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2022.7.12

技術の継承に活用!マイスター制度の導入事例とメリットデメリットを紹介

生産年齢人口の減少に伴う人手不足や、海外への技術力流出など、ものづくりを得意とする日本の労働現場には課題が山積しています。こうした課題を解決し、専門技能の継承や技能者の地位向上のために取り入れられているのが、「マイスター制度」です。

この記事では「マイスター制度」の概要と、企業がこの制度を取り入れることで得られるメリット、デメリットを紹介していきます。

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マイスター制度とは?

「マイスター(Meister)」とは、ドイツ語で巨匠や大家を意味し、特に専門的な技能が必要な分野で修行を積み、その道を極めたエキスパートを指します。「マイスター制度」が浸透しているドイツでは「マイスター」を名乗るためには資格の取得が必要です。「マイスター」という称号は高度な技能を保持していることを証明するだけではありません。後進の指導や技能の継承に意欲を持ち、熱心に活動することも求められます。

ドイツをモデルに、ものづくり大国・日本でも「マイスター制度」が整備されてきました。社団法人全国技能士会連合会の「全技連マイスター」は、労働に関する技能検定を活用し、45歳以上65歳以下の技能士を対象に条件を満たした人に与えられます。本場ドイツの「マイスター制度」と同様、若い技術者への指導力の有無に重きを置いており、5年ごとの更新手続きが必要です。厚生労働省の「ものづくりマイスター制度」は、「全技連マイスター」の条件を緩和して対象を広げ、15年間以上の実務経験者も条件を満たせば称号を得ることができます。こちらも若い技術者の人材育成を目的としており、技能の継承や後進の育成に取り組むことが条件の1つです。

日本では、公的なものとは別に、企業が独自に「マイスター制度」を制定する動きが広がっています。熟練の技能者だけが持つ勘や、言葉で伝えるのが難しい感覚は、現場ではとても貴重なものです。しかし、実際には技能を持つ団塊世代の大量退職や、リーマン・ショックに伴うリストラによって、こうした技能が流出したり、継承されずに断絶しています。企業が独自の「マイスター制度」を制定する背景には、こうした現状への危機感があります。特に製造業の現場では、ベテラン技能者から若手への技能継承をスムーズに行うことが、世界との競争に勝ち残っていくために必要不可欠です。企業が独自に行う「マイスター制度」では、マイスターになるための技能習得の支援や手当の支給を行い、積極的なマイスター育成が行われています。

発祥はドイツ!

「マイスター制度」はドイツのものづくりを支える国家認定資格制度です。マイスターは社会的な地位が高く、技能者の最高位であることが広く認知されています。日本では、義務教育後は高校に進学し、大学進学を目指すために勉強する人が一般的ですが、ドイツでは大学進学とは別にマイスターを目指す教育制度が整っているのが特徴です。日本の小学校にあたる基礎学校「グルントシューレ」は1年生から4年生までしかなく、5年生以降は、大学進学を目指す8年制の「ギムナジウム」、5年制の工業職業訓練校「ハウプトシューレ」、6年制の手工業職業訓練校「レアルシューレ」のいずれかに通います。

技能を身に付けたい人は、職業訓練校以降、国の認めた職場でマイスターから技能を学ぶ実務労働と、学校での知識習得の両方を行いながら、国家資格「ゲゼレ」取得を目指します。「ゲゼレ」とは「職人」という意味です。さらに修行を積んで国家試験に合格すると「マイスター」の称号が得られます。「ゲゼレ」や「マイスター」の対象業種は400種類近くあり、94種類の手工業マイスターのうち、大工やパン職人、理美容師、ガラス職人など41種類に関してはマイスター資格がなければ開業できません。また、マイスターになるためには「技術力」「開発力」「経営学」「教育学」の4つが重要だとされており、後進の指導は最重要項目です。

「マイスター制度」が始まったのは中世のことで、手工業者組合の制度が元になっています。組合の正規会員になるためにはマイスターになる必要があり、マイスターになるためには組合の正規会員であるマイスターに弟子入りする必要がありました。しかし、マイスターの元で修業を積んでも弟子の全員がマイスターになれたわけではなく、高い技能を持ちながらマイスターになれない人もいました。このシステムはその後衰退していきましたが、手工業の伝統や技能を受け継ぐ制度として1953年に「ドイツ手工業秩序法」として法制化され、ドイツの産業の発展を支えていくようになります。今や「マイスター」は発祥国のドイツだけでなくEU内の他の国でも通用する資格です。その分、試験の条件も厳しく、「ゲゼレ」は3回、「マイスター」は2回までしか受験することができません。また、ベルギーやオーストリア、スイスなどでも同様の制度が実施されています。

企業のマイスター制度の導入事例

「引越しのサカイ」でおなじみの「株式会社サカイ引越センター」では、梱包や運搬、応対マナー、会社に関する知識などを高いレベルで有するスタッフを「サカイマイスター」に認定しています。過酷な状況を詰め込んだ「研修棟」での技術講習や、ドライバー必修の安全運転講習に最低1年間参加した後、技術講師試験を突破し、技術講師として最低1年間の指導を行った人だけがマイスター試験を受験することができます。

「キヤノン株式会社」では、一流作業者を評価認定する制度として、マイスター制度を活用しています。認定基準は能力ではなく成果で、身に付けた能力を業務で発揮した成果に対して認定、表彰されるものです。キヤノン本社が認定するS級、1級のほか、各地区で認定される2級、3級の「地区マイスター」があり、ステップアップしていくようになっています。「東急建設株式会社」では、マイスターに認定されると一時金やマイスター認定書、マイスター専用ヘルメットが支給されます。ヘルメットをかぶれば、誰から見てもマイスターであることが認識できるため、モチベーションの向上にも効果的です。また「三菱重工業株式会社」では、最高技能熟練者を「範師(はんし)」として認定し、若手技術者への技能継承や生産改善指導を行っています。

マイスター制度導入のメリット

マイスター制度を企業が導入することで得られるメリットについて、説明していきます。

技術が継承しやすい

マイスター制度では、技能熟練者が若手技術者に直接指導を行います。長年の経験から得た作業のコツや細部にわたる技術について、実技を交えながら学ぶことで、より実践的な技能の継承が可能です。後継者となる若手技術者にとっても、疑問点をその場で質問し、具体的に教えてもらうことができるため、昔ながらの「技を盗む」「見て覚える」といった方法に比べて習得しやすくなります。意欲的に技能を習得しようとする後継者候補が増えることも期待できます。建設業や製造業などマニュアル化が難しいノウハウを多く有している業種では、職人気質の技能者も多く、マイスター制度の導入に適しているといえるでしょう。

モチベーションアップ

マイスター制度では、マイスターからの指導や資格試験の受験を通して、評価を受ける機会が増えます。通常の業務では成果が数値化できる業種でない場合は、評価される機会が少なく、自分の技能レベルを可視化することも困難です。しかし、マイスター制度では、技能の習得という明確な目標があり、到達度をその都度評価してもらえるため、自ずとモチベーションが上がっていきます。マイスターと共に高いレベルを目指す後継者候補の姿は、組織全体へもよい影響を与えることでしょう。

技術のブランディング

商品やサービスを購入するときに「マイスター制度を実施しています」「認定マイスターによって作られています」といった文言を目にすると、その商品が高い技術力によって作られたものだと認識する人が多いでしょう。マイスター制度には企業の認知度を上げ、独自の技術や技能者本人を広く知らしめる効果があります。良い商品やサービスであっても手に取ってもらわなければ伝えることはできません。「マイスター制度」は、ブランドの役割を果たし、商品やサービス、企業の価値を高めることにも一役買います。

マイスター制度導入のデメリット

マイスター制度を導入する際には、デメリットも理解しておきましょう。考えられるデメリットを紹介します。

技能の選別が必要になる

マイスター制度は、多くの業種、業務に適用できる制度です。本場ドイツでは400種類近くの業務がマイスター制度の対象となっていることから考えても、ありとあらゆる技能に対して適用できることが分かるでしょう。しかし、適用はできても、効果的に使えるかどうかは別の問題です。マイスター制度を導入してもブランド力を高めることにつながらなかったり、技能の継承に役立たなかったりするのであれば、意味がありません。マイスター制度導入かかるコストと得られる効果とを総合的に判断し、技能を選別することが必要です。

イノベーションが起こりにくくなる

技能の継承は重要ですが、技術の革新も必要不可欠です。継承にばかり気を取られて新たな技術を開発することに鈍感になってしまうと、時代の流れに取り残されてしまいます。マイスター制度を導入するなら、技能の継承と同時に、国際競争を勝ち抜いていくための新技術の開発についても意識しておく必要があるでしょう。

モチベーション低下に繋がる場合もある

マイスターからマンツーマンで技能を継承するマイスター制度の場合、本人が本当に後継者候補になりたいのかを確認し、後継者に向いているかどうかを見極めておかなければなりません。後継者候補になれば、特定の技能を集中して学ぶ必要があり、将来もある程度狭められてしまうからです。また、良い評価を得られなかったり、思うように技能が習得できなかったりして、後継者候補のモチベーションが下がってしまう可能性もあります。

正しく活用することが大事

「マイスター制度」は技能継承だけでなく、企業や商品、サービスのブランディングにも有効です。一方で、上手に活用できなければデメリットを生む可能性があります。「マイスター制度」が技能の特性に合っているか、また、設備など制度の初期投資にかかるコストと発揮できる効果のバランスがとれているかなどを考えて、正しく活用することが重要です。

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