2022.4.4
1on1から始める「人的資本経営」in ITトレンドEXPO 2022 Spring
近年ホットワードとなっている人的資本経営。言葉通り「人材を経営における資本として捉え、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」を意味する言葉ですが、組織の中でどう実践していくべきか、具体的なイメージがつかない方も多いのではないでしょうか。今回は、1on1エバンジェリストの堀井耕策氏、サイダス営業本部長の井嵜綾氏がスピーカーとして登壇したセッションの様子をお届け。『アナログ×システムで実現1on1から始める「人的資本経営」』をテーマに語り合っていただきました。
人的資本経営と1on1
井嵜:人的資本経営というと、「人の価値を最大化していくことで、企業価値を高めていくこと」だと認識しています。とはいえ「最大化する」ってすごく抽象的な言葉ですよね。堀井さんはどうお考えですか?
堀井:そうですね。人的資本経営について考える前に、経営における資源について整理してみましょう。前提として、経営には4つの資源があると言われています。「ヒト・モノ・カネ・情報」ですね。このあたり皆さんもご存知だと思いますが、なかでも「人」をどう活性化していくのか、多くの企業が課題に感じていることでしょう。井嵜さんは組織における「人が活性化している状態」について、どんなイメージをお持ちですか?
井嵜:社員一人ひとりが、やりたいことに熱意を持って一生懸命取り組めている状態でしょうか。
堀井:そうですね。一人ひとりが熱意を持って働けるようにするには、成長している実感が必要ですよね。
井嵜:目標を積み立ててそれをクリアしていくことや、深掘りして新しい気づきを得ることが成長の実感につながっていると思います。私も日々の業務に忙殺される中で「私の目標なんだっけ?」「何のために働いてるんだっけ?」といった状態になることがあります。でも、そんな時こそ立ち止まって考える時間が大事ですよね。
堀井:そういった経験は僕自身もありました。忙しいからこそ、時々立ち止まったり、振り返ったりしながら「自分の進むべき方向はどこなんだろうか」「今は何をやるべきなんだろうか」と、考える時間が大事なんです。加えて、ただ闇雲に本人の熱意が高ければいいというわけではありません。
一人ひとりの社員が目指している方向性と会社が組織として向かっている方向は、できるだけすり合わせる必要があります。そうしないと、人的資本経営の定義にある「中長期的な企業価値向上」にはつながらないからです。一人ひとりの成長実感を支えること、個人と企業の方向性をすり合わせること、その二つに必要なのが1on1なんです。
井嵜:内省するにあたって、第三者の存在って本当に大事ですよね。一人でお風呂に入ってる時間や、ベッドに入ってぼーっとしてる時間に一日のことを振り返ることがあります。だけど、自分だけだと手が届かない部分があるなと思っていて。自分ではここができてないと思っていた部分が、他の人から見ると気にならないことだったりとか、逆にできていると思っていたらもう少し気にして欲しいと思われていたりとか…。
堀井:そうですよね。だからこそ、対話をしながら頭の中を整理する時間が必要だと思います。1on1ミーティングは、人の思考を整理して気づきを与えたり、内省を促したり、個人のwillを認知することにもつながるものなんです。
1on1を人的資本経営に活かすには?
井嵜:1on1が人的資本経営に必須のものである背景は理解できましたが、そもそも1on1の定義が気になります。面談とは異なるものなんですよね。
堀井:ぜひ皆さんにも考えていただきたいのですが、面談はお好きですか?
井嵜:面談といわれると少し緊張しますね。上司にジャッジメントされる場、評価される場という認識があるので、少し身構えてしまいます。
堀井:そうですよね。「面談はお好きですか?」と質問すると、多くの方が「あまり好きでない」と回答します。ここで、面談と1on1の違いについて、簡単にお話しますね。面談においては、「上司から部下へ伝達する、アドバイスをする、ジャッジメントをする」といった時間の使い方が圧倒的に多いです。面談の場で厳しく詰められたり、ノルマの達成度合いを測られたりすることもあるでしょう。面談には、そうしたポジティブではない体験が多いため「あまり好きでない」方が多いのかなと思います。
井嵜:確かに面談には「結果を出すための話し合いの場」というイメージがあります。
堀井:「1on1で人を活かす」ためには、評価を伝えることが必要な場面もあります。ただそれよりも、「本人が何に興味を持っているのか」「どういった整理や内省するか」そういったことをお話をする対話の時間が重要なんです。面談だと上司から部下の皆さんに対して、どうしても縦方向のコミュニケーションになってしまいます。
もちろん、それが求められる場面もありますが、1on1ミーティングにおいては「横方向のコミュニケーションを取りましょう」ということなのです。ジャッジをするのではなく、相手に質問をしながらお互いの頭の中を整理してすり合わせていく、そしてそれを成長につなげてもらうという意識を持って対話する時間こそが大事だと思っています。
上司と部下の相互理解の姿勢
堀井:1on1に対する、上司と部下のイメージの違いを表す面白い話があります。Yahoo JAPAN で1on1 と検索をすると「やり方」「目的」といったワードがサジェストされます。前向きに頑張って取り組んでいこう、という姿勢が見えますよね。
一方、検索ブラウザとしてGoogle を使って「1on1」と検索すると「嫌い」「無駄」「話すことがない」などのネガティブワードがサジェストされます。
同じ「1on1」という単語を検索しても、上司世代である40代以上が多く利用するYahooのブラウザと、部下世代である20-30代が利用するGoogleのブラウザで、全く異なる結果になったというわけですね。
井嵜:20代〜30代の方は、1on1にもネガティブな印象を持っているようですね。熱意やエンゲージメントを引き出してもらえないと感じているのでしょうか?
堀井:1on1成功の鍵はやはり「傾聴」にあります。しかし、ただ「傾聴する」だけではなくて、「その人の熱意がどこにあるのか」「ワクワクするポイントはどこなのか」、そうした部分を引き出すことも大事です。
井嵜:上司と部下の双方が、自分の強みやモチベーションが入るスイッチなど、自分のことを言語化して、開示して、相互理解をする姿勢がないと、せっかくの1on1がもったいない時間の使い方になってしまうんですね。
強みはどうすれば言語化できるのか?
堀井:とはいえ、自分の強みやモチベーションの入るスイッチを言語化できていますか?
井嵜:何が強みか、自分で判断することは難しいなと思います。例えば語学力なら「TOEICで何点持っています」というように、数字で伝えられますよね。でも、「強み」と言われるとどうしても主観が混じってきます。だから「自分では強みだと思っているけれど、周りがどう思っているかわからない」というように、判断基準が曖昧だと感じます。
堀井:研修の中で「自分の強みをすぐ言える方はいますか?」と質問すると、手を挙げる方は全体の約1割くらいなんです。自分の強みだからこそ、他者からのフィードバックがないと気づけないものなんですよね。
井嵜:確かに、第三者から言われることによって後押ししてもらえたり、自信になることってありますよね。
堀井:なので、1on1の場で上司の皆さんから「あなたの強みってこういうところですよね」とフィードバックをして欲しいんです。
また、強みとは違って「熱意」は周りからは見えづらいものですよね。自分がワクワクしていることって発信しないと伝わらない。だから、部下の皆さんはワクワクしているポイントを自分の中で振り返って欲しいです。そこに対して上司は「じゃあ、自分の強みと熱意があることを活かして、組織にどうやって貢献できそう?」と、内省を引き出していく。そんな風に対話をしてほしいです。
井嵜:「強み」が分かったとしても、自分のいる組織の方向性とマッチしているのか、方向性が一致しているのかを一人で考えるのは難しいと思います。その点は、どのように解決していけば良いのでしょう?
堀井:そこを引き出すために「傾聴」が大事になります。ですが、話していると抽象度の高い言葉がたくさん出てきますよね。例えば「積極的にやります」とか、「視座を広げたいです」とか。それに対して「私には積極的に見えるけど、いまは積極的じゃないの?」「〜さんにとって、積極的ってどんな状態?」「視野ってどうしたら広げられるんだろうね?」と、質問を通じて深掘っていくことが、大事かなと思っています。
そして、そこからそれぞれの強みや熱意を見つけ出して、組織の向かう方向と、部下やチームの皆さんのやりたいことをすり合わせる。そういった時間を作ることが、人的資本経営の人を活性化させるという意味で、大事だと考えています。
井嵜:人によっては、上司に対して萎縮してしまったり自分のことを話しにくかったりすると思います。だからこそ、上司がしっかりと聴く姿勢を持ち、話を引き出すための質問をすることで部下の方の心理的安全性が保たれて、より良い時間になるのかなと思いました。
人的資本経営のためにシステムを活用するメリット
堀井:個人の進みたい方向性と、企業の方向性をすり合わせることができれば、もっと人材が活性化していくことにも繋がります。サイダスではそういったものをシステム化されていますよね。
井嵜:はい。ここまで人的資本経営の基礎となるような1on1のお話をしてきましたが、元々は「人の価値をいかに最大化できるか」というところが人的資本経営のポイントでした。弊社のシステムではそれを活かすために、2つの観点から人材のデータを捉えています。
一つ目は静的データです。これは履歴書にあるような、名前、住所、生年月日、学歴、職歴、持っている資格など、過去の変わることのないデータのことを指します。
二つ目は動的データです。これは、個人に関する様々な評価、個人の興味や関心、モチベーション、ストレス、やりたいこと、将来のキャリアプラン、価値観、どんな時にやりがいを感じるかなどは、日々変わっていきますよね。そういった、日々変動しやすいデータのことを指します。
この二つを掛け合わせることによって、その人が過去に培ってきた経験や、モチベーションが高まる要因は何か、どこに熱意が発揮できるトリガーがあるのかなどを見極めることにつながります。実際、静的データは管理しているけれど、動的データは管理できていない企業様が多いです。
ただ、動的データもきちんと集めていかないと、異動や配置は難しくなります。人事が一方的な異動や配置を行ってしまい、個人の「やりたい気持ち」に沿った配置ができなくなるためですね。そういった組織の仕組みづくりの支援をしていくのが「CYDAS PEOPLE」です。
こちらは弊社のアプリケーション「1on1 Talk」です。アプリケーション上で1on1のスケジュール調整ができたり、トークテーマが設定できたりと、スムーズに1on1を始めるための機能が備わっています。加えて、1on1の振り返りもシステム上で実施できます。
1on1の満足度や実施状況のデータを人事も把握できるので、個人の1on1の記録を組織全体のデータとして活用できるようになります。そのほかにも人材の価値を最大化するための各種アプリ/機能をご用意していますので、興味のある方はぜひお問い合わせいただきたいと思います。
1on1を導入したり、エンゲージメントが向上することで「売上が上がるのか」という質問をいただくことがあります。もちろん直接的にすぐ売上につながるものとは言い切れません。ですが、働いているのが「人」である以上、感情の側面が重要であることは皆様も感じていると思います。
1on1は、間接的ではありますが、離職率やモチベーション、ストレスや仲間と働くことの楽しさなどの、感情面に大きく作用します。そしてそれらは一人ひとりの生産性に確実に影響を与えます。長期的な目線で見たときに、売上や企業の価値向上にも繋がるのです。