定のポジションに空席が生じた際や、組織改編、新規事業立ち上げ等の際に、適切な後任者を選出するための施策です。
項目 | サクセッションプラン | 後任登用 |
目的 | 組織全体の重要ポストの 後継者を育成 | 空席が生じた際に、 迅速に適切な後任者を選出 |
対象 | 選定された後継者候補 | 該当ポジションに近い キャリアや経験を持つ従業員 |
期間 | 中長期的な視点で 計画・実施 | 状況に応じて、迅速に対応 |
担当者 | 経営層 | 現職者の上司や人事部門 |
後任登用は、状況によっては、即時性が求められる場合もありますが、計画的に後任候補を育成しておくことで、スムーズな引き継ぎを実現できる可能性が高まります。
サクセッションプランの導入で得られる3つのメリット
企業がサクセッションプランを導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
① 後継者候補の確保
② 優秀な人材が定着する
③ 経営理念・経営戦略を社内に浸透できる
① 後継者候補の確保
後継者候補を事前に育成しておくことで、経営層の退任や予期せぬ事態が発生した場合でも、円滑な事業承継を実現できます。もし、後継者不在の状態に陥ってしまうと、迅速な意思決定が難航し、事業機会の損失や業績悪化、顧客離れといったリスクに繋がってしまう可能性があります。サクセッションプランは、こうしたリスクを回避し、企業の安定と成長を維持するために不可欠です。
② 優秀な人材が定着する
サクセッションプランに基づいて将来のリーダー候補を早期に見極め、計画的に育成することで、従業員は自身のキャリアパスを明確に描けるようになり、将来のキャリアアップを目指して成長意欲を高めることができます。結果として、優秀な人材の定着に繋がり、企業は人材の長期的な成長と組織全体の底上げを図ることができます。従業員のエンゲージメントやロイヤリティが高まり、結果として企業の持続的な成長に貢献します。
③ 経営理念・経営戦略を社内に浸透できる
サクセッションプランは、将来のリーダーを育成するプロセスの中で、自然と経営理念・経営戦略を社内に浸透させる効果も期待できます。なぜなら、サクセッションプランは、企業のビジョンや事業計画をもとに、求める人物像を明確にするのが一般的だからです。その過程で、従業員は「どのようなスキルを求めているのか」「どのような働きを期待されているのか」を理解し、企業全体の目指す方向性を共有することができます。
サクセッションプランの具体的な進め方

サクセッションプランは、具体的に以下のプロセスで進めていきます。
① ポジションの洗い出し
② 人材要件の決定と人材の選出
③ 後継者候補の選出
④ 育成計画の作成
⑤ 実施
⑥ 評価・進捗チェック
⑦ 計画の修正・チェック
① ポジションの洗い出し
まずは、サクセッションプランの対象となるポジションを明確化します。将来的な事業展開や組織運営において、欠員が生じた場合の影響度が高いポジションを役職に囚われず抽出します。会社の成長エンジンとなる部署や、専門性の高い職種等も考慮する必要があります。
この段階では、サクセッションプラン全体を効果的に機能させるために、自社の経営戦略やビジョンとの整合性を明確化する必要があります。事業の現状分析を行い、将来にわたって継承すべきコアコンピタンスや、変化に対応するために必要な組織文化等を明確化します。
② 人材要件の決定と人材の選出
対象ポジションごとに求められるスキル、経験、知識、能力等を具体的に定義し、人材要件として設定します。また、設定した人材要件に基づいて、客観的な評価が可能な選抜基準や評価指標を策定します。行動特性や能力を測定できる具体的な指標を設定することで、評価の精度を高めることができます。
例えば、リーダーシップであれば「周囲を巻き込み、チームを目標達成に導くことができる」「戦略的な意思決定を行い、組織を変化に導くことができる」といった行動指標を設定するといいでしょう。
③ 後継者候補の選出
設定した人材要件に基づき、後継者候補の選出を行います。後継者候補の選出は、多角的な視点から行うことが重要です。従業員の自薦・他薦制度を導入する、人事評価やスキル管理システムを活用して人材データを分析する、候補者と面談を行い、能力や適性を見極める等の方法があります。
候補者を選定する際には、現時点での能力だけでなく、将来的な成長可能性、リーダーシップを発揮する潜在能力、企業文化への適合性等を総合的に判断することが重要です。
④ 育成計画の作成
選定された後継者候補に対して、それぞれの強みや課題、キャリアプラン等を考慮した個別育成計画を策定します。面談や1on1等を通じて、候補者自身の希望やキャリアビジョンを丁寧にヒアリングし、育成計画に反映することで、モチベーションの向上を図ります。
育成計画を策定する際には、「OKR」という目標達成のためのフレームワークを活用するケースが増えています。
OKR( Objectives and Key Results )とは
企業や組織が戦略的に目標を設定し、その達成度を評価するための手法。組織目標と個人の成果を結びつけて管理することで、従業員のモチベーションやパフォーマンス向上を図る。
特徴
・従来の計画方法に比べて高い頻度で設定、追跡、再評価を行うことで、柔軟な目標管理が可能になる。
・企業全体の目標と、部署・個人の目標を紐づけることで、組織全体のパフォーマンス向上を促進する。
育成計画は、定期的に見直しを行い、必要に応じて柔軟に変更・改善を加えることが重要です。
OKRについてさらに詳しく知りたい方は、OKRとは?Googleやメルカリも導入する目標管理手法。KPIとの違いを確認 をご覧ください。
⑤ 実施
育成計画に基づき、実践的な経験を通じて、後継者候補の成長を促進します。戦略的な配置転換やジョブローテーション、複数部署での管理職経験、海外派遣、新規プロジェクトへの参画等、様々なアサインメントを通じて、必要なスキルや経験を習得させます。また、経営層によるメンタリングやコーチング、社外研修等も効果的な育成方法です。
⑥ 評価・進捗チェック
サクセッションプランは、中長期的な視点で進める必要があるため、計画の進捗状況を定期的に把握し、適切な軌道修正を行うことが重要です。設定した目標に対する達成度合いを評価し、計画に遅れが生じている場合は、その原因を分析し、必要な対策を講じます。
また、現場と一緒に育成計画を策定し、フォローできる体制づくりには、「ファンダメンタルCDP」の活用がおすすめです。
⑦ 計画の修正・チェック
計画の進捗状況や、後継者候補の成長度合い、外部環境の変化等を踏まえ、必要に応じて育成計画の内容を柔軟に見直します。綿密なサクセッションプランを立てていても、ビジネス環境や経営戦略の変化等で計画が変わってしまうことも少なくありません。
そのため、定期的な評価結果に基づき、計画の修正や、新たな育成プログラムの追加等を検討します。状況の変化に迅速に対応することで、より効果的な人材育成を実現できます。
育成計画の具体的な更新頻度は以下のとおりです。
・年度計画や中期経営計画の見直しを行うとき
・人事評価を実施した後
・事業環境に大きな変化があったとき
・組織体制に変更があったとき
・後継者候補の状況が変化したとき
サクセッションプランは、一度作成して終わりではありません。定期的な見直しと改善を繰り返しながら、自社の状況に合わせて進化させていくことが、成功の鍵となります。
サクセッションプランの成功に繋がる4つのポイント

サクセッションプランは、企業の持続的な成長と発展には欠かせない取り組みです。しかし、ただ計画を作成するだけでは、期待する効果を得ることはできません。
サクセッションプランを成功させるためには、以下の4つのポイントを押さえ、戦略的に実行していく必要があります。
・明確なビジョンと戦略
・人材育成の最適化
・継続的な見直しと改善
・社内コミュニケーションの活性化
明確なビジョンと戦略
サクセッションプランを策定するうえで最も重要なのは、自社の経営理念や事業戦略を明確化し、将来のビジョンと照らし合わせて、求められるリーダー像を具体的に描き出すことです。
将来の事業展開シナリオを複数想定し、それぞれのシナリオにおいて求められるリーダー像を明確にしたり、競合他社のリーダー像を分析し、自社との差異を明確化することも有効です。ビジョンや戦略が曖昧なままでは、場当たり的な人材育成になり、効果的なサクセッションプランは実現できません。
人材育成の最適化
後継者候補の選定は、過去の成果や経験だけでなく、将来的な成長可能性や潜在能力を重視し、多角的な評価を行いましょう。
【多角的な評価方法の例】
・360度評価
・アセスメントセンター
・行動評価
選定後は、計画的な育成プログラムを通して、リーダーシップ、問題解決能力、戦略的思考力等を育成していく必要があります。
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【育成プログラムの例】
・経営層によるメンタリング
・社外研修(リーダーシップ研修、経営戦略研修等)
・海外赴任
・新規事業開発への参画
また、実際の業務を通して学べるアクションラーニングも有効な育成方法です。ただし、適切なフィードバックや振り返りを怠ると、効果が半減してしまうため注意が必要です。
継続的な見直しと改善
市場環境や事業内容の変化は避けられないため、サクセッションプランも一度作成したら終わりではなく、定期的に見直し、柔軟に対応していく必要があります。
見直しの頻度は、少なくとも年に一度を目安とし、必要があれば随時修正を加えることが重要です。人事評価の結果や、後継者候補との面談内容等を参考に、計画に遅れが出ている場合は、その原因を分析し、改善策を検討しましょう。
社内コミュニケーションの活性化
サクセッションプランの内容や進捗状況をオープンに共有し、透明性のあるコミュニケーションを図ることで、従業員の理解と協力を得やすくなるだけでなく、組織全体のモチベーション向上にも繋がります。また、従業員からサクセッションプランに関する意見や要望を吸い上げる仕組みを構築することも重要です。
【社内コミュニケーション施策例】
・定期的な説明会の実施
・社内報やイントラネットでの情報発信
・後継者候補のインタビュー記事掲載
サクセッションプランは、企業の持続的な成長と組織の活性化を実現するうえで欠かせない施策です。計画的な後継者育成を通じて、企業の存続リスクを軽減し、優秀な人材の定着や採用コストの削減にも寄与します。
一方で、運用には時間やコストがかかるため、自社の経営戦略や現状に合った柔軟なプランの策定が鍵となります。
上記4つのポイントを踏まえ、自社にとって最適なサクセッションプランを構築し、将来を担う優秀なリーダーを育成していきましょう。
サクセッションプランの導入事例
サクセッションプランは、企業が将来のリーダーや重要ポジションの人材を計画的に育成・選抜する取り組みです。ここでは、実際にサクセッションプランを導入している企業の事例を2社紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は、全世界の優秀な人材が、グローバルトヨタの幹部にふさわしい能力・見識を習得し、各担当職務で最大限に発揮するための仕組みである「GLOBAL21プログラム」に取り組んでいます。このプログラムは、経営哲学や幹部としての期待、人事管理、育成配置と教育プログラムの3本柱で、グローバル幹部の人材育成を実施しています。
事務職や技術職の従業員に対して、行動指針である「トヨタウェイ」の実践を人材育成の根幹として位置付け、現地現物を重視したOJTを基本としています。また、OFF-JT(自職場を離れて行う研修)においても上司や先輩の指導を受けながら成長する機会を設けています。
若手社員に対しては、早期育成・さらなる能力向上を目的として、「修行派遣プログラム」を行い、海外への派遣規模を拡大しています。
参照: Sustainability Data Book 2018-トヨタ自動車株式会社
花王株式会社
花王は、「花王ウェイ(企業理念)」という独自の組織運営・人材開発モデルに基づき、花王グループの企業活動の拠りどころとして、サクセッションプランを導入しています。このプランは、使命、ビジョン、基本となる価値観、行動原則の4つを軸が、組織全体のグループ活動を支えており、将来の経営幹部候補となる従業員を3つのレベルに分け、体系的な育成を行なっています。
【3つのレベル分け】
レベル1:今すぐ後任となれる人材
レベル2:1~3年後に後任として活躍できる人材1
レベル3:将来的に後任を期待できる人材
また、花王は、社長執行役員の後継者を含めた人財戦略を経営における最重要課題の一つと位置付けています。取締役会および取締役・監査役選任審査委員会で継続的に議論を行い、次世代の経営環境を見据えた人材要件を示したうえで、後継者候補のリストを更新しています。
参照:
・花王ウェイ-花王株式会社
・コーポレートガバナンス-花王株式会社
・サクセッションプランの企業事例とは?多くの企業が抱える課題を解決する-mitsucari
戦略的なタレントマネジメント運用なら
「COMPANY Talent Management」シリーズ
サクセッションプランの成功には、緻密な「代表者の選出」「ポジションや必要条件の洗い出し」「育成計画の実施と修正」が重要となります。しかし、自社の経営戦略や現状に合った柔軟なプランの策定は一筋縄では難しいものです。そのような時に、タレントマネジメントの活用はいかがですか。
「COMPANY Talent Management」シリーズは、日本企業の高度で複雑な人事制度に最適化し、人的資本マネジメントを統合的にサポートすることができるタレントマネジメントシステムです。組織により異なる人事課題にスピーディに対応できる豊富な機能を備え、組織力を強化するための分析や、育成のためのプラン作成等、多岐に渡る人材マネジメント運用がこのシステム一つで可能となります。
ぜひ、「COMPANY Talent Management」シリーズで、自社の人材戦略を次のステージへ進化させてみませんか。