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2019.7.5

有給休暇の取得が義務化!1年で取得させるべき日数は?

政府が推進する「働き方改革」により、有給休暇の取得が義務化されました。たとえ労働者から希望がなくても、取得させなくては企業に罰則が適用されてしまいます。有給休暇を確実に取得してもらうためには、有給休暇の取得状況をしっかり管理して取得を促していくことが重要です。この記事では、有給休暇義務化の内容や日数の計算方法、有給休暇取得を促進させるための方法などについて解説します。

有給休暇は労働者に認められた権利!

有給休暇(年次有給休暇)は、労働者が賃金を得ながら、所定の休日とは別に取得できる休暇です。多くの企業では、就業規則で有給休暇に関するルールを定めているでしょう。しかし、有給休暇は労働基準法第39条で定められた労働者の権利でもあります。そのため、たとえ就業規則や雇用契約に記載がなかったとしても、労働者は有給休暇を取得する権利を有するということになります。また、有給休暇は企業や事業所などの規模に関わらず取得できなければなりません。
労働基準法によると、有給休暇の趣旨は「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資する」ことです。つまり、有給休暇とは労働者にリフレッシュしてもらうことを目的としたものだといえます。そのため、有給休暇の取得目的については原則として制約がなく、労働者はどのような目的でも自由に有給休暇を申請することができます。また、取得のために事業主の承認を得る必要もありません。
事業主は有給休暇の取得を妨げることはできませんが、日程については調整できる場合があります。例えば、多くの従業員が同じ日程で有給休暇を申請した場合は、事業の運営に支障が出てしまうケースもあるでしょう。そのような場合に限り、事業主には有給休暇の取得日を変更させる権利があります。この権利を「時季変更権」といいます。なお、事業者には労働者が希望の日に有給休暇を取得できるよう配慮することが求められており、事業の運営に支障があるかどうかは客観的かつ総合的に判断されなければなりません。

有給休暇が付与される労働者とは?

事業主は、正社員だけではなく契約社員や派遣社員、パートやアルバイトにも有給休暇を与えなければなりません。ただし、派遣社員については、派遣元の事業主が有給休暇を与える義務を負います。派遣社員と雇用関係にあるのは、派遣先ではなく派遣元であるためです。時季変更権についても、派遣社員の有給休暇取得が事業の運営に支障をきたすかどうかを判断するのは派遣元の雇用主であると決められています。
労働基準法の定めによると、労働者は2つの条件を満たすことで有給休暇を取得可能になります。第1の条件は、「雇用関係がはじまってから6カ月以上の間継続して勤務すること」です。ここでいう「継続して勤務する」とは、「雇用契約が有効である」という意味です。つまり、期間中に勤務していない日があっても在籍していれば継続して勤務しているとみなされます。また、契約の更新があった場合も継続しているとみなされる決まりです。短期契約の従業員の契約更新に限らず、定年に達した社員を再雇用した場合や、アルバイトを正社員として迎え入れた場合でも、通算で6カ月間以上勤務していれば条件を満たしていることになります。
第2の条件は、「出勤率が8割以上であること」です。出勤率とは、「全労働日」に対する「出勤日」の割合のことです。出勤率を計算する際は、有給休暇や産休・育児休業、介護休業のほか天災などの不可抗力で出勤できなかった日は、出勤日として数えます。また、生産調整のための休業や火災などで休業とせざるを得なくなった場合などのような、事業主側の都合による休業日は全労働日から差し引かれます。

2019年4月から有給休暇の取得が義務化!

2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」により、事業主は有給休暇取得を促進する義務を負うこととなりました。具体的には、10日以上の有給休暇が付与された労働者について、5日分は事業主が取得させなければならないと定められています。これは正社員だけでなく、パートやアルバイトも同様に対象となります。法改正前でも有給休暇の申請を拒否することは違法でしたが、有給休暇の取得を促す義務まではありませんでした。しかし、現在は有給休暇を取得させることが事業主の義務となりました。労働者が休暇を希望しない場合は、強制的にでも有給休暇を取得させなければなりません。
働き方改革の法改正の背景には、日本企業における有給休暇取得率の低さがあります。平成28年に厚生労働省がまとめた「就労条件総合調査の概況」によると、平成27年度の有給休暇取得率の平均値は48.7%であり、5割にも満たないという状況です。また、大企業よりも中小企業のほうが取得率が低いという傾向がみられました。少人数の企業では、従業員に休暇を取られてしまうと操業自体ができなくなることもあるのかもしれません。しかし、5日分の有給休暇を取得させる義務は法令によるものですから、事業主は必ず守らなければならず、違反すれば罰則もあります。

付与日数の計算方法が知りたい

有給休暇が発生する2つの条件についてはすでに説明しましたが、付与しなければならない日数についても労働基準法で定められています。正社員の場合、6カ月継続して勤務し、出勤率が8割以上であれば、事業主はその社員に対して10日の有給休暇を付与しなければなりません。その後1年間継続して勤務し、その期間中も出勤率が8割以上であれば、さらに11日の有給休暇を付与する必要があります。以降も同様の条件を満たせば1年ごとに付与日数が増えていくことになっており、6年6カ月目には20日の有給休暇が付与される決まりです。
1年あたりの有給休暇の付与日数は最大20日で、6年6カ月の継続勤務の後は日数は増えません。条件を満たし続けていれば、退職までの間は毎年20日が付与されることになります。また、就業規則などでこれよりも多い日数の有給休暇を付与することは問題ありません。なお、有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、労使協定により年間5日分までは1時間単位での取得が可能なケースもあります。その場合は、付与された日数と取得できる回数は同じになりません。
上記の付与日数は正社員の場合であり、所定の労働日数が少ないパートやアルバイトの場合は計算方法が変わります。その場合は、週ごとや年間の労働日数に応じて付与日数が決められています。

有給休暇は繰り越しも可能!

労働者は、付与された有給休暇をその年のうちにすべて使い切る必要はありません。余った有給休暇は繰り越され、翌年の分と合算されます。ただし、有給休暇の時効は2年と決められているため、2年以内に使い切れなかった分は自動的に消滅します。有給休暇の付与日数は最大20日なので、1年に保有できる最大日数は40日です(6年6カ月以上勤務し、有給休暇を1日も取得せずすべて翌年に繰り越した場合)。
有給休暇の消化順は、原則として古い順になります。繰り越しが発生した場合でも、その分を翌年に取得すれば付与された日数をすべて消化できるということです。ただし、就業規則に明記すれば、新たに付与された分から消化させることもできます。このようなルールは、時効によって消滅してしまう日数が増えるリスクがありますが、付与された有給休暇を年内に取得させる効果が期待できます。

年次有給休暇の管理方法

1.個別管理

法律上は、有給休暇の取得状況を把握するための管理表を作成する義務はありません。しかし、働き方改革で有給休暇の取得が義務付けられたことにより、これまで以上に有給休暇の管理を適切に行うことが重要になっています。個人ごとや部門ごとに取得状況を集計できるようにしておけば、状況を把握しやすくなるでしょう。
有給休暇の管理方法には、労働者ごとに個別に行う方法と統一的に行う方法とがありますが、個別に管理するのが最も公正性の高い方法です。なぜなら、有給休暇は労働者ごとの継続勤務期間によって発生タイミングが決まるためです。しかし、中途採用が多いなどの理由で従業員の出入りが多い企業では、個別に管理を行うと業務が煩雑になってしまいます。採用時期がある程度決まっていて従業員の出入りが少ない企業や、従業員数自体が少ない企業の場合は、個別に有給休暇を管理するのがよいでしょう。

2.統一管理

中途採用を積極的に行っている企業や、従業員数が多い企業では、有給休暇の管理は統一的に行うほうが効率的です。就業規則などで統一日を決めておき、すべての労働者に一斉に有給休暇を付与するのです。この方式であれば、労働者ごとに異なる有給休暇の発生日を管理する必要がなく、管理業務が煩雑になるのを防ぐことができます。ただし、労働基準法の定めによる有給休暇付与日数を下回ることがあってはならない点に注意が必要です。統一日の時点で労働者ごとの継続勤務期間を切り捨てたり、四捨五入したりといった処理は認められません。
統一管理では、例えば統一日を毎年4月1日とする場合、その時点で継続勤務期間が6カ月に満たない従業員にも10日の有給休暇を付与することになります。そうしなければ、次回の統一日より早く6カ月目が来てしまうためです。しかし、中途採用が多い企業では、この方法では不公平感が大きくなります。そのため、年に2〜3回の統一日を設けるのが一般的な方法です。毎年4月1日、8月1日、12月1日を統一日とするなら、「12〜3月入社の人は4月1日」、「4〜7月入社の人は8月1日」、「8〜11月入社の人は12月1日」というように、有給休暇の付与日をある程度公平にすることができるでしょう。
統一日は多く設けるほど、有給休暇を公平に付与することが可能になりますが、多くしすぎると個別管理のように管理業務が煩雑になってしまいます。企業の規模や中途採用の有無、人事部門内での管理担当者の人数などを考慮して、個別管理とするか統一管理とするかを選ぶのがよいでしょう。

有給休暇を取得させる方法

1.幹部社員が積極的に取得

労働者に有給休暇の取得を促すことが、事業主の課題になっています。では、これまで有給休暇の消化率が低かった企業では、具体的にどのような施策をとればよいでしょうか。まずは、幹部社員が率先して有給休暇を取得し、消化率アップの旗振り役となるのがよいでしょう。そして、現場の上司やリーダーも進んで有給休暇を取得するようになれば、部下や新人も含めてすべての労働者が気兼ねなく有給休暇を申請できる企業文化をつくっていくことができます。
それでも有給休暇を申請しない社員については、積極的に取得してもらえるよう上司やリーダーから話をすることも必要です。その際は、有給休暇の目的は「労働者にリフレッシュしてもらうこと」だということを念頭に置き、休んでもらうことも大切なのだということを理解してもらうのが望ましいでしょう。実際にリフレッシュしてもらったほうが、その後の業務効率が向上し、長時間労働の是正や残業コストの削減につながる可能性もあります。

2.部門ごとの目標設定

有給休暇取得の促進には、有給休暇の消化率を部門ごとの目標のひとつとすることも効果的です。労働者ごとに促しているので遠慮してしまってなかなか申請されないというような場合でも、部門目標を達成するためとなれば取得しやすいでしょう。消化率は明確な数値目標として設定可能なので、取り組みやすい目標でもあります。高い消化率を目標とすることを社内で奨励し、達成した部門を表彰するような仕組みを取り入れるのもよいかもしれません。
また、この方法では、部門ごとの目標達成状況から業務改善の必要性が見えてくる場合もあります。有給休暇の取得が思うように進まない部門では、業務負荷が高すぎて休暇を取りづらかったり、特定の従業員でなければ行えない業務が多数存在していたりといった問題を抱えている可能性があります。部門内で改善しようにも、多忙すぎてそこまで手が回らないという状況もあるかもしれません。場合によっては幹部や人事部門が介入し、人員の調整などを行うことも必要でしょう。

有給休暇の取得日数が増えれば企業のイメージもアップ!

有給休暇の目的は、労働者の心身の疲労を回復させリフレッシュしてもらうことです。有給休暇を適切に取得してもらえば、社員のモチベーションアップや作業の効率化が期待できるため、長時間労働の是正にもつながります。企業にとっては、残業コストを削減し業績アップをはかることができるというメリットもあるでしょう。また、有給休暇の取得率は、就職や転職を希望する求職者にもチェックされています。取得日数が増えれば、企業のイメージアップにもなります。人手不足が続く中、離職率を低下させ優秀な人材を確保することは企業にとって重要な課題です。社員が働きやすい環境を作るために、有給休暇の取得促進に積極的に取り組んでいきましょう。

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