2023.2.17
タレントマネジメントの成功事例を企業ごとに紹介!導入方法やメリットも
近年、従業員のスキルや経歴を把握し、企業の成長へとつなげるタレントマネジメントが注目を浴びています。人事戦略の一つであることは知っているものの、実際に導入した企業は成功しているのか気になるという人も多いのではないでしょうか。人材育成や組織成長においてタレントマネジメントが本当に効果的かどうか予測がつかないと、導入するべきか迷うものです。
本記事では、自社に必要かどうかを判断できるよう、タレントマネジメントの成功事例を紹介します。どのような成果を上げているのか企業ごとに紹介するほか、タレントマネジメントの基本的な内容や導入方法、導入率なども詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
サイダス社が提供する「CYDAS」は、「働きがい」を生み出すメカニズムが詰まったタレントマネジメントシステムです。人材情報を一元化し、目標管理や1on1、フィードバック機能など、さまざまな機能を組み合わせてサイクルを回すことで、一人ひとりのワークエンゲージメントを高め、組織を強くします。
目次
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントの意味・歴史
タレントマネジメントとは、人材をマネジメント(管理)する人事戦略のことです。企業に属する社員一人ひとりのスキルや経歴などを把握し、戦略的な人材配置や人材育成へとつなげ、組織成長や業務効率化を目指すプロセスのことを意味します。
対象となるのは正社員に限らず、パートやアルバイトなど会社に勤めるすべての従業員です。タレントマネジメントがうまくいけば生産性が上がり、企業の売上や利益に貢献できます。
タレントマネジメントはもともと、2001年にアメリカのマッキンゼー社が提唱した人事戦略です。日本で本格的に普及したのは2010年前後だと言われています。2010年代に入ると、外資系企業が日本でタレントマネジメントシステムの提供を開始し、以降、サイダス・カオナビ・HR Brainなど、さまざまな国内企業がタレントマネジメントシステムの提供を開始しています。タレントマネジメントシステムは、大手企業を中心に導入され、昨今は将来の成長を見据えた中小企業でも導入検討をする人事担当者が増えています。タレントマネジメントシステムの導入率については、後ほど詳しくご紹介します。
このように、人事不足が深刻化し、限られた社員で業務をこなさなければいけない企業が増えた今、タレントマネジメントへの注目度が高まっています。
以下の記事でもタレントマネジメントについて解説しているので、あわせてチェックしてみてください。
グローバルタレントマネジメントとは
タレントマネジメントに関連する用語として、「グローバルタレントマネジメント」と呼ばれるものがあります。グローバルタレントマネジメントとは、グローバル人材の能力を最大限に引き出し活用するマネジメント手法のことです。
1990年代にアメリカで提唱された概念であり、従業員の能力やスキル、才能を登録し客観的に評価し活用するシステムを意味します。
基本的には、「タレントマネジメント」と同じ意味合いを持ちますが、「グローバルタレントマネジメント」は、さらに世界へと視野を広げ、海外企業との関係性構築にふさわしいグローバル人材の育成や、事業のグローバル展開に向けた戦略人事を行っていくことに重点を置いています。
タレントマネジメントが注目されている理由や背景
従来の日本は、定年まで正規雇用社員として働く「終身雇用」が一般的でした。終身雇用では年齢や勤続年数に伴い、賃金がアップしたり役職が与えられたりする年功序列が採用されていたので、社員にとっては安心感があり、企業にとっては定着率が向上するなどのメリットがありました。
しかし、今は成果によって人事評価が下される「成果主義」の時代です。転職しやすくなったことで人材の離職率は高くなり、多くの企業で人手不足が課題とされています。
社員に働きがいのある環境を提供できるよう、企業は社員一人ひとりのスキルや価値観などを把握し、それに見合った人材配置、さらには人材育成を進めることが必要です。タレントマネジメントは、それを実現するために必要不可欠な人事戦略といえます。
タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントは本当に必要なのかという疑問を解決するために、実施する目的を把握しておきましょう。目的は主に以下の3つです。
【タレントマネジメントの主な目的3つ】
- 企業の生産性を上げる
- 適切な人材配置を行う
- 人材育成と定着を後押しする
上記の項目を実現し、企業の成長に貢献することがタレントマネジメントを実施する最大の狙いです。
企業の生産性を上げる
タレントマネジメント実施の大きな目的は、企業の生産性を上げることです。自社に勤めている社員一人ひとりのスキルや経験などを把握することで、人材を最大限うまく活用することができます。
例えば、新しいプロジェクトを発足する際、タレントマネジメントを導入していれば、適任となる人材を見つけやすくなります。しかし、導入しておらず勤続年数や年齢などだけで人材を選べば、本当に適切な人材なのかどうかの判断がしづらいため、プロジェクトが失敗することにもつながりかねません。
タレントマネジメントによって必要なタイミングで必要な人材を集めることができれば、企業の生産性アップにつながります。
適切な人材配置を行う
先述したタレントマネジメントの大目的である企業の生産性を上げるためには、適切な人材配置が行われていることが重要です。各々がもつスキルに見合った部署やポジションに人材を配置できれば、社員は高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。成果を出しやすくなることで仕事に対してやりがいを感じてもらえると、積極性の向上も期待することが可能です。
しかし、自分のスキルに合っていない部署に配置された社員は、「自分は役に立たない」と引け目を感じてモチベーションが下がる可能性があります。パフォーマンスが下がったり離職につながったりすることも避けられません。
タレントマネジメントは、必要とされる理想の人物を発掘し、適切に配置できるかどうかが重要だといえます。
人材育成と定着を後押しする
成果主義を導入する企業が増えている今、終身雇用が一般的だった一昔前に比べると、転職しやすい時代となりました。優秀な人材ほど見切りをつけるのが早く、スキルアップを目指して転職するものです。人材不足に陥っている状態では適切な人材配置ができないので、企業としてはいかに離職を防げるかが課題となります。
タレントマネジメントにより適切な人材配置を実現し、社員が高い意識をもって仕事に取り組むようになれば、従業員エンゲージメントを高めることが可能です。企業と社員の間に信頼関係が築かれると、早期離職を防ぎ、定着率を上げることにつながります。
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タレントマネジメントを導入するメリット
タレントマネジメントを導入するメリットは、主に以下の4つです。
【タレントマネジメントの導入メリット3つ】
- 最適な人材配置により、企業や人材が全体として活性化する
- 従業員エンゲージメントが向上する
- 中長期的な戦略づくりや戦略人事の実現に役立つ
- 人材育成が促進される
上記はいずれも、タレントマネジメントが自社にとって必要どうかを判断する重要な項目です。それぞれ詳しく解説するので、チェックしてみてください。
最適な人材配置により、企業・人材が全体として活性化する
タレントマネジメントの導入によってうまく人材配置ができれば、企業や人材が全体として活性化する効果が見込めます。社員一人ひとりがもつ能力やスキルを発揮し、それぞれの方法で企業へ貢献できるようになると、社員のモチベーションが上がってより高いスキルを身につける意欲を持ってくれることが期待できます。
社員にはそれぞれ得意不得意があるものです。各々が高いパフォーマンスを発揮できるようになれば、成果があがることはもちろん、社員一人ひとりが高いモチベーションを持って自己研鑽に励んでくれることが期待できるため、企業の活性化につなげることが可能です。
従業員エンゲージメントが向上する
タレントマネジメントがうまくいくと、従業員エンゲージメントが向上する効果も期待できます。従業員エンゲージメントとは、会社に対する愛着心や忠誠心のことです。従業員エンゲージメントが高いと、社員は会社のために貢献しようとするので、業績アップにつながりやすくなります。
反対に従業員エンゲージメントが低ければ、社員は会社よりも自分を優先するので、業務をこなすだけになったり離職率が高まったりと、さまざまな影響を及ぼしかねません。
タレントマネジメントによって適材適所がうまくいけば、社員は自分に見合った部署や仕事を与えてくれた会社に対し、「もっと貢献したい」と考えるようになります。社員一人ひとりのエンゲージメントが高まることで、組織力を強固なものにすることが可能です。
中長期的な戦略づくりや戦略人事の実現に役立つ
人材育成には時間がかかりますが、タレントマネジメントによって5年後10年後を見据えることができれば、中長期的な戦略づくりをしやすくなるのが特徴です。
タレントマネジメントを行う目的には、人材育成も含まれています。社員がもつスキルや経験などから、今後どのようなスキルを身につけてほしいのかを把握することが可能です。例えば、将来的にチームリーダーとして活躍してほしい人材には、リーダー研修への参加を求めることが必要になるでしょう。
このように、タレントマネジメントを導入することで、人事戦略において具体的な中長期戦略を立てることができるようになります。
人材育成が促進される
タレントマネジメントの導入により、従業員一人ひとりの強みや弱みを可視化することができ、従業員個人に適切なマネジメントを実行することができます。高度なタレントマネジメントシステムを導入すれば、ハイパフォーマー分析を通じて、ロールモデル人材の定義を明確化することができ、経営目標に基づいた人材育成計画の立案や実践も行いやすくなります。
タレントマネジメントの成功事例を紹介
ここからは、タレントマネジメントを導入して成功している企業を紹介します。どのような効果を得ているのか、具体的に把握しておきましょう。
【タレントマネジメントを導入している企業】
- サントリーホールディングス株式会社
- KDDI株式会社
- シミックホールディングス株式会社
- ライフネット生命株式会社
- 日産自動車株式会社
- 楽天グループ株式会社
- ソニー株式会社
- 東京電設サービス株式会社
- アサヒビール株式会社
- 伊藤忠商事株式会社
サントリーホールディングス株式会社
サントリーホールディングス株式会社では、国や事業に捉われないグローバル人事活動を推進しています。定期的なグループレベルでのタレントレビューを実施しているほか、2019年には、次世代を担うリーダー的存在となる社員・ポジションの把握、異動の検討など、タレントマネジメントの内容を充実させているのが特徴です。
また、サントリーで実施しているタレントマネジメントの施策には、以下のようなものがあります。
- 社員が年に1回、職務状況の報告や希望する部署の申告ができる制度を導入
- キャリアビジョンシートにもとづいてキャリアプランをマネージャーと話し合う
2020年に行った調査では、自らの仕事にやりがいを感じている社員は78.1%、そのうち66.9%が満足している、という結果が出ています。サントリーに勤める社員のエンゲージメントが高いことがわかる結果です。
参考:サントリー「人材育成」
KDDI株式会社
大手通信会社であるKDDIでは、タレントマネジメントプロセスを構築し、17,000人の社員を対象にしたタレントマネジメントシステムを導入しています。コンサルティングから構築までをシステムを活用して実施し、効果的な採用・配置・能力開発・評価を目指しています。
人生100年時代を見据えて実施されている人事制度の中には、新たな働き方への対応やIT技術を駆使した制度支援など、高度なことに挑戦しているものが豊富にあるのが特徴です。
シミックホールディングス株式会社
シミックホールディングス株式会社ではグループ会社の数が増えるにつれて、社員一人ひとりがもつスキルや希望が企業にどのようなメリットを生むのかが見えにくくなりました。人材の発掘や適材適所が難しくなり、人材育成の計画も立てにくい状況に陥りました。そこで導入したのが、「人事システムっぽくない」タレントマネジメントシステムです。
分かりにくい・使いづらいシステムは、社員から敬遠されがちです。見た目が楽しいタレントマネジメントシステムを導入することで、社員自らが参加しやすい状況を作り上げています。
また、社員の「やりたい気持ち」をキャリアプランに反映することで、仕事への意欲を高め、結果としてエンゲージメント向上にもつなげているのが特徴です。
シミックホールディングス社のタレントマネジメントシステム導入事例は次の記事でご紹介しています。
ライフネット生命株式会社
ライフネット生命では、社員規模が拡大してからタレントマネジメントの必要性が増しました。具体的な施策としては、パラレルイノベーター採用を導入しています。
パラレルイノベーター採用とは、複業を前提とした採用のことです。週3~4日はライフネット生命に勤務し、残りはもう一つのキャリアのために使うという働き方です。社外で経験して得たスキルやノウハウを自社で活かし、活躍することを期待しています。
また、パラレルイノベーター採用には、将来の幹部候補社員を採用する狙いもあります。ライフネット生命では、複業によってさまざまな視点を養ったり未知な体験をしたりすることで、人は大きく成長できると考えているのが特徴です。パラレルイノベーター採用を導入することで、多様なスキルや経験をもつ人材を集め、会社全体の生産性向上につなげています。
日産自動車株式会社
日本大手自動車メーカーの日産自動車では、タレントマネジメントをはじめ、人材育成においても先進的な取り組みを行っています。例えば、日本だけでなく世界中から優秀な人材を見つけ出して育成するため、データベースや育成専用プログラムなどを活用しています。
グローバルでの「会社としての魅力度の向上」「採用」「発掘」「育成」「リテンション」を目的に、2000年からNAC・キーポストの後継者計画・HPP 選抜・HPP育成のロードマップ・グローバル研修などを実施しています。人選→アセスメント→育成計画→フォロースルーと、プロセスを回し続けることで育成を加速させているのが特徴です。
また、ビジネスリーダーを育てるため、候補者には海外での現場経験を積んでもらうことを目的としたステップも用意されています。
1.入社後3年~
ビジネスリーダー候補を発掘
2.入社後5-7年~
20歳代後半の優秀な人材を選定+ローテーションプログラムを実施(部門異動・海外派遣)
3.40歳前後
ビジネスリーダーのポジションにアサイン
とくに、日産自動車では日本人のビジネスリーダーが不足していることから、日本人ビジネスリーダーの育成が強化されています。
楽天グループ株式会社
楽天グループでは、会社が大きく成長したことで従来の運営方針や人事では立ち行かなくなったため、タレントマネジメントを導入しました。
従来の楽天グループは中途採用を主流としており、事業ごとに必要な人材をその都度供給していました。会社が成長するにつれて新卒の割合が増えたことにより、事業ごとに人材を育成するのではなく、全社の観点で人材育成するよう変化していったのが特徴です。
新規ビジネスやグローバルビジネスなどの分野においては、人事配置をする際に「ジョブポスティング」を採用しています。社内で人材の募集をし、応募して合格すると異動できるという仕組みです。スキルアップできるチャンスを、全社員に対して平等に与えています。
ソニー株式会社
ソニーは日本において、早くからタレントマネジメントを実施してきた会社です。2008年頃には、優秀な人材を育成・配置することを目的とした「レバレッジ・タレント」という仕組みを構築しています。
例えば、40~50代のミドル層に対しては、タレント・ダイレクターという人事担当者が、優秀な人材の発掘・配置を常に探求しているのが特徴です。タレント・ダイレクターは世界7ヶ所におり、年に数回集まってどんな人材がいるのか情報交換をしています。これにより、3年間で120~130人の人材が異動しました。
さらにトップ層やジュニア層にも適切な人材配置ができるよう、さまざまな取り組みが実施されています。
参考:2020の人事シナリオ「Vol.12 岸本 治氏 ソニー」
東京電設サービス株式会社
もともとは送変電設備の保守・点検業務を行っていた東京電設サービスですが、事業をさらに展開し、電気設備でのメンテナンスや、工事・施工管理業務まで行うようになりました。それにより、すべての業務を適切に遂行できる人材の育成が必要となったのがタレントマネジメント導入の背景です。
また、当初は人事評価も偏っており、リーダー候補や経営を担う人材を育成する仕組みもありませんでした。
タレントマネジメントシステムを導入し、社員一人ひとりのスキルやポテンシャルを可視化するほか、社員の強みを活かしたスキル開発ができるよう、管理層には育成面談の手法を身につけさせました。
今後は、人材育成の管理システムを軸とした育成体系を構築し、新しい事業領域への進出を計画しています。
アサヒビール株式会社
アサヒビールでは、早い段階でタレントマネジメントを経営人材育成策に取り入れています。2019年からは、独自のタレントマネジメントとして、国内主要事業の次世代、次々世代の経営人材育成に向けた施策を始めています。
また、社員自らがキャリアアップを図れるよう、「キャリアデザインシート」「ダイレクトアピール制度」を導入しているのも特徴です。
キャリアデザインシートでは、部署や職種など希望する異動先を自己申告し、上司と面談します。ダイレクトアピール制度は上司を介さずに、人事総務部へとキャリアデザインシートを直送してアピールします。2007年から運用されている施策で、ダイレクトアピールによる異動は毎年約2割が成立しているようです。
伊藤忠商事株式会社
伊藤忠商事では、グローバル人材戦略を立てているのが特徴です。2007年より世界視点での人材戦略を推進し、2010年までに評価項目の統一や、グローバルな人材をデータベース化しています。
また、2011年には社員一人ひとりに焦点を当てたタレントマネジメントプロセスを展開しました。優秀人材の選別→キャリア開発計画(CDP)→育成・活用・登用→評価(成果・コンピテンシー)をサイクルとし、人材の採用・活用・育成を強化しています。
タレントマネジメントにおけるアサインメント・人事開発は、以下のものを実施しています。
- アサインメント…昇進・昇格/プロジェクトアサインメント/NS本社UTR制度 ※/ブロック内・ブロック間異動
- 人材開発プログラム…ブロック人材開発プログラム/外部MBA/グローバル研修/優秀人材開発プログラム
※ 海外ブロック社員を東京本社で受け入れる制度
番外編:GE(ゼネラル・エレクトリック)
世界最大のアメリカの総合電機メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)は、タレントマネジメント実践企業の元祖として知られています。「9ブロック」と呼ばれる9つの表に人材を当てはめ、リーダー候補となる人物を抽出するタレントマネジメント手法を行っていました。
GE社は、現在はタレントマネジメントを行っていないものの、「9ブロック」の概念を取り入れたタレントマネジメントシステムが開発されるなど、その取り組みは現在も注目されています。
タレントマネジメントの導入方法と流れ
次に、タレントマネジメントの導入方法と流れについて解説します。具体的には、以下の流れに沿って導入します。
【タレントマネジメントの導入方法】
- 人材に関する課題をもとに導入目的を明確化する
- 人材情報の現状を把握する
- 自社に必要な人材の理想像を明確化する
- 人材の採用・育成・配置を進める
- 検証をして適宜見直しを行う
1.人材に関する課題をもとに導入目的を明確化する
まずはタレントマネジメントを導入する目的を明確にすることが大切です。「なぜタレントマネジメントが必要なのか?」ここが明確でなければ、人事戦略があやふやなものとなり、効果的な人事採用・配置・育成が行えなくなります。
例えば、「事業戦略として関西エリアを強化したい」「営業力不足が課題になっている」など、自社の人材に関する課題は何なのかを明確にしましょう。必要な人材となる基準ができるので、自社オリジナルの効果的なタレントマネジメントを導入できるようになります。
2.人材情報の現状を把握する
社員の業務や役職、経歴やスキルなど、今の人材状況をしっかりと把握することも重要です。例えば、チームリーダーの候補となる人材が不足している企業は、10年20年後にはリーダーがいない状況に陥り、経営が傾く恐れがあります。その場合は、リーダー育成を目的としたタレントマネジメントが必要になるでしょう。
また、社員自身のデータだけでなく、社員の企業に対するエンゲージメントや、満足度の高さについてあらかじめ測定しておくのもポイントです。組織の状態を把握することができるので、組織の課題抽出に役立ちます。
3.自社に必要な人材の理想像を明確化する
課題や現状を把握した上で、自社に必要な人材はどのような人材なのかを明確にします。成果を上げたりチームをまとめたりする社員を必要とする場合は、自社で活躍している社員の特性を言語化することで、方向性を間違わずに必要な人材を把握できます。企業によっては評価制度の見直しも必要になるでしょう。
必要な人材を明確化する際は、経営理念やビジョン、戦略などと矛盾が生じないようにすることが重要です。そのためにも、自社にはどのような人材が必要なのか、経営層を含めて議論しておくことをおすすめします。
4.人材の採用・育成・配置を進める
事前に考えておくべきことが整理できたら、実際に採用→育成→配置を進めます。ただし、すべてのステップが絶対に必要とは限りません。とくに採用は、企業によっては新たに採用するのではなく育成を重視すべきというパターンもあるため、柔軟に対応するようにしましょう。各ステップにおけるポイントは、以下の通りです。
採用
必要な人材が明確になると、採用基準を明確化できます。基準をもとに、採用計画と戦略を立てて採用活動を実施しましょう。
育成
長期的な育成計画を立てます。身につけてほしいスキルに合わせた社内での研修や検定の実施、グローバルな企業であれば海外派遣も必要になるでしょう。人材育成は経営層だけでなく、現場の声も参考にすべきです。上司や先輩を巻き込んだ育成計画を立てましょう。
配置
社員のスキルや経験などに合わせた人事配置を行います。「部署やポジションが適切かどうか」「期待する成果を上げられそうか」など、検討しながら配置します。ただし、現場の状況や社員のモチベーションなどは日々変化しているものであるため、ベストな状態を保てるようその都度状況に合わせた人事配置が必要です。
5.検証をして適宜見直しを行う
タレントマネジメントは、導入したら終わりではありません。実施したことを振り返って検証し、必要であれば見直しを行います。「人事配置は適切だったか」「社員が納得する評価だったか」など、定期的に調査を行い次の施策を出しましょう。
タレントマネジメントは長期的に行うものなので、PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回していくことが重要です。
タレントマネジメントを導入する上で重要なポイント
タレントマネジメントをより効果的なものにするためには、重要となる以下5つのポイントがあります。
【タレントマネジメントのポイント5つ】
- 導入目的や求める人物像を必ず明確にする
- データの収集方法や活用方法を決めておく
- 一定の頻度で人材データを最新の状態にする
- 管理職の理解をしっかりと得ておく
- タレントマネジメントシステムを活用する
スムーズに導入できるよう、それぞれ重要なポイントをチェックしておきましょう。
導入目的や求める人物像を必ず明確にする
目的や人物像など明確化すべきところができていないと、効果が発揮されずふわっとした運用にしかなりません。何のために必要なのか、どのような人物像を必要としているのか、必ず明確にしておきましょう。
とくにタレントマネジメントを導入する際は、社員の協力が不可欠です。社員はただでさえ業務に追われて忙しいので、目的の分からない施策に協力してほしいと言われても、理解を得るのは難しいでしょう。
また、目的が不透明なことによって関係のないデータばかり集まれば、データ整理に時間がかかります。ほかの業務に支障をきたす恐れもあるので、導入目的や人物像は明確化してからスタートすることが重要です。
データの収集方法や活用方法を決めておく
データの収集や活用で失敗するケースもあります。どうやってデータを収集するのかはもちろん、社員が協力的に情報提供をしてくれるよう対策を練ることも重要です。
また、データ収集をする際には、どんなデータが必要になるのかも明確にしましょう。例えば、保有資格やスキルなどを把握していれば、新規プロジェクトを立ち上げるときのメンバーを選ぶ際に役立ちます。遅刻や残業などの勤怠状況に関する情報は、エンゲージメントの高さを知りたいときに参考になるでしょう。
データの収集方法や活用方法を決めておけば、タレントマネジメントをスムーズに導入できます。
一定の頻度で人材データを最新の状態にする
人材データは常に最新の状態でなければいけません。社員は日々成長しており、半年前まではできなかったことができるようになったり、新しい資格を保有したり、さまざまな成長を遂げているものです。人材データが最新の状態でなければ、効果的な人事配置は難しくなります。
社員自らが情報をアップデートできる仕組みがあれば、担当者の負担を増やすことなく最新の状態を維持できます。評価制度に組み込み、自分で更新するような仕組みにする工夫が効果的です。
管理職の理解をしっかりと得ておく
各部署のリーダーやマネージャーなど、管理職の協力は不可欠です。タレントマネジメントは人材の適材適所が目的の一つなので、ときには優秀な人材を手放さなければいけないこともあります。管理職への説明が不足していると、部下の異動に不満を感じるリーダーが現れる可能性も否めません。
管理職ポジションについている社員には異動の目的や理由をしっかり説明し、理解を得る必要があります。円滑に進められるよう、タレントマネジメントを導入する際にあらかじめ説明しておくようにしましょう。
タレントマネジメントシステムを活用する
タレントマネジメントシステムとは、人材データベースの構築や管理、育成、評価などの人事に関する業務をサポートするサービスです。システムを導入することで、情報を管理しやすくなり、業務を効率化できます。タレントマネジメントを導入したことがない企業や、うまく運用できていない企業などにおすすめです。
タレントマネジメントシステムを導入する場合は、使いやすさや長期的な運用に問題はないかなどをしっかり確認するようにしましょう。トライアルを活用し、じっくり吟味することがポイントです。
タレントマネジメントシステムの市場規模や導入率
タレントマネジメントの実行には、タレントマネジメントシステムの導入がおすすめです。2010年代になり、タレントマネジメントの概念が広まり、国内でもサイダスをはじめ、カオナビ・HR Brain・プラスアルファコンサルティングなど、多数の企業がタレントマネジメントシステムの提供を開始しています。
では、タレントマネジメントシステムの市場規模や導入率はどのくらいなのでしょうか。本章で詳しく解説します。
国内のタレントマネジメントシステムの市場規模
株式会社矢野経済研究所が2021年に発表した「HCM市場動向に関する調査」によると、2019年から2021年におけるタレントマネジメントシステム市場規模推移・予測は以下の通りです。
※1:ライセンス売上高(エンドユーザ渡し価格ベース)とクラウドサービス売上高を合算し、算出。ただし、コンサルティング・SI、保守サポートなどの関連売上高は含まない。
※2:2021年は予測値
※3:タレントマネジメントシステム市場は、HCM市場の内数。
上記のグラフから、2019年には148億円ほどだった市場規模が、2021年の予測では217億円にまで上昇しています。
さらに、野村総合研究所は、「ITナビゲーター2021年版」にて、採用支援サービス・タレントマネジメント・エンゲージメント管理サービスの3つを「HR Tech(人事・人材開発)市場」と位置づけ、2020年から2026年までの市場規模予測を発表しています。
野村総合研究所によると、2026年までのHR Tech市場規模予測は次の通りです。
上記のグラフから、タレントマネジメントの市場規模は2020年は211億円であるのに対し、2026年には447億円にまで成長すると見込まれていることがわかります。人事評価システムから派生したタレントマネジメントシステムや、給与・労務管理システムから派生したタレントマネジメントシステムなど、さまざまなタレントマネジメントシステムが誕生しており、今後市場規模はますます拡大していくと予測されます。
参考:株式会社矢野経済研究所「HCM市場動向に関する調査」
野村総合研究所「ITナビゲーター2021年版」
タレントマネジメントの導入率
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2021年に発表した「企業IT動向調査報告書 2021」にて、売上別・年度別のタレントマネジメントシステム導入率が掲載されています。それぞれ見てみましょう。
まず、年度別のタレントマネジメント導入状況は次の通りです。
導入済み | 試験導入中・導入準備中 | 検討中 | |
2016年度(n=1032) | 6.6% | 2.3% | 12.0% |
2017年度(n=1057) | 7.1% | 3.8% | 14.2% |
2018年度(n=1090) | 7.5% | 4.4% | 16.2% |
2019年度(n=967) | 10.7% | 6.7% | 17.9% |
2020年度(n=1142) | 11.2% | 6.4% | 19.1% |
2016年度には、タレントマネジメントシステムを「導入済み」と回答した企業はわずか6.6%だったのに対し、2020年度には11.2%にまで上昇しました。「試験導入中・導入準備中」「検討中」と回答した層も順調に増えており、タレントマネジメントの導入を推進する企業が着実に増加していることがわかります。
また、売上高別のタレントマネジメントシステム導入状況は次の通りです。
導入済み | 試験導入中・導入準備中 | 検討中 | 検討後見送り | 未検討 | |
全体(n=1091) | 11.1% | 6.3% | 18.9% | 3.3% | 60.4% |
100億円未満(n=282) | 4.6% | 1.4% | 11.0% | 1.8% | 81.2% |
100億〜1000億円未満(n=526) | 6.7% | 5.7% | 18.6% | 3.4% | 65.6% |
1000億〜1兆円未満(n=230) | 23.0% | 10.4% | 27.0% | 5.2% | 34.3% |
1兆円以上(n=53) | 37.7% | 20.8% | 28.3% | 1.9% | 11.3% |
売上高が1兆円を超える企業のうち、37.7%がタレントマネジメントシステム導入済みであるのに対し、売上高が100億円未満の企業ではわずか4.6%しかタレントマネジメントシステムを導入していないことがわかります。
「未検討」についても比較してみると、売上高が1兆円を超える企業では11.3%であるのに対し、100億円未満の企業では81.2%と検討段階にも至っていないことがわかります。このような結果から、売上高が高い企業ではタレントマネジメントシステムの導入・検討が進んでいるものの、そうではない企業では導入検討が進んでいないと言えます。
参考:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2021」p.36-37
業種別のタレントマネジメント導入状況
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2021年に発表した「企業IT動向調査報告書 2021」によると、業種別のタレントマネジメント導入状況は以下の通りです。
業種 | 導入率 |
金融 | 20.8% |
機械器具・製造 | 14.1% |
社会インフラ | 13.8% |
建設・土木 | 10.7% |
商社・流通 | 10.0% |
サービス業 | 8.7% |
素材製造 | 8.3% |
タレントマネジメントシステムの基本機能や導入ポイント、メリット・デメリットについては以下の記事で詳しく解説しています。
参考:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2021」p.9
タレントマネジメントシステム導入の失敗事例
タレントマネジメントシステムの導入を成功に導くために、陥りやすい失敗例についても押さえておきましょう。
失敗例1:人材管理システムや人事評価システムとの違いがわからないまま導入してしまった
タレントマネジメントシステムは、人材情報・人事評価データの一元化が可能ですが、人材管理システムや人事評価システムとはやや異なるシステムです。それぞれの違いをしっかりおさえ、自社の課題にマッチしたシステムを選定しましょう。
人材管理システム:人材情報の一元化など、従業員の情報を管理するシステム
人事評価システム:人事評価のワークフローの業務効率化や評価の推移を客観的にみるための評価に特化したシステム
タレントマネジメントシステム:従業員の才能やスキル、経歴を管理し、人材育成や最適配置に活用していくシステム
失敗例2:導入後、データが思うように集まらなかった
タレントマネジメントシステムは、人材データをしっかり収集し蓄積しなければその効果を発揮することはできません。しかし、タレントマネジメントの概念や、システム導入に関する情報が社内に浸透しておらず、データが一向に集まらないというケースも少なくありません。
特によくある失敗が、経営層がタレントマネジメントシステムを選定した結果、現場の人事担当が全く使いこなせず、必要なデータも集まらないというパターンです。現場の人事の理解はもちろんのこと、従業員に対しても導入目的やメリットなどを必ず伝えましょう。社員自身にもメリットがあると実感してもらうことで、よりスムーズにデータが集まりやすくなります。
失敗例3:データを集めるだけで終わってしまい、活用できなかった
タレントマネジメントシステムは、スキル情報や評価データ、キャリアプランなどさまざまなデータを掛け合わせて分析することで、組織の今や従業員一人ひとりの状態が可視化できる便利なツールです。しかし、「データを一元化しただけで終わってしまう」「分析方法がわからない」「実際に使ってみると、自社の運用に合わなかった」といった課題も少なくありません。
タレントマネジメントシステムを導入する際には、導入目的や運用フローを明確にし、自社の運用にマッチしているシステムなのかしっかり吟味しましょう。また、無料トライアルができる場合は、導入前に使用感を確かめてみるのもおすすめです。運用後のサポート体制が充実しているかもあわせて確認しましょう。
タレントマネジメントにはCYDAS
タレントマネジメントは、社員一人ひとりのスキルや経歴などを把握し、企業の成長へとつなげるための人事戦略です。うまく活用できれば、適切な人材配置や有効な人材育成が可能になり、社員のエンゲージメントを高めることができます。
しかし、タレントマネジメントを効果的に導入・運用するのは容易なことではありません。場合によっては、導入しても効果が得られなかったり、社員から不満の声が相次いだりする恐れもあります。エンゲージメントを効果的なものにしたいなら、CYDASがおすすめです。
CYDASでは、タレントマネジメントを成功させるために、社員をいかに巻き込めるかどうかが重要と考えています。そこで、社員が使いやすいよう、日常的に使える機能やメンバー同士が良いところ見つけて褒め合う機能などを搭載しています。
タレントマネジメント以外にも使える機能がたくさん備わっているので、気になる人はぜひ問い合わせてみてください。CYDASについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。あわせてチェックしてみてください。