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2020.12.24

地域金融とHRの協同が描く未来とは?「Digital × HR ×Regional Bank」レポート

「コロナに打ち勝つ地域金融」をテーマに、コロナ禍における地域金融の今後について熱い議論が繰り広げられた「Regional Banking Summit (Re:ing/SUM) in 名古屋」。
今回の記事では、各分野のHR業界をリードする3名をパネリストに迎え、実践の現場を赤裸々に語り合ったセッション「Digital × HR ×Regional Bank」の様子をレポートします。

パネリスト
1on1 エバンジェリスト 堀井 耕策氏
メルカリ Business Operations DivisionBranding Team 池田 早紀氏
サイダス 代表取締役  松田 晋氏

モデレーター
金融庁 監督局 銀行第二課 地域金融企画室 地域生産性向上支援調査官 川口 英輔氏

パネリストの多種多様な活動

金融庁の川口氏をモデレーターとして迎え、パネリストそれぞれの活動紹介から始まった本セッション。始めに、それぞれの切り口から見る地域金融との関わりが語られていきます。

堀井:
僕は、1on1エバンジェリストとして、官公庁や民間企業で1on1ミーティングの研修を実施しています。地域金融でいうときらぼし銀行さんですね。

1on1が組織の結果や個人の成長により深く関わっていくためにどうすべきか、ということはどんな組織でも考えるべきことですし、コロナによるリモートワークの広がりもその流れを後押ししていることと思います。
1on1エバンジェリストとして、1on1の重要性を理解して正しく活用していけるよう、各社で研修を実施しています。

池田:
私は、今年の3月から副業の形で静岡銀行に関わり始めました。コロナの影響もあって、例年通りの採用活動が難しくなってきた時期だったので、採用活動をYoutubeでしましょうよ!と提案したんですね。
そしたら、2週間後には動画が出来上がっていて…
そのスピード感もさることながら、驚くほどのカリスマYoutuberっぷりが発揮された動画だったんです。

静岡銀行の人事部長さんは、「成功の一番のポイントは僕が一切関わらなかったことだよ」とお話しされていたんですが、若手行員さんのなかにそういう才能が眠っていたことに気付けたのは本当によかったですね。

川口:
「任せる/自由に」が成功のキーワードかなと感じました。池田さんは普段、メルカリのブランディング担当として、「メルカリ公式SNSの中の人」としてもお仕事されていますし、いわば「その道のプロ」だと思うのですが、静岡銀行のYoutubeをすごいなと感じる具体的なポイントはありますか?

池田:
いや、天性のカリスマなんですよ笑
ただ、自分たちがこういう層にリーチしたい、たくさんの人に応募してほしいという気持ちよりも、「学生は今とても不安な時なんだ」と相手に寄り添う気持ちからコンテンツを作っているのは、やはり大きなポイントだと思います。
天性のカリスマ的才能と、相手の気持ちと状況を第一に考えて行動できること。それらが合わさるとこんなに素敵なアウトプットが生まれるんだ、と見せつけられました。

いち早く情勢に対応し、Youtubeでの採用コンテンツを強化した静岡銀行。GW明けの時点で、応募者は昨年比2割増になったといいます。

川口:
続いて、2つ目のトピックにあげている組織開発についてお尋ねします。
1on1ミーティングを導入している企業は多いですが、自分たちの組織風土にあったプログラムを作ることってなかなか難しいことだと思います。静岡銀行らしい1on1ってどんなものですか?

池田:
銀行で働く人々の実行力って素晴らしいものがあるんです。
でも、だからこそ「1on1をします」と言うと、1on1をすること自体が目的になってしまう。そこで、「1on1がなぜ必要なのか」を何ヶ月もかけて丁寧に伝えていきました。あとは、最初から完璧にできなくてもいいから一歩ずつステップを踏んでいこうという前提の元、日々のコミュニケーションスタイルを加味したプログラムにしました。

川口:
具体的にどんな仕組みを用意されたんですか?

池田:
1on1って「何を話すのか」と「どうやって話すのか」の組み合わせなんです。「何を話すか」については、いくつかのトークテーマを用意しましたが、「何を話すのか」「どうやって話すのか」って、ぶっちゃけ自由なんです。それよりもバリエーションを多く持っておくことが重要で。色んなタイプの部下がいて、それぞれに違う状況の支店がある中で、「こんな話をしてください」って画一的なものを準備しても違う。なんなら、「そもそも1on1じゃなくてもよくない?」って提案が来ても良いわけで…

そんな話をプログラムの中に組み込みながら、変化を前提としてやっていくんだという意識を一人ひとりに持ってもらいました。

川口:
堀井さんは1on1エバンジェリストとして静岡銀行の事例をどう感じましたか?

堀井:
1対1で話すのがいい場面と、チームで話したほうがいい場面。
組織の数だけやり方があるので、教科書通りに全部やるわけじゃなくて、自分たちの組織にどんな1on1がフィットするのか考えていくその過程自体が素晴らしいですね。

東京のIT企業で働きながら、故郷である静岡の地銀でも活躍する池田氏は、「来年は、静岡の魅力を全行員が発信することになるでしょう」と意味ありげな笑みで、自身の活動紹介を締めくくります。

続いて、人事系のクラウドサービスを提供する株式会社サイダスの松田氏が、地域金融機関との協同を語りました。

松田:
お客様の業種は多岐に渡りますが、地域金融機関のお客様とは、製品についてディスカッションを重ねて、まさに協同しながら一つのサービスを作りあげている感覚です。

大分銀行さんと進めているプロジェクトが、このJob adventureです。
「こんな仕事があるよ」というポストの提示に対して、自分の足りないスキルや学習すべきことが見えるシステムになればいいなと思っています。行員が評価されるためのシステムではなく、前向きに自らチェックするための能動的なシステムを目指しているんです。
将来的には銀行と地域の企業をつなげてダブルワーク…なんてことが可能になれば面白いなあと。

川口:
銀行と地域企業の間で、人材を紹介し合ったりプロジェクトを協同するための仕組みができるのは非常に魅力的ですね。

松田:
今、中小企業の経営者の方とお話しした時のことを思い出しました。
その方は、「自分の会社の担当行員さんには、会社の広報担当になってほしい」とおっしゃっていて。

相手のことをよく知っているからこそできるブランディングや宣伝ってありますよね。まさに池田さんは静岡銀行でYoutuberを誕生させることで、「静岡銀行ってこんなに面白いよ!」と外向けに発信しているんだと思います。その対象を学生さんから企業さんに振り向けてみると、また違う可能性が見えてくるのかなとも感じたり…
静岡銀行さんの話になっちゃった笑

地域金融機関のHRについて感じる課題

続いて「地域金融機関のHRについて感じる課題」を、パネリストそれぞれのスケッチブックに書いていきます。

松田:
僕は、「IT」と書きました。
何か新しいツールを導入するときに、「銀行だから」という言葉を消極的な理由として使う場面によく出会います。でも、どうして銀行だとダメなんだろう、と素朴に思ってしまうんですよ。扱う機密情報の量が他業種の比にならないことは確かです。けれど、顧客情報を扱うことがセキュリティ面でシステム導入のネックになるのなら、そこを外した形の仕組みを考えていけばいい。社内のコミュケーション活性化や、行員さんのスキルアップのシステムに顧客情報を紐づける必要はないわけですから。

川口:
それでいうと、静岡銀行さんの場合は様々なことがスルッと進んでいるように感じます。池田さんはどう感じますか?

池田:
まさにその話につながるのが、「金融だから」という呪文です。
中の人たちが「金融だからこれはできない」と自分自身に枠をはめてしまうことが、今多くの地域金融機関が悩んでいる若手行員の離職率など、ネガティブな数字に直結していると思うんですが、「静岡銀行さんは、そういった呪いにあまりとらわれてないな」と感じた印象的なエピソードがあって。
私が静岡銀行で副業するにあたって、「メールしません。チャットでのコミュニケーションにしてください!」って言ったんです。そうしたら次の日にはアプリをインストールして、チャットでメッセージをくれて…

そんな風に、新しいものでもまず飛び込んでみるその姿勢があるからこそ、スピード感を持って一緒にお仕事を進められているのかなと思います。

堀井:
僕が書いたのは、「ワクを外す」です。
先ほど池田さんがおっしゃった通り、人ってついつい自分の枠の中に収まってしまいがちですよね。金融業界だとなおさらその傾向が強いかもしれません。
一つの会社や組織だけで完結していくのは難しい変化の激しい時代の中でも、外の皆さんとのつながりを広げていくことで、みんなでいいものを作っていこうよ、という姿勢が求められているんじゃないかなあと思います。

例えば、1on1研修もパフォーマンスを最大化するための一つの手段でしかないんです。より良いパフォーマンスのためには、スキルの他に心や体のバランスも整えておくことが大切です。けれど、その全部を僕が提供できるわけではない。一度、様々な講師の方を交えてワーケーションのプログラムを作ったんですが、みんなで対話をする中で素晴らしいものができていく実感がありました。新しいものが生まれる時には、自分の決めた枠を外してみることが重要だなと思います。

川口:
みなさんお話しされていることがつながっているように感じます。では、なぜその枠や「金融だから」という呪文から逃れられないんでしょうか?

堀井:
実際に繋がってみるという経験じゃないでしょうか?「百聞は一見に如かず」ということわざもあるように、実際に繋がってみて、一緒にやってみることで初めて「こんなことができるんだ!」という気づきが生まれるんです。

池田:
金融の人たちって、1歩踏み出してしまえば、2歩目から100歩目までは驚くほど早いんです。だからこそ、最初の失敗を恐れないことが大切で。
失敗することはチャレンジすることと隣り合わせだからこそ、正しいリスクテイキングをできないことがいかに危ないことなのか。そんな考え方が地域金融の中でスタンダードになってくると、変わる気がします。

松田:
真面目な人ほど失敗した時に、その人自身を責めるんですよね。でも本当は、失敗した「こと」自体に対して反省して、どんなふうに改善すればいいか考えていけばいいんです。

堀井:
失敗しても、きちんと内省して振り返れば確実に成長に繋がる部分があると思います。次のアクションを考えられる失敗は恐れるようなものじゃないはずですよね。

川口:
今このセッションを聞いている行員の方々には、「そうはいっても難しいんですよ…」なんて思いもあるのかなと。もちろん、仕事をしていると絶対に失敗が許されない場面ってあると思うんです。でも、少し考え方を変えてみると、中向けのHRなら、チャレンジが失敗しても迷惑がかかるのって結局身内ですし、必要な痛みとして次に活かしていける可能性が十分にあるのかなと感じます。

堀井:
最初から完璧にやろうとしなくていい、最初は一歩でいいんです。

川口:
一歩目を踏み出すファーストペンギンは、とてもしんどい役回りですよね。どうしたらその一歩が踏み出せるんでしょうか。

堀井:
「否定しないこと、肯定すること」そこに尽きると思います。チャレンジした人に対しては、そのチャレンジ精神自体を認めて肯定する。その上で、結果は切り分けて評価する。チャレンジをどう肯定するかの組織文化が、今求められていることだと思います。

地域金融機関のHRについて感じる可能性

堀井:
僕はこう書きました。「才能を起こす。そのために、みんなで育てる。」人にはそれぞれ、特性や興味関心、得意不得意があって当然のはずですが、組織に属しているとそういったものが見えづらくなってしまいます。まさに才能が眠っている状態なんですね。だからこそ、まだ見えていない才能をみんなで寄ってたかって見つけて育てていくことができれば、物凄いものが生まれていくと思うんです。

川口:
そんな風に、才能を引き出す組織を作っていくために何をすべきなんでしょうか?

堀井:
そこでまさに必要とされるのが「対話」だと僕は思っています。対話によって「どんなものを作りたい?」「あなたはどんなことを考えているの?」と互いの理解を深め合う時間が大切ではないでしょうか。

川口:
日々の対話が生まれる組織文化を作るにあたっての最小単位が、1on1ミーティングなんですね。

堀井:
1on1は上司だけのスキルではないんです。傾聴力、承認力、観察力、質問力、伝える力といくつものスキルが絡み合っていますが、特に傾聴力、承認力、観察力は組織にいる全員で磨いていくべきだと思います。

池田:
私は「ダイバーシティー」と書きました。
イノベーションは、新参者や変わった人から起こるものだと思います。
地域金融では、そういう人々がまだ力を出してない。新入社員や若手社員、女性や副業人材等、イノベーションのタネを持っている人たちが発信しやすい風土、風通しの良い組織にまだなってないんです。でもそれなのに、ここまで組織として堅牢な状態でいられてるってことは可能性でしかないと思ってて。ここからどんどんダイバーシティを強化して、全ての人が自分の意見を言えること、そしてその人たちの意見を採用できる決済者がいること。そうたし変化が組織の可能性をさらに広げると思います。
地域金融には可能性しかないです!

例えば、20代の行員の方々にアイデアを出せるだけ出してくれって言ったら、たくさん出てくると思うんです。心理的安全性なんて言葉もよく使われますが、どんな馬鹿な意見でも出しやすい雰囲気を積極的に作っていくことが求められてますよね。

松田:
実は僕もダイバーシティーって書こうとしてて被っちゃった笑
池田さんの話には本当に共感します。今、行員の方と毎週のようにミーティングしているんですが、そこでは20代30代の方が積極的に提案してくれるんです。
イノベーションは若手から、体験から生まれるんだなと感じますね。

川口:
若手行員にとって、上司や人事部長の前で変なこと言えない空気感ってどうしてもあると思います。新参者や変わり者とされている人々が、金融機関という枠組みにとらわれないで発言できる状況は、どうやったら作り出せるんでしょうか?

松田:
上の人がどんどん変えていくこと、変わっていく姿勢を見せることだと思いますね。例えば、きらぼし銀行の行員さん達と初めてお会いした時は、みなさんスーツにネクタイをビシッと締めた堅い雰囲気でしたが、今はみんな堀井さんのようなカジュアルな格好ですし…笑

これからの地域金融

1時間半にわたるセッションも残り時間わずか。地域金融機関とどんな仕事ができると面白いか、そこに広がる未来の話が最後の議題に挙がりました。

堀井:
体験+つながりを大事にすることで生まれる可能性は大いにあるなあと今回のセッションを通じて改めて感じました。ビジネスに限らず、プライベートも含めて積極的に様々なことを体験してみる、そこからいろんな人と繋がっていく、イノベーションを起こしていく。より良い未来の形は小さな一歩から作れるんじゃないかなと思います。

松田:
地域金融は、白いキャンバスに何でも描くことのできる場所だと思うんです。
そこで「チャレンジする」「失敗を恐れない」といった今までのいくつかのキーワードに、もう一つ加えたいのが「創造性」です。創造することは人にしかできません。だからこそ、人を大切に育てる地域金融が地域全体の創造性を高めて新しい価値を生みだしていくのだと思っています。

池田:
地域金融を「何でも描ける真っ白のキャンバス」だと松田さんは表現されていましたが、まさにそうで「地域の応援団」としてやれることがまだまだたくさんあるし、外とのつながりももっと作っていけるはずなんです。
私が静岡銀行さんで副業していることをTwitterで呟いたところ、「自分も静岡出身で東京のIT企業で働いてるけど、静岡のために何かやりたいと思っています」という旨のメッセージを30件くらいいただいて。静岡に限らず、それぞれの地域を愛して応援したいと考えている人はたくさんいるはずです。
外の人の力も存分に借りながら、「地域の応援団」としての地域金融を作りたいなと思っています。

川口:
地元を応援するよりディープなやり方として「地元の金融機関で副業をする」ってすごくワクワクする話ですね。

池田:
そうですね。だからこそ外の人が来たときに意見を言いやすい土壌づくりや生産性の高まる仕組みづくりが今やるべきことだなあと思っています。

期待溢れる雰囲気で終了した本セッション。地域金融のポテンシャルとその未来に胸躍る時間となりました。




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