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2020.8.28

最適なKPI設定のポイントは?KGI・KSFとの関係や設定のコツ

企業経営のポイントは最小のインプットでアウトプットを最大化することにあります。そのために「目標」を設定することは一般的に行われていますが、効果的な目標設定にはコツがあるのです。組織全体から個々のスタッフまでを包括的に視野に入れてデザインされた手法が必須といえます。そのための有効なツールが「KPI」という手法です。この記事では、KPIの基本から設定のコツ、そして事例などを紹介します。

KPIとは?

経営状態を管理する指標の1つがKPIです。Key Performance Indicator(キーパフォーマンスインジケーター)の頭文字をとったもので、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。Indicator(インジケーター)は、ある範囲の数値の目盛りがついている計測器のことを指します。たとえば、自動車のスピードメーターや燃料計などをイメージするとわかりやすいでしょう。これらのインジケーターは、車の走っている速さやガソリンの残量について、回転する針の先端と目盛りが交差する位置の数値を読み取ることで分かる仕組みです。

インジケーターの良いところは情報がリアルタイムでわかる点です。「現在」の車の状態を把握することができるため、次にとるべき行動の判断材料を得ることができます。スピードが出すぎているようならアクセルを緩める必要があり、燃料計がゼロに近づいているならスタンドを探さなければなりません。KPIは企業経営におけるスピードメーターや燃料計の役割を果たします。業績(Performance)を向上させるための鍵(Key)となる情報を示すKPIを活用して、ドライバーとしての経営者や社員がそれぞれの立場で次に何をすべきかを考える指標(Indicator)となるのです。

KGIとは?

KGIもKPIと同じように「指標」ではありますが、組織全体の目標を示します。Key Goal Indicator(キーゴールインジケーター)の頭文字の組み合わせであり、日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。組織全体の目標設定という観点からのKGIとKPIは、最終目標と中間目標と言い換えることができます。つまり、最終的に達成すべき目標の指標がKGIで、それに至るプロセスの各段階で中間目標として設定される指標がKPIといえます。

営業に関しての目標設定で簡単な例を考えてみます。まず、KGIとして「契約件数」を決めたとしましょう。次に、それを満足させるために何が必要になるかを分析的にリストアップします。たとえば、営業担当者が契約をとるためには、顧客のもとに足を運ぶ必要があれば「訪問件数」をKPIに設定するとよいでしょう。また、広告に対しての潜在顧客からの問い合わせの数と契約件数に統計的な相関があれば「問い合わせ件数」もKPIにできます。ここで注意すべき点は、KGIの達成に影響がある要素を適切に見つけられるかどうかです。

割り当てるKPIの内容によっては、KGIの達成度の向上に効果がないこともあります。因果関係を充分に考察する必要があるのです。そのような意味では、KGIとKPIの密接な関係は、数学の「因数分解」と同じようなイメージといえます。たとえば、15は3と5という因数を掛け合わせる形に分解できます。もし、15という数を得ることが目標だったとして、その因数を2と5のように誤って定義してしまうと目標に届かないでしょう。KGIを達成するために適切なKPIを設定することは、15を3と5という正しい因数に分解することに相当するのです。

KSFとは?

KSFはこれまでに説明したKGIやKPIとは質的に異なるタイプの目標です。Key Success Factor(キーサクセスファクター)の頭文字の組み合わせになっていて「重要成功要因」と訳されます。Indicator(指標)ではなくFactor(要因)となっているのは、数値などの定量的なものではなく、目標達成のための要因を言葉で表現した定性的なものだからです。研究者やビジネス書によっては、CSF(Critical Success Factor、重要成功要因)や KFS(Key Factor for Success、重要成功要因)と表現されることがありますが、ほぼ同じ意味です。

KSFとKGI、KPIの相互の関係は、ひとつながりのシークエンスとして考えることができます。まず、KGIという組織全体の目標があり、それを実現するために不可欠の因果関係を持つ要素をKPIとして定義します。一般的には複数の因果関係要素があるため、KPIは複数となり、それぞれの指標を管理していくことがKGIの達成に直結するのです。このとき、具体的な目標となるKPIを決めるためには、概念的な因果関係を言葉で定義しておく必要があり、それがKSFになります。つまり、KSFというコンセプトをKPIで実装するわけです。

KSFとKPIは性格の違う指標ですが、両者には密接な関係があります。力学的表現にたとえると、ベクトルの「方向」「大きさ」の関係に似ているのです。ベクトルは、力を定量的に表現する記法で、直交座標内の「方向」と「大きさ」で表現されます。比喩的にいえば、KSFという「方向」とKPIという「大きさ」が合わさって組織の業績を向上させる「力」となり得るのです。

ここで、商品販売会社の業績向上におけるKGI、KPI、KSFの適用事例を考えてみます。業績を上げるためには売上高を向上させるのが定石です。そこで、売上に関してKGIを「6カ月以内に売上高を単月で2億円にする」と決めたとします。次に、それを実現するためにKSFとして「新商品の投入」「店舗集客力の向上」「既存顧客のロイヤルティーの向上」を定義します。そのKSFを実現するためにKPIとして具体的な目標を決めるのです。なお、いくつかのKPI候補が先にあり、そこに共通点がみられるときにKSFとして抽出する場合もあります。ここに挙げた例の場合のKSFからKPIを定義すると「取扱いアイテム数を25%増やす」「メディア広告の予算を1000万円増額する」などが考えられます。また、「既存顧客向け割引クーポンの発行頻度を50%増やす」なども効果的でしょう。

KPIの効果・メリット

KPIの導入には主に5つのメリットがあります。それぞれ詳しく解説します。

【KPIの導入メリット5つ】

  1. 進捗状況をリアルタイムで把握できる
  2. 数値による明確な目標が設定できる
  3. メンバー全員で全体の進捗を意識できる
  4. 組織のメンバー間でコンセンサスが得られやすくなる
  5. 評価の公平性が確保できる

1. 進捗状況をリアルタイムで把握できる

1つ目は、進捗状況をリアルタイムで把握できる点です。一般的な営利組織の経営成績は決算後の利益によって明らかになります。ただし、決算は年度ごとに行われるため、経営環境が目まぐるしく変化する業態などでは、タイムラグが問題になる可能性があるのです。年度単位の情報では効果的な判断材料とならないのです。そのため、環境に合わせた細かい軌道修正を考えるのであれば、定量的で具体性のあるKPIのフォローが効果的といえます。

2. 数値による明確な目標が設定できる

2つ目は、KPIは数値による明確な目標が設定できる点です。たとえば、あるファーストフード系外食チェーンでは「廃棄率5%以内」というKPIを設定しています。これは、店舗運営の効率化に貢献する分析結果から導かれた数値です。一定の時間が来ると廃棄することになっている商品の量を減らすことが全体の利益につながると判断されたわけです。まさに、達成目標と現在の状況の関係を明確な数値で示すKPIの好例といえるでしょう。「全力で頑張れ」などの抽象的な言葉より、「あと2%」などの具体的数値のほうが進捗度合いが明確になります。さらに、数値化すれば明快なPDCAサイクルに乗せやすく、モチベーションも高められます。

3. メンバー全員で全体の進捗を意識できる

3つ目は、自分が担当している業務だけではなく、組織を構成するメンバー全員で全体の進捗を意識できる点です。KPIは、KGIを頂点とするピラミッド状に積み上げられた目標群を構成する部分といえます。つまり、それぞれのKPIは全体目標の中での個々の位置づけが明確なのです。眼の前のKPIの数値の改善がどのように組織に貢献するのかを理解することは重要です。そのため、担当者にもそれ以外のメンバーにも「見える化」が徹底されることは重要です。特に、担当者にとっては個別的な目標の意味が明示されるため、集中力とやりがいが高まることでしょう。

4. 組織のメンバー間でコンセンサスが得られやすくなる

4つ目は、組織のメンバーの間でコンセンサスが得られやすくなる点です。すでに触れた「見える化」の効果の1つでもありますが、メンバーそれぞれが全体の構造を把握し問題点を共有できるため、意思の統一が図りやすくなります。副次的効果としては、組織の全体像が見えてくるため、成功に必要なKSFのブラッシュアップ効果も望めます。

5. 評価の公平性が確保できる

5つ目は、数値目標の達成度が客観的にわかるため、メンバーに対しての評価の公平性が確保できる点です。KPI自体が数値を含んでいるので、達成度も数値化できます。組織経営への貢献の度合いについて、評価を下す側の恣意性を排除した客観的な評価が可能です。客観的な達成度よりも個人的親密度を優先させる悪癖を持つ組織には、特に改善効果が期待できます。

KPIの設定方法

KPIを設定する際には、以下の3ステップが基本手順です。

まず、全社的な目標としてのKGIを設定します。次に、KGIを実現するための下位目標のコンセプトであるKSFを考えるのです。KSFの段階では考え方を言語化することがポイントになります。その上で、実際に行動する指針であり、効果が測定可能な指標としてKPIを設定します。ここで注意しておくべきなのは、この基本ステップは一方通行ではないということです。たとえば、KSFからKPIに具体化する思考フローは、抽象的なものから具体的なものを導く「演繹的な思考」の流れです。

思考には逆のフローもあり、具体的なものから抽象的なコンセプトを導く「帰納的な思考」もあります。つまり、KPIから新たなKSFを考え出すこともあるわけです。これは同時に組織の課題や強みを見出す作業でもあります。もちろん、この双方向性はKGIも対象です。いったん決まったKGIであっても、常に再評価が行われることで、組織の新陳代謝が誘発されます。KPIの設定によって、変わり続けるサスティナブルで強い組織に近づくことができるでしょう。

KPI設定の「SMART」の法則

SMARTとは、組織の最終目標を設定する際に参照されるチェックポイントのことです。最終目標を具体的数値に変換した中間目標をKPIと考えると、設定の際にSMARTを意識することで効果的な目標となるでしょう。

Specific(明確性)

SMARTのSはSpecific(明確性)のことです。目標に具体性を与えて、関係者が等しく理解できるようにします。

Measurable(計量性)

MはMeasurable(計量性)を指しています。目標の達成度を数値で表現して計測できるようにすることです。言語だけではなく、数字を併用してKPIを記述するのはそのためです。

Achievable(達成可能性)

AはAchievable(達成可能性)から来ています。チャレンジ精神を持っていれば、なんとか実現できそうな難易度の目標を設定しておくことです。高い目標は意欲的で好ましいのですが、あまりにも高すぎると逆にモチベーションが下がってしまうことに注意しましょう。

Relevant(関連性)

RはRelevant(関連性)のことです。Result-oriented(結果指向)と表現されることもあります。KPIとKGIやKSFの関係性がわかりやすく説明できるかどうかも重要です。それぞれのKPIどうしでも密接な関連があるように設定段階で検討しましょう。

Time-bound(期限)

最後のTはTime-bound(期限)を意味します。目標を達成するためには時間とエネルギーを集中する必要があります。そのため、時間的な期限を設定するのです。時間に余裕があると精神は弛緩しがちです。無理ではないかと思われるくらいの短めの期限設定をすれば、精神は緊張し、スピード感を持った密度の高い仕事が期待できます。

KPI設定のコツ

ここで、KPI設定の際に役に立つコツを整理しておきます。まず、戦略とKPIの連携・連動に着目することが重要です。両者に論理的な関連性を与えるような観点からKPIを設定します。そうやって設定された複数のKPIに優先順位をつけておくと、戦略との連携・連動が整理できます。KPIの構造はツリー状です。ツリーの上位と下位の関係を明確に意識すれば、序列を判断しやすくなるでしょう。

次に、複数のKPIを設定するときの留意点は「重複」と「漏れ」です。KPIは多ければよいというものではありません。全体目標であるKGIの達成に必要にして十分な数であり、それぞれが重複せずに、漏れがない状態が理想といえます。この状態の実現にはMECEという考え方が参考になります。MECEとは Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の略で重複や漏れがないという意味です。同じ階層にあるKPI同士でMECEの関係が実現されているか確認しましょう。

具体的なKPIの記法については、常に「目的」と「達成水準」のセットで設定することが重要です。すでにベクトルの例を挙げましたが、意識を向ける方向と達成すべき数値目標をセットで考えましょう。最後に、「見える化」を考える際に忘れがちな点ですが、KPIの内容だけではなく「担い手の見える化」も同時に行いましょう。設定するKPIごとに担当者を割り当てて、責任を明確にするのです。進捗をチェックする担当者が不在の目標は意識されにくくなり、往々にして忘れ去られる傾向にあります。

MECEについては、下記の記事で詳しく解説しています。

KPIの具体例

KPIの具体例:人事

人事関連業務では次のような項目がKPIとなるでしょう。まず、人材採用に関しては、「応募数」「面接数」「採用人数」などがあります。これらは、応募から面接を経て採用まで、一連のシークエンスとしてKPIツリーの上位と下位の関係です。また、人材育成については、「研修実施数」「満足度」などをKPIに設定するとよいでしょう。ただし、研修の満足度については、達成水準が計測可能な数値化に工夫が必要です。最後に、人材管理面からは、「有給休暇取得率」「離職率」などの指標を用いることができます。このような有給取得や離職に因果関係を持つ要因は一般的に複数考えられます。そのため、下位のKPIツリーの数は多めに設定する必要があるでしょう。なお、ここで取り上げた人事系のKPI設定ポイントは、企業全体のKGIの達成という観点から考える必要がある点です。人事部門独自にKGIを設定するのは避けましょう。

KPIの具体例:営業

営業関連業務で有益な指標としては次のようなものが一般的です。新規顧客についての目標を設定するのであれば、「新規顧客獲得数」「訪問件数」は最も重要な管理項目といえます。同じように既存顧客向けには「既存顧客の売上増加金額」などがあります。これらは、過去の実績を参考にして設定しましょう。このとき、実績値を超える数値を設定するとモチベーションの向上に効果があります。ただし、その際の負荷の大きさが強すぎると逆効果になるので注意が必要です。また、売上高をKGIとした場合に欠かせない指標として「顧客との最初の接触から受注までの期間」や「1顧客あたりの売上額」もよく使われます。

KPIの具体例:マーケティング

マーケティング関連業務では「見込み客」をKPIにしがちです。たとえば、webマーケティングであれば「サイトの月間アクセス数を1万にする」などです。このような見込み客系の指標は、売上をKGIに設定したとき、貢献度が明確ではありません。より直接的な指標を設定しましょう。KPIとして「webサイトPV数」や「webサイト訪問者数」をKPIツリーの最下層にすれば、売上まで数値をベースに積み上げることができます。同じように、「新規顧客の獲得率」や「既存顧客の定着率」「顧客満足度」なども売上との因果関係があるKPIといえます。

最適なKPIを設定するためには

効果的なKPIの設定には、KGIやKSFとの関係の理解が不可欠です。組織全体のKGIを実現するために細分化された目標ががKPIであることを意識するとよいでしょう。また、一旦設定されたからといって、それで終わりではないのです。運用するプロセスでPDCAを回しながら全メンバーで効果を確認し、必要であれば修正する柔軟性も忘れないようにしましょう。

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