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2019.6.27

裁量労働制とは?正しく運用するために必要な施策・手順について解説!

企業の人事担当者や経営者は、裁量労働制とはどのようなものなのか、どういった職種であれば適用できるのかなどといったことを把握しておく必要があります。今回は、裁量労働制を正しく運用する方法について説明していきます。

労働基準法で定められた「裁量労働制」とは

裁量労働制の内容は労働基準法で細かく規定されています。ここからは、裁量労働制がどのような仕組みを持つ制度であるのかということについて解説していきます。

「みなし労働時間」を設定

裁量労働制を考えるうえで、「みなし労働時間」という観念を理解することは重要なポイントです。裁量労働制では、従業員の労働時間を一定だとみなして設定することになります。すなわち、設定された労働時間が1日8時間であれば、実労働時間が6時間であっても10時間であっても、8時間分の給料をもらうことになるという制度なのです。このように、裁量労働制では従業員がみなし労働時間より多く働いても残業扱いにはなりません。ただし、設定されたみなし労働時間が1日に8時間を超えていた場合は残業手当が発生します。例えば、みなし労働時間が1日10時間に設定されていれば2時間分は残業手当が付くということです。

目的は労働者が合理的に働けるようにすること

裁量労働制が導入されるようになった背景には、時代の流れにしたがってさまざまな業務が専門化してきたことにあります。専門的な業務においては、業務の方法や時間配分は画一的に規定するよりも従業員の裁量に任せたほうが合理的な働き方ができるといえます。このような考え方が広まり始めたことで、1988年に「専門業務型裁量労働制」が導入されました。この制度の目的は専門分野の業務をしやすくするという点にあります。次に、2000年には「企画業務型裁量労働制」が導入されました。これによって事業計画を立案する仕事などにも裁量労働制が適用されるようになり、働き方の幅がさらに広がったのです。

裁量労働制は質や成果で評価

みなし労働時間があらかじめ決められているという性質上、裁量労働制においては労働時間の長さで業務内容が評価されることはありません。すなわち、こなした仕事の質や成果で評価されることになります。裁量労働制では、与えられた仕事をきちんと終わらせ、一定の成果を出していさえすれば労働時間は少なくても問題ありません。しかし、効率よく仕事を終わらせることができず、みなし労働時間を超えて働いたとしても残業代は発生しないという点には注意が必要です。

裁量労働制の対象になる仕事の種類

裁量労働制の適用対象となる仕事の種類には大きく分けて2つの分野があります。ここからは、専門業務型と企画業務型のそれぞれの裁量労働制について紹介していきます。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制とは、雇用主や上司が業務に関する詳しい指示を与えるのが困難だと考えられる専門的な業種の従業員に労働時間の裁量を認める制度です。専門的な分野の業務においては、雇用主や上司がすべての従業員の業務内容を把握するのは困難だといえます。そのため、それぞれの従業員が各自で労働時間を定めて働いたほうが業務効率が上がることになるのです。専門業務型裁量労働制に該当する業種としては、厚生労働省令が定めている19種類のものがあります。具体的には、プログラミングを行う技術者、自然科学や新技術の研究者、さらに弁護士や証券アナリストなどの業種がこれに該当します。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制を適用することができる業務には、事業の運営や企画、立案、調査、分析といった業務が当てはまります。これに加えて、コンサルタントや弁護士など、業務を適切に遂行するためには労働時間を労働者の裁量にゆだねる必要がある業務も当てはまります。業務内容について雇用主や上司が具体的に指示を出すのが困難な業務であるという点では、専門業務型の定義と大きく異なる点はないといえるでしょう。また、ここでいうところの企画業務とは企業全体の運営にかかわる業務であるという共通点があり、日常的な業務や庶務の仕事などは企画業務には含まれません。

類似する制度と裁量労働制の違い

裁量労働制と制度内容が類似しているものとして、「みなし残業制度」と「フレックスタイム制」があります。この段落では、裁量労働制とそれぞれの制度がどのような点で異なっているのかということについて解説していきます。

「みなし残業制度」との違い

みなし残業制度とは、最初から一定の残業代が給料のうちに含まれており、毎月固定された金額を従業員に支払うという制度のことです。残業代が給料に含まれているからといって、従業員は必ずしも残業しなければならないわけではありません。つまり、残業しなかったとしてもあらかじめ決められた一定時間分の残業代は毎月支給されます。また、仮にみなし残業時間を超過して働いた場合、足りない残業代の分は追加で支払われることになります。一方、裁量労働制においては基本的に残業という概念がありません。みなし残業制度のように給料が固定されているとはいっても、残業代があらかじめ給料に含まれているわけではないのです。また、みなし労働時間を超過して働いても給料は追加で支払われないという点についても、みなし残業制度とは異なっているといえます。

「フレックスタイム制」との違い

フレックスタイム制とは、1日の出退勤時間を労働者の判断に委ねるという制度です。働く時間を自由に決められるという点から、裁量労働制と似通った制度だと思っている人も多いでしょう。しかし、フレックスタイム制の場合は実際に働いた時間が労働時間として計算され、それに基づいて支払われる給料が決まることになります。一方、裁量労働制の場合は実際に何時間働いたかに関係なく、一定の時間労働したとみなして計算された固定の給料が支払われます。フレックスタイム制では労働時間に基づいて給料が支払われるのに対し、裁量労働制では達成した業務の成果に基づいているという点が大きな違いだといえるでしょう。

裁量労働制の基本的な運用方法

裁量労働制には専門業務型と企画業務型の2種類があるということは先述のとおりです。この段落では、それぞれのタイプの裁量労働制を運用するときの基本的な方法について説明していきます。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制の運用を考えている場合、まずは労働者と労使協定を締結する必要があります。なお、労使協定とは法令の内容と現場の実情のあいだの溝を埋めるために労働組合などと交わす書面のことです。裁量労働制を運用するときの労使協定の内容には、使用者が業務の遂行手段について具体的な指示をしないということを明記しておく必要があります。また、対象とする業務や労働時間としてみなす時間の長さ、協定の有効期間などの要素についても内容に含める必要があるでしょう。これらのポイントを踏まえて労使協定を作成したら、労働基準監督署に届け出ることになります。なお、実際の運用をするにあたっては、労働時間に見合わない過剰なノルマや仕事量を従業員に課してしまわないように注意する必要があるでしょう。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制を運用する場合、専門業務型とは異なる手続きを行う必要があります。まず、労使委員会を設置して、具体的な業務の範囲や労働時間としてみなす時間の長さ、労働者本人の同意の取得、協定の有効期間などについて決議を行います。このとき、多数決で5分の4以上の賛成が必要となることに注意しましょう。決議内容が確定したら、所轄の労働基準監督署に届け出ることになります。なお、従業員が複数の業務を担当している場合、どの業務が裁量労働制の対象に該当するのかということを本人だけではなく上司も把握しておかなければなりません。また、該当するのかどうかの判断が難しい業務がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に相談して確かめる必要があるでしょう。

裁量労働制を導入するメリット

裁量労働制を導入することによって、従来の働き方にはなかったメリットが生まれます。ここからは、裁量労働制を導入するメリットについて、会社側と社員側、それぞれの視点から説明していきます。

会社側

会社側にとっての裁量労働制を導入するメリットとして、事業運営のコストが管理しやすくなるということがまずは挙げられます。みなし労働時間を設定することによって、毎月の人件費がある程度決まってくるようになります。その結果、人件費にかかるコストが管理しやすくなるのです。また、みなし労働時間を超えて働くことにならないように、社員が仕事の効率を考えて作業するようになります。すなわち、社員の業務効率が上がることで人件費の削減につながるというメリットが生まれるのです。

社員側

裁量労働制を導入することには社員にとってもメリットがあります。まず、上司や経営者からの指示に縛られず、自分自身のやり方で自由に仕事ができることが最大のメリットだといえるでしょう。さらに、従来の働き方の場合は、例えば会社に8時間いなければならないといったような取り決めがありました。しかし、裁量労働制ではそうした取り決めが存在しないため、効率的に仕事をこなすことさえできれば労働時間を短縮させることができるのです。

裁量労働制を導入するデメリット

裁量労働制の導入に際しては、メリットがある反面、いくつかのデメリットにも注意する必要があります。ここからは、会社側と社員側、それぞれの視点から裁量労働制のデメリットについて紹介していきます。

会社側

会社側からみた裁量労働制のデメリットには主に3つのものがあります。まず、働き方が自由になることで社員が会社にいる時間を把握しにくくなり、会議などの全員にかかわる予定を立てるのが困難になるということが挙げられます。また、社員同士がともに過ごす時間が減ることで、チームとしての一体感や会社への帰属意識が弱くなることもデメリットの一つでしょう。そして、みなし労働時間内にこなすことができる、適切な量の仕事を従業員に与える必要があり、労働管理が難しくなるというデメリットもあります。

社員側

社員にとっての裁量労働制を導入するデメリットとして、残業代が出ないということが挙げられます。裁量労働制を採用している企業では、たとえ業務を終わらせるのに時間がかかったとしても、深夜や法定休日の勤務でなければ残業手当が出ません。また、あらかじめ給料が発生する労働時間が決められているので、自分で業務効率を考えながら働き、生産性を上げていかなければならないのです。

日本における裁量労働制の問題点

働き方改革が声高に叫ばれている日本では裁量労働制の導入も勧められていますが、それに伴って裁量労働制の問題点も表面化し始めています。ここでは、日本における裁量労働制の問題点について解説します。

長時間労働を生み出しやすい

日本における裁量労働制の1つ目の問題点として、長時間労働を生み出しやすいということが挙げられます。裁量労働制では、働いた時間ではなく達成した仕事の成果で労働内容が評価されます。そのため、しっかりと仕事をこなそうとする人ほど長時間働いてしまう傾向があるのです。また、会社側がそれぞれの業務の負担の重さを理解していなければ、みなし労働時間に対する適切な仕事の量を判断することができません。つまり、みなし労働時間に対して多すぎる仕事を割り当てることで、従業員に長時間労働をさせてしまうリスクが発生するのです。

対象業務外の仕事も裁量労働とみなされる

2つ目の問題点として、対象業務外の仕事も裁量労働とみなされる場合があるということが挙げられます。裁量労働制が適用される業務とそれ以外の業務を従業員が掛け持ちしている場合、業務の区別は曖昧になりがちなものです。すべての業務が裁量労働制として扱われることで、その従業員が負担に見合わない安い給料しか受け取れないというケースが起こってしまうのです。

裁量労働制を正しく運用するための施策・手順

長時間労働のような問題を防ぐためにも、裁量労働制は正しく運用していかなくてはなりません。ここでは、裁量労働制を適切に運用するための施策や手順について説明します。

裁量労働制の細かいルールの把握

裁量労働制を正しく運用するために、まずは会社側が細かいルールまで理解しておくことが重要だといえます。例えば、みなし労働時間が法定労働時間を上回る場合、割増賃金を支払う必要があります。また、深夜や休日に労働させたときは、その分の手当を支払わなければなりません。裁量労働制で問題を起こさないためには、こうしたルールを細かい部分までしっかりと把握しておく必要があるでしょう。

総務による裁量労働制の目標管理

裁量労働制を正しく運用するための施策として、部署単位やチーム単位での目標管理を行うことが重要です。裁量労働制においては、それぞれの社員に適切な仕事量を割り当てる必要があります。そのため、まとまった人数ごとの目標管理を行うことで、適切な仕事量がどれくらいなのかを把握することが大切だといえるでしょう。
目標を管理するためには効果的な人事システムパッケージを導入するのも有効な方法です。裁量労働制は従業員それぞれに関係するトピックであるため、人事や経営層だけではなく社員も参加できる「サイダス」のようなサービスを利用するとよいでしょう。

裁量労働制を運用するには徹底した管理がカギ

裁量労働制には問題点もありますが、ルールを守って適切に運用しさえすれば、会社側にも社員側にもさまざまなメリットが生まれます。そして、裁量労働制を正しく運用するには徹底した目標管理が必要不可欠です。裁量労働制を導入する際は、併せて人事システムの「サイダス」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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