2019.10.17

リカレント教育の概要と必要性!課題と取り組み事例

リカレント教育の概要と必要性!課題と取り組み事例

リカレント教育とは、義務教育を終えて社会人経験がある人が、後に大学に入り直すなどして生涯にわたって学び続ける仕組みです。欧米では従来から行われています。一方、日本では未だ浸透途中の段階です。日本では従来からの雇用慣行である終身雇用や長期雇用が変化しており、社会で長く活躍するためには継続した教育が求められています。この記事では、リカレント教育の概要や必要性、政府や大学の取り組み事例などを解説します。

リカレント教育とは?

リカレント教育とは、義務教育や基礎教育を修了した後、就労と教育や余暇などの活動を生涯にわたって交互に行う仕組みです。社会人の「学び直し」とも言われ、会社の中で仕事に関する経験や知識を積み重ねるだけでなく、より幅広い知見を得るための手段として注目されています。

リカレント教育には具体的にどのような種類があるのでしょうか。日本では、夜間制社会人大学院や、放送大学などが挙げられます。これらの特徴は、仕事帰りの平日夜間や土日に通学したり、あるいは自宅にいながらオンラインで学習ができるなど、仕事を持ちながらでも学びが継続できる点です。

欧米でも同じようなタイプの学習方法があり、日本よりも集中的に学ぶための仕組みもあります。例えば、スウェーデンやフランスの有給教育制度です。働き手は勉学に集中することが可能なだけでなく、その間の収入も途切れません。あるいは、米国で地域住民が主体的に集まって学ぶコミュニティ・スクールです。このように、社会人が生涯にわたって学ぶリカレント教育の仕組みには国内外でさまざまな種類があります。

リカレント教育の歴史

リカレント教育にはどのような歴史があるのでしょうか。リカレント教育という言葉が初めて使われたのは、1969年5月にベルサイユで開かれた第6回ヨーロッパ文部大臣会議で、スウェーデンの文部大臣であったパルメ氏のスピーチだと言われています。のちにOECD(経済協力開発機構)から注目され、1970年代には教育政策論として世界各国に普及していきました。

リカレント教育の概念が確立したと言えるのは1973年です。OECDは「リカレント教育一生涯学習のための戦略」という報告書をまとめ、その中でリカレント教育は義務教育以降、生涯にわたる包括的な教育戦略だと定義しました。その狙いは、教育の大部分が人生の若い時期に集中しており、これを長期的な時間軸で分散することです。

当時から世界経済を見渡すと、主要な産業は商業から工業、工業からIT産業へと急速に移り変わってきました。そんな中で、人生の若い時代に学んだ知識だけで対応することは現実的ではありません。社会人として長く活躍するためには、生涯にわたって常に新しい知識を学習し続ける必要があり、その有効な手段としてリカレント教育が注目を集めたのです。

リカレント教育が必要な社会的背景

日本でリカレント教育が必要とされる社会的背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、超高齢化社会による長期的なキャリア設計の必要性があります。総務省統計局によると、2015年9月時点の推計で、国内総人口約1億2,700万人のうち25.0%が65歳以上の高齢者です。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2035年には33.4%にまで上昇すると予測されています。また、健康寿命も上昇しており、長期的な視野でキャリア形成を行う必要がある状況です。そこで、若いうちから転職や起業などの幅広い選択肢への備えとしてリカレント教育が望ましいとされているのです。

その他に、リカレント教育が普及する背景として挙げられるのが働き方や労働者の多様化です。日本国内では、高齢者が積極的に労働に参加するだけでなく、女性の社会進出、非正規雇用の増加、外国人材の活躍など、さまざまな働き手が増加しています。従来のような働き方、知見だけでは対応が難しく、新しい知識を獲得する手段として求められているのがリカレント教育なのです。

リカレント教育を受けることによるメリット

リカレント教育を受けることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

まず1つ目の利点は、学習効率の高さです。従来の教育の仕組みでは、まだ社会人経験が浅い若年時代に教育機会が集中しています。これは一定期間にまとまった知識を身につけやすいという点では優れていますが、学習した内容が将来どのように役立つかが実感できず、知識として定着しないケースもある点がデメリットです。一方、就労経験がある人材は、知識やスキルの必要性を実感しているため学習意欲が高いことが多く、習得効果の向上が期待できます。

また、リカレント教育では問題意識を持って必要に駆られて学習を行うのが特徴です。学習する場では、参加者が主体的に専門知識や知見を深めることや、実際に仕事の現場で活用することを見越した密度の高い学習が期待できます。そのため、学んだ知識をただ貯めておくだけでなく、社会に有意義に還元される可能性が高いのです。

欧米のリカレント教育の状況

日本では普及の途中であるリカレント教育ですが、比較的普及が進んでいる欧米ではどのような状況なのでしょうか。

まず、リカレント教育が必要とされやすい理由として、欧米特有の労働環境があります。日本では従来より、新卒から定年退職まで同じ企業で勤めることが当たり前とされていました。一方、欧米の労働市場は流動性が高い点が特徴です。新しい職場でも活躍するためには、幅広い知見を取り入れていく必要があります。その手段として生涯学習が求められました。

また、欧米ではリカレント教育を受けやすい環境が整備されている点も特徴です。正規の学生として学校に入り直して長期にわたって勉強することが推奨されている国もあります。また、フルタイム就労と学生を交互に繰り返すことや、一定期間収入を得ながら学習できる有給教育制度が設けられている国もあるのです。

日本のリカレント教育の状況

リカレント教育を受ける環境が充実している欧米のケースを紹介しましたが、日本はどのような状況なのでしょうか。

日本では高度経済成長期以降、新卒で入社した企業で定年を迎える終身雇用制や、長期雇用制が普及してきました。そのような環境では、主な学習手段は職場でのOJTなどに限られることが多くなります。一度働きに出てから改めて学習機関で学び直すという方法は定着してきませんでした。

そのような事情もあり、日本ではリカレント教育という言葉がより広い意味で解釈されています。欧米でリカレント教育と言えば、時には就労を中断してまで大学等に入り直して学習することを指しますが、日本で想定されている意味は、企業で働きながら夜間や休日に学ぶことや、通信教育、短期集中の公開講座などさまざまな学習方法です。また、学習内容も仕事ではなく生きがいや学校以外のコミュニティのような場で学ぶことも含まれています。

日本ではリカレント教育の意味が広義に受け止められているため、多様な学びの内容や方法がある点は利点です。一方で、論点が多いため、リカレント教育の仕組みを普及するにあたっては、目的、内容や方法といった議論の対象を取りまとめることが難しい状況でもあります。

リカレント教育を推進するための課題

リカレント教育の必要性や日本の状況を解説してきましたが、推進するにはどのような課題があるのでしょうか。

まずリカレント教育を受けるためには、経済面やキャリア面での支援が必要です。例えば、社会人がいざ勉強をしようと思っても、フルタイムで大学に入り直す場合だとその間の収入が途絶えることになるため、経済的な負担を解消することが求められます。また、会社を休職して学び直しをする場合は、人事面で不利益が無くなるよう会社側の理解が必要です。あるいは、退職して学習後に再就職する場合は、キャリア面で不安を感じないよう就職先の斡旋や就職支援も充実させる必要があります。日本ではこのような制度が進んでおらず、いかに環境整備をするかが課題です。

また、日本では教育カリキュラムも整っていないという課題があります。学習環境と同じように大切なのが学習する中身です。社会人が今後の職業人生に役に立つような内容を、一定期間のうちに体型的に学習できる魅力あるカリキュラムを組み、そのための優秀な教員も集める必要があります。欧米ではビジネス修士であるMBAスクールの数と質共に充実していますが、日本でも社会人の興味関心に沿ったカリキュラムを用意できるかどうかが課題です。

リカレント教育推進のための政府の取り組み

超高齢化社会や働き方改革の必要性を受けて、日本政府はリカレント教育の推進のために積極的な取り組みを始めています。

政府は、リカレント教育を重要な課題だと位置付けています。人材が長く活躍できることを目指して継続的に開催している「人生100年時代構想会議」がありますが、2017年11月の第3回会合では「リカレント教育、大学改革」という参考資料の中で、高等教育(4年制大学)への25歳以上の入学率が、OECD加盟国平均の16.6%と比較して日本は2.5%と低いことに注目し、リカレント教育への本格的な着手を明記しました。

さらに、2018年3月の第6回会合では「文部科学省のリカレント教育の抜本的な拡充に向けて」という資料の中で、「リカレント・プログラムの供給拡充」「実践的な教育を行える人材の確保」「受講しやすい環境の整備」の3本柱を今後の方向性として明らかにしています。具体的には、産学官連携の教育プログラム作成、質と量向上のための教育人材確保、そして、学習効果の見える化といった施策も盛り込まれました。

リカレント教育の事例

日本女子大学

日本女子大学では、女性ならではのライフイベントや家庭の事情に配慮した1年間2学期の教育プログラムを用意しています。例えば、女性の働き手が結婚・出産・介護といった事情で仕事にブランクが生じてしまった場合でも、実務で活躍できるためのカリキュラムを整備し、再就職のサポートも実施しているのが特徴です。

学べる内容は、グローバル化したビジネス環境でも即戦力を目指すため、語学や会計、また資格取得を目指すための講義もあります。再就職の支援では、合同会社説明会の独自開催や求人Webサイトの用意、そのほか就職に関するイベントを行うなど、充実した体制です。日本特有のリカレント教育の課題には、教育を受けることで再就職率が高くなるといった効果があるかどうか不明確な点がありますが、ビジネスで役立つ実学を学べるという点が本プログラムのメリットと言えます。

明治大学

明治大学は、生涯教育の拠点として「明治大学リバティアカデミー」を設け、年間400以上の講座を開設しています。拠点は駿河台、和泉、生田、中野、黒川農場の5つで、これまで2万人が学んできました。講座の内容は教養、ビジネス、資格実務、語学・TOEICといった豊富なコースから、受講者の興味関心に合わせて自由に選ぶことが可能です。講座内容や学習時間、修了状況に応じてポイントが付与され、一定数が蓄積されると独自の称号が付与され、学習者として認証される仕組みになっています。

また、継続的に学ぶことが難しい社会人でも気軽に参加しやすい「オープン講座」も開催しており、会員以外も自由に参加することが可能です。さらに、「女性のためのスマートキャリアプログラム」もあり、受講生が支払う経費のうち70%までが支給される仕組みも用意されています。

放送大学

放送大学は、テレビ、ラジオ、インターネットで学ぶことができる大学です。入学試験がなく学びたい人がいつでも自由に講義を受講ができますが、修了証明が欲しい受講者は入学手続きをして学習センターなどで試験を受ければ、単位認定や学士・修士取得を目指すこともできます。講義の内容は「社会と産業」「情報」といったビジネスに近い内容から、「人間と文化」「心理と教育」などの教養に近いコースまで、全6コースです。

放送大学は、学習方法の手軽さや、講義の質の高さ、講義の多さなどの特徴があり、多くの受講者が参加しています。2018年2学期には学部への入学者が25,399人、大学院は3,164人です。また、在籍者も例年8万人近く、2018年2学期時点では83,610が在籍しています。放送大学は日本の生涯教育で、重要な役割を担っている学校の1つです。

筑波大学

筑波大学の東京キャンパス社会人大学院は、東京都文京区の社会人向けの大学院です。ビジネス科学研究科と人間総合科学研究科の2科があり、ビジネス科学研究科では経営システム科学、企業法学、法曹、MBAなどビジネスパーソン向けの高度な専攻内容を、人間総合科学研究科ではスポーツ科学やカウンセリング、リハビリテーションといった内容を学ぶことができます。特に、ビジネス科学研究科では「高度専門職業人の養成・再教育に関する社会的要請に応える」としており、一定程度のビジネス経験がある社会人がより専門的プロフェッショナル人材になるためのカリキュラムが用意されています。

講義はオンラインではなくキャンパスに通学する必要がありますが、平日夜間と土曜日の日中に行われているため働きながらでも学習することが可能です。

グロービス経営大学院

グロービス経営大学院とは、日本有数の入学者数を誇るビジネススクールです。グロービス経営大学院ではMBA(経営学修士)プログラムが用意されています。MBAとは、経営者になるために必要な高度な経営スキルを身につけるための専攻で、ビジネスを目的とした学習に意欲的な受講者が多いのが特色です。

グロービス経営大学院にはすでに第一線で活躍していて幹部候補になるための専門能力を身につけることを目指すビジネスパーソンが参加しており、卒業生は昇格や待遇面でもプラスの効果が高かったという調査結果も出ています。

グロービス経営大学院は、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡などをはじめとしたと主要都市で開講しているだけでなく、オンラインでも受講できるのが特徴です。また、忙しい社会人も学習ができるように、2週間に1回ペースを3カ月間のみ続ける単科生コースも用意されています。

リカレント教育を活用してキャリアアップしよう!

日本人の平均寿命がアップしたり、健康寿命の上昇もあり「人生100年時代」と言われる中で定年退職後も働く人が増えています。同時に、従来型の終身雇用制度や年功序列制度を柔軟に設計し直す企業の事例も増加してきました。また、産業構造は大きく変わってきており、これまで培ってきた知識や経験だけでなく新しい知見を取り入れる重要性も増しつつある状況です。

一方、日本では学びの大半が人生の若年時代に集中しています。また、社会に出てからの学習機会は仕事でのOJTが主な手段です。幅広く知識を吸収したり、特定の専門知識を深めていくためにはこれだけで十分とは言えません。

このような環境の中で長く活躍し続けるためには、若年層時代の学びだけでなく、社会人になってからの教育が有効です。リカレント教育はその1つの手段として活用できるのではないでしょうか。

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