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2022.12.23

人的資本と働きがいを考える ピープルサミット|第1部:「スター社員」「ISO 30414」等、人事トレンドを紐解く

サイダスピープルサミットの第1部では、昨今トレンドとなっている「スター社員の発見と育成」「人的資本経営」「ISO 30414」といったテーマを取り上げ、4つのセッションを行いました。今回ご登壇いただいたのは、先進的な取り組みをされている人事の方や研究者、経営者、サイダス製品を活用いただくパートナー企業など7名です。本記事では、当日限定セッションを除いた3セッションのハイライトをレポートします。

第1部 Session1:研究結果と事例から探るスター社員の発見と育成

登壇者
神戸大学大学院経営学研究科 准教授 服部 泰宏氏
パナソニックコネクト株式会社 人事総務本部 人事戦略室 杉本 稚代氏

セッションの概要

社内で高い成果を出すスター人材は後継者育成の文脈でも注目されていますが、その定義は組織によっても違う曖昧なものです。本セッションは、研究と実践それぞれのフィールドで活躍されている二人を招き、これからの組織のあり方にフィットする「スター社員の発見と育成」についてお話しいただきました。
セッションの前半では、服部氏からスター社員の学術的な定義や課題についての説明。続いて杉本氏から、パナソニックコネクト社が取り組むスター社員の発見と育成に関して事例紹介を行いました。本記事では、服部氏の論じた定義に基づいてパナソニックコネクト社の事例を深掘りしたセッション後半の内容をレポートします。

服部氏
セッションの冒頭で、スター社員の学術的な定義と、スター社員形成の公式をご紹介しました。これらの定義や考え方をもとに、パナソニックコネクト社の取り組みについて、もう少し詳しく聞いていきたいと思います。

スター社員の学術的な定義
スターの形成の公式 暫定版

服部氏
先ほど、スター社員を発見する際のアセスメントで、社員のパフォーマンスとポテンシャルを確認したと仰っていましたが、ポテンシャルをどのようにアセスメントしたのか教えていただけますか?

杉本氏
アセスメントを行う前段階として、各事業部長・人事責任者に、自組織のなかで優秀と思う人材をピックアップしてもらいました。そして彼らがピックアップしたハイパフォーマー人材をアセスメントに照らし合わせ、ポテンシャルを確認していきました。
ポテンシャルを図る際は、①リーダーシップ特性(粘り強さ、曖昧さ、積極性、未来志向)と、②ラーニングアジリティ(好奇心の強さ、他者への関心、リスクを背負い結果にコミットするか、自分が他者に対して与える影響を客観的に認識しているか)、この2つを指標としました。

服部氏
いわゆる能力だけではなく、個人が持っている柔軟性や曖昧さの耐性など、心理的資本について図ったのですね。特に日本企業では曖昧さが求められると思います。次に、冒頭で伝えたスター社員の公式における「適切な経験」について、もう少し詳しく聞かせていただけますか。

杉本氏
スター社員を語る上で、自分の知らないことや知らない人をマネージした際にも成果が出せるかどうかが重要だと考えています。階層が上がるほど自分自身が経験してきた専門領域だけでは戦えず、むしろ自分より専門性の高い人材をマネジメントしながら成果を出していかなければなりません。
同じ事業部でその道の専門家になるのではなく、別の道でも成果を出せるかどうか確かめるために、タフアサインメントを行うことにしました。これが、先ほどのスター社員に与えるべき「適切な経験」に当たると考えます。

また、リーダーとの対話は、社員の視野を広げるために実施しています。ミドルマネジメントが育っていくためには、広い視野を持てるよう気付きを与えるのが必要だと思うためです。

服部氏
ちなみに、どの程度その社員と違う相手と対話をさせているのでしょうか?「違う度合い」が気になります。

杉本氏
あまりにも自身とかけ離れ過ぎた相手と話しても効果がないと考えています。社員の今までの経験と全く異なる領域に導くというよりも、何かしら会社がサポートする環境があると伝えるのが大切です。
少し回答がずれますが、当社のアセスメント結果を見てみると、ただ経験豊富な人がポテンシャルを発揮しているわけではありませんでした。それよりも、自身の取り組みが会社や個人に対してインパクトがあった者の方が、ポテンシャルが高い傾向となっていました。

服部氏
ある領域で成功するスター社員が、他の領域になるとうまくいかない話について深掘りしたいです。他の領域に移ったからこそ、逆に成功した事例はありませんか?また、どのような環境を作れば、別の場所でも成功するようになると考えますか。

杉本氏
別の場所でも成功する人は、自らネットワーク作りを行っているのが特徴だと思います。スター社員だけでなく、例えば中途入社者にも言えることですが、転職後もスムーズに成果を出せる人はネットワーク作りに意欲的です。周囲の人と接点を持ちながら、分からないことがあっても恥ずかしがらずに聞いていける度量があることが重要ではないでしょうか。

第1部 Session2:成果を出すピープルマネジメント 人的資本を高める組織は何が違うのか?

登壇者
株式会社エスノグラファー 代表取締役 神谷 俊氏
株式会社Funleash 代表取締役 志水 静香氏

セッションの概要

心豊かに気持ちよく働ける組織と、成果に向かって無駄を省く組織のあり方は、一見矛盾しているように見えるものです。「稼ぐ」に最適化されがちな現代の組織に求められる「人的資本」の重要性と、適切なリーダーシップについて、理論と実践の両面から議論いただきました。
本記事ではセッション前半で議論された、人的資本とリーダーシップの関係性や、内発的動機づけによる学びの重要性についての内容をレポートします。

神谷氏
人的資本とは、簡単に言えば「人材を大切にしよう」という意味となりますが、志水さんはこれを高めていくために何に注力すべきだと考えますか。

志水氏
人が持っている能力やポテンシャルを引き出していくことで、事業や社会をより良い場所にしていけると考えています。

神谷氏
人的資本経営において、社員のポテンシャルを高めることが大事という意見ですね。近年、人的資本が財務的な文脈で評価されるようになりましたが、正直なところ一朝一夕で高まるものとは思えません。人的資本の時間的文脈に関してはどう思いますか。

志水氏
組織文化やリーダーシップ、組織能力といった要素で差が出ると考えます。トップだけでなく、ミドルマネジメントがコミットをする企業は(人的資本が高まるまで)時間を要さないということです。一方、流行っているから人的資本に取り組もうなど、物事を表面的に捉える企業は上手くいかず、時間軸、成果ともに大きな差が出ると考えています。

神谷氏
トップがリーダーシップを発揮するのが大前提であるということですね。個人的にもう1つ気になることがあります。人的資本に関するサービスのほとんどが「人的資本のために社員教育をしよう、研修をしよう」と謳っているのに違和感があります。果たして、市場で付加価値が高いとされるスキルや知識を、企業がタイムラグ無しにインストールして教育できるものでしょうか。

志水氏
仰る通り、研修よりもセルフリーダーシップが重要だと私は思います。

神谷氏
もちろん研修は、能力開発や組織文化を開発する一つのスイッチになり得ます。しかし、教育しなければ強化されない組織よりも、社員が自律的に学ぶ組織を作る方が効率的で、若返るのではないかという意見です。

志水氏
「教育しなければ人的資本が上がらない」
「教育さえすれば、人的資本が上がる」
「ジョブ型を入れれば、日本の課題は解決する」

こういった論調は乱暴で、危険ですよね。

私も神谷さんと同様に、社会人になってから法政大学で学んでますが、誰かに言われて勉強し直したわけではありません。自分の中から湧き上がる内発的動機に突き動かされて、学び直しや、今日のセミナーのような対話の場に参加しています。

神谷氏
内発的動機をきっかけに学んでいった方が、私も効果的だと思います。セッション1で組織内にネットワーク作りをして様々な人と出会えるよう支援するという話があったように、社員の経験学習を後押しして学びスイッチを入れるのが良さそうですね。

第1部 Session3:人的資本経営の本質 開示で終わらせない「ISO 30414」

登壇者
山形大学学術研究院 産学連携教授 岩本 隆氏
People Trees合同会社 CEO 東野 敦氏

セッションの概要

人的資本への投資が重要視される中、ISO 30414への対応も日本企業の人事が向き合うべき課題です。しかし、それらの情報開示のみをゴールとしては、人材に投資し成果を最大化させていく人的資本経営は実現できません。
セッション前半では、岩本氏から人的資本経営が注目されISOが作られた背景について説明をしていただきました。本記事では、東野氏が岩本氏に様々な質問をぶつけて人的資本の本質に迫ろうとした、セッション後半部分をレポートします。

Question1 「人的資本経営を導入せよ」と経営から言われました。何から手を付けたら良いでしょうか

岩本氏
経営を目的としてデータ活用をすると聞くと、社員は冷めてしまうものです。「社員に役立つデータ活用をする」というスタンスが良いと思います。評価のためではなく、個々の社員を成長させるためにデータを使うのです。

例えば、社員が描いているキャリアをシステムに入力すると、AIがおすすめの研修を提案してくれます。それに従って学んでいくと自然と成長実感が持てるようになり、社員の成長と同時にタレントマネジメントが促進されます。会社のためにスキルマップを入れてもらうよりも、社員が楽しく使えるように整える方が納得感があるということです。

東野氏
仰るとおりだと思います。うまくいっている会社は、スキルをラフに扱っている印象です。

岩本氏
日本のサラリーマンは普段からスキルの棚卸しを行う習慣がないため、タレントマネジメントを導入しても活用しづらいのが現状です。タレントマネジメントは、シンプルで効果があることが重要ですから、スモールサクセスを積み上げた方がいいと思います。

東野氏
データが溜まってきたら、次に何をしたらいいのでしょうか。

岩本氏
蓄積したデータに、例えば「サッカーが趣味」といった仕事と関係のないタグ付けをするのも良いでしょう。そういった直接業務に関係のない話題から人間関係が広がり、結果としてビジネスにプラスになることもあります。データを貯めるために取り組むよりも、社員が使いたくて使っているというスタンスの方が自然とデータが溜まります。データがたまってから、後にシステムの改良を加えていくイメージですね。

東野氏
完璧な要件定義をしてからシステムを使い始めるのではなく、先にデータが集まる仕組みを作って、そこからデータ活用を始める順番が良いのですね。

岩本氏
これまで人材データというと、しかし今の時代にそういった考え方をしていると社員のエンゲージメントもパフォーマンスも上がりません。

コロナ禍で人生を考え直す人が世界中で増えて、大離職時代がやってきました。今こそ、会社が個々のキャリアを考えてあげることが必要不可欠です。キャリアウェルビーイングを意識し、社員が成長しながら幸せなキャリアを歩めるように経営側が考えざるを得なくなったといえます。

東野氏
気軽にデータを取り始めようと言ったものの、大前提として「どんな会社にしたい」というパーパスがあったほうが、よりデータが活きるということでしょうか。

岩本氏
そうです。人材争奪戦の現代では、社員を道具として見ることはできません。いかに社員を幸せにしていけるのか、そのために会社はどう歩んで行けばいいのかと、考える必要があるでしょう。

東野氏
経営陣としては「人的資本経営を導入せよ」と人事部門に指令をだすだけではなく、「どのような人と、どんな組織を作っていきたいのか」のビジョンを掲げなければ、データをとる方向性も定まらないということですね。

Question2 「人的資本経営」で組織を変えていくことは出来ますか?

東野氏
タレントマネジメントシステムを使っていくなかで、データ活用に抵抗感がある社員は少なからずいると思います。そもそも、本当に人的資本経営で組織を変えていくことはできるのでしょうか。

岩本氏
テクノロジーが進化し、データ活用は複雑どころか簡単になってきています。ISO 30414という国際規格ができたおかげで「どんなデータをとればいいか」の基準も明確で、社員に対して説明のしやすいものになっています。

また、人的資本経営の概念を新しいものと思う人も多いですが、松下幸之助が「企業は人なり」と言っていたように古くからある概念です。昔は、一人ひとりを活かすという意味で「企業は人なり」と言っていましたが、時代が流れ、経済成長する過程で意味が変化していると思います。皆さんは、「雇用を守ること」を「企業は人なり」と解釈していないでしょうか。

もともとは、一人ひとりを活かすために「企業は人なり」と言っていたはずです。第四次産業革命を目前とした今こそ、これからの「企業は人なり」の在り方を考え直してみませんか。

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