2023.2.3
CSRとは?意味や企業の取り組み事例を紹介
CSRという言葉が、近年多くの企業や業界で見られるようになりました。「事業活動による収益性の確保だけでなく、環境活動や慈善活動といった社会貢献を通して企業としての責任を果たす必要がある」というCSRの考え方に対して、社会の関心も高まっています。
本記事では、CSRの定義や意味、似た言葉との違い、メリット・デメリットまで詳しく解説します。国内企業におけるCSR活動事例についても紹介するので、CSRについて理解を深め、自社の取り組みについて考えるためにお役立てください。
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CSRとは|企業が担う社会的責任
はじめに、「CSR」の定義と意味、日本におけるCSR普及の背景やCSR調達について解説します。CSRの重要性や必要性に気づいている企業は増えているものの、認識があいまいな場合も多いので、ここで正しく理解しておきましょう。
CSRの意味
「CSR」とは、「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。企業が組織活動を行う上で担う「社会的責任」は、従業員や消費者、投資者、環境及び社会全体といった全関係者への配慮から社会貢献まで、幅広い内容に対して適切な意思決定を行うことを指します。
企業が事業活動によって利益を得て存続する上で、必ず社会とのつながりがあります。企業は納税や従業員の雇用に加えて、社会の中で組織活動がどのような影響を及ぼすのかを考え、意思決定を行う必要があります。
CSRは、寄付やボランティアなどの慈善事業として誤解されやすい傾向がありますが、実際には法規遵守やコンプライアンス、情報開示なども含めた社会的責任の遂行を意味します。
CSRには国際企画(ISO26000)があり、「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」の7つを、組織が尊重すべき社会的責任の7つの原則として掲げています。
日本でCSRが普及した背景
日本では、2000年代よりCSRに対して高い関心を持つ企業が増えています。きっかけとして、食品偽装表示といった企業による不祥事の社会問題化や、インターネットの浸透に伴う消費者の目の成熟などが挙げられます。
また、ビジネスのグローバル化による国外取引の増加や、環境問題の深刻化に伴い、世界的に厳しい視線が向けられるようになったことも、CSRの導入を加速させています。近年は、自社のCSRに関する取り組みをまとめた「CSRレポート」を年単位で公開する企業も少なくありません。
CSR調達とは
「CSR調達」とは、CSRの考え方を調達に適用し、健全な調達を目指す活動のことです。あらゆる利害関係者(ステークホルダー)を考慮し、企業のミッションとしての売上向上や利益追求に加えて、人権や労働条件、環境配慮といった社会的責任の観点から、調達先の選定条件の設定や調達先の選定を行うことを意味します。
取引を前提として自社のCSRの考え方について共有する企業や、CSRに積極的に取り組んでいる調達先を選ぶ企業は増加傾向にあります。また、グローバル企業の中には定期的にCSRアンケートを行う企業も存在します。
CSRとCSV、SDGs、サステナビリティ、ESGとの違い
CSRと混同されやすい用語には、「サステナビリティ」や「SDGs」、一文字違いの「CSV」などがあります。ここでは、CSRと似た場面で登場する言葉や考え方と違いについて解説します。
サステナビリティ
「サステナビリティ(Sustainability)」とは、「持続可能な」「持続可能性」という意味の言葉です。環境や経済、社会のバランスを考慮し、地球規模で持続可能な状態を目指す考え方を指しています。企業が事業活動を通じて取り組むことは、「コーポレート・サステビリティ」と呼ばれます。
サステナビリティ自体は、CSRより前に提唱され始めた概念です。CSRとサステナビリティは、目指すべき方向性は同じですが、サステナビリティは企業だけでなく、国や個人を含む社会主体で取り組むべき問題であるのに対し、CSRは主に企業が主体で、ステークホルダーへの責任が主軸である点が異なります。
サステナビリティ持続のための企業活動自体は、CSR活動の一環という捉え方もできるでしょう。
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SDGs
「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、サスティナブルな世界を実現するための国際的な目標のことで、日本語で「持続可能な開発目標」と訳されます。具体的には、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている国際目標を指します。
CSRとSDGsは、いずれも企業の社会貢献活動ですが、SDGsでは経済成長が目標として含まれる点や、地球上のすべての営みやジャンルが対象となる点がCSRとの違いです。
CSV
「CSV(Creating Shared Value)」とは、経営戦略や事業戦略を踏まえつつ、社会問題の解決を目指す考え方のことです。CSVを日本語に訳すと「共通(共有)価値の創造」と呼ばれます。企業の事業成長と社会価値を同じ方向に置くことで、企業の存在価値をアピールする差別化戦略に含まれます。
CSRとCSVは両者とも社会的責任や社会活動のことですが、CSVが社会問題とビジネスや事業を同じベクトルで考え、競争優位性を獲得しようとするのに対し、CSRはボランティアや寄付といった事業の範囲を超えた奉仕活動も該当します。
ESG
「ESG」とは、「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」という、企業成長に必須の3つの観点の頭文字を取って作られた単語です。2006年当時の国連事務総長のコフィー・アナン氏によって提唱されたESGは、投資家が投資先としての企業を選定する際に重要となる要素とされています。
ESGは、投資家目線での「企業が果たすべき社会的責任」であるのに対し、CSRは企業利益から社会に還元するという企業視点の考え方である点が主な違いです。企業のCSRとしての取り組みや活動内容が、ESGに影響を与えるといえます。
CSRに取り組むメリット
企業がCSRに取り組む上で、さまざまなメリットが考えられます。ここでは、主な3つのメリットについて解説します。
企業イメージや企業価値の向上
CSRの取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージや企業価値の向上に役立ちます。企業イメージは、商品やサービスに加えて、信頼性や安心・安全などの印象にもつながっています。
CSR活動を通じて環境配慮や社会問題に積極的に取り組む姿勢は、消費者に好印象を与え、商品、サービスのアピールや差別化に役立ちます。社会における企業の存在意義を証明することで、企業としての信頼やブランドが向上し、利益向上や事業拡大につながると考えられます。
また、コンプライアンス遵守や情報漏えい対策、労働環境の改善などの施策も、企業のイメージアップに役立ちます。
取引先や株主との関係強化
継続的なCSRの取り組みは、顧客との信頼にも貢献するため、取引先や株主との関係強化が期待できます。CSRは、あらゆる利害関係者(ステークホルダー)との関係構築にとって重要であり、CSR活動を通じて顧客との積極的なコミュニケーションや企業活動の円滑化が可能です。
投資家から支持を得られれば、将来的な資金調達による経営基盤の強化や、さらなる事業発展と利益向上による社会貢献も見込めます。
社員満足度の向上
CSRの取り組みが社内外に広まることは、社員満足度の向上にもつながります。CSR活動により、自分の仕事が社会貢献につながっていることを従業員個人が自覚し、自信を持って働くことを可能とするため、モチベーションアップや生産性の向上などの効果が期待できます。
また、CSRの取り組みは、社会的意義の強い企業というブランディングを後押しするため、採用活動にも貢献するでしょう。特に若い世代では、社会貢献性の高い仕事や職種、企業に関わることに関心のある人が増えており、入社後の離職率の低下も見込めます。
CSRに取り組むデメリット
CSRには企業にとってメリットが多い一方で、デメリットも存在します。ここでは、CSRに取り組む上で考えられる2つのデメリットについて解説します。
コスト(工数や費用、人員)
工数や費用、人員といったさまざまなコストが発生する点は、CSRに取り組む上での最大のデメリットといえます。CSR活動は、長期的に見ると企業の利益に貢献できますが、本業とはつながりの少ない事業に投資するため、直接的かつ短期的な利益にはつながにくい傾向があります。
CSRの取り組みを始めたことで、企業によっては一時的に収益減少となることも考えられます。効果測定が難しいために、積極的に促進しづらい場合もありますが、CSR活動による企業成長を実現するためには、目的を確認し、長期的な計画を作成、実践していくことが重要です。
人手不足
CSRに関する人手不足も考えられます。CSRに取り組む人員などのリソースの確保が難しく、教育体制や運営体制を構築するために人員が取られ、思うように進められないことを課題とする企業もあります。
長期的には優秀な人材の確保にもつながるものの、中小企業や経営難に陥っている企業を中心に、CSRへの取り組みが日常業務の障害となるリスクを懸念する声も上がっています。教育研修やノウハウの定着など、CSR活動に必要なリソースを含めて、従業員にとって現実的な計画立案を行うことが大切です。
企業のCSR活動事例
ここからは、各企業における具体的なCSR活動事例を紹介していきます。日本国内の大手企業の中には、すでに多彩なCSR活動に取り組み、企業イメージ向上や事業拡大に関する成果を得ている企業もあります。自社におけるCSR活動を検討する上で参考にしてください。
武田薬品工業
大手製薬会社である武田薬品工業では、「国際社会と連携し、疾患予防に注力することで、患者さんと医療の未来に貢献し続ける」というモットーを掲げ、すべての人々が医療にアクセスできる世界の実現を目指し、CSR活動を続けています。
特に、途上国や新興国において切実な問題である保健医療アクセスの改善を進めるべく、ワークショップや資金提供などの支援に取り組んでいます。また、長期支援策としてのグローバルCSRプログラムを2016年に開始。質の高い医療へのアクセスを確保するために、海外のヘルスワーカーの育成、サプライチェーンの強化にも注力しています。
富士フイルム
富士フイルムでは、自然保護をテーマとした日本初の民間企業による公益信託「公益信託富士フイルム・グリーンファンド(FGF)」を1983年に設立するなど、国内CSR活動におけるリーディングカンパニーの1つとして積極的に活動しています。
2006年の企業理念でCSRの考え方を採用しており、2014年にリニューアルされた内容では、「誠実かつ公正な事業活動を通じて企業理念を実践することにより、社会の持続可能な発展に貢献すること」というCSRの考え方を明確にしました。
同時に制定された「SVP2030」計画では、CO2排出量の削減などSDGsに沿った持続可能な社会の実現に貢献する長期目標と事業戦略、中期経営計画を設定しています。全従業員が日々の業務を通してCSRを意識、実践できる工夫を取り入れています。
ブリヂストン
ブリヂストングループでは、CSR活動を推進するために、2007年にCSR「22の課題」を設定し、環境保全や品質、安全などに関する22の取り組みを経営課題として中期計画に織り込み推進してきました。
そのCSR活動の基盤をもって、グローバル企業としてより良い社会の実現に向けて、2017年にはグローバルCSR体系「Our Way to Serve」を策定。自社の強みであるタイヤ製品の改良や免震ゴムの開発、自然や資源保護を目的としたゴム農園周辺の森林回復活動などを行っています。
コマツ
コマツは、「本業を通じてCSR活動を行う」という基本方針のもと、国内外を問わず災害によって被災した地域への機材提供など、実質的な復興支援を行っています。具体的には、カンボジアにおける地雷除去作業用の対人地雷除去機やブルドーザーの無償貸与、現地での機械のメンテナンス、操縦トレーニングなどを実施しています。
CSR調達を担うスタッフを育成するために、新入社員から管理職までそれぞれのステージに合わせた教育研修やeラーニングによる周知を徹底しています。
まとめ
CSRは、企業が事業活動を通して担う社会的責任を意味します。CSR活動を通して、企業のイメージアップやステークホルダーとの関係構築、従業員満足度の向上といったメリットが期待できますが、CSRの主軸である「社会で自社がどのような社会的な責任を持っているか」を意識し、具体的に示すために、自社ならではのCSR活動の実践が重要です。
明確な意義をもって中長期的な計画としてCSRに取り組んでいる企業では、市場競争力やイメージアップといった効果を得ているケースも多く見られます。
今回紹介したCSRの知識や活動事例を参考に、CSRについて理解を深め、自社に最適なCSRの考え方や具体的な取り組みについて検討してみましょう。
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