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2020.1.6

労働条件通知書とは何?発行方法や記載事項をわかりやすく説明

企業が新しく労働者と雇用契約を結ぶ際には、労働条件通知書を発行する必要があります。それは労働基準法でも定められており、手順を省いて労働者を雇うことはできません。また、似たような書類に雇用契約書もあり、違いを知っておくことも大切です。そこで、この記事では、労働条件通知書の概要を説明するとともに、雇用契約書との違いや発行方法についても詳しく解説します。

労働条件通知書とは

労働条件通知書とは、事業主が労働者と雇用契約を結ぶ際に交付する書類のことです。
労働通知書には特別決まった書式があるわけではありません。ただし、労働契約の期間や始業および終業時刻と勤務時間、賃金など、明示しなければならない項目は決まっています。
ほかにも、業務内容や休憩時間、休日や休暇に関する項目も記載する必要があります。また、解雇や退職に関する内容も示しておくことが必要です。

労働条件通知書を発行する目的

労働条件通知書に記載される勤務地や始業および就業時間、勤務時間などは、労働者が仕事をするにあたって重要な情報です。また、どれだけ賃金がもらえるかも、労働者にとっては生活に直結します。さらに、休日がいつあるのか、有給休暇や長期休暇がいつ取得できるのかということで、ライフスタイルに影響する可能性もあるでしょう。

つまり、労働条件通知書が交付されることにより、労働者はその企業で働くにあって必要な情報を知ることができるのです。

もちろん、求人情報にはある程度の労働条件が掲載されているほか、面接でも話題にあがることはあるでしょう。しかし、口約束だけでは言った、言わないの押し問答になったり、それぞれの主張が食い違ったりする懸念もあります。そのため、企業と労働者の間でのトラブルを防ぐためにも口頭ではなく、書面で発行する必要があるのです。

労働条件通知書と雇用契約書の違い

労働条件通知書と同じように、事業主が労働者に交付する書面として雇用契約書もあります。雇用契約書とは、企業と労働者の間で取り交わす契約書のことを指す書類のことです。

以下に、それぞれの違いをまとめます。 

労働条件通知書の場合は、企業が一方的に労働者に交付する書面であることに対して、雇用契約書は双方が同意したうえで捺印・署名を行うという違いがあります。

また、労働条件通知書の交付は労働基準法でも定められており、法的に必須です。もし、労働条件通知書の交付を怠れば罰則もあります。一方で、雇用契約書は民法で契約内容の確認をできる限り書面で確認することを推奨されていますが、必ずしも必須ではないため、交付しなかったとしても違法ではありません。

労働条件通知書の対象者

労働条件通知書は、企業が労働力として雇う人材すべてに発行する必要があります。つまり、正社員だけではなく、パートやアルバイトなどの短時間労働者や、契約社員などの労働期間が決まっている者に対しても発行しなければなりません。また、日雇労働者に対しても発行することが必要です。

基本の就業時間や休暇の取得方法、給与の計算方法など、ある程度全社員に共通するものもあります。そういった内容は社員がいつでも閲覧できる就業規則として発行することが可能です。ただ、人によって働く部署など就業場所が違ったり、正社員とアルバイトでは勤務時間や始業・就業時間が異なったりすることもあるでしょう。労働条件通知書に記載される内容は各労働者で条件に違いがあるため、労働条件通知書はすべての労働者に対して個別で発行しなければなりません

労働条件通知書はいつ交付すべきか

労働者を雇い入れる企業としては、どのタイミングで労働条件通知書を交付すればいいのかしっかり把握しておくことが大切です。

職業安定法が改正され、2018年1月1日に施行された新制度では、新卒の場合、正式な内定までに労働条件通知書を交付しなければいけないことになりました。もちろん、パートやアルバイト、中途採用の正社員、契約社員を雇うときにも、雇用契約を結ぶなら交付する必要があります。

パートやアルバイト、中途採用などの場合、ハローワークなどに求人を出して募集をすることも多いでしょう。その際は、求人票などで労働条件を明示することが必要とされています。また、自社のホームページに採用情報を掲載するときも、募集要項で条件を明示しなければなりません。

さらに、新制度では労働条件に変更があった場合、変更内容をできるだけ速やかに明示することも示唆されています。労働者が労働条件通知書をもらうタイミングが遅れた場合、労働者との間でトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。

労働条件通知書の発行方法とテンプレート

労働条件通知書には特に決まった書式がありません。そのため、自社でオリジナルの書面を作成して発行することもできます。

ただし、労働条件通知書では明示しなければならない項目が決まっているため、不備があってはいけません。厚生労働省や労働局のホームページには、実際に労働条件通知書を発行するにあたって参考にできるテンプレートが用意されています。記入例を参考にしながら発行することで、記載項目に抜け漏れなく発行することが可能です。

また、長年、労働条件通知書は紙媒体の書面で交付しなければなりませんでした。しかし、インターネットの普及やオフィスのIT化が進んだことを受けて、2019年4月1日からはFAXやWebメールサービス、SNSメッセージ機能など電磁的方法での交付も可能になっています。

ただし、原則は書面の交付が必要とされているため、基本的には出力して書面にできるようにすることが求められます。たとえば、文字数制限のあるSMS(ショート・メール・サービス)は使用が禁止されているわけではないものの、ボリュームのある書面を添付することができません。

また、長文を送れるツールを使用するときでも、内容が細切れに表示されるようでは受け取る労働者側も不便です。そのため、印刷や保存がしやすい方法で送付する工夫をする必要があります。

労働条件通知書の記載事項・項目別の書き方

労働条件通知書の概要を説明したところで、ここからはより詳細な各項目別の書き方を紹介します。

契約期間

労働条件通知書に必ず記載しなければならない項目として契約期間があります。

まず、労働の契約期間の有無、つまり期間の定めがある契約なのか、期間の定めなしの契約なのかを記載することが必要です。期間の定めがある場合は、もちろん契約期間の日付をいつからいつまでなのか記載します。

また、契約更新の有無も契約期間のカテゴリーに含む項目です。
更新をしない、または自動的に更新するという選択肢のほか、更新する場合があり得るという条件付きの選択肢を含んでいてもかまいません。もし、更新が条件付きの場合は、判断材料も合わせて明記するようにします。たとえば、労働者の能力や実績、勤務態度のほか、企業の経営状況や契約更新時に担当している業務の進捗状況などです。

就業の場所及び従事すべき業務

就業場所と従事すべき業務についても、労働者としては知っておくべき基本的な項目です。

就業場所は実際に労働者が働く場所を記載します。基本的には実際に仕事をする会社や店舗などの住所を記載しますが、「本社総務課」など部署を記載してもかまいません。将来的に就業の場所が変わる可能性があるとしても、雇用契約を交わしたあと、最初に就業する場所を記載すれば大丈夫です。ただ、もし変更する可能性があることを把握しているのなら、その旨を記載しておいたほうが親切だといえるでしょう。

従事すべき業務に関しては「総務業務」や「経理業務」など、実際にどのような業務を行うのかを具体的に記載します。もし、携わる仕事が複数の業務にわたっている場合は、並列していくつ記載してもかまいません。業務の内容についても、就業場所と同様に、変わる可能性があるなら記載しておいたほうが親切です。

始業及び終業の時刻

始業と終業の時刻では、もちろん業務の始まる時間と終わる時間を記載します。

ただ、企業や店舗によって、業務を始める前に朝礼を行うところがあるなど、実際に仕事を始める時間と出社しなければならない時間にズレがあるところもあるでしょう。そのようなケースでは、朝礼などの時間も労働時間に含めて始業・終業の時刻を記載します。
また、社員全員が同じ時間で勤務しているところばかりとは限りません。サービス業などの場合はシフト制でスタッフが働いていることが多いほか、フレックスタイム制や裁量労働制を採用している企業も増えています。その際は、それぞれの始業・終業の時刻を記載することが必要です。ただし、複雑になるケースでは、勤務規定などを別途設けて参照するように記載しても問題ありません。

始業及び終業の時刻の欄では、ほかにも休憩時間や所定労働時間の有無の記載も忘れずに入れておきます。

休日・休暇

労働基準法では法定休日が定められており、休日・休暇を考えるうえで、最低週1回、または4週間のうち4日の休日が必要になることを覚えておくことが大切です。

ただ、あくまで法定休日は事業者が最低限労働者に与えなければならない休日の日数であり、それ以上に休日を取得させることもできます。法定休日を超える分の休日は法定外休日と呼ばれています。実際には週休2日制が広がったことにより、週1回や4週間で4回以上に休日のある企業も多いでしょう。1年単位の変形労働時間制を採用している企業の場合は、年間の休日を記載する必要があります。

また、有給休暇の取得の有無も記載事項のひとつです。事業者は労働者が6カ月継続勤務した場合、年10日の有給休暇を与える義務が発生します。有給休暇は勤務日数が少ないパート勤務の場合も、勤務日数に応じた有給休暇を与えなければなりません。2019年4月には働き方改革の関連法が施行されたことにより、年10日の有給休暇のうち5日は時期を指定して必ず取得させなければいけなくなりました。

賃金

賃金を記載するときは、まず最低賃金を把握したうえで具体的な金額を記載します。最低賃金とは、最低賃金法で定められている賃金の下限のことです。都道府県ごとに異なっており、詳細は厚生労働省のホームページで確認することができます。企業によって基本賃金以外に家族手当や通勤手当などのさまざまな諸手当を支給しているところもあり、労働条件通知書の賃金欄では諸手当の額とともに計算方法もそれぞれ記載します。たとえば、家族手当が全部で8000円の場合、計算方法は「配偶者5000円、子3000円」などと記載するのです。

また、残業したときなどの割増賃金率も記載しておきます。ただ、割増賃金率は同じ残業でも深夜残業や法定時間外残業など、残業の種類によって異なるため、それぞれ記載することが必要です。たとえば、法定外残業は1.25倍で、法定外残業かつ深夜残業であれば1.5倍になります。

ほかにも、賃金の締切日や支払日、支払方法なども記載してかまいません。

退職に関する事項・その他

退職に関する事項に関しては、定年制度の有無や再雇用制度の有無のほか、労働者が退職するときに必要な手続き方法を記載します。たとえば、退職する日の何日前までに届出をする必要があるなどです。

その他の項目では、社会保険の加入状況や雇用保険の有無を記載しておきます。

短時間労働者と派遣労働者の労働条件通知書について

短時間労働者と派遣労働者を雇うときは、正社員に対して交付する労働条件通知書に比べて、追加で記載すべき項目がいくつかあります。ここでは、その追加項目について詳しく説明します。

短時間労働者の場合

パートやアルバイトなど、短時間労働者として働く場合、正社員と違ってボーナスや退職金などがない場合も多いです。そのため、労働条件通知書で「昇給の有無」と「賞与の有無」および「退職金の有無」を記載しておく必要があります。

また、2015年4月にパートタイム労働法の改正が行われ、それまでにはなかった「業務に関する相談窓口」を記載することが義務づけられました。
このパートタイム労働法で定義されている労働者は、単にパートと呼ばれる労働者だけではありません。正社員などフルタイムで働く通常の労働者に比べて所定労働時間が短い労働者のことを指し、企業によっては準社員やアルバイトなどの呼び方がされている場合もあります。

パートやアルバイトの労働者は、正社員と比較して待遇などの違いについて不満を感じるケースもあり、相談できる窓口を設けるために新設されました。

派遣労働者の場合

派遣労働者に支払われる仕事の対価は、賃金ではなく派遣料金という用語が使用されます。

そのため、派遣労働者に交付する労働条件通知書では、「派遣制度の概要」とともに「派遣料金・平均額」を明示することが必要です。派遣料金については、たとえば「1万2000円/8時間」のように単位がわかるように記載しなければなりません。

ただし、派遣労働者の場合は仕事をする派遣先ではなく、派遣元である派遣会社が就業条件を記載した書類を交付します。そのため、労働条件通知書ではなく、雇用契約書(就業条件明示書)として記載する場合も多いです。実際に、派遣会社が交付する就業条件明示書の内容は、派遣される先の企業や部署、業務内容、派遣される期間、始業・終業時間や休日・休暇など、労働条件通知書とほぼ重複しています。

労働条件通知書の発行においての注意点

この段落では、労働条件通知書を発行するにあたって、注意しておくべきポイントをいくつか詳しく紹介します。

労働条件を明示しない場合罰則がある

事業主が労働者に労働条件を明示することは義務とされているため、もし、労働者に対する明示を怠った場合は、30万円以下の罰金が科されます。そのようなことにならないよう、必ず労働条件通知書の発行をしなければなりません。また、万一、事業主側が明示した労働条件が実際と異なる場合、労働者は契約を即時解約することが可能です。

労働者とのトラブルを防止する

労働条件の明示を怠ると、事業者と労働者の認識の違いからトラブルが発生する可能性があります。

ただし、労働条件通知書を発行しても、納得いかないことがあったり、後になってやはりおかしいと感じたりなど、労働者との間でトラブルになるケースもあるのです。そのため、双方で誤解のないよう正確な契約を交わすために、労働条件通知書のほかに、雇用契約書も発行しておくと安心できます。

雇用契約書は契約書面として事業者側と労働者側双方でそれぞれ持つことになるため、2部作成しなければなりません。また、双方が署名や捺印をするという手間もかかります。しかし、労働条件通知書は事業者が労働条件に関して一方的に明示するだけの書類である一方、雇用契約書は双方の同意のうえで捺印を取り交わすため後々のトラブルを防ぎやすいのです。

「労働条件通知書兼雇用契約書」

労働条件通知書と雇用契約書は内容が重なる部分が多くあります。そのため、実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で発行することもできます。

保管義務がある

労働条件通知書は労働者が就業する前に交付し、勤務している期間中だけ保管しておけばいいというわけではないため注意が必要です。労働条件通知書を発行した場合、労働者が退職したあとも3年の保管義務があります。

労働者とのトラブルが発生するのは、なにも労働しているときだけではありません。退職後にもトラブルが起こるケースがあるため、万一トラブルがあったときには必要となるからです。そのため、紛失しないように保管しておくことが大切になります。

見直しが必要になるケースがある

労働条件通知書は法改正によって、対応を変更する必要が出てくる場合があります。

実際に、職業安定法の改正で2018年からは当初明示した労働条件が変更される場合は、変更内容を明示しなければならなくなりました。また、パートタイム労働法の改正で2015年からは「業務に関する相談窓口」の記載を入れなければならなくなっています。

そのように、労働条件通知書は記載するべき事項が増えたり、見直しが必要になったりする可能性があるのです。そのため、不備がないように、定期的に厚生労働省のホームページなどで情報収集をして確認をすることも大切になります。

外国人労働者に対しても発行が必要になる

労働条件通知書の発行は、なにも日本人労働者だけに適用されるものではありません。

グローバル化が進んでいることや、労働力不足などの理由から、外国人労働者を雇っている企業も増えています。外国人労働者を雇う場合でも、日本人労働者と同様に労働条件通知書の発行を行うことが必要です。

ただし、外国人労働者の場合は、日本語で記載された書類の内容を正しく理解できない可能性も考えられます。もし、しっかり内容を理解していないと、後にトラブルに発展するリスクもあるでしょう。

そのため、双方の認識の違いを防止するためにも、労働者の母国語を使って記載するようにするとトラブルを防ぐことにつながります。

電子的な明示は労働者が希望する場合に限られる

労働条件通知書は2019年4月1日から書面以外に労働者が希望すればFAXやメール、SNSのメッセージ機能など電磁的方法で明示することも認められています。

ただし、あくまで労働者が希望すればの話で、企業側で決められることではありません。希望していないのにFAXやメールなどで交付するのは労働条件を明示しなかったときと同様に、違反に問われる可能性があるため注意が必要です。そのため、希望した労働者のみ、電磁的方法での明示を行うようにしましょう。

また、後のトラブルを防ぐためには、本当にメールなどでの発行を希望したのか、という点の確認をしっかり取ることも大切です。さらに、書面で直接手渡すのとは違い、FAXやメール、SNSのメッセージ機能などを利用するときは、確実に相手に書類が届いているかどうかの確認もする必要があります。なかには、受信拒否設定を行っている場合もあり、事業者が送付したつもりでも、実際には受け取れていないということも考えられるからです。

労働条件通知書は忘れずに発行しよう!

労働条件通知書は、労働者と雇用契約を交わす事業者なら必ず発行する必要がある書類です。それは労働基準法でも定められており、避けることはできません。 

記載する情報には省くことができない項目があるほか、書面を作成するにあたって注意すべきポイントもいくつかあります。後々労働者とトラブルにならないようにするためにも、今回紹介した書き方を参考にして忘れずに労働条件通知書を発行するようにしましょう。 

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