モノを売らない金融機関にとって、価値創造の源泉は「ヒト」にある。変化を恐れない組織風土をつくる人財戦略部の挑戦

モノを売らない金融機関にとって、価値創造の源泉は「ヒト」にある。変化を恐れない組織風土をつくる人財戦略部の挑戦

飯能信用金庫は、埼玉県飯能市にて約70年の歴史を持つ地域密着型の信用金庫です。2021年よりタレントマネジメントシステム「CYDAS(サイダス)」を導入。中期経営計画の基本方針である「多様な人財の活躍」を実現すべく、システム、制度、組織文化等、様々な側面から人事制度改革に取り組んでいます。
今回は、人財戦略室の3人にインタビュー。システム導入の背景や課題、システム活用に期待することまで、飯能信用金庫における戦略人事の「今」を伺いました。

【話を聞いた人】

川村 尚己さん:融資部門から、2020年9月より人財戦略室へ。タレントマネジメントシステム導入に関する実務全般を担う。

成井 敦年さん:2020年より人事部、2023年3月より人財戦略室へ。人事部では、各施策の実運用がメイン。人財戦略室では人事企画業務を実施。

本間 結衣さん:南大塚支店で営業として働き、2023年3月に人財戦略室へ配属。

中期経営計画の基本方針に掲げた「多様な人財の活躍」。実現には、タレントマネジメントが必須だった。

ータレントマネジメントシステム導入の背景を教えてください。

川村さん:
2023年度より始まる3年間の中期経営計画では、地域課題の解決、多様な人財の活躍、業務革新の3つを基本方針に掲げました。年度ごとに目標達成のための各種KPIを設定し、具体的な施策を開始しています。

中でも「多様な人財の活躍」は、人事施策に直結する部分。「全員参加型リーダーシップの醸成」「自律的キャリア形成の促進」「働きがいのある組織作り」という3つの重点課題に要素分解し、より具体的な人事施策に落とし込んでいくことにしました。とはいえ闇雲に施策を推進することはできないので、施策の根拠となる「データ」が必要になります。

そのために、タレントマネジメントシステムの導入は必須でした。

モノを売らない我々金融機関にとって、価値創造の源泉は「ヒト」です。だからこそ人財の育成は、最も大事な人事施策の柱。場当たり的に行っていけばよいものではなく、これまでの業務経験、保有能力、資格・スキルを分析して、本人の成長可能性やキャリア志向等も踏まえながら中・長期的に実践していかなければなりません。

しかし、これまでの当金庫は、画一的な研修プランや現場マネージャーの勘と経験頼りのオンボーディング体制等、データドリブンな育成を実施できているとは言い難い状況でした。また異動や配置についても同様で、人事部門の属人的な判断になっていました。

まずは一元化から。各施策の基礎となる人財データベースを整備することの重要性。

成井さん:
人事施策をデータドリブンに進めていくために、システム上にデータを一元化する必要がありました。

例えば人財配置。当金庫の場合、年に2回人事異動があります。これまでは、この部署にあと二人必要だから、余裕がありそうな別の部署から異動させよう…という風に、数合わせのための人員配置になっていました。しかし本来は、一人ひとりのスキルや経験、キャリア希望を加味した上で、組織と個人にとって最適な配置計画を実施するべきです。そのためには、必要なデータをパッと可視化できる必要があります。

また、育成施策においても、過去に何の研修を受け、資格を取得し、この先どういったキャリアパスを描いているのか。そういった情報を踏まえて、一人ひとりの育成プランや研修内容を組み立てるべきです。

しかし、これまで当金庫が管理していた人財データは、電子ファイル、紙媒体など形式もバラバラで、保管場所も統一されていませんでした。そのため、使いたいときに使いたいデータがどこにあるのかわからず、欲しいデータを探しだすのに一苦労。また、職員一人ひとりの成長志向、キャリアビジョン、価値観、能力・スキルなど、そもそも管理できていない情報も多く、こういった情報を効率的にシステム上で収集する必要がありました。

サイダスの導入によって、人事施策をデータドリブンに進めていくための基盤が出来上がりました。

最大のネックだったセキュリティ課題を、サイダスならクリアできた。

ー数あるタレントマネジメントシステムの中で、サイダスに決めた理由を教えてください。

川村さん:
一番の決め手は、セキュリティに関するノウハウが豊富にあったことです。我々金融機関は、お客さまの個人情報やセンシティブな金融資産情報を取り扱っています。そのため、勘定系のメインフレームや外部機関と連携する専用回線と併存できるネットワーク環境を構築する必要がありました。数社を比較しましたが、弊社の希望するセキュリティ要件に対して「できます」と明言していただいたのはサイダスさんだけでした。

また、クラウドサービスでありながら、個社の要望を製品開発に取り入れていただいたり、導入時のデータ整備作業をしっかりと実施いただけたりと、きめ細やかで柔軟な対応に安心できました。

画一的なキャリアパスがなくなる時代。新しいキャリアのあり方を提示できる人事部へ。

成井さん:
社会構造が変化し、新卒一括採用や終身雇用といった従来の仕組みが成り立たなくなる中で、次のチャレンジをするために退職を選択する人も増えています。もちろん、次のステップのためのポジティブな退職であれば良いのですが、これまでは退職理由の分析も十分ではありませんでした。

ある職員のやりたいことが飯能信用金庫にいながら実現できるかもしれないのに、人事部や上司がその思いを知らないばかりに、チャレンジの機会をつくれていなかったとしたらもったいないですよね。変化の時代だからこそ、一人ひとりがどんなキャリアを実現したいと思いながら日々働いているのか、組織として知っておくべきだと思います。

川村さん:
キャリアに対する考え方は、人によって様々です。自身で確固たるキャリア観を持っている人もいれば、なんとなく見えていた既存のルートがあったからこそ、安心して日々の業務に取り組めていたという人ももちろんいます。

また、自身のキャリアのロールモデルになり得る人がいる場合はまだ良いですが、現在、女性の管理職はほとんどいません。というのも少し前まで、女性の営業職はほぼおらず、役職者になるキャリアパスが想定されていなかったんです。しかし、今は営業職の4割が女性。これから年次が上がり役職を持つ女性職員も増えるでしょう。

ただ、現場の女性職員からは「将来の働き方や、キャリアビジョンが見えず不安」という声も上がっています。これは、人事部として能動的に変革していくべき課題ですし、そのためにも一人ひとりの意思を汲み取りながら、制度としてきちんと整えていきたいと思っています。

自己申告で描くキャリアの地図

ーキャリア希望はどうやって収集していますか?

川村さん:
サイダスの自己申告機能を使って、半年に1回収集しています。

職場は働きやすいか、チームのコミュニケーションはうまくいっているか、業務の難易度が自分に合っているかといった選択式のものから、一緒に働いているメンバーの中でリスペクトしている人とその理由を書くといった記述式のものまで、質問内容は様々です。こういったサーベイは「もっとこうして欲しいのに」といった不満のはけ口にもなりがちです。もちろん、課題を明らかにするのは一つの大切な目的ですが、同時に自身の未来について立ち止まって考えるためのポジティブな機会であって欲しいと思っています。

例えば、組織の課題として感じていることがあるのなら「解決のためにどんなサポートを欲しいと思っているのか」までをセットで見せる化できたら、より未来に繋がる意見として、意味のあるものになります。

また、設問項目には、マネージャーとのコミュニケーションに関する内容も多めに設定しています。目標の進捗度合いに対するフィードバックは適切か、強みや弱みを客観的に把握して適切なアドバイスをくれるか、モチベーションをあげるような言葉や行動をしてくれるか等、項目を細かく分けることで、マネージャーの育成や評価にも役立てたいと思っています。

成井さん:
システム導入以前も、社員向けのサーベイは定期的に実施していました。とはいえ、賭け事にのめりこんでいないか、多額の借財をしていないかといったコンプライアンスに関する項目が中心で、ほとんどの職員にとっては、ただの流れ作業になっていたのです。

しかし今は、サーベイを通じて、キャリアに前向きな人財をきちんと見つけることができるようになりましたし、組織の課題もより立体的に見えるようになってきました。

本間さん:
若手行員の目線で見ても、自己申告機能を使ったサーベイは、自身のキャリアを見つめ直すいい機会になっていると感じます。設問数は多いですが、選択式の項目が多いので負担には感じませんし、言語化することで、自分の希望や不安に素直に向き合い、組織に対して見せる化することができています。

キャリアといっても、10年先となるとなかなか想像がつきません。ですが、今学んでいることに対して「次のステップではここを極めたい」といった目標の立て方であれば、リアリティを持って取り組めます。

サーベイの「今の業務で、自身に合っていると感じる部分はどこですか?」という項目で、改めて自分の強みに気付かされましたし、ジャッジのための質問でないことがわかっているからこそ、答えやすかったです。

多様な人財を育てるための、データドリブンな育成と配置

ー育成施策について教えてください。

川村さん:
育成計画の作り方も、見直している最中です。

金融機関の業務は、他業種に比較して決まり事が多いため、手順が明確でマニュアル化も容易でした。だからこそ、研修も業務手順を一方的に講義するような内容ばかりで、社員一人ひとりが自主的に何かを考える研修はありませんでした。

しかし、今は定型の金融業務だけを知っていれば良いという時代ではありません。新しい事業のアイデアを考えたり、前例のない問題解決を図っていったり、情報発信や交渉のスキルも必要です。そういった多様なスキルを全員が得るのは難しいので、一人ひとりの得意を生かしながら、組織全体で見たときに補い合っている状態をつくるのが理想です。

座学メインの研修なのか、現場で学ぶ機会なのか、1on1やキャリアを考えるきっかけなのか。考えられるサポートはいくつもありますが、大事なのは人財定義から育成計画の実施、その後の成果のフィードバックまで、一気通貫して施策を実行し改善するサイクルを回していくことだと思います。

現在、たくさんの研修の中から、個人がカスタマイズして必要なものを選び、受講できる制度を構築中です。これからさらに研修の種類を増やして、受講履歴や個々のスキルレベル、強み弱みの把握など、個人にカスタマイズされた情報と組み合わせながら、最適な研修プランを組み立てられるようにしたいと思っています。その際にも、システムが力を発揮してくれるはずです。

成井さん:
異動配置においても、データ活用は必須です。資格の有無、本人のキャリアや働き方の希望、各ポジションの空き状況。そういったデータを単体ではなく、複合的に掛け合わせて活用する必要があります。

例えば、自己申告で収集した一人ひとりのキャリア希望は、スキルデータや部署ごとの適正人数などの情報と組み合わせて利用しないと、ミスマッチが生まれるかもしれません。個人を見る視点と、組織を俯瞰して見る視点、人事にとってはどちらも重要ですし、システムを介することでどちらも取り入れた施策が可能になると思います。

リーダーシップと働きがいのある組織づくり。自律駆動の人財をつくるために。

川村さん:
中期経営計画の中で「全員参加型リーダーシップ」というテーマを掲げているのですが、これに関連して公募の制度化による手挙げの文化をつくっていきたいと思います。

これまでの人事異動では、社員が主体的に意見を出す機会はありませんでしたが、これからは特定のポジションを公募制にして、自ら応募できるようにする予定です。もちろん、最初はミスマッチも起こるかもしれません。しかし、制度が変わることで組織の風土も変わっていくと思います。

立候補で結成されたプロジェクトチームで新しいパーパスを制定。求められる信用金庫として。

本間さん:
手挙げの文化に関していうと、新たなパーパス「つながり続ける、挑み続ける、未来を彩る笑顔のために」は、立候補で集まった有志のプロジェクトチームによって制定されたものです。

若手・中堅・ベテラン職員まで数十人が集まり、10回以上のmtgを重ねて言葉を紡ぎました。新入社員と部長クラスが同じ会議で議論をすることは、普段の業務ではまずありません。しかし、このパーパス制定プロジェクトにおいては、年次も役割も違うメンバーが「他者の意見を否定しない」というルールの元、ポジティブな空気感の中でアイデアをブラッシュアップしていくことができました。

結果として、飯能信用金庫らしさの詰まったパーパスが完成。飯能信用金庫が築いてきたこれまでの歩み、大切にしてきた価値観、強み、ありたい姿を込めることができました。この大切なプロジェクトに携われたことに、身が引き締まる思いです。

今、このプロジェクトは第2期メンバーを募集しているところです。パーパスを制定して掲げるだけでは意味がないので、具体的な浸透施策、実現施策を考えるのが2期メンバーのミッション。役職にかかわらずフラットに意見を出し合いながら、一つの目標に向かう素晴らしい機会なので、後輩にも積極的にチャレンジして欲しいなと思っています。

成井さん:
このプロジェクトは、経営戦略室と人財戦略室が協力し、部署の垣根なく進めています。また、支店長にもプロジェクトリーダーという形で入ってもらいました。心理的安全性のもと、議論を進めていくために「相槌をする」「否定から入らない」といったグランドルールの制定はもちろん、ゴールを見失わないための問いかけ等を率先してリードしてくれました。

経営層や人事部がトップダウンで進めるとうまくいかないこともありますが、我々と同じ目線を持ちながら現場をリードしてくれる存在がいたのは、今回のプロジェクトがうまくいった成功要因の一つだと思います。

今後見据える人事としてのチャレンジ

本間さん:
まだ、人財戦略室としての経験は浅いですが、これまでの営業部での経験も生かしながら、現場に近い目線を持って新しいことにチャレンジしていきたいです。人的資本経営のようなトレンドワードも、自分の中に意味をしっかり落とし込み、実際の施策に活かしていきたいです。

川村さん:
人も組織も、すぐに変化があるものではなく、じっくり向き合って気づいたら少し変化している、そういうものだと思います。だからこそ「働いていて楽しいな、ここでずっと働いて成長したいな」と思ってもらえるような会社にできるよう、頑張っていきたいですね。

成井さん:
人事関連の仕事について3年ほどになり、色んな人の思いや考えを知る機会が増えましたし、それに伴う責任も感じています。だからこそ過去の慣習に囚われず、必要なものをゼロベースで作り出せるよう、みんなで協力しながらより良い組織にしていきたいです。

モノを売らない金融機関にとって、価値創造の源泉は「ヒト」にある。変化を恐れない組織風土をつくる人財戦略部の挑戦
飯能信用金庫
創立: 昭和26年7月
社員数:888名
事業内容:預金業務、貸出業務、為替業務他
ウェブサイト:https://www.shinkin.co.jp/hanno/
導入規模:500-1000名規模
利用開始:2021年9月
  • 金融
  • 500〜999名規模
  • キャリア開発
  • 人材情報一元化

業種別のよくある導入目的

  • 金融業

    データの一元化/属人化しない配置/育成・キャリア開発/厳しいセキュリティへの対応

  • 製造業・メーカー

    多拠点・多事業所のデータの一元化/研修状況・資格の見える化/管理職の適材適所

  • 建設業

    スキル・資格とプロジェクトのマッチング/1on1で現場育成/成果の見える化

  • 小売・サービス業

    データの一元化/最適配置/リーダー育成/キャリアパス明確化/エンゲージメント向上

  • 士業

    スキル・資格・業務内容・成果の見える化/納得感のある評価/従業員満足度向上

  • 介護・福祉

    人材の定着化/戦力の早期育成/安心感のあるコミュニケーション/働きがいの創出

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