2019.12.6
昇給額の平均はどのくらい?年齢別・企業規模別・業種別にご紹介
昇給は、従業員のモチベーションを上げるきっかけとなる重要な要素の1つです。しかし、企業の経営や人事を担当する人の中には、従業員の給与をどの程度上げるべきか分からないという人もいるでしょう。そこで、日本の企業の平均昇給額や、昇給決定の際のポイントなど、従業員の昇給を考える際に参考となる情報を紹介します。
目次
昇給とは?昇給の種類と分類
昇給とは
「昇給」とは、単純に給料が増えるという意味ではなく、従業員の年齢や勤続年数の増加、昇格などに従い、定期的に賃金が増額することを言います。実は、昇給には6つの種類があることをご存知でしょうか。昇給の方法は様々で、毎年定期的に昇給していく「定期昇給」が日本では一般的です。しかし、年齢や勤続年数よりも会社への貢献度を重視して昇給を行う会社や、実績を考慮したうえで昇給額を調節する会社も少なくありません。それぞれの昇給機会や昇給額、昇給率などは企業ごとに異なり、企業の給与規定に基づいています。ここでは、主な昇給制度6つを紹介します。
自動昇給と考課昇給(査定昇給)
自動昇給:能力や業績に関係なく年齢・勤続年数を基準とする昇給のことで、どの従業員も均等に昇給する
考課昇給:実績や勤務態度などへの評価(考課)を基準とした昇給制度であり、昇給率は企業や職務内容によって差が生じる
定期昇給と臨時昇給
定期昇給:毎年時期を決めて定期的に行われる昇給のことで、能力に関わらず賃金が上がり、年功序列賃金制度とも呼ばれる
臨時昇給:時期は決められておらず、企業の業績が好調な場合などに臨時で行われる
普通昇給と特別昇給
普通昇給:技能や職務遂行能力の向上などを理由とした昇給
特別昇給:特殊な職務への従事、特別な功労など、普通昇給の範囲外となる特別な理由に基づく昇給
昇給とベースアップの違い
昇給は、各労働者の現在の給与を基にして個別に行われます。一方で、ベースアップは賃金水準そのものを改定し、全ての労働者の給与を一斉に引き上げる手法です。年齢や勤続年数に関係なく、従業員全員の給与が底上げされる制度を指します。ベースアップは「ベア」や「臨時昇給」と呼ばれることもあり、不定期に行われるのが特徴です。
ベースアップの主な目的は、インフレによって目減りした所得を調整したり、収益を従業員に還元したりすることです。雇用者側は、賃金総額の大幅な増加をもたらすベースアップよりは、計画的に賃金増額を行って総額を長期安定化できる昇給にメリットを見出します。高度成長期の日本は、インフレ基調により景気が良かったため、当たり前のようにベースアップを行う企業が多く見られました。しかし、バブルが崩壊して景気がデフレ基調に入ってからは、ベースアップそのものを見送る企業が増えつつあります。
昇給・昇格・昇進の違い
働く中で「昇進した」「昇格した」という言葉をよく耳にします。似たような言葉である「昇進」「昇格」「昇給」の違いをきちんと理解していますか?
まず昇進とは、社内での役職(職位)が上がることです。一般社員から主任、主任から係長や課長に、課長から部長になるなどが該当します。
昇格とは、等級制度を導入している企業において、等級が上がることです。昇格の基準は企業によって規定されており、具体的には業務成績や試験結果、推薦などが挙げられます。
昇給とは、従業員の能力や年齢を基準とした「基本給」の金額が上がることを指します。ボーナスや残業手当の支給による給与増加は、厳密には昇給とみなされません。昇給の種類によって、「ベースアップ」と「定期昇給」に分類できます。
昇給の特徴とメリット
昇給は、各労働者の現在の給与を基にして個別に行われる一方で、ベースアップは賃金水準そのものを改定し、全ての労働者の給与を一斉に引き上げる手法です。 雇用者側は、賃金総額の大幅な増加をもたらすベースアップよりは、計画的に賃金増額を行って総額を長期安定化できる昇給にメリットを見出します。 一度ベースアップを実施すると、その後も人件費が長期間にわたって増加するため、2013年まで景気が不振だった時期には多くの企業がベースアップを避けていました。しかし、2014年以降、景気回復が見られたことから、ベースアップを行う企業が増加したとされています。
企業における昇給の機能
企業が昇給制度を導入する理由には、主に次の4つの目的があります。
①勤続年数やスキル・業績に応じて各従業員に見合った給与になるように、調整するため
企業は、勤続年数やスキル・業績に応じて、各従業員に見合った給与になるよう調整する必要があります。昇給は、このような給与調整の役割を担っています。
②労働者への労働意識の刺激機能
会社への貢献度やスキルアップが評価され、昇給という形で給与に反映されることにより、従業員は刺激され、労働意欲が向上します。
③社員の生活水準の維持機能
昇給により給与が上がると、生活水準を維持することや向上させることができるため、従業員の離職防止にもつながります。
④賃金の計画的増額を可能とする企業経営の安定機能
定期的に昇給を実施することで、「給与を増額させることができる」という企業の安定性や、成長性を提示することができます。
昇給額と昇給率の計算方法
昇給額の計算方法
昇給額を算出する式は2通りあるので、自分の会社の給与を参考に、一度計算してみるのも良いでしょう。 1つ目の式は、昇給前の月収×昇給率=昇給額です。 たとえば、基本給が20万円の人に、2%の昇給があった場合、20万円×0.02=4,000円の昇給という計算になります。 2つ目の式は、昇給後の月収-昇給前の月収=昇給額です。 この方法は昇給後の月収があらかじめ分かっているときや、実際に給与が支払われたときに使うことができます。
昇給率の計算方法
昇給率は昇給後の月収÷昇給前の月収で計算できます。昇給前の月収が20万円で、昇給後の月収が20万4000円なら、20万4000円÷20万円=1.02で、昇給率は102%です。
【企業規模別】大企業と中小企業の昇給額の平均値は?
日本労働組合総連合会の「2023年春闘」によると、2023年の昇給額の平均は企業全体(3,681組合)で10,923円でした。300名以上の企業(=大企業/1,203組合)の平均昇給額は11,220円、300名未満の企業(=中小企業/2,478組合)の平均昇給額は8,328円でした。
2022年の企業全体の平均昇給額は6,160円、大企業の平均昇給額は6,295円、中小企業の平均昇給額は4,997円だったため、2022年から2023年にかけて平均昇給額がいずれも大きく上昇したことがわかります。
2023年の昇給額 | 2022年の昇給額 | |
企業全体 | 10,923円 | 6,160円 |
300名以上の企業 | 11,220円 | 6,295円 |
300名未満の企業 | 8,328円 | 4,997円 |
また、2022年から2023年にかけて、平均昇給率の推移は以下の通りです。
2023年の平均昇給率 | 2022年の平均昇給率 | |
企業全体 | 3.67% | 2.10% |
300名以上の企業 | 3.70% | 2.02% |
300名未満の企業 | 3.35% | 2.11% |
これらの結果から、2023年の平均昇給額・平均昇給率ともに前年よりも上がったと言えるでしょう。
ちなみに、2023年の平均昇給額は、日本労働組合総連合会が賃上げに取り組んだ2014年以降の春闘では最も昇給額が高くなっています。
昇給を実施した企業の割合
実際に日本国内にある企業のうち、どの程度の企業が実際に昇給を行っているのか知りたいという人もいるでしょう。そこで、2023年8月に厚生労働省が日本全国の企業3,620社を対象に実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」をもとに、昇給を実施した企業の割合について紹介します。まず、2023年に従業員1人あたりの平均賃金を上げた、または引き上げる予定と回答した企業は89.1%です。
2022年に行われた調査では85.7%だったので、前年と比較すると昇給を行なった企業は3.4%増加したという結果になります。一方、従業員1人あたりの平均賃金を引き下げた、または引き下げる予定と回答した企業は0.2%です。2022年の調査結果では0.9%だったため、前年より減少していることが分かります。賃金を改定しないと答えた企業は5.4%です。こちらも前年より0.8%減少しました。
給料をカットした企業の割合
昇給を行った企業の割合や平均昇給額、平均昇給率について見てきましたが、一方で、賃金カットを行った企業もあります。厚生労働省が発表した2023年の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、2023年に賃金の改定を行っている企業や、改定を予定していて金額も決定している企業の中で、賃金カットを実施または予定している企業の割合は6.3%でした。2022年の同調査では、賃金カットを実施または予定している企業は7.1%だったので、前年よりも0.8%減少していることが分かります。
賃金の改定の際に重視される要素とは?
昇給や賃金カットなどを実施した企業は、どのような要素を重視して賃金改定を行ったのか、気になっている人もいるでしょう。 2023年の「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、賃金の改定事情についても調査されています。
賃金の改定にあたり、36.0%の企業が「企業の業績」を重視したと回答しています。その他の要素として、「労働力の確保・定着」が16.1%、「雇用の維持」が11.6%、「物価の動向」が7.9%、、「世間の相場」が6.7%「親会社や関連会社の改定の動向」が5.1%という回答です。 また、少数派の回答として、「労使関係の安定」が1.2%、「前年度の改定実績」と答えた企業が1.1%でした。「その他」と答えた企業は1.5%です。なお、調査対象のうち3.3%の企業は「不詳」、9.5%は「重視した要素はない」と回答しました。企業の規模別に見たときも、従業員数に関係なく全ての企業において「企業の業績」という回答が最も多くなっています。これらの調査結果から、賃金の改定には企業の業績が大きく関わっていることが分かります。
年齢別の平均昇給額の平均は?
平均昇給額を年代別に見てみましょう。 2022年の東京都産業労働局が東京都の中小企業(従業員数:10人~299人)を調査した結果をもとに、2022年7月と2023年7月の所定時間内賃金(月給から残業代などを除いた金額)を比較してみると、 2023年の20代前半男性の平均昇給額は21,145円、後半は14,736円でした。30代前半男性は17,050円、後半は-15,830円でした。20代前半女性の平均昇給額は6,446円、後半は12,179円でした。30代前半女性は29,061円、後半は-1,921円でした。 そして40代前半男性では9,305円、女性では13,161円、50代前半男性では19,798円、女性では12,957円となっています。 これらのデータから、年齢によって昇給額の平均には大きな差があることが見て取れます。30代前半までは昇級が続くことが伺えます。
男性の平均昇給額(円) | 女性の平均昇給額(円) | |
22~24歳 | 21,145 | 6,446 |
25~29歳 | 14,736 | 12,179 |
30~34歳 | 17,050 | 29,061 |
35~39歳 | -15,830 | -1,921 |
40~44歳 | 9,305 | 13,161 |
45~49歳 | 5,787 | 22,323 |
50~54歳 | 19,798 | 12,957 |
参考:東京都産業労働局「中小企業の賃金事情」(令和5年版)
東京都産業労働局「中小企業の賃金事情」(令和4年版)
【業種別】平均昇給額・平均昇給率・昇給を実施した企業の割合は?
昇給額・昇給率を業種別に見ていくと、平均昇給額が高い業種は昇給率も高い傾向があることがわかります。2023年の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、2023年に最も1人あたりの平均賃金の改定額が高かった業種は、鉱業,採石業,砂利採取業業で18,507円、平均改定率は5.2%でした。
一方、平均賃金の改定率が最も低かった業種は医療,福祉で、平均改定額は3,616円です。平均改定率は1.7%で、全業種の平均改定額9437円、平均改定率3.2%を大幅に下回っています。
業種 | 平均昇給額(円) | 平均昇給率(%) |
鉱業,採石業,砂利採取業 | 18,507 | 5.2 |
建設業 | 12,752 | 3.8 |
製造業 | 9,774 | 3.4 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 10,131 | 3.3 |
情報通信業 | 15,402 | 4.5 |
運輸業,郵便業 | 6,616 | 2.7 |
卸売業,小売業 | 8,763 | 3.1 |
金融業,保険業 | 10,637 | 3.2 |
不動産業,物品賃貸業 | 11,560 | 3.7 |
学術研究,専門・技術サービス業 | 10,642 | 3.2 |
宿泊業,飲食サービス業 | 8,401 | 4.4 |
生活関連サービス業,娯楽業 | 6,832 | 2.5 |
教育,学習支援業 | 7,682 | 2.7 |
医療,福祉 | 3,616 | 1.7 |
サービス業(他に分類されないもの) | 6,343 | 2.2 |
日本企業における定期昇給制度の現状と問題点
日本の昇給制度は、定期昇給制度が一般的です。日本では昔から終身雇用制や年功序列を重視している企業が多いため、定期昇給を行い勤続年数が長い人により多くの給与を払うという考え方でした。2022年版の厚生労働省のデータを見てみると、一般従業員の定期昇給がある企業は8割弱存在し、実際に昇給を行っている企業も7割を超えています。
定期昇給制度は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)とともに日本企業の賃金制度の柱となっていましたが、昨今では、この制度を廃止したり、見直したりする企業が増加しています。
日本の賃金制度の根幹をなしてきた定期昇給制度の問題点について解説します。
定期昇給制度のデメリット
定期昇給制度のデメリットは大きく分けて2つあります。1つ目は、人件費の高騰です。一律型の定期昇給の場合、企業への貢献がなくても年齢や勤続年数だけで毎年自動的に給与は上がっていくため、人員の入れ替えがなければ年々人件費は増加します。2つ目は、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下です。特に有能な若手社員は「勤続年数は長くても実績を出せていない社員の方が、自分よりもよい待遇を受けている」という点に不満を感じるかもしれません。
定期昇給の停止年齢
従業員が一定の年齢に到達すると、定期昇給が停止するよう定めることは可能です。ただし、新たに昇給停止の年齢を設定する、あるいは停止する年齢の引き下げを行う場合には、就業規則等の変更が必要になります。定期昇給がある企業に、定期昇給停止年齢を尋ねると、平均は 48.9歳となりました。昇給停止年齢は企業の規模によって差があり、中規模企業では30代後半、小規模企業では50代で停止するよう定めている企業が少なくはありません。
定期昇給制度を廃止した企業
2020年にトヨタ自動車は定期昇給について、一律的な昇給をなくし、個人の評価で判断する制度を2021年1月から導入すると発表し、経済界に衝撃を与えました。長い将来を見据えた賃金制度の改革を行う企業はこれからも増えていくと考えられます。
昇給させる際の注意点
従業員を昇給させる際には、どのような点に注意したら良いのでしょうか。まず、従業員の業績や貢献を具体的に評価し、その影響を組織やチームにどのように寄与したかを示します。同時に、従業員が成長し、スキルを向上させたことにも注目しましょう。また、他の同僚との比較や業界の標準を考慮して、公正な昇給額を決定します。昇給額を決めた後は、以下の2つのステップを踏むことを推奨します。
①昇給通知を出す
昇給通知は、従業員に給与の引き上げが行われる旨を通知する文書やコミュニケーションです。通常、これは組織が従業員の業績や貢献に基づいて給与を増額する際に行われます。昇給通知は、従業員のモチベーションの向上などのポジティブな効果をもたらす一方で、公正なプロセスや透明性が求められることを留意する必要があります。
②昇給の根拠を伝える
昇給時には、業績向上やスキル向上などの具体的な根拠を定め、透明性を確保しましょう。雇用契約に昇給が確約されている場合は、それに従って実施しましょう。全く同じ能力で、同じ仕事をしている社員が昇給している中で、1人だけ昇給がないといったように、不公平や不平等が明らかな場合も、昇給の根拠となるでしょう。また、特定の社員が代替性のない存在である場合、待遇改善が昇給の根拠となります。昇給制度や評価基準を具体的に定め、従業員に明示することでモチベーション向上に寄与します。自社の昇給額や昇給率を業界平均と比較し、適切な昇給ルールを検討し、従業員のモチベーションをサポートしましょう。
適切な人事評価で納得感のある昇給を
昇給は従業員にとって、モチベーションを上げるための重要な要素の1つです。従業員のやる気を引き出すためにも、自社のルールに基づいたうえで、根拠のある昇給額と昇給率を定めましょう。
また、組織の成長を促すには、組織課題を明確にすることや、従業員一人ひとりのスキルやポテンシャルを最大限に引き出すことが必要不可欠です。人材データプラットフォーム「CYDAS」は働きがいを高めながら、組織の成長を加速させる「真の人事DX」を実現します。
「そろそろ人事制度を整備したいが手間がかかるし、誰に相談したらいいか分からない…」
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