働きがいを応援するメディア

2022.4.26

前払い退職金制度について!これを読んで概要やメリデメなどを理解しよう

働き方の多様化が進む現代では、それに合わせて「前払い退職金制度」を導入する企業も増えつつあります。老後資金に不安を感じる人の中には、前払い退職金制度を活用して資産運用を考えている人もいるのではないでしょうか。そこで今回は、退職金前払い制度の概要を踏まえ、確定拠出年金との違いや企業側・従業員側それぞれのメリット・デメリットなどについて解説していきます。

人材情報の一元化にお悩みなら、タレントマネジメントシステム「CYDAS」

前払い退職金制度の概要

前払い退職金制度とは、その名の通り従業員の在職中に退職金を支払う制度のことです。本来であれば、退職金は従業員が退職する際に勤続年数や職位などに応じて支払われます。これを退職まで待たず、在職中の給与やボーナスなどにプラスする形で支払うのが前払い退職金制度です。

平成29年度に内閣官房が行った退職給付制度の実態調査によると、従業員に退職金を支払っている企業のうち、前払い退職金制度を導入している企業は全体の4.5%を占めていました。企業側従業員側双方にメリットがあるため、将来的に人事評価に応じた賃金改定や退職給付引当金の削減などと並行して普及が進むと考えられています。

なお、前払い退職金制度を含め、従業員に退職金を支払うかどうかは法律で定められていません。退職金制度は従業員の退職後の生活をケアするための福利厚生のひとつであり、必ず実施しなければならないものではないのです。事実、厚生労働省が平成30年に行った就労条件総合調査によると、退職給付がある企業は全体の80.5%という結果でした。退職金制度はあくまでも企業が独自に運用しているものであり、制度内容は企業が自由に決めることができます。中には、ライフプランの多様化に合わせ、前払い退職金を確定拠出年金の掛け金に充当できる企業もあるなど、その内容はさまざまです。

前払い退職金制度の導入を考えている場合は、トラブルを避けるためにも就業規則で内容を明確に定める必要があります。まずは自社の就業規則で退職金に関する項目を確認し、必要に応じて作成・改定などを行うようにしましょう。

前払い退職金制度が普及した背景って?

前払い退職金制度を最初に導入したのは、パナソニックの前身である松下電器産業だったとされています。退職金を在職中に支払うことで毎月の給与をアップさせ、従業員のモチベーションを高めて最大限のパフォーマンスを発揮してもらおうと、平成10年に「全額給与支払い型社員制度」を始めたのです。新入社員は退職金を退職時に受け取るか在職中に受け取るかを選ぶことができ、平成14年には前払いを選ぶ新入社員が約60%にも達したとされています。

松下電器産業の思い切った改革は大きな注目を集め、以降前払い退職金制度を導入する企業が増加するようになりました。

このように前払い退職金制度が普及した背景には、働き方の多様化が影響しています。従来の日本では、新卒入社した従業員はそのまま定年まで勤め上げることが一般的とされていました。しかし、現代では成果主義へのシフトやキャリアアップを目指した転職の増加、政府が主導する働き方改革などにより、日本企業を取り巻く環境は変化を続けています。

働き方の多様化が進む中では、勤続年数に応じて退職時に退職金を支払うという従来の方法だと、現状とのズレを生みかねません。そこで、定年まで従業員を縛り付けないこと、従業員の今現在の生活を精神的・経済的な面で充実させることなどを重視し、前払い退職金制度が注目されるようになったのです。

前払い退職金と確定拠出年金の違いって何?

老後資金をまかなう目的の制度としては、退職金のほかに「確定拠出年金」というものもあります。老後資金といえば退職金というイメージが強いですが、景気の悪化などにより退職金だけでは十分な老後資金を準備できないケースも珍しくありません。このため、従業員が自助努力で十分な老後資金を確保できるよう、確定拠出年金を導入する企業が増えてきました。

確定拠出年金とは、企業や個人が掛け金を支払って株式・保険などの商品に投資し、得られた利益を一般的な公的年金にプラスして受け取れる年金制度のことです。企業が掛け金を負担する「企業型年金」と従業員自身が掛け金を負担する「個人型年金」の2種類があり、利益は掛け金に応じて変わります。

積み立てた資産は個人の管理資産となり、転職先やほかの運用機関に移すことも可能です。ただし、年金制度である以上、60歳になるまでは解約できません。前払い退職金と確定拠出年金の大きな違いは、リターンが得られるかどうかという点にあります。

前払い退職金は自分で投資に費やさない限り、金融機関の口座に保管しておくことになります。金融機関はどこも低金利であり、運用という意味では元本割れしないことを除きメリットがほとんどありません。これに対し、確定拠出年金は掛け金を株式市場などで運用するため、投資先次第では大きなリターンが期待できます。また、企業が倒産した場合、前払い退職金は社内積立であれば保全されない可能性がありますが、確定拠出年金は社外積立なので失う心配がありません。

さらに、税制面でも違いがあります。前払い退職金は所得税の対象ですが、確定拠出年金は全額所得控除の対象となるため、利息・配当・運用益いずれも税金がかかりません。このほか、転職する場合、退職金は勤続年数や職位に応じて受け取れる金額が変わりますが、確定拠出年金は転職先に積み立てた資産を持って行けるため、資産形成が途中で途切れずに済みます。受給額に関しては、前払い退職金は社内規定であらかじめ金額が決まっているのに対し、確定拠出年金は掛け金と運用実績によって受給額が変わる点が異なります。

前払い退職金制度の企業側のメリットは?

前払い退職金制度を導入すると、企業には主に2つのメリットが期待できます。

1つ目は、従業員の将来の退職に備えて準備する「退職給付引当金」が不要になることです。退職給付引当金は従業員に対する債務であると見なされ、貸借対照表で負債として表記されます。負債が増えれば融資などの与信審査で不利になる場合があるため、退職給付引当金が不要になって負債が減るのは、企業にとって大きなプラスになるでしょう。しかも、前払い退職金は毎月の給与の一部と見なされるため、必要経費として表記できます。給与を支払った後の現金は資産として表記できるため自ずと資産が増え、企業の支払い能力が評価されやすくなるでしょう。

これに関連し、前もって退職金を支払うことで高額の退職金を一括で準備せずに済んだり、従業員が退職した際の現金流出リスクを回避して資金繰りの計画を立てやすくなったりする点も魅力です。

2つ目のメリットは、求職者に待遇の良さをアピールできる点です。求人情報を出す際、本来の給与に前払い退職金をプラスした額を提示できるため、競合他社よりも好待遇だという印象を与えられます。この結果、多数の応募が集まり、より優秀な人材を採用できる可能性が高まるでしょう。

前払い退職金制度の企業側のデメリットは?

メリットの一方で、前払い退職金制度にはデメリットもあるため注意が必要です。たとえば、制度を導入すると社会保険料の負担が大きくなります。法律により在職中の支払いは労働の対価と見なされるため、退職金といえども実際には給与扱いになってしまい、社会保険料が高くなるのです。少しでも社会保険料を抑えるために、年間の前払い退職金額をあらかじめ決め、給与とボーナスそれぞれの上乗せ分試算してバランスを考えるようにしましょう。

また、懲戒解雇者へペナルティを科せられない点にも注意が必要です。従来の退職金制度では、就業規則に明記することで懲戒解雇者に対して退職金を支払わなかったり、減額したりすることができます。しかし、前払い退職金制度では給与として退職金を支払っているため、後日懲戒解雇されたとしても退職金の不支給や返還を求められず、不祥事への抑止力になりにくいのです。このほか、従業員との関係性が希薄になってしまう可能性にも注意しましょう。すでに退職金を受け取っているため、勤続年数や退職金を気にすることなく気軽に転職する従業員が増える恐れがあるのです。

前払い退職金制度の従業員側のメリットは?

前払い退職金制度には、従業員にもメリットがあります。まず、毎月の給与にプラスして退職金が支払われるため、シンプルに手取りが増えます。増えた分を生活費に回すのも良し、将来のために貯蓄したり確定拠出年金に加入したりするなど自助努力に費やすのも良しと、さまざまな活用方法が考えられるでしょう。投資がうまくいけば、従来の退職金よりも多くの老後資金を手に入れられるかもしれません。また、退職金の減額リスクを軽減できる点も大きなメリットです。従来の退職金制度は法律で定められたものではないため、企業の業績や戦略などに応じて将来廃止される可能性もあります。

これに対し、前払い退職金は毎月退職金を受け取れますし、もし退職金制度が廃止されたとしても、すでに受け取った退職金を返還する必要はありません。将来減額・廃止される場合と比べ、受け取れる退職金額が多いのです。

前払い退職金制度の従業員側のデメリットは?

前払い退職金制度における従業員側のデメリットには、社会保険料や税金の負担が大きくなる点が挙げられます。従来の退職金は一時金で受け取る場合所得控除や分離課税などの優遇措置が受けられますが、前払い退職金は給与と見なされるため、これらの優遇措置を受けることができません。毎月受け取る給与額が増えると、その分社会保険料や所得税・住民税の支払いも増えるのです。また、従来の退職金を一時金で受け取る場合と比べ、受け取れる総額が減る点にも注意しなければなりません。多くの企業は、退職金支払いに備えて資産運用を行っています。

将来退職金を受け取る場合は運用で得た利益を含んだ額になっているのですが、前払い退職金だと資産運用されていないため利益が含まれません。このため、長い目で見たときに受け取れる退職金が減ってしまうのです。

社員のことを第一に考えて退職金の扱いを決めよう

前払い退職金は、企業と従業員双方にとってさまざまなメリットが期待できる魅力的な制度です。うまく活用できれば、コストをかけずに実質的な給与水準を引き上げたり、退職給付債務の問題を解決したりすることができるでしょう。ただし、その一方でデメリットがあることも忘れてはいけません。メリット・デメリットを正しく理解した上で、従業員のニーズを第一に考えて制度の枠組みを決めることが大切です。

働きがいを応援するメディア「ピポラボ」では、人事・経営層・ビジネスパーソンが押さえるべきキーワードについて解説しています。運営会社・サイダスが提供するタレントマネジメントシステム「CYDAS」については、無料ダウンロード資料やサービスサイトをご確認ください。

Category

労務管理

Keyword

Keywordキーワード