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2022.7.5

身元保証契約とは?2020年の民法改正で注意すべきことは何?

雇用する労働者に対して会社が採用時に求める雇用契約のひとつに身元保証契約があります。身元保証契約における契約書は労働者に提出を求めますが、契約を締結する相手は身元保証人です。労働者とのトラブル時に身元保証人に賠償請求を行うために契約を結びます。ただ、身元保証契約は2020年民法改正で内容が一部変わりました。

そこで、この記事では民放改正後の身元保証契約の内容と注意点について解説します。

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身元保証契約とは

身元保証契約とは身元保証法の「身元保証ニ関スル法律第1条」のもと、雇用主である会社が雇用される労働者の身元保証人との間で締結する契約です。労働者が会社の損害となる行為を起こしたときに、労働者に代わって身元保証人がその損害を賠償することを約束します。

そもそも、身元保証人とは「労働者が会社に損害を与えるような人物ではない」ことを保証してくれる人です。身元保証人となる人は労働者の身元の保証さえできる人であれば特に決まりはありませんが、労働者の親や兄弟姉妹など関係の近い親族が依頼されることが一般的です。雇用する労働者との間で雇用後のルールについて、採用時にきちんと確認しておくことは雇用主にとって重要な手続きです。さらに、守るべきルールを口約束だけではなく身元保証書という書類で交わしておくことにより、会社は労働者との間で起こり得るトラブルを事前に防げるようになります。

身元保証契約の範囲

身元保証契約のもととなる身元保証法の「身元保証ニ関スル法律」では、雇用主側だけではなく保証責任を負う身元保証人の立場も保護するために、責任範囲を限定しています。そのため、労働者が会社に対して損害を与えた場合、会社は身元保証人に対して制限なく賠償責任を問うことはできません。また、損害賠償の責任や請求金額については一律に定められているわけではなく、あらゆる事情を考慮のうえ、それぞれのケースに応じて決められます。

「身元保証ニ関スル法律第5条」で具体的に示されている損害額を決める事情は3つです。1つ目は労働者の監督に際して企業側に過失があったかどうか、2つ目は身元保証人がその役割を担うことになった理由や身元保証のために行った注意の程度です。3つ目として労働者が採用時から担当業務や身の上などが変わっているか、という点も挙げられていて、最後にほかの一切の事情へ配慮することについても書き加えられています。さらに、身元保証人に求められる損害賠償の対象は会社内の業務だけである点にも注意しましょう。雇用する労働者が出向先で損害を与えた場合には原則、責任を求めることはできません

身元保証契約の有効期間

単発的な取引などであれば設定は不要ですが、継続的な関係においては契約に有効期限を設けることが一般的です。いざというときに法的な証拠として扱うためには、契約内容が反映されている期間であることを明確化しておくことは重要となります。身元保証契約における有効期間は「身元保証ニ関スル法律第1条」で定められている内容によれば原則3年間です。ただし、自ら期間を定めることも可能で、その場合には最大5年間まで期間を設定することができます。

注意点として有効期間は、契約初日は期限に含めないことが基本です。ただし、1日24時間すべてが初日となるのであれば有効期間に含めます。また、締結した契約の有効期間は身元保証人の不利益となることを考慮し自動更新はされないため気を付けなければなりません。更新するのであれば、新たな有効期間を更新満了の都度設けて、労働者の身元保証人と締結する必要があります。

身元保証契約の注意点

身元保証契約は労働者のトラブル回避策として頼りになる契約です。ただし、締結するにあたり2つの点に注意しておくことが重要となります。

1つ目は身元保証人に対する通知義務についてです。通知義務とは「身元保証ニ関スル法律第3条」に定められているもので、会社は以下の2つのケースが起きた際に身元保証人にその旨を通知することが定められています。2つのケースとは、労働者が業務上不適任または不誠実とされることがあったときと、労働者の任務や任地が変わったときです。そのほか、身元保証人が責任を問われたり担うべき責任が重くなったりする可能性が生じた場合には、会社側から迅速に身元保証人にその旨を通知しなければなりません。通知が行われていなかった場合には賠償を請求できなくなる可能性もあります。

注意点の2つ目として、労働者による損害が発生した場合であっても損害賠償を全額求めるのは難しいことも念頭に置いておきましょう。ケースによって異なるものの、損害額の2~3割程度となることが一般的です。責任の程度が小さかったり、企業側に責任があると判断されたりすれば、全く請求できない場合もあります。

身元保証契約を拒否された場合

身元保証契約を行うにあたり、身元保証書の提出を労働者から拒否された場合にはどのような処置を取ればよいのでしょうか。そもそも、身元保証書の提出は強制できるものではありません。しかし、提出されないことを理由に解雇できる可能性はあります。過去には、身元保証書の提出を拒否されたために行った即時解雇が裁判で有効になったケースもありました。ただし、身元保証書の提出拒否への対策をより万全にさせておくためには対策を取っておくことが大事です。たとえば、身元保証書を提出すること自体を採用条件に組み込んでおくなどは、労働者に保証書の提出を促す効果的な方法となります。また、身元保証書の存在が会社にとって重要な書類であると位置づけておくと、いざ裁判となった際に有利に働きます。

身元保証契約の改正とは

身元保証の規定は2017年5月に成立し2020年4月に施行された「民法の一部を改正する法律」により内容が変わっています。改正されたポイントは大きく2点あり、1つ目は保証人が会社に支払う保証額の上限についてです。これまでは身元保証書のなかで上限額の記載をする義務は必ずしもありませんでした。しかし、改正後は上限額を記載することは必須となり、上限額が明示されていない契約は無効となります。改正に至った理由は個人保証人の保護を強化するためです。

改正ポイントの2つ目は根保証契約を無効にした点です。根保証契約とは、最初に行った契約により、その後に発生する債務もすべて保証しなければならないという法のもとでの約束を指します。保証人となった時点で保証しなければならない債務の内容をすべて把握できないような契約は民法が改正されて無効となりました。

改正における注意点

身元保証の規定が改正されたことを受けて身元保証書を作成する際に押さえておきたいポイントがあります。注意するべき点は、前述したように身元保証書に上限額の項目を忘れずに設けることです。改正後の身元保証契約では上限額を記載することは必須となっているため気を付けましょう。上限額が記載されていない契約書は法的に無効となります。ただし、上限額以外については以前と作成方法に変わりはありません。形式や文言などは従来の身元保証書と同じように作れるため、これまで使用していた書式やひな型も活用できます。

もし、改正に併せて身元保証書の見直しをすることが、手間がかかるなどを理由に難しい場合には会社として身元保証制度自体を廃止することも方法のひとつです。身元保証人を立てることは法律で義務付けられているわけではありません。特にその役割を求めているわけでもなく、会社で慣例化していることだけを理由に制度を継続させていたのであれば、民法の改正をきっかけに制度をなくすことも選択肢のひとつでしょう。

上限額の決め方

身元保証契約の上限額はリスクマネジメントの観点から慎重に検討し設定することが大切です。会社にとっては上限額を高く設定しておくほど、いざというときに安心であると感じることもあるでしょう。しかし、保証額が高額になるほど身元保証人は承諾しにくくなります。また、そもそも、過度に高額な保証額は民法90条の「公の秩序又は善良な風俗に反する法律行為」に反する可能性もあるため気を付けなければなりません。

反対に、保証額が低すぎても、実際の損害を最低限度は補償できる金額を受けられなくなる可能性があるため要注意です。適正な上限額は契約相手となる身元保証人が納得できる金額です。自社で起きた過去のトラブル事例や事業内容、会社の規模などを分析して算出し、なぜその金額を上限額に設定したかの理由を身元保証人に明確に説明できるようにしておきましょう。

身元保証を要求するときの対応策

身元保証を要求する際にはどのように行動すべきかを事前に把握しておくと、いざというときの対策も取れ、そのときになってもスムーズに動けます。労働者が会社に対して損害を与えて身元保証を要求する場合に最初に行うべきことは身元保証書の契約内容を改めて見直し、期間などの条件に該当しているケースであるかを確認することです。さらに、労働者が不正行為を行ったことに関する通知義務も遂行し、その後、状況を詳細にリサーチしたうえで身元保証人に対する損害賠償の請求に進みます。請求額は、契約の際の限度額内に抑えることが必要です。

損害額の何割にするかは損害事情を考慮して決定します。たとえば、労働者がコンピュータを壊して重要な情報を大量に失い、データの復元にかかる多大な費用を要求する場合、バックアップなどの対策を取っていない会社側の責任も損害額を決めるうえで考慮される事情です。両者の責任を考慮すると半々で保証することが無難であり、2分の1の金額を請求することが適正と思われます。また、身元保証人に賠償をする意思がなかった場合には、会社との話し合いだけでは解決できない場合もあります。そのようなときには全額請求を行い、裁判所に判断を任せるのがトラブルを大きくしないための対策です。

身元保証トラブルを避けるための予防策

身元保証契約を行ううえでトラブルを未然に予防するためには5つの対策が効果的です。

1つ目として、そもそも身元保証人に頼らないシステムを作ると、身元保証の契約や更新、要求の際に起こり得るトラブルを防げます。

2つ目は、身元保証契約を行う場合には、身元保証法に則って正しく契約書を作ることが大切です。法律に従った契約を行えば、身元保証人が要求を拒否した場合でも裁判のもとで正しい判断を下してもらうことが期待できます。

3つ目は、必要であれば契約更新を行い、契約内容を労働者と確認しておくことです。身元保証契約の提出がなかった場合に、それを理由として解雇できる場合があることもしっかりと共有しておきましょう。

4つ目はいざというときにきちんと保証をしてもらえるように身元保証人の支払い能力が十分にあるかを確認しておくことも大事です。

5つ目として、法律で定められている身元保証人への通知義務を徹底しておくことも保証を受けるためには必須の対策となります。

身元保証契約でトラブルにならないようにしましょう

ここまで身元保証契約の内容や注意点などについて解説してきましたが、理解は深まりましたか。身元保証契約は必ず行わなければならないものではありません。しかし、導入する場合にはさまざまな守るべきルールがあります。いざというときに契約したことを十分に生かすためにも、トラブルを防ぐためにも、正しい知識を持ったうえ身元保証契約を締結しましょう。

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