働きがいを応援するメディア

2020.8.26

執行役員制度とは?仕組みや役割、導入した際のメリット・デメリット

記事やニュースなどで、「執行役員制度」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。名前くらいは聞いたことがあっても、詳しい仕組みまで意識してこなかった人もいるかもしれません。執行役員制度にはさまざまな目的やメリットがあり、多くの組織で導入されてきました。この記事を読めば、執行役員制度の意味や役割、メリットやデメリットまで理解することができます。

執行役員とは?

そもそも執行役員とは、取締役などの役員が下した決定を「執行」する際に中心となるポジションです。いわば、現場のリーダー的な役割だといえるでしょう。執行役員が設置されるようになったのは、役員には現場でプロジェクトを指揮するだけの時間的余裕がないからです。役員が集中しなくてはならないのは、あくまで会社の経営に関わる部分です。これらは一般の従業員だと代行できないため、役員が担当するしかありません。そこで、執行役員が役員の負担を減らすことにより、事業運営が円滑にまわり始めるのです。

なお、執行役員は「役員」とついているので、取締役などの経営陣と対等な立場だと混同している人も少なくありません。ただ、実のところ執行役員は一般の従業員に属する役職です。現場で率先してプロジェクトを仕切ることはあるものの、経営について決定権を持ちません。あくまでも、経営陣の決めた方針を現場に伝え、先導していく役割です。そういう点で、執行役員は経営陣と現場のつなぎ役との見方も可能です。執行役員は会社に雇用されている従業員であり、定年退職があるのも他の社員と変わりません。

そのため、社長や会長、あるいは副社長などの役職よりも、執行役員は下の立場だといえます。そのかわり、経営陣のほうから執行役員の意見を求めてくることも少なくありません。執行役員は経営陣の知らない、現場の実状を把握している従業員だからです。なお、執行役員制度は法律で決められているわけではないので、必ずしも全ての企業が導入しているわけではありません。ただ、経営陣の意思を全社に浸透させるなどの目的から、執行役員を置く日本企業も増えてきました。

役員との違い

最大の違いは「会社に雇われているかどうか」です。役員は会社を経営する立場であり、従業員を雇う側です。そのため、会社の利益を計上した後で、自分たちの報酬を決めることも可能だといえます。その立ち位置は従業員というよりも、経営者であり最上位管理職といえるでしょう。一方、執行役員は経営陣に雇われている従業員の1人です。給料や業務内容などは経営陣によって決められており、自ら決定する権限を持ちません。

また、役員は会社の方針について発言する権利を持っています。役員会議に出席して、会社の取るべき施策について意見を述べます。それに対して、執行役員は役員の決定を左右する権限がありません。意見を求められることがないわけではないものの、最終的に重要事項を決めるのは役員の仕事です。原則的に、役員会議に出席することもないポジションです。執行役員はあくまで決定を受けて、他の従業員に伝え執行する役目を担っています。

執行役員の法律上の役割

会社を設立する際、執行役員を置かなくてはならないという取り決めはありません。つまり、執行役員は法律で定められている役職ではないのです。取締役会によって選任されたときのみ、執行役員はその役割を担います。ただ、だからといって登記などがなされるわけでもありません。執行役員は従業員の中に設けられた役職のひとつという位置付けだからです。執行役員の権限は、法律ではなく取締役会によって定められています。なお、法律では「執行役」という役職が定められているものの、これは委員会設置会社にのみ制定されています。執行役員とは別の役職なので注意しましょう。

従業員である以上、執行役員は労働基準法に則った働き方が求められます。会社は労働基準法に沿った執行役員規程を作成する義務があります。もしもこの義務を怠った場合、30万円以下の罰金が科せられる決まりです。

執行役員制度導入のメリット

第1に「取締役の負担軽減」が挙げられます。取締役が担うべき業務の中で、もっとも重要なのは経営の意思決定です。取締役はこれまでの経営状況を分析したうえで、常に会社の方針を決め続けなくてはなりません。また、スポンサーとの交渉や金融機関からの資金調達なども、取締役でなければ行えないことがあります。取締役は経営に関わる業務を遂行するだけでも多忙であり、現場の指揮まで執るのは困難です。そこで、執行役員が代わりに指揮を執ることで取締役の負担を軽減します。取締役は経営の意思決定までを担い、その後は執行役員が現場に伝え指揮を執ることで業務を分担することができます。取締役は自分にしかできない業務に集中できることになるのです。

第2に「現場がスムーズにまわる」のもメリットです。組織が大きくなればなるほど、現場と取締役の距離は広がっていきます。現場が決済を仰いだとしても、取締役の耳に入るまで時間がかかってしまいます。その結果、重要な判断すら遅れてしまい、ビジネスチャンスを逃がしてしまうことさえありえるのです。しかし、現場に執行役員がいれば取締役の代弁者として決済が可能となります。執行役員は取締役の考えをしっかり把握しているうえ、現場での権限を与えられているので会社としての意思決定がスムーズになっていきます。そして、執行役員から現場の状況を取締役に報告すれば正しい現状認識につながり、迷いなく経営を進めていけるという好循環が生み出されるのです。

第3に「優秀な人材の成長」を促すうえでも、執行役員制度は有効です。役員制度においては、抜擢できる人数が決まっているケースが大半です。仮に若手で優秀な人材が台頭してきたとしても、役員の椅子が空いているとは限りません。従来の日本企業ではキャリアを重ねた優秀な人材をとりあえず役員に迎え入れていたため、経営陣が多くなりすぎるという欠点を抱えていました。

そうとはいえ、誰かが退任するのを待っていては若手の育成が遅れてしまいます。そこで、とりあえずは若手を執行役員として登用し、経験を積ませることがあります。執行役員に任命されれば、経営陣と近い立ち位置で経営に関するノウハウを学べるでしょう。そのまま十分な経験を積んだうえで、後日、正式に役員になれば存分に手腕を発揮できます。さらに、現場と経営陣の感覚を兼ね備えた人材を生み出せるのも、執行役員制度の強みです。

第4に「給与を経費にできる」というメリットも見逃せません。役員の給与は経費にできないので、高給を払ったところで税金の額に影響はないといえます。節税対策とするには、経費を増やして税額を抑えなくてはなりません。そこで、一般の従業員に給料を多く払うのはひとつの手段となります。執行役員は立場的に従業員ではあるものの、担っている責任はかなり大きいポジションです。役職手当も含め、高給を支給すれば大幅な節税対策となることも珍しくありません。役員報酬を支払わず、優秀な人材を自社に留めておける側面も期待できます。

そのほか、取締役の考えを広く社内に伝えるなど、啓蒙的な役割も執行役員は担っています。取締役は常に現場へと顔を出せるわけではないので、執行役員が会社の思いを浸透させていけば組織力の向上へとつながります。

執行役員制度導入のデメリット

まずは「法的に立場が保障されているわけではない」点です。執行役員制度は労働基準法などで決められている役職ではありません。必ずしも設置が義務になっているわけではないので、ただ任命するだけでは立ち位置が曖昧になってしまうのです。また、執行役員の業務は企業によってまったく異なります。経営陣が執行役員に何をしてほしいのか、現場を円滑に動かすため何をさせるべきなのかをはっきりさせておかないと、執行役員の権限が弱くなりかねません。その結果、「みなし役員」のようなポジションになってしまう恐れすら出てきます。

次に、「他の役職との違いが曖昧」という問題も出てきます。執行役員に与えられた役割は、経営陣の決定を現場で執行することです。ただ、厳密には全ての役職が経営陣の指示に従う義務を持っています。執行役員に限らず、部下を持っている従業員であれば経営陣の考えを伝えていく必要があるでしょう。そうすると、執行役員が現場でなすべき仕事は分かりづらくなります。むしろ、部長や課長のように、ひとつの現場で長く結果を出してきた従業員のほうが部下からの信頼は厚いでしょう。執行役員が思うように人望を集められず、名ばかりの役職に甘んじてしまう事態も珍しくありません。

ただ、これらのデメリットは執行役員制度そのものの欠陥というよりも、それを導入する企業側の工夫が足りていないことが原因です。そもそも、執行役員制度を取り入れる際には従来の役員制度を再構築する必要も生まれます。慎重に行わないと、役員、従業員の両方から不満が出るのは避けられません。メリットを全社にしっかり伝えたうえで導入を進めていくことが肝心です。

また、「役職が形骸化しやすい」こともデメリットのひとつです。確かに、執行役員は取締役から現場の指揮を任されています。しかし、取締役の中には現場を直接自分で指揮したい人もいます。また、執行役員を通して現場に指示する流れを好まず、自らプロジェクトの先頭に立ちたがる取締役もいるでしょう。そのような場合、現場は取締役の言葉に従います。ただ、執行役員の存在意義は薄まってしまうので、やるべき仕事のない状態へと陥りかねません。

また、執行役員が現場に指示を出そうとしても、全ての業務を把握しているわけではない場合がほとんどです。結局は、それぞれの部門のリーダーに相談し、現場を仕切ってもらうこととなるでしょう。つまり、執行役員は取締役の意思を伝えているだけで実務的な部分をほとんど担わなくなってしまうケースもあるでしょう。それならば、「取締役と直接話したほうが早い」と現場に感じさせかねません。

こうしたトラブルを防ぐため、企業は執行役員の権限を明確化する規定を作成し、全社員の間で共有することが重要です。また、組織図を考え直し、執行役員制度が順調にまわるよう工夫しなくてはなりません。ただ、こうした作業が人事部や経営陣の負担となることも多く、そもそも執行役員制度を設けたがらない会社もあるのです。

執行役員の報酬の相場

多くの企業にとって、執行役員は大きな責任を負って従業員の先頭に立つ役職です。また、経験やノウハウを備えていないと引き受けられる立場でもありません。それゆえに、執行役員には比較的高い給料が支払われる傾向となっています。年収の相場は1500万~1600万円であり、一般職の給料を大きく上回っています。ちなみに、部長職の平均年収は1200万円ほどなので執行役員のほうが給料をもらっている計算です。ただ、これらの額はあくまで平均にすぎません。上場企業であれば、執行役員はさらなる好待遇で働いていることもあります。

報酬の決定方法

執行役員は、従業員の中では最高職です。役員報酬はもらえないものの、従業員としてはもっとも高い報酬が支払われます。そして、報酬額は取締役会の「委任」によって決定する方式が大半です。ただし、会社によっては一般の従業員と同じ雇用契約を結んでいることもあります。この場合、執行役員の年収は委任契約よりも安くなってしまいがちです。

執行役員制度が導入された経緯

日本で執行役員制度が取り入れられた背景は、バブル崩壊後に訪れた不景気と関係しています。90年代の不景気では大企業すらも倒産する状況が続いており、多くの経営者が焦りを感じていました。そのような状況下で、不正に手を出してまで利益を増やそうとする役員が現れ始めたのです。こうした問題が起こってしまったのは、企業内で役員に対する監査役が欠けていたことも原因のひとつです。役員の数が多い企業ほど、お互いの不正に麻痺しており、阻止する役割を買って出る人材がいなくなっていたのです。

そこで、1997年6月にソニーが執行役員制度を日本で初めて導入しました。そして、2003年4月から施行し始めます。もともと執行役員制度はアメリカのビジネスシーンで定着していたものの、日本に取り入れるのは当時、斬新な試みでした。そうなったのは、ソニー社内で役員に対する不信感が高まっていたからです。そして、従業員は健全な経営を監視するために自分たちの代表を立てなくてはならないという結論に達しました。それ以降、執行役員が役員から現場の指揮を任され、経営からブラックボックスとなっていた部分が消えていったのです。

執行役員の抜擢により、経営と業務執行は完全に分離しました。役員は経営方針を決定した際、執行役員に内容を説明して従業員に伝えさせなくてはなりません。その過程で、もしも不審点があれば執行役員から追求がなされます。従来の完全なるトップダウン方式では経営陣の不正も明るみになりにくかったものの、執行役員制度の導入で問題が解消されるようになりました。また、取締役が執行役員の監視を行うことで、現場に経営陣の意思がしっかり反映されているかも確認がとれる仕組みが確立しました。

そのほか、ソニーが執行役員制度を導入したのは、「役員の待遇を悪化させないため」という配慮もあったといえます。1997年当時、ソニーには実に38人もの取締役が実権を握っていました。しかし、意思決定を行う人間がそれほど多ければ、プロジェクトの進行はスムーズになりようがありません。そこで、意思決定を行う人間と、それを現場で執行する人間を明確に切り分ける必要がありました。ただ、普通に両者を分けただけでは、役員に残れなかった元取締役は左遷扱いとなってしまいます。ソニーは彼らを執行役員にすることで、大きく待遇を変えないまま経営陣の絞り込みに成功したのでした。

ソニーの取り組みは他の日本企業にも広まり、執行役員制度はますます拡大していきます。多くの企業がソニーと同様の問題を抱えていただけでなく、若い従業員に活躍の機会を提供できるのも大きなメリットだったからです。短いキャリアで役員に就任することは難しくても、執行役員として現場の中心となるのは若手社員の目標としてぴったりでした。当面の目標が見えている環境で、若手社員のモチベーションは維持されます。優秀な人材が他社に流出することの防止策にもなりえるでしょう。

また、取締役候補をとりあえずは執行役員として教育する流れも日本で定着していきます。執行役員の期間に現場を束ねるスキルを養い、キャリアを積んでから晴れて役員に昇格するパターンが増えていきました。2010年代以降、多くの企業が執行役員制度を設け、経営の効率化を試みています。

執行役員制度を活躍することでスムーズな業務が可能に

法律で定められている役職ではないものの、執行役員制度には数々のメリットがあります。特に、役員の行うべき業務が明確化して経営の意思決定が速やかになるのは強みです。優秀な人材にとっては目標にしやすい役職なのでモチベーションアップにもつながります。執行役員制度を取り入れて、企業力を大きく高めてみましょう。

Category

Knowledge

Keyword

Keywordキーワード