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2021.3.8

ケイパビリティって何?基本知識・定義から活用事例まで徹底解説

企業は実現したい未来、つまりビジョンの達成のために目標を打ち出し、さまざまなアイデアを商品やサービスに活かそうとします。しかし、そのアイデアに積極的な投資を行っても、それが企業のケイパビリティからかけ離れたものであれば回収できる可能性は薄いでしょう。なぜなら、ケイパビリティはマーケットという大海を進むべき重要な指針のひとつだからです。本段落では、ビジネスシーンでよく使われるケイパビリティとは何か、基本情報や定義、具体例を紹介します。

1.ケイパビリティとは

企業は実現したい未来、つまりビジョンの達成のために目標を打ち出し、さまざまなアイデアを商品やサービスに活かそうとします。しかし、そのアイデアに積極的な投資を行っても、それが企業のケイパビリティからかけ離れたものであれば回収できる可能性は薄いでしょう。なぜなら、ケイパビリティはマーケットという大海を進むべき重要な指針のひとつだからです。本段落では、ビジネスシーンでよく使われるケイパビリティとは何か、基本情報や定義、具体例を紹介します。

1-1.基本情報

ビジネスにおける「ケイパビリティ」とは、企業や組織全体の強み、得意とする組織的能力のことです。具体的には、どこよりも高品質な製品を作り出す能力や、迅速なスピードなど、ライバル他社と比べたときに圧倒的に優位に立てる能力を指しており、企業成長の大きな原動力となります。それと同時に、ケイパビリティは企業の経営戦略を立てる際に把握しておかなければならない重要な指針でもあります。
この「ケイパビリティ」という概念が発表されたのは1992年のことですが、長期にわたって事業を継続している企業は、それ以前から知らず知らずのうちにケイパビリティを明確にし、企業を成長させてきました。まして、ますます厳しさを増すこの競争社会では、ケイパビリティを見極め、刷新していかなければ生き残ることは難しくなるでしょう。そのためには、ケイパビリティを最大限に活かせる人材募集や体制の構築といった、組織づくりが必要になります。
ただし、ここで気を付けなければならないのは、企業が自らのケイパビリティを把握してこその組織づくり、だということです。企業側のニーズと個人の能力がマッチしているのか曖昧なままでは、いくら優秀な人材がいても企業に惹き付けることはできません。また、企業の中でも、さまざまな部門と交流を深め、多様性のあるチームづくりを推進することでケイパビリティがどんどん向上します。価値観が多様化するなか、どんなに環境が変わってもニーズに合わせ変化に対応できた組織だけが生き残ることができるのです。

1-2.定義

ビジネスにおけるケイパビリティを定義したのは、ボストン・コンサルティング・グループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス.E.シュルマンの3人です。3人は、1992年、「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」という論文で、ケイパビリティを「バリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」と定義しました。ここでいうバリューチェーン(Value Chain)とは、原材料の調達から、研究開発、商品の製造、販売、アフターサービスまで、一連の事業活動を個々の工程からアプローチするのではなく、価値の連鎖としてとらえる考え方のことです。
ジョージ・ストークス達は、論文においてウォルマートやホンダなど、数多くの実例をあげ、ビジネスにおいては、良い新商品を開発するだけでなく、顧客が求めるさまざまな「価値」を提供するためのマーケティングやサービスを含めた一連のビジネスプロセスが大切である、と論じました。つまり、ケイパビリティとは、企業の技術力や商品開発力といった特定の能力ではなく、組織を大局的な視点から眺めたときにわかる、他社との競争を勝ち抜くための決定的な強みや戦略的なビジネスプロセスを遂行する能力のことを指しています。

1-3.コアコンピタンスとの違い

ケイパビリティと似たビジネス用語に「コアコンピタンス」という概念があります。これは、企業の中核を担う技術や特色のことで、ホンダでいえば、卓越したエンジン技術のことを指します。1990年にコアコンピタンスの概念を提唱したロンドンビジネススクールのゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードは、多種多様なマーケットにアクセスできる応用性、顧客の利益に大きく貢献する価値提供、競合他社が真似できない模倣可能性の低さの3条件を全て満たしたものだけがコアコンピタンスとして認められる、としています。
一方、コアコンピタンスが技術力や開発力といった能力だとするなら、ケイパビリティは一連のビジネスプロセスを遂行する組織的能力を指します。ただし、両者は密接かつ相互補完的な関係にあり、ホンダを例にあげれば、卓越したエンジン技術(コアコンピタンス)で開発したオートバイを組織力やツール、システムなどを駆使して販売する(ケイパビリティ)、逆に優れたエンジン技術を持つからこそ、ホンダ全体のケイパビリティの開発に投資できる、ということが往々にしてあります。そのため、両者を厳密に定義する意義は薄れつつあるようです。

1-4.具体例

ケイパビリティやコアコンピテンスの具体例として「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」では、ホンダを例にあげて詳しく解説しています。ホンダは、1960年代、スーパーカブ「ホンダ50」が大流行して以降、北米でオートバイ事業を順調に展開していました。そんなホンダのコアコンピテンスといえば、競合他社が真似できない高度なエンジン技術であり、ホンダはその技術を応用して、自動車や船外機、芝刈り機といった新たな事業にも進出していました。しかし著者のジョージ・ストークス達は、ホンダの成功は「ディーラー管理」という優れたケイパビリティによってもたらされた、と分析しました。
論文が発表された当時、オートバイはメーカーが小売販売を行うのではなく、各地域のディーラーに卸すのが一般的でした。しかし、地元のディーラーのなかには自分の趣味に走り、マーケティングや在庫管理はおろか、ビジネスにもあまり関心がない人もいました。そこでホンダは、ディーラーに研修を受けさせ、営業やサービス、店舗のレイアウトにいたるまでさまざまなノウハウを伝授、また、コンピューターを活用した管理システムを導入し、ディーラーをサポートしました。その結果、ホンダのディーラーは顧客満足度で最高評価を受けるようになり、競合他社に圧倒的な差をつけることができたのです。この件は、ホンダがコアコンピテンスではなく、ケイパビリティによって優位に立つことができた良い事例だといえるでしょう。

2.ケイパビリティの企業における意義とは

ところで、ケイパビリティの企業における意義とは何でしょうか。一般的には、企業がケイパビリティを強化すると、競合他社が真似できない優位性や将来的に企業に収益をもたらす資産性が期待されるといわれています。例えば、ホンダのオートバイも、時間が経てばそのデザインを模倣する企業が出てくるかもしれません。マーケティング施策や製品は常に周囲から見えているからです。
しかし、ケイパビリティとは、時間をかけて構築してきた効率的なサプライチェーンや販売における流通網を組織が管理する能力にその真価があり、外部が容易に模倣できる性質のものではありません。たとえ、競合他社がホンダのオートバイを巧みに模倣しても、ホンダの優位性は揺るがないでしょう。このように、組織の体制づくりや人材の確保など、ケイパビリティの実践には多くのリソースが必要ですが、一度構築すれば長期にわたって収益をもたらす効果があります。

3.ケイパビリティの活用方法

1970~1980年代以降、ビジネスの多角化に頼った企業成長が行き詰まりを迎えると、企業は、従来、産業構造や競合他社の少なさといった外的要因に求めていた競争優位の源泉を、組織能力や経営資源といった内的要因に求めるようになりました。つまり、ケイパビリティを重視するようになったのですが、それでは実際に企業はケイパビリティをどのように企業戦略に役立てているのでしょうか。本段落では、自社のケイパビリティを強化・創出する方法を紹介します。

3-1.ケイパビリティ・ベース戦略

「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」では、ウォルマートやホンダ、キャノンなど成功した企業では、以下の4つの基本原則を遵守していたと記載されています。このようにケイパビリティを経営戦略の中心に据えることを「ケイパビリティ・ベース戦略」といい、顧客の満足度を高めるための必要不可欠な手段になっています。
1つ目の原則では「企業戦略の構成要素は製品や市場ではなくビジネスプロセスである」としています。これは、企業戦略を立てる際は、製品の市場性や価値といった外的要因に重きを置くのではなく、価値実現のための組織づくりやプロセスといった内的要因に着目すべき、ということです。
2つ目の原則では「競争の勝敗は、企業の主要なプロセスを、他社より優位性のある価値を継続的に顧客に提供できるような戦略的ケイパビリティに転換することにかかっている」としています。これは、組織や人材、システムなど経済資源が限られているなかで他社より優位性があるビジネスプロセスを顧客に継続的に提供するためには、自社の基幹プロセスを有効活用すべき、ということです。
3つ目の原則では「従来のSBUと職能分野を結び付け、双方の力を引き出すためにインフラに戦略的投資を行って戦略的ケイパビリティを構築する」としています。SBU(Strategic Business Unit)とは戦略的事業単位のことで、企業の戦略上、仮想的に設定したグループのことです。この原則では、部門間の交流を円滑にするためにITなどのインフラを整備し、各部門の力を最大限に引き出すことの必要性を説いています。
4つ目の原則では「ケイパビリティは必然的に複数の職能部門を横断するため、ケイパビリティ・ベース戦略を推進するのはCEOの仕事である」としています。これは、ケイパビリティを発揮するために必要な組織横断的な体制の構築は、CEOがトップダウン型で推進すべき、ということです。

3-2.ダイナミック・ケイパビリティ戦略

ダイナミック・ケイパビリティ戦略とは、ダイナミックに変化する環境に応じて既存の経済資源を流動的に再構築し、持続的な競争優位性を作り上げる戦略のことです。具体的には、変化する環境において機会や脅威を感知する能力(センシング)、感知した機会を捕捉する能力(シージング)、企業内外の組織や経済資源を再編成し変革する能力(トランスフォーミング)の3つに主軸を置き、必要であれば他企業とのチェーン統合を含めてマーケットなど外的環境の変化に対応していきます。
この考え方が誕生したのは、企業にある特定の分野で卓越した技術力があっても、時間の経過とともに陳腐化し市場で意味を成さなくなるためです。特に、パソコンやスマホなど、デジタル化の波がますます加速している現代社会では、既存の技術を基に事業を多様化させ、新しいマーケットを開拓しなければなりません。有名な例としては、富士フイルムの事例があります。富士フイルムは、もともと写真フイルムで国内随一のシェアを誇っていましたが、1990年代にカメラのデジタル化がすすむと需要が急激に落ち込みました。
そこで、富士フイルムは、ダイナミック・ケイパビリティ戦略を積極的に利用し、写真フイルムを作ったり保存したりする技術を医薬品や化粧品の開発に当て、見事成功を収めました。この事例は、企業が持続的に発展するためには、既存のケイパビリティや組織体制に固執せず、組織や既存の技術、知識を柔軟かつスピーディーに再配置して新たな競争優位性を構築すべきことが重要であることを示しています。

4.企業でのケイパビリティの活用事例

ケイパビリティを活用した良い例として、アメリカのアップル社のケースがたびたび紹介されています。そのひとつが、既存のパソコンやモバイル機器の概念にとらわれない、洗練されたデザイン性です。アップルは、1998年に発売した「iMac」をはじめ、機能的に優れたデザイン性の高い製品を次々に発表しました。これはアップルがおしゃれな製品を作るため、早い段階で組織体制や人材募集などに力を注ぎ、ケイパビリティを高めていたからです。この差別化は見事に成功し、後に発表された「iPhone」や「iPad」の大ヒットにもつながりました。
また、アップルでは主力商品の販売を既存の小売店であまり行わず、直営店「アップルストア」を各地に展開し、そこで販売しました。専門知識のない小売店では、アップル製品の魅力が伝わりづらいと判断したためです。アップル製品の魅力を遺憾なく伝えるため、2001年に開店したアップルストア1号店は、まるでおしゃれなカフェのような空間でさまざまなアップルの端末を体験できる、従来にはないタイプの店舗になりました。こうした体験型店舗はアップルのブランディングに役立っただけではなく、販売プロセスを自社が管理することで販売網が強化されるなど、新たなケイパビリティの構築にもつながりました。

活躍するためにも自身のケイパビリティを高めよう

企業や組織全体が持つ組織的能力・ケイパビリティの意味は理解できたでしょうか。埋もれているケイパビリティを発掘できれば、企業は大きく成長を遂げることができるでしょう。また、マーケットの機会を感知するなど、ダイナミック・ケイパビリティ戦略も忘れてはなりません。そのような企業で将来活躍できるように、まずはビジネスパーソンとして自分自身のケイパビリティ(能力)を高めるように心がけてみてはどうでしょうか。

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