2023.5.12
モラルハラスメントとは?職場での具体例や企業に与える影響・対策など詳しく解説
職場でのモラルハラスメントは、企業にさまざまな影響をもたらします。「どのような影響を与えるのか」「企業ができる対策はあるのか」などを理解しなければ、企業の存続すら危うくなり兼ねません。
本記事では、モラルハラスメント対策について詳しく解説します。職場での具体例や起きてしまった場合の対処法も紹介するので、モラルハラスメントの防止・改善に努めるための参考にしてみてください。職場でのモラルハラスメントをなくし、健全な職場環境を整えましょう。
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目次
モラルハラスメント(モラハラ)とは
「モラルハラスメントとは何か」「パワーハラスメントと何が違うのか」など、詳しく解説します。ほかのハラスメントと混同しないよう、チェックしてみてください。
モラルハラスメントの意味
モラルハラスメントとは、相手が嫌がる言動や行動などによって、精神的に追い詰めることを意味します。「モラル(道徳や倫理)」と「ハラスメント(嫌がらせ)」を組み合わせた言葉で、モラハラと省略されることもあります。
モラルハラスメントは叱責や暴力を受けるのとは違い、言動や行動などで行う「見えない暴力」のため、周囲が気付きにくいケースがほとんどです。気付いたときには、被害者は大きなストレスを抱えてうつ状態になっていることも少なくありません。
フランスの精神科医であるイルゴイエンヌによる定義
フランスの精神科医であるイルゴイエンヌは、モラルハラスメントの定義を「言葉や態度によって人の心を巧妙に傷つける精神的な暴力」と提唱しています。モラルハラスメントという「見えない暴力」は、被害者をうつ状態のスパイラルへと陥らせ、ひどい場合は自殺に追い込むとして危険視されているのです。
イルゴイエンヌ著者の『モラル・ハラスメント』には、多くの臨床実験に基づいたうえで、「モラルハラスメントはどのように行われるのか」「どう対処すればよいのか」などが記述されています。
パワーハラスメントとの違い
厚生労働省は、以下の状態を職場におけるパワーハラスメントと定義しています。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」
ただし、上記すべての要素を満たした状態であっても、客観的判断により業務上必要で相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しないとされています。(※)
パワーハラスメントは上司や先輩といった立場を利用し、大声で叱責したり暴力を振るったりする一方、モラルハラスメントは精神的な苦痛を与える言動や行動をとります。したがって、パワーハラスメントよりも周囲に気付かれにくいケースが少なくありません。
また、パワーハラスメントは職場における嫌がらせ行為に限定されますが、モラルハラスメントは家庭や交友関係にまで当てはまるため、対象範囲の広さも異なる点です。
※出典:厚生労働省|職場におけるハラスメントの防止のために
その他のハラスメントについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
関連記事:【最新】職場におけるハラスメントの種類一覧表。法律、リスク、予防策を抑えておこう
職場におけるモラルハラスメントの具体例
職場におけるモラルハラスメントは、どのような言動や行動を示すのかについて具体例を見ておきましょう。加害者自身がモラルハラスメントをしている意識がないケースは意外と多いものです。職場でモラルハラスメントが起きていないか確認するためにも、チェックしてみてください。
発言や連絡を無視する
職場でのモラルハラスメントでは発言や連絡を無視する行為が見られます。具体的には、「挨拶されても返さない」「話しかけられているのに返事をしない」といった無視や共有すべき情報をその人にだけ伝えていないなどです。
発言や連絡を無視したことで、ほかの社員との関係性が切り離されることもあるでしょう。意図的に行っているのであれば、モラルハラスメントに該当します。
否定的な言葉を投げつける
「どうせできない」「バカ」といった否定的な言葉を投げつける言動は、モラルハラスメントに該当します。能力に限らず、人格や外見を否定する場合もあります。暴言や侮辱、嫌味などは、すべて相手を傷つける言動です。
また、本人がいないところで悪口をいったり、誹謗中傷したりする行為もモラルハラスメントに含まれます。
業務と関係ないことに干渉する
家庭内の事情や恋愛などプライベートな部分を暴こうとしたり侮辱したりする行為は、モラルハラスメントに該当します。業務を行ううえで、プライベートなことは関係ありません。終業後や休日の過ごし方に干渉したり、付き合いを強要したりすることもモラルハラスメントになり得るため注意が必要です。
場合によっては、コミュニケーションの一つとしてプライベートな内容に干渉してしまう人もいるでしょう。悪意がなくても精神的な負担につながれば、モラルハラスメントを受けたと思われる可能性があります。
業務内容に関する嫌がらせをする
職場という環境を利用したモラルハラスメントのひとつに、営業妨害があります。具体的には、「一人では処理できない量の業務を押しつける」「簡単な仕事しか割り振らない」「必要な情報を共有しない」といったことです。
業務に直接的な影響を与えてしまったり、自身の評価が下がったりするため、被害者は大きなダメージを受けます。
モラルハラスメント加害者・被害者になりやすいタイプの特徴
モラルハラスメントには、加害者になりやすいタイプと被害者になりやすいタイプの特徴があります。職場でのモラルハラスメントの防止・改善を図るため、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
加害者になりやすいタイプ
モラハラの加害者になりやすいタイプは、自身が優位に立つことを強く求める人です。具体的には、以下のような特徴があります。
【加害者になりやすいタイプ】
- 自信過剰もしくは自信がない
- 他人を支配したがる
- 自己愛が強い
- モラハラやパワハラの元被害者
- 失敗を認めない(他人のせいにする)
自分が優位に立つことを求めるあまり、他人を思い通りに操ろうと考えたり、自分の失敗を他人のせいにしたりする傾向があります。また、過去にモラハラの被害に遭ったことがあり、仕返ししてやろうという気持ちを持つことでモラハラの加害者になる可能性があります。
被害者になりやすいタイプ
被害者になりやすいのは、お人好しな人です。具体的には、以下のような特徴があります。
【被害者になりやすいタイプ】
- 自己主張が少ない
- 断れない
- 場の空気を読み過ぎてしまう
- 真面目で謙虚
- 失敗したときは自分を責める
自分に自信がないため、意見を述べるのが苦手です。また、何か頼まれたとき、「断ったら嫌われるかも」と考えてしまい、何でも引き受ける傾向が見られます。
モラルハラスメントが企業に与える影響
職場でモラルハラスメントが発生すると、企業には次のような影響が及びます。
- 生産性が下がる
- 離職率が増加する
- 企業イメージが低下する
- 安全配慮義務違反となる
モラルハラスメント対策の重要性を知るためにも、必ず確認しておきたいポイントです。
生産性が下がる
モラルハラスメントが与える影響の一つに被害者の生産性の低下が挙げられます。日常的に無視されたり暴言を吐かれたりすることで、被害者は精神的に追い詰められて仕事へのモチベーション低下につながるでしょう。
モラルハラスメントによる職場環境の悪化が社員の意欲低下につながり、社員の意欲低下がさらに職場環境を悪化させるといった悪循環が起こり得ます。また、悪循環のなか社員が休みがちになると全体的な業務に遅れがでてしまうことも考えられます。
離職率が増加する
モラルハラスメントの被害者は離職を考えるほど思い悩むことがあります。終身雇用が崩壊した今の時代、転職することは珍しくありません。モラルハラスメントを受けながら仕事するよりも、転職したほうがよいと考えるのも当然でしょう。
また、モラルハラスメントが日常的に行われている職場は、「雰囲気が悪い」「社員のなかに派閥がある」といった傾向が見られます。居心地が悪い職場では、社員は安心して働けません。仮に、モラルハラスメントの被害を受けていなくても、離職を考える社員は増える一方です。
企業イメージが低下する
モラルハラスメントがあったことが世間に知れ渡れば、企業イメージは一気に低下します。「入社希望者が少なく人材不足に陥った」「自社製品・サービスが売れなくなった」「取引がなくなった」といった社会的制裁を受ける可能性があるからです。
モラルハラスメントを見逃せば、今まで築き上げてきた企業イメージが崩れるため、大きな損失を生むことになり兼ねません。とくに、モラルハラスメントの事実を知りながら適切に対応しなかったことが明るみになれば、さらなる企業イメージの低下を招くことになります。
安全配慮義務違反となる
企業は社員の安全と健康を守るため、安全配慮義務を負っています。仮に、職場のモラルハラスメントに気付いていながら何の対処もせず放置すれば、安全配慮義務違反となります。損害賠償責任が問われる可能性があるため、世間に知られるきっかけにもなるでしょう。
被害者から相談されたり、告発があったりした場合は速やかに対処することが重要です。
企業にできるモラルハラスメント対策
職場でのモラルハラスメントを許したり気付けなかったりすると、企業は大きな影響を受けることになります。社員一人ひとりが安心して働ける環境を整えることが重要です。
企業にできる主なモラルハラスメント対策として有効なのは以下の4つです。
- 相談窓口を設置する
- ハラスメント研修を実施する
- 厚生労働省の指針を社員に周知する
- 罰則を設けて明示する
それぞれ詳しく解説します。
相談窓口を設置する
モラルハラスメントを受けた社員が相談できる窓口を社内に設置しましょう。相談窓口があることで、被害者は一人で抱え込まずに悩みを打ち明けやすくなります。企業にとっては早めに気付くことができるため、取り返しがつかなくなる前に対処できます。
窓口で相談できる内容はモラルハラスメントだけでなく、仕事上の悩みや制度に関することなど、幅広く対応できるようにするのがポイントです。窓口の担当者が社内の人間の場合、話しにくいこともあるでしょう。その際は外部機関を利用して、相談しやすい環境を整えるのも方法の一つです。
ハラスメント研修を実施する
モラルハラスメントを未然に防ぐためには、ハラスメント研修の実施が有効です。なぜなら、加害者自身がモラルハラスメントを行っている認識がないケースが多いからです。
どのような言動や行動がモラルハラスメントに該当するのかの具体例を挙げることで明確化できます。言動や行動に注意する社員が増えるため、モラルハラスメントを未然に防げます。
ハラスメント研修は外部講師に依頼するのがおすすめです。モラルハラスメントに詳しい知識を持つ専門家に相談できるため、効果的な研修を実施できます。定期的な研修を行い、企業全体でモラルハラスメントを防ぐ取り組みを示すことが大切です。
厚生労働省の指針を社員に周知する
厚生労働省では、職場におけるハラスメントに関する指針をホームページにて公開しています。(※)
モラルハラスメントをはじめ、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休暇等に関するハラスメントなどさまざまです。どのようなことがハラスメントになるのかを社員が把握するために、厚生労働省の指針を周知するのも方法の一つです。
また同時に、モラルハラスメントは侮辱罪や名誉毀損罪などにあたる可能性があることも周知しておくとより効果的です。
罰則を設けて明示する
モラルハラスメントを認めない厳しい態度を示すため、罰則を設けて明示するのも有効な方法です。罰則があることで抑止力につながるため、モラルハラスメントの発生率を抑えられます。加害者に対しては、「減給」「降格」「解雇」といった厳正な処分が下される可能性があることを就業規則などに明示しましょう。
「モラルハラスメントは絶対に許さない」という厳しい姿勢を見せることが重要です。
モラルハラスメントが起きてしまった場合の対処法
モラルハラスメントが起きた場合、次のような対処法を行います。
- 加害者に事実確認を行う
- 就業規則に基づき適正な措置を行う
- メンタルケア・職場環境回復などのフォローを行う
適切に対処できるよう、しっかり押さえておきましょう。
加害者に事実確認を行う
モラルハラスメントが起きてしまったら、最初にやるべきことは事実確認です。被害者の了承を得たうえで、加害者や第三者を対象にヒアリングを実施し、事実確認を行います。「いつどこで発生したか」「どのようなモラルハラスメントが行われたのか」など詳しく確認します。
被害者と加害者の間で意見が食い違う場合は、複数の第三者から情報を収集します。メールや録音といった物的証拠がある場合は、提出してもらいましょう。
なお、事実確認を行う社員は私情を挟まず中立な立場でいることが基本です。
就業規則に基づき適正な措置を行う
モラルハラスメントが発生した事実が明らかとなれば、就業規則に基づき措置をとります。措置の内容を検討する際は、過去の裁判例を参考にすることがほとんどです。また、社内にハラスメント対策委員が設けられている企業では、事実関係を再確認したうえで、措置を決定することもあります。
懲戒に値しない場合は被害者への謝罪や配置転換などの措置が講じられ、懲戒に値する場合は減給・出勤停止・自宅待機・諭旨解雇・懲戒解雇などの措置が講じられます。加害者が事実として認めないケースもあるでしょう。その場合、裁判に発展することもあります。
メンタルケア・職場環境回復などのフォローを行う
被害者と加害者の関係改善の援助や異動、不利益や職場環境回復、メンタルケアなどを行います。仮にプライバシーに配慮しつつ内密にフォローしても、モラルハラスメントの事実を第三者に気付かれるかもしれません。
被害者が職場に居づらいと感じたり不安を抱えたりしないよう、慎重にフォローしましょう。また、加害者に対しては、立ち直れるように丁寧なケアが求められます。
起きてしまったモラルハラスメントを二度と起こさないため、社内メールで注意喚起したり定期的な研修を実施したりなど、再発防止に努めることも重要です。
モラルハラスメントのない職場環境を目指そう
企業には社員の安全と健康を守る義務があります。職場でのモラルハラスメントは、絶対に起こしてはならないトラブルです。仮に、モラルハラスメントが起きてしまえば、離職率の増加や企業のイメージダウン、安全配慮義務違反など、さまざまな影響を及ぼします。
モラルハラスメントのない職場環境を整えるには、「どのような社員がいるのか」「人材配置は適切か」といったことまで、詳しく把握する必要があります。とはいえ、社員一人ひとりの情報を管理するのは容易ではありません。
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